上 下
3 / 9

第3話 懐かしむ2人

しおりを挟む
 とりあえず言われた通りに部屋に上がると、リビングに通された。
 リビングにも物は少ない。最低限度、ソファーやテーブル、テレビ、オーブンレンジがあるくらいだ。
 まだ開けてないダンボールも山積みで、これから荷解きしていくのだろう。

 当たり前だけど……昔のこいつの家じゃ、ないんだな。
 ……ちょっぴり寂しいと思ったのは、内緒だ。


「京水~、服脱いじゃって。乾燥掛けるからさ」
「ああ、わかった。頼……むっ!?」


 ちょ、おまっ、こいつ……!? 何ここでボタン外してんだ!?
 慌てて背中を向けて、両手で目を覆う。


「お、おい! さすがにお前は自分の部屋行けよっ!」
「何を今更恥ずかしがってるのさ。ぼくと京水の仲じゃないか」
「おまっ、自分がどんだけ成長してるのかわかってる!?」
「京水になら見られても構わないけど……まあ、君がそこまで気にするなら、ぼくは部屋で着替えてくるよ」


 ここにガウン置いとくよ、と言われ、リビングを出ていく音が聞こえる。
 はぁ~……ようやく1人になれた……。
 慣れない。余りにも、慣れない。
 確かに昔は毎日のように……それこそ、何をするにしても一緒だった。
 だからって、今でも同じ距離感は……心臓に悪い。


「これから、どうなるんだろう……」


 気にしても仕方ないんだろうけどな。
 本当に昔みたいに、一緒に遊んでられるのか……心配だ。





 濡れた制服を脱ぎ、用意してもらったガウンを着る。
 ……少し小さく感じるけど、奏多のやつかな。この匂いも、奏多からした匂いと同じ……って、何考えてんだ俺は、バカか……!

 頭を振って邪な気持ちを捨てる。
 と、2階から奏多が降りてくる足音が聞こえてきた。


「京水、着替えたー?」
「ああ。ガウンありがと……な……」


 あ……おぉ……なんつー格好してんだ、こいつ……。
 着ているのは普通のTシャツだ。タイト気味で、体のラインがしっかり出すぎているが。
 いや、うん。これが私服だったら、俺が何も言うことはない……な。好きで着てるものに、俺がとやかく言う権利はない。
 ショートパンツから伸びる生足が艶めかしい。
 俺は自然に目を逸らし、濡れた制服を手にした。


「えっと、乾燥だっけ? どこでするんだ?」
「あ、いいよ。ぼくがやっておくから、京水はのんびりしてなって」


 と、半ば強制的に奪われてしまった。
 のんびりっつったってなぁ……とりあえず、ソファーに座るか。
 明らかに高そうなソファーに腰を掛けると、全身の力が一気に抜けた感覚になった。変に緊張してたんだなぁ、俺。
 そっとため息をつき、ざっとリビングを見渡す。
 ……広いな、本当に。無粋だけど、昔から金持ちだったもんな、奏多の家は。
 でも、この先一年は、この広い家に一人暮らしか……なんか心配だ。そもそも、家事とかできるのか? あいつ。

 奏多の生活面の心配をしていると、のほほんとした顔の本人が戻ってきた。


「ふいー。よーやっと落ち着けるね~。はいどーん」
「うぉっ」


 きゅ、急にダイブしてくんな、危ないだろ……!
 奏多は俺の脚を枕にして、じっと見上げてきた。


「な、なんだよ……?」
「んふ~。本当に京水なんだなって」
「なんだそりゃ」
「だって、急に引っ越しちゃってさ……パパとママからは、もう日本には戻れないかもって言われちゃって……ぼく、めっちゃ泣いたんだよ。もう京水には会えないって思って」


 それは……そんなの、俺だって同じだ。
 物心ついたときからずっと一緒にいて、一生の友達だと思っていた奴が、急にいなくなったら……そりゃ、泣くだろ。

 当時のことを懐かしんでいると、奏多が手を伸ばして俺の頬を撫でた。
 はは、懐かしい。これ、こいつの癖なんだよな。なぜか俺の頬に触りたがるんだ。


「汚いぞ。脂ギッシュだろ」
「気にならないよ。京水の肌だもん」
「思春期真っ盛りの男子高校生には、嬉しい言葉だな」


 肌について悩む男子高校生は多い。俺も年頃だ。気にならないと言ったら嘘になる。
 でも、女子から気にならないって言われると、ちょっとだけ救われた気分になる。

 奏多を見下ろすと、当時と同じ屈託のない笑顔を浮かべていた。
 改めて、再会を喜んでいるみたいだ。


「やっぱ変わってないな、奏多」
「当然じゃん。むしろどこが変わったってのさ」
「体つき」
「……えっち」


 自分の体を隠すように丸まった。しまった、さすがに今のは踏み込みすぎたか……?


「か、体に関しては仕方ないだろ。お互いに成長期なんだしさ」
「……ま、そうだね。まさか京水がこんなにでっかくなってるとは思わなかったよ」


 それはマジのガチで俺のセリフな?
 つい今朝まで、こいつのこと男だと思ってたんだから……想像の斜め上の成長に、まだ脳がバグってんだから。


「じゃ、何して遊ぶ? かくれんぼ?」
「この歳になってかくれんぼはないだろ。普通にゲームとかないのか?」
「あ~、まだこっちに来てからゲームは買ってないんだよね。今度の休みにでも買いに行こうかと思ってて……そうだ!」


 奏多は飛び上がると、当時と同じキラキラの目を輝かせて、ずいっと近付いてきた。


「京水、次の土曜日ひまっ? ひまなら、遊びに行こ!」
「え? まあ、暇だけど……」
「決まり! ぼくね、日本で行きたいお店たくさんあるんだぁ。例えばねっ」


 どこからか、タブレットを取り出して日本の店をいろいろと検索かける。
 あれを見たい。これを食べたい。どこに行きたい。
 少年のような天真爛漫さで、俺の肩に頭を乗せてきた。
 マジで近い。近すぎる。いい匂いだし、この角度は俺の視線がダイレクトに吸い込まれちゃう。


「ねえ京水、聞いてる?」
「……え? あ、ああ、うん。聞いてる聞いてる。あれだろ? 上野公園で三点倒立したいって話だろ?」
「誰も言ってないけど!?」


 ジト目で睨まれてしまった。いや、ホントすまんて。


「も~……まあいいや。それじゃ、土曜日は絶対空けておいてよっ。絶対の絶対ね!」
「ああ、わかってるって」
「いえーい! ちょー楽しみ!」


 八年ぶりの日本がよほど嬉しいらしい。異様なはしゃぎっぷりだ。
 つっても、奏多が引っ越したのは小学2年生の頃。当時だって、日本のことはほとんど知らないまま引っ越したんだもんな……実質、初めての日本観光ってことか。なんだか、俺まで楽しみになってきた。

 ぴょんぴょんと跳ね回る奏多を見て、思わず笑みを浮かべるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...