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邂逅①
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ピチョン──ピチョン──。
「……ぅっ……んん……?」
何だ……? 顔に水が……。
「あ、気が付いた?」
「……ぇ……?」
……誰……? 女の子……?
……いや、ただの女の子じゃない……?
純白のワンピースを改造したような服を着ていて、髪は綺麗な銀髪。瞳の色は蒼色。
顔は……あの女が霞むほど、綺麗だ。
だけど、一際目に付くのは……頭の横にある鋭利な角。腰から生えているコウモリのような翼。そして堅牢な尻尾。間違いなく人間じゃない。
明らかに人間じゃない。でも、どこかで見た事あるような……どこで見たんだろ?
困惑していると、僕の頭の上にあった水に濡れた葉っぱをどかしてくれた。……もしかしなくても、看病してくれてたのかな。
「大丈夫? さっきは驚かせてごめんね」
「い、いえっ、僕は大丈夫です」
……え、さっき? さっきって何だろう。僕、このお姉さんに会ったかな……?
……と言うか……ここ、どこ? さっきまで竜の谷の上にいたはずなのな……。
周りを見渡すと、鬱蒼とした木々に囲まれている。でも、さっきみたいな爽やかな森じゃなくて、少しジメッとしたような場所だ。暑くて、服が肌に張り付く嫌な感じ。
でも、そんな不快感すら気にならない程……僕は今、この綺麗なお姉さんに見とれていた。
「ねぇ君!」
「え? うわっ!」
い、いきなり近……!
っ……うわ……何だろう、凄いいい香り……まるで雨上がりの草原みたいな……ってそうじゃなくて!
「君、名前は!?」
「ぇ……る、ルシア……です」
「そう、ルシアね。私はニーナ・ドラゴ・レヴァナンス! 皆にはニーナって呼ばれてるから、そう呼んで! よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします……」
な、何だか凄い熱量の人だな。エネルギーの塊と言うか……とにかく、近くにいるだけで圧倒される感じがする。
お姉さん……ニーナさんの存在感に気圧されているのが分かる。蛇に睨まれたカエルって、こんな気分なのかな……。
「すんすん、すんすん」
まるで値踏みするような、捕食対象を観察するように、ニーナさんが僕の体の匂いを嗅ぐ。物凄く恥ずかしいし……こんな綺麗なお姉さんに臭い匂いを嗅がせる訳にはいかない。
「や、止めてくださいっ。く、臭いのは謝りますか──」
「ルシア!」
「は、はいぃ! うわっ!?」
ぼ、僕、今持ち上げられてる!? 簡単に、軽々と!? どこにそんな力が……!
ニーナさんの力に恐怖していると、ニーナさんが目を爛々と輝かせて僕の首元に顔を埋めた。
「にゃぁぁぁ!?」
ななな何してんのこの人ぉ!? くすっ、くすぐったい!?
時間にして五秒か、十秒か……逃げようとしてもがっつり掴まれて動けない……!
「チロッ」
「んにゃあ!?」
なめなめなめなめなめぇ!?
「ん~~~っぱ! ルシア、君すっっっっごくいい匂いね!」
「……そ、そうでしゅか……」
「あれ? 顔真っ赤っかだよ? 大丈夫?」
大丈夫じゃありません。主にあなたのせいで。
うぅ……何なんだよこの人ぉ……。
──────────
「落ち着いた?」
「……まあ、はい……」
だから取り乱したのはあなたのせいで……いや、良いや……。
ニーナさんが葉っぱに汲んできてくれた水を飲んで、喉を潤す。
「ねえねえ、所でさ、あんな所で何やってたの?」
「あんな所?」
「あんな所」
ニーナさんが真上を指差す。……よく見ると、木々の間から見えるのは……巨大な、壁?
……いや、壁じゃない。これ……崖だ。という事は……ここ、竜の谷の底なの……?
……竜の谷の底に僕がいて、ニーナさんはそれを知ってる。そしてニーナさんには角、翼、尻尾が生えてる。
……という事は……。
「……ど、ど……」
「? どうしたの?」
「ど……どどどどどど……ドラゴン……!?」
「そだよ?」
そんなあっけらかんと!
ど、どういう事だ? 何でドラゴンなのに、人間の姿を……?
