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邂逅③
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「着いたよー!」
ごくっ。……ここが、竜の集落……。
本当、近くで見れば見るほど、集落感がない。それどころか、竜っぽさもない。
ニーナの後に続いて集落の中に入っていくと、近くにいた人達(角、翼、尻尾あり)がこっちに気が付いた。
「あれ? ニーナちゃ……ん?」
「すんすん、すんすん」
「なんかいい匂いがするわね……」
「くんかくんか、くんかくんか」
「おかーさーん、いいにおーい」
「不思議ねぇ」
……この匂い、ニーナだけじゃなくて、他のドラゴンにもいい匂いに感じるのか……本当、どういう事だろう……?
「なあ、ニーナちゃんの後ろにいるの……」
「いやまさか……」
「え、嘘。人間?」
「でも、あの子からいい匂いがする気がする」
「確かに……」
ひぃ! バレた!?
さっきのニーナと同じように、匂いを嗅ぎながら僕達の方に歩いてくる住民達。これ、僕どうすれば……?
「ダメダメ! みんなダメだよ~! ルシアは私のお客様なんだから、そんな怖がらせないで!」
「ニーナ……!」
ニーナが僕の前に立って、近付いてくる人達を追い返す。ニーナの言葉にこんな簡単に引き下がるなんて……単に聞き分けがいいのか、それとも……。
「全くもう……ごめんね、ルシア。怖がらせちゃって」
「い、いや、大丈夫だよ! ……ありがとう、ニーナ。守ってくれて」
「んぇっ? でへへ~。そんな、照れるよぉ~」
へにゃっと顔を緩めるニーナ。なんだろう……凄く心が洗われる感じがする。
「さあ、もう少しだよ!」
「うん!」
──────────
「到着! ここが私の家だよ!」
合計三回程、ニーナが群がってくる人達を追い返してくれた所で、一つの家の前に着いた。
いや、家と言うより……屋敷? とにかく大きい。他の家も裕福層の家の倍は大きかったけど、この家だけ他の家の更に倍は大きい。
「……でっか……まさかニーナって、竜族の中でもいい家の竜なの……?」
「あれ、言ってなかった? 私のお父様、この集落の長なんだよ」
……集落の、長?
「第十代目竜王。それが、私のお父様! 私はその一人娘、竜姫なんだよ! どやぁ!」
ドヤ顔可愛い……ってそうじゃなくて!?
「りりりりり竜王……!? 竜姫……!? ご、ごめんなさいっ、知らなかったとは言え、失礼な事を……!」
「気にしなーい気にしなーい! 街の竜達を見たでしょ? あんな感じで、ラフに行こうよ! それにせっかく仲良くなったのに、畏まられても悲しいよ……」
「……いいの?」
「いいのいいの!」
……ニーナがそこまで言うなら……良いか。
「分かったよ、ニーナ」
「宜しい! じゃ、ただいまー!」
ニーナが扉を開けると、その先にズラっと人型の竜達が並んでいた。右に男の人、左に女の人が並び、お辞儀をしてニーナを迎えている。
その中の一人の綺麗な女性がニーナの側によった。
「お帰りなさいませ、ニーナ様。竜王様がお待ちです」
「はいはーい。じゃ、ルシア。行こ」
「あ……うん」
……ここの人達は、僕の匂いに反応してない。何でもないような顔で、ずっとお辞儀してる。
……あ、嘘。めっちゃ鼻動いてる。多分理性で押さえつけてる感じだ。
「ねえニーナ。あの人達って何?」
「使用人だよ。ドラゴンメイドと、ドラゴンバトラー。代々家に仕えてくれてるんだ」
使用人……! さ、流石竜王の家。使用人までいるなんて……。
入り組んだ豪華な屋敷の中を歩く。廊下には色んな武器や防具、色んな絵画、高級感溢れるものが飾られていて、見ていて飽きない。
扉にも綺麗な装飾が施されていたり、かっこいいドラゴンが彫られている。これが竜王様の家……おじさんの家が、馬小屋に見えてきた……。
キョロキョロと周りを見渡してると、ニーナが一際大きい扉の前に立ってノックした。
「お父様ー、ただいまー」
『おう、入れ』
っ……! こ、この威圧感……ニーナの比じゃない。声を聞いただけで押し潰されそうだ……!
