ダンジョン警備員 〜ダンジョンの治安を守ってただけなのに、いつの間にか配信されて伝説になってました〜

赤金武蔵

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ダンジョン警備員

第19話 天才と凡人

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 3人は上層を移動しながら、向かってくる魔物を倒していく。主に、美空と八百音の2人が。
 ここ最近、美空の練度も上がり、親友である八百音とのコンビネーションも良くなっている。上層の魔物で、2人が手こずる相手はいなくなっていた。


「ほむほむ。いー感じじゃーん、お嬢ちゃんたち」
「えへへ。ヤオのおかげで、めっちゃ立ち回りやすくなりました」
「確かに、ヤオたその砂は便利だにゃ~。鋼鉄並みの硬さで、形も大きさも自由自在。武器にも防御にもなるって、素晴らしいねぃ」


 あのモチャに手放しで賞賛されて、八百音は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。


「ヤオたそ、砂出してみ? 自分を護る感じで」
「あ、はい」


 モチャに言われて砂を出す。宙に浮く円盤状の砂は、相変わらず綺麗なものだった。


「みみみお嬢ちゃん、これ突破できる? 本気で攻撃して」
「ええ!? む、無理ですよ。だってこれ、めっちゃ硬いんですよ?」


 美空がレーヴァテイン・レプリカで砂を突くと、少しも中に入らず止まった。この砂で何度助けられたかわからないくらい、この砂は信頼できる。
 が、しかし。モチャは謎のドヤ顔を見せて「ちっちっち」と指を振った。


「それは上層まで。鋼鉄並みの硬さ程度、中層で突破する魔物が出てくるよ」
「そんな馬鹿な」
「因みに下層では、雑魚魔物の雑な攻撃で突破してくる。こんな風にねぃ」


 と、モチャが人差し指で砂に触れ……少し力を入れただけで、砂を貫通して八百音の眼前に指を突きつけた。


「ヤオたその課題は、砂を今の強度の5倍は硬くすること。せめて素手のモチャの攻撃には耐えられるようにならないとにゃ♡」
「嘘ん」


 八百音が目を丸くして驚愕する。
 美空も、目の前の光景が信じられなかった。たった指1本で、八百音の砂を突き破れるとは思っていなかったから。


『ゴリラ』
『モチャゴリ』
『可哀想やろ』
『ゴリラやめろ』
『草』
『草』
『w』
『えっぐwww』
『初めて見たけど、モチャやべぇ……』

「ゴリラ言うなし。これくらいできるようになんなきゃ、下層なんて夢のまた夢ってことよ」


 今のには引いたが、確かにモチャの言う通りだ。下層の動画は何回も見たけど、奴らの攻撃力は常軌を逸している。
 自分たちが目指すべき場所がはるか遠くに感じられ、少し気後れしてしまった。
 八百音がしぶしぶ頷いたのを確認すると、今度は美空の方を見た。


「んで、みみみお嬢ちゃん。お嬢ちゃんは基礎からだねぃ」
「基礎?」
「まだ炎を操れてないでしょ。ずっと見てきたけど、付与エンチャントしかできてないし」
「あ……あはは……はい。どうしても、炎を飛ばすイメージができなくて」


 手の平に魔力を集中させると、炎が現れる。ゆらゆらと揺らめき、薄暗いダンジョンを照らした。


「モチャさん。何かコツとかないんですか?」
「コツ? んー……」


 モチャも自分の手の平に雷を出し、渦を描くように球体状にしていく。大きさで言えば、ソフトボールくらいだ。
 それをダンジョンの奥へ向けると……射出。超速で放たれた雷球は、遠くにいたオークを穿ち、消し炭にした。


「こう、ニュッて力を入れて、バチュンッて撃つイメージ」
「は?」

『は?』
『は?』
『は?』
『ちょっと何言ってるか分からない』
『謎のオノマトペ』
『教えんの下手すぎんだろ』

「ええ……だってモチャ、最初からできてたからコツとか言われてもなぁ」


 これだから天才は。とは言わなかったが、顔に出てしまった。
 だけどモチャの言う通り、遠距離の攻撃ができるようにならないと、戦闘の幅が広がらない。そうしないと、下層どころか中層も夢のまた夢だ。