「あー、信じられないって顔してるねぇ? それなら見せてあげるよ!」
ニーナさんは「とう!」とジャンプをすると、空中で一回転した。
その途中で体が淡く光り、姿が人間のものから、徐々に巨大化して……遂に、美しいドラゴンの形へと姿を変えた。
『ふっふーん。どやぁ』
「……すご……」
本当に……本当に、ドラゴンなんだ……。
呆然としてると、今度はドラゴンから人間の姿に変わった。
「それでそれで、どうしてあそこにいたの? 気絶して落ちちゃったし。私が助けなかったら、今頃潰れたトマトだよ?」
例えが生々しい……。
「な、何でもないよ。ただ竜の谷を見てただけで……」
「テスタのバカヤローーーーー! 死ねーーーーー! って言うのは?」
うっ、聞かれてたのね……。
……まあ、この人(?)になら話しても良いかな……。
ニーナさんに、僕の身の上と昨日起こったことを話した。……話せば話すほど、怒りと悲しい気持ちが押し寄せてきて、なんとも言えない気持ちになる……。
「とまあ、こんな事があって、あそこにいたんだよ」
「なるほどねぇ。人間も、その元女友達も馬鹿だにゃぁ~。ルシアの何処が臭いって言うんだか」
……そう言えばさっきも、いい匂いって言ってたような……。
「……僕、臭くないの……? 卵の腐ったような臭いとか……?」
「全く? ちょっと汗臭いけど、それ以上にいい匂いだよ」
そ、そうなの!? どういう事だろ……?
「んー……もしかしたら、お父様なら何か知ってるかも。お父様、そういうのやたら詳しいから。もしかしたら、その匂いの対策方法とかも知ってるかもしれないし」
「ほ、本当に!?」
もしそれが本当なら、こんな扱いされないで済むんじゃ……!
「お、お願いニーナさんっ。僕を連れて行ってください……!」
「いいよ! じゃあ、レッツラゴー!」
ニーナさんが僕の前を歩き、その後ろについて行く。
分からないけど……ニーナさんは、何故か心の底から信じられる。そんな漠然とした思いが、胸の中にあった。
「……ぅっ……んん……?」
何だ……? 顔に水が……。
「あ、気が付いた?」
「……ぇ……?」
……誰……? 女の子……?
……いや、ただの女の子じゃない……?
純白のワンピースを改造したような服を着ていて、髪は綺麗な銀髪。瞳の色は蒼色。
顔は……あの女が霞むほど、綺麗だ。
だけど、一際目に付くのは……頭の横にある鋭利な角。腰から生えているコウモリのような翼。そして堅牢な尻尾。間違いなく人間じゃない。
明らかに人間じゃない。でも、どこかで見た事あるような……どこで見たんだろ?
困惑していると、僕の頭の上にあった水に濡れた葉っぱをどかしてくれた。……もしかしなくても、看病してくれてたのかな。
「大丈夫? さっきは驚かせてごめんね」
「い、いえっ、僕は大丈夫です」
……え、さっき? さっきって何だろう。僕、このお姉さんに会ったかな……?
……と言うか……ここ、どこ? さっきまで竜の谷の上にいたはずなのな……。
周りを見渡すと、鬱蒼とした木々に囲まれている。でも、さっきみたいな爽やかな森じゃなくて、少しジメッとしたような場所だ。暑くて、服が肌に張り付く嫌な感じ。
でも、そんな不快感すら気にならない程……僕は今、この綺麗なお姉さんに見とれていた。
「ねぇ君!」
「え? うわっ!」
い、いきなり近……!
っ……うわ……何だろう、凄いいい香り……まるで雨上がりの草原みたいな……ってそうじゃなくて!
「君、名前は!?」
「ぇ……る、ルシア……です」
「そう、ルシアね。私はニーナ・ドラゴ・レヴァナンス! 皆にはニーナって呼ばれてるから、そう呼んで! よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします……」
な、何だか凄い熱量の人だな。エネルギーの塊と言うか……とにかく、近くにいるだけで圧倒される感じがする。
お姉さん……ニーナさんの存在感に気圧されているのが分かる。蛇に睨まれたカエルって、こんな気分なのかな……。
「すんすん、すんすん」
まるで値踏みするような、捕食対象を観察するように、ニーナさんが僕の体の匂いを嗅ぐ。物凄く恥ずかしいし……こんな綺麗なお姉さんに臭い匂いを嗅がせる訳にはいかない。
「や、止めてくださいっ。く、臭いのは謝りますか──」
「ルシア!」
「は、はいぃ! うわっ!?」
ぼ、僕、今持ち上げられてる!? 簡単に、軽々と!? どこにそんな力が……!