ニーナが扉を開け、中に入っていく。
が、頑張れ僕。ここで立ち止まってももう引き返せないし、そもそも帰ってもまた殴られ続ける生活に戻るだけだ。そんなの、絶対に嫌だ……!
前に踏み出すしか道はない……行くぞ!
「し、失礼ちましゅ!」
……めっちゃ噛んだ。
ガチガチになりながらも一歩ずつ前に進む。
だけど……そこにいる人を見た瞬間、完全に思考が停止した。
『ん~? 何だ貴様。人間か?』
……大きい。余りにも大きい。
三メートル? 四メートル? いや、もっと? ニーナ何体分の大きさ?
綺麗な黄金の鱗。ニーナとは違う。ニーナのような美しいフォルムではなく、力強い風格。
絶対的な死を予感させる、燃えるように紅い瞳。圧力が桁違いだ。
一秒にも満たない間に、そんな事が頭の中を過ぎった。別に後悔はしていない。けど、死ぬ覚悟が一瞬で決まった。
『……お、おお? 何やら懐かしい匂いがするな……人間の小僧。貴様か、この匂いの元は』
「……へ? は、ひっ……多分……」
辛うじて反応する。あ、だめ、もれそう。
「もー、お父様! ルシアが怖がってるから、竜型はダメ! 人型になって!」
『む? それもそうだな。悪かったな、人間の小僧』
そう言うと、見る見ると体が縮んでいき……それでも、二メートルはありそうな大柄の男の人に変身した。
「お父様、この子は人間の子供で、ルシアって言うんだよ。ルシア、この人は私のお父様。第十代目竜王、アレイスタ・ドラゴ・レヴァナンスだよ」
「は、初めまして! ルシアでしゅ!」
また噛んだ。でも察して欲しい、僕の気持ちを。
「うむ。俺がアレイスタ・ドラゴ・レヴァナンスだ。……近くで嗅げば嗅ぐほど、素晴らしく濃密な香りだ。ここまでの香りを持つ人間は、俺も初めてだな」
っ。や、やっぱり、竜王様は知ってるんだ……!
「お父様、この匂いってなんなの? この匂いのせいで、ルシアって人間の世界でいっぱいイジメられてるんだって。なんか臭いって言われて」
「ほう……人間にも感じ取れる程とは、余っ程だな……」
え……何、どういう事?
「なるほど、なるほど。それは辛かったろうなぁ……」
今まで険しかった竜王様の顔が突然優しくなり、俺の頭を撫でてきた。一体なんなの……?
「小僧、フェロモンという言葉を知っているか?」
「ふぇ、ふぇろ……?」
何だろうそれ。魔物の名前?
「フェロモンと言うのはまだまだ謎の多いものだが……生物は多かれ少なかれ、様々なフェロモンを出すと言われている。性的興奮を促す性フェロモン。敵の存在を知らせる警報フェロモンなど、多種多様だ」
「は、はぁ……?」
……よく分からない。それが一体何なんだろう。
「その中でも、小僧の放つフェロモンは異質。俺達最強種には蜜のように甘い匂いに感じられ、人間等の劣等種には腐った卵のような匂いに感じられる。それが、小僧の匂いの正体だ。人間からしてみれば、ある程度の距離を取ったらフェロモンを感じることは無いのだが……小僧のフェロモンは、実に強力だと言える」
「……つまり、僕の匂いの元はそのフェロモンって奴ってことですね?」
「ああ。間違いなくな」
「そ、それを治す方法ってありますか!?」
「知らん!」
え、えぇ……知らんて……。
「本来、フェロモンと言うのは強ければ強い程良いとされる。しかも特異なフェロモンを弱める方法など聞いたこともない」
「そんな……」
僕、これからずーーーーっと、そのフェロモンってやつで不幸な目に会わなきゃ行けないの……?