「わ、わかりました。ウチ、やってみます」
「うむうむ、その心意気ぞい! んじゃあ2人の課題も決まったし、張り切って行ってみよー!!」





 あれから数時間、みっちり扱かれた美空と八百音は、ふらふらの足取りで美空の部屋に戻ってきた。
 そんな一朝一夕で上達するはずもなく、モチャの扱きでくたくただった。


「つ……疲れた……」
「ホント……あの人私らより動いてんのに、全然元気なのなんなの、マジ」


 八百音の言う通り、モチャは2人の特訓に付き合っていたのに、訓練が終わるとなると下層に向かってしまった。
 あんな真似、自分たちにはできない。
 深く息を吐くと、ソファーに倒れ込んだ。


「美空。お風呂入んないの?」
「先入っていいよー。八百音、帰んないといけないでしょ」
「ん、じゃあ先もらうね」


 八百音が風呂場に入ったのを見送り、美空は寝転がったまま靴下を脱ぎ捨て、シャツのボタンをすべて開けて楽な格好になった。


「はぁ……どうしたらいいんだろ……」


 ひとつ道標が見つかったと思ったら、今度は壁が立ちはだかる。しかも基礎の基礎でつまずいてるんだから、情けないったらありゃしない。
 自分の体から出るものを遠くに飛ばす感覚が、いまいち理解できない。
 力を入れても、ボールを投げるようにしても、どうしても体から離れないのだ。


「他のDTuberさんとか、どうしてんだろ」


 配信を開いて、適当にいくつかのチャンネルを開く。
 みんな、なんなく魔法を飛ばして魔物を倒している。いったいどんな仕組みなんだろうか、


(共通点……いったい、どこに共通点があるんだろ。ただ手を前に突き出してることくらいしか、共通点なんてないような)


 画面を見つめて、なんとかコツを掴もうと観察する。
 飛ばす。跳ばす。投げる。突き出す。放つ。
 当てる。穿つ。貫く。吹き飛ばす。


「……はぁ~。だめだぁ、わかんない……」


 今は頭も体も疲れている。続きはまた後日に……。
 そう思って画面を閉じようとした、その時。画面の端に、メッセージの通知が来た。
 誰だろうか。八百音以外に、美空にメッセージを送る相手なんてほとんどいないのだが。
 アドレスを確認するが、知らないアドレスだ。
 首を傾げ、メッセージを開く。


【魔法のコツは、人を突き飛ばすイメージで行うと、やりやすいですよ。──鬼】

「鬼……鬼さん!?」


 ソファーから飛び起き、即座にアドレスを登録。
 メッセージの相手がまさかの鬼さんで、美空は軽く混乱していた。
 その結果、どうして鬼さんが美空のアドレスを知っているのかという根本的な疑問が、頭からすっぽり抜け落ちたのだった。


   ◆◆◆


 美空の住むアパート。
 その屋上に、2つの影が並んで立っていた。
 1人は柔和で、仕方ないなという笑みを浮かべる男──鬼さん。もう1人は、鼻歌を口ずさむ少女のような女──モチャだった。


「これでいいですか、深雷みらいさん」
「ええ、まあ。あざっす、センパイ」
「ありがとうございます、ですよ」
「あーい」


 モチャはにこにこ笑い、訂正しない。
 いつも通りのモチャに、鬼さんも肩を竦めた。


「しかし驚きました。まさかあなたから、美空さんにアドバイスしてくれと連絡があるとは」
「ちょっとあのままじゃ、まずいと思いまして。下層どころか中層……いや、上層のボスも危ういっすよ、あの2人」
「面倒見がいいですね」
「もち。アタシ、みみみ最推しなんで」
「はっはっは。……成長しましたね、深雷さん」


 鬼さんがモチャの頭を撫でると、夜でもわかるくらい顔を真っ赤にして手を振り払った。


「が、ガキ扱いしないでくださいっす」
「これは失礼、レディ」
「……相変わらず、腹立つ。このお礼は、今度するっすからね。時間空けといてください」


 モチャはべーと舌を出し、夜の街の中へ消えていった。


「空けておいてと言われましても、私も仕事なのですがねぇ……」


 昔から変わらない傍若無人っぷりに、鬼さんは朗らかに笑う。
 モチャが去っていった方とは逆の方に向かい、鬼さんも闇夜に紛れて消えた。

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