ニーナさんの力に恐怖していると、ニーナさんが目を爛々と輝かせて僕の首元に顔を埋めた。
「にゃぁぁぁ!?」
ななな何してんのこの人ぉ!? くすっ、くすぐったい!?
時間にして五秒か、十秒か……逃げようとしてもがっつり掴まれて動けない……!
「チロッ」
「んにゃあ!?」
なめなめなめなめなめぇ!?
「ん~~~っぱ! ルシア、君すっっっっごくいい匂いね!」
「……そ、そうでしゅか……」
「あれ? 顔真っ赤っかだよ? 大丈夫?」
大丈夫じゃありません。主にあなたのせいで。
うぅ……何なんだよこの人ぉ……。
──────────
「落ち着いた?」
「……まあ、はい……」
だから取り乱したのはあなたのせいで……いや、良いや……。
ニーナさんが葉っぱに汲んできてくれた水を飲んで、喉を潤す。
「ねえねえ、所でさ、あんな所で何やってたの?」
「あんな所?」
「あんな所」
ニーナさんが真上を指差す。……よく見ると、木々の間から見えるのは……巨大な、壁?
……いや、壁じゃない。これ……崖だ。という事は……ここ、竜の谷の底なの……?
……竜の谷の底に僕がいて、ニーナさんはそれを知ってる。そしてニーナさんには角、翼、尻尾が生えてる。
……という事は……。
「……ど、ど……」
「? どうしたの?」
「ど……どどどどどど……ドラゴン……!?」
「そだよ?」
そんなあっけらかんと!
ど、どういう事だ? 何でドラゴンなのに、人間の姿を……?
「あー、信じられないって顔してるねぇ? それなら見せてあげるよ!」
ニーナさんは「とう!」とジャンプをすると、空中で一回転した。
その途中で体が淡く光り、姿が人間のものから、徐々に巨大化して……遂に、美しいドラゴンの形へと姿を変えた。
『ふっふーん。どやぁ』
「……すご……」
本当に……本当に、ドラゴンなんだ……。
呆然としてると、今度はドラゴンから人間の姿に変わった。
「それでそれで、どうしてあそこにいたの? 気絶して落ちちゃったし。私が助けなかったら、今頃潰れたトマトだよ?」
例えが生々しい……。
「な、何でもないよ。ただ竜の谷を見てただけで……」
「テスタのバカヤローーーーー! 死ねーーーーー! って言うのは?」
うっ、聞かれてたのね……。
……まあ、この人(?)になら話しても良いかな……。
ニーナさんに、僕の身の上と昨日起こったことを話した。……話せば話すほど、怒りと悲しい気持ちが押し寄せてきて、なんとも言えない気持ちになる……。
「とまあ、こんな事があって、あそこにいたんだよ」
「なるほどねぇ。人間も、その元女友達も馬鹿だにゃぁ~。ルシアの何処が臭いって言うんだか」
……そう言えばさっきも、いい匂いって言ってたような……。
「……僕、臭くないの……? 卵の腐ったような臭いとか……?」
「全く? ちょっと汗臭いけど、それ以上にいい匂いだよ」
そ、そうなの!? どういう事だろ……?
「んー……もしかしたら、お父様なら何か知ってるかも。お父様、そういうのやたら詳しいから。もしかしたら、その匂いの対策方法とかも知ってるかもしれないし」
「ほ、本当に!?」
もしそれが本当なら、こんな扱いされないで済むんじゃ……!
「お、お願いニーナさんっ。僕を連れて行ってください……!」
「いいよ! じゃあ、レッツラゴー!」
ニーナさんが僕の前を歩き、その後ろについて行く。
分からないけど……ニーナさんは、何故か心の底から信じられる。そんな漠然とした思いが、胸の中にあった。
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