……僕、もう生きていく気力が湧かないよ……。
「……お父様、ルシアが可哀想……何とかならないの?」
「う、む……」
二人が厳しい顔をする。それだけ、僕の事を考えてくれてるんだ……。
でも……これ以上、この優しい二人を悩ませる訳にはいかないよね。
「……お二人共、ありがとうございました。僕、何とかこのフェロモンってやつとやっていきます」
「ルシア……」
「小僧……」
そう、これは僕の問題だ。なら、僕自身がどうにかやって行かなくちゃ。
「ニーナ、話を聞いてくれてありがとう。僕の話をこんなに親身に聞いてくれたのは、ニーナが初めてだよ」
「う、うん……」
「竜王様、長い間謎だったこの匂いの正体を、教えてくれてありがとうございます」
「うむ……」
……もう、これ以上二人にこんな顔はさせられない……行こう。人間の世界じゃなくても……森の中で、ひっそりと生きていく。覚悟は決まった。
……よしっ、頑張──
ドッッバアアアアンッッッ!!!
「話は聞かせてもらいましたわーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「へあ!?」
急に何!? 誰、このおっぱいお化け!? ニーナのお姉さん!?
「あ、お母様」
「へスティ、客人が来ているのだ。もう少し静かにしなさい」
へ? お母様? へスティ? この人が?
「……ニーナのお姉さんかと思った……」
「まぁ……まあまあまあ! 聞きましたか二人共っ! なんて愛らしい子なんでしょう! こんな健気で可愛い子を外の厳しい世界に放り出すなんて、まさに鬼の所業ですわ!」
「へにゅっ!?」
う、埋もれる! 溺れる! たしゅけて!
「お母様っ、ルシアが窒息死しちゃう! 離れて!」
「あらっ、私ったらつい……ごめんなさいね、ルシアちゃん」
「ぶはっ! い、いぇ……」
ニーナも大きいけど、この人はSUGOI DEKAI。だけどデカいだけじゃなくて、心の底から安心する何かを感じた……なんだろう、このポカポカする感じ……?
「だがへスティ。これからどうするつもりだ?」
「勿論、考えてありますわ!」
へスティさんは僕の脇に手を入れると、高々と持ち上げた。
「ルシアちゃんをこの集落に住まわせるのですわ! そうすれば万事解決! ルシアちゃんも幸せ、私達も幸せですわ!」
「え」
いや、それは流石に無理があるんじゃ……。
「いや、それはなぁ……」
ほら、竜王様だって困ってる。
「あなた!」
「な、何だ……」
「もう感じているはずです。ルシアちゃんに対する思いを……守りたい、どうにかしてあげたい、この子がこれから辛い人生を歩むのが我慢出来ないと!」
「た、確かに……懐かしくもくすぐったい、この感情は一体……!」
「そう! それこそが……父性ですわ!」
「父、性……だと……!? この俺に、まだそのような感情が……!」
何故か打ちのめされてる竜王様。いやホント何で?
「そしてニーナちゃん!」
「は、はい!」
「ニーナちゃんも感じているはずですわ。私と同じ、この感情……愛しいこの子を、愛でて、甘やかして、時に厳しく、優しく、見守って行きたいと!」
「す、凄い! お母様エスパーみたい!」
「その感情こそが……母性ですわ!」
「ぼ、母性……!? 私まだお母さんじゃないのに……!?」
「母性に年齢も経験も関係ありません。大事なのは、今あなたの心にある感情だけなのですわ!」
「お母様……!」
…………何だろう、この三人の熱量。とんでもなく置いてけぼりをくらってる感じがする。絶対気の所為じゃない。……はずだ。
ごくっ。……ここが、竜の集落……。
本当、近くで見れば見るほど、集落感がない。それどころか、竜っぽさもない。
ニーナの後に続いて集落の中に入っていくと、近くにいた人達(角、翼、尻尾あり)がこっちに気が付いた。
「あれ? ニーナちゃ……ん?」
「すんすん、すんすん」
「なんかいい匂いがするわね……」
「くんかくんか、くんかくんか」
「おかーさーん、いいにおーい」
「不思議ねぇ」
……この匂い、ニーナだけじゃなくて、他のドラゴンにもいい匂いに感じるのか……本当、どういう事だろう……?
「なあ、ニーナちゃんの後ろにいるの……」
「いやまさか……」
「え、嘘。人間?」
「でも、あの子からいい匂いがする気がする」
「確かに……」
ひぃ! バレた!?
さっきのニーナと同じように、匂いを嗅ぎながら僕達の方に歩いてくる住民達。これ、僕どうすれば……?
「ダメダメ! みんなダメだよ~! ルシアは私のお客様なんだから、そんな怖がらせないで!」
「ニーナ……!」
ニーナが僕の前に立って、近付いてくる人達を追い返す。ニーナの言葉にこんな簡単に引き下がるなんて……単に聞き分けがいいのか、それとも……。
「全くもう……ごめんね、ルシア。怖がらせちゃって」
「い、いや、大丈夫だよ! ……ありがとう、ニーナ。守ってくれて」
「んぇっ? でへへ~。そんな、照れるよぉ~」
へにゃっと顔を緩めるニーナ。なんだろう……凄く心が洗われる感じがする。
「さあ、もう少しだよ!」
「うん!」
──────────
「到着! ここが私の家だよ!」
合計三回程、ニーナが群がってくる人達を追い返してくれた所で、一つの家の前に着いた。
いや、家と言うより……屋敷? とにかく大きい。他の家も裕福層の家の倍は大きかったけど、この家だけ他の家の更に倍は大きい。
「……でっか……まさかニーナって、竜族の中でもいい家の竜なの……?」
「あれ、言ってなかった? 私のお父様、この集落の長なんだよ」
……集落の、長?
「第十代目竜王。それが、私のお父様! 私はその一人娘、竜姫なんだよ! どやぁ!」
ドヤ顔可愛い……ってそうじゃなくて!?
「りりりりり竜王……!? 竜姫……!? ご、ごめんなさいっ、知らなかったとは言え、失礼な事を……!」
「気にしなーい気にしなーい! 街の竜達を見たでしょ? あんな感じで、ラフに行こうよ! それにせっかく仲良くなったのに、畏まられても悲しいよ……」
「……いいの?」
「いいのいいの!」
……ニーナがそこまで言うなら……良いか。
「分かったよ、ニーナ」
「宜しい! じゃ、ただいまー!」
ニーナが扉を開けると、その先にズラっと人型の竜達が並んでいた。右に男の人、左に女の人が並び、お辞儀をしてニーナを迎えている。
その中の一人の綺麗な女性がニーナの側によった。
「お帰りなさいませ、ニーナ様。竜王様がお待ちです」
「はいはーい。じゃ、ルシア。行こ」
「あ……うん」
……ここの人達は、僕の匂いに反応してない。何でもないような顔で、ずっとお辞儀してる。
……あ、嘘。めっちゃ鼻動いてる。多分理性で押さえつけてる感じだ。
「ねえニーナ。あの人達って何?」
「使用人だよ。ドラゴンメイドと、ドラゴンバトラー。代々家に仕えてくれてるんだ」
使用人……! さ、流石竜王の家。使用人までいるなんて……。
入り組んだ豪華な屋敷の中を歩く。廊下には色んな武器や防具、色んな絵画、高級感溢れるものが飾られていて、見ていて飽きない。
扉にも綺麗な装飾が施されていたり、かっこいいドラゴンが彫られている。これが竜王様の家……おじさんの家が、馬小屋に見えてきた……。
キョロキョロと周りを見渡してると、ニーナが一際大きい扉の前に立ってノックした。
「お父様ー、ただいまー」
『おう、入れ』
っ……! こ、この威圧感……ニーナの比じゃない。声を聞いただけで押し潰されそうだ……!
ニーナが扉を開け、中に入っていく。
が、頑張れ僕。ここで立ち止まってももう引き返せないし、そもそも帰ってもまた殴られ続ける生活に戻るだけだ。そんなの、絶対に嫌だ……!
前に踏み出すしか道はない……行くぞ!
「し、失礼ちましゅ!」
……めっちゃ噛んだ。
ガチガチになりながらも一歩ずつ前に進む。
だけど……そこにいる人を見た瞬間、完全に思考が停止した。
『ん~? 何だ貴様。人間か?』
……大きい。余りにも大きい。
三メートル? 四メートル? いや、もっと? ニーナ何体分の大きさ?
綺麗な黄金の鱗。ニーナとは違う。ニーナのような美しいフォルムではなく、力強い風格。
絶対的な死を予感させる、燃えるように紅い瞳。圧力が桁違いだ。
一秒にも満たない間に、そんな事が頭の中を過ぎった。別に後悔はしていない。けど、死ぬ覚悟が一瞬で決まった。
『……お、おお? 何やら懐かしい匂いがするな……人間の小僧。貴様か、この匂いの元は』
「……へ? は、ひっ……多分……」
辛うじて反応する。あ、だめ、もれそう。
「もー、お父様! ルシアが怖がってるから、竜型はダメ! 人型になって!」
『む? それもそうだな。悪かったな、人間の小僧』
そう言うと、見る見ると体が縮んでいき……それでも、二メートルはありそうな大柄の男の人に変身した。
「お父様、この子は人間の子供で、ルシアって言うんだよ。ルシア、この人は私のお父様。第十代目竜王、アレイスタ・ドラゴ・レヴァナンスだよ」
「は、初めまして! ルシアでしゅ!」
また噛んだ。でも察して欲しい、僕の気持ちを。
「うむ。俺がアレイスタ・ドラゴ・レヴァナンスだ。……近くで嗅げば嗅ぐほど、素晴らしく濃密な香りだ。ここまでの香りを持つ人間は、俺も初めてだな」
っ。や、やっぱり、竜王様は知ってるんだ……!
「お父様、この匂いってなんなの? この匂いのせいで、ルシアって人間の世界でいっぱいイジメられてるんだって。なんか臭いって言われて」
「ほう……人間にも感じ取れる程とは、余っ程だな……」
え……何、どういう事?
「なるほど、なるほど。それは辛かったろうなぁ……」
今まで険しかった竜王様の顔が突然優しくなり、俺の頭を撫でてきた。一体なんなの……?
「小僧、フェロモンという言葉を知っているか?」
「ふぇ、ふぇろ……?」
何だろうそれ。魔物の名前?
「フェロモンと言うのはまだまだ謎の多いものだが……生物は多かれ少なかれ、様々なフェロモンを出すと言われている。性的興奮を促す性フェロモン。敵の存在を知らせる警報フェロモンなど、多種多様だ」
「は、はぁ……?」
……よく分からない。それが一体何なんだろう。
「その中でも、小僧の放つフェロモンは異質。俺達最強種には蜜のように甘い匂いに感じられ、人間等の劣等種には腐った卵のような匂いに感じられる。それが、小僧の匂いの正体だ。人間からしてみれば、ある程度の距離を取ったらフェロモンを感じることは無いのだが……小僧のフェロモンは、実に強力だと言える」
「……つまり、僕の匂いの元はそのフェロモンって奴ってことですね?」
「ああ。間違いなくな」
「そ、それを治す方法ってありますか!?」
「知らん!」
え、えぇ……知らんて……。
「本来、フェロモンと言うのは強ければ強い程良いとされる。しかも特異なフェロモンを弱める方法など聞いたこともない」
「そんな……」
僕、これからずーーーーっと、そのフェロモンってやつで不幸な目に会わなきゃ行けないの……?
……僕、もう生きていく気力が湧かないよ……。
「……お父様、ルシアが可哀想……何とかならないの?」
「う、む……」
二人が厳しい顔をする。それだけ、僕の事を考えてくれてるんだ……。
でも……これ以上、この優しい二人を悩ませる訳にはいかないよね。
「……お二人共、ありがとうございました。僕、何とかこのフェロモンってやつとやっていきます」
「ルシア……」
「小僧……」
そう、これは僕の問題だ。なら、僕自身がどうにかやって行かなくちゃ。
「ニーナ、話を聞いてくれてありがとう。僕の話をこんなに親身に聞いてくれたのは、ニーナが初めてだよ」
「う、うん……」
「竜王様、長い間謎だったこの匂いの正体を、教えてくれてありがとうございます」
「うむ……」
……もう、これ以上二人にこんな顔はさせられない……行こう。人間の世界じゃなくても……森の中で、ひっそりと生きていく。覚悟は決まった。
……よしっ、頑張──
ドッッバアアアアンッッッ!!!
「話は聞かせてもらいましたわーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「へあ!?」
急に何!? 誰、このおっぱいお化け!? ニーナのお姉さん!?
「あ、お母様」
「へスティ、客人が来ているのだ。もう少し静かにしなさい」
へ? お母様? へスティ? この人が?
「……ニーナのお姉さんかと思った……」
「まぁ……まあまあまあ! 聞きましたか二人共っ! なんて愛らしい子なんでしょう! こんな健気で可愛い子を外の厳しい世界に放り出すなんて、まさに鬼の所業ですわ!」
「へにゅっ!?」
う、埋もれる! 溺れる! たしゅけて!
「お母様っ、ルシアが窒息死しちゃう! 離れて!」
「あらっ、私ったらつい……ごめんなさいね、ルシアちゃん」
「ぶはっ! い、いぇ……」
ニーナも大きいけど、この人はSUGOI DEKAI。だけどデカいだけじゃなくて、心の底から安心する何かを感じた……なんだろう、このポカポカする感じ……?
「だがへスティ。これからどうするつもりだ?」
「勿論、考えてありますわ!」
へスティさんは僕の脇に手を入れると、高々と持ち上げた。
「ルシアちゃんをこの集落に住まわせるのですわ! そうすれば万事解決! ルシアちゃんも幸せ、私達も幸せですわ!」
「え」
いや、それは流石に無理があるんじゃ……。
「いや、それはなぁ……」
ほら、竜王様だって困ってる。
「あなた!」
「な、何だ……」
「もう感じているはずです。ルシアちゃんに対する思いを……守りたい、どうにかしてあげたい、この子がこれから辛い人生を歩むのが我慢出来ないと!」
「た、確かに……懐かしくもくすぐったい、この感情は一体……!」
「そう! それこそが……父性ですわ!」
「父、性……だと……!? この俺に、まだそのような感情が……!」
何故か打ちのめされてる竜王様。いやホント何で?
「そしてニーナちゃん!」
「は、はい!」
「ニーナちゃんも感じているはずですわ。私と同じ、この感情……愛しいこの子を、愛でて、甘やかして、時に厳しく、優しく、見守って行きたいと!」
「す、凄い! お母様エスパーみたい!」
「その感情こそが……母性ですわ!」
「ぼ、母性……!? 私まだお母さんじゃないのに……!?」
「母性に年齢も経験も関係ありません。大事なのは、今あなたの心にある感情だけなのですわ!」
「お母様……!」
…………何だろう、この三人の熱量。とんでもなく置いてけぼりをくらってる感じがする。絶対気の所為じゃない。……はずだ。
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