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十九章 戦いと抗い (選抜編・2)
二百八十八話 善は
しおりを挟む『クルイ side』
「さて……揃ったな。今回、儂がこのチームの指導者をさせてもらうことになった。よろしく。」
「指導者……? それにチームというのは……」
選考試合から数日後、唐突に訓練所へ呼ばれて来てみれば……そこには同じく生き残った者の一部の人たちが集まっていた。
1年フィーリィア、マグア、ロード、キール、3年のケイルさん……そして2年の俺といった計6人。そしてしばらくして現れた学園長が俺の当然の疑問に答えていく。
「では、早速説明を始めさせてもらう。まず、今回の三国会議で行われる試合は、選手5人、補欠1人含めた計6人を1チームとし、各国3つのチームを用意する。そして、一回戦ごとに1チームずつの三つ巴……チーム全員の魔力防壁が壊された時点でその国のチームの敗北、最後まで残っていた種族の国が白星を得る。」
「……それを3チームだから、3回戦って……一番勝った回数が多い国が優勝ってこと?」
「そうだ、要は団体戦……今までの大会は1人か2人組だったが、今回は勝手が全く違う。ということもあって儂や他の先生がチームごとに付いて指揮を取ることにした。」
…………つまり、この6人で俺たちは三国会議の一戦に参戦する……中々面白そうだな。
「指揮、というのは? それと補欠とは……」
「まあ、本番に向けて儂がしっかり鍛えるという話だ。団体戦の経験はお前たちに無いだろうしな……あと、おそらく本人は分かっていると思うが、補欠というのは選考の時に言っていた『控え』の人物……このチームならナチ=キールだ。誰かが出れなくなった時の人員で基本、本番出場は無いが……練習や現地には同行してもらう。」
「……負けは、受け入れるしかないですわね。こうなれば、皆さんを徹底的に鍛えてあげますわよ!」
「キールさんの手数は圧倒的ですからね……いい特訓相手になりそうです。」
「……あの、学園長。このチーム? は一体どういう選び方を……? 見たところ規則性が無さそうですが……」
それぞれが多様な反応を見せる中、フィーリィアが難しそうな顔をして質問をする。確かに、俺たちは一応顔見知りの範囲ではあるが……交流はほとんどないに等しい。こういうのは知り合いを固める方が良くも悪くもやり易いものだが……
「細かく言えば色々あるな。学年ごとの首席を同じチームにしない、学年の数を揃える……その中でも特に重要視したのは『タッグ戦で組んだ者同士を被せない』だ。」
「……タッグ戦? それは冬の……?」
「ああ、儂は仲が良く、連携の取り易い者同士が組むことよりも、見知らぬ仲間で見せる新たな可能性を信じている。これは儂の教育理念の押し付けでもあるが……しかし、お前たちならもう知ってるはずだ。」
「「「…………!」」」
「……見知らぬ、ですか。」
……おそらく、ウルスのことだろう。何故か学院から姿を消し去ってるらしいが……相変わらず、あいつの影響力は底知れない。俺たち学生だけではなく、先生や大人にも変化を与える……本当、凄い奴だ。
「では、まずは自己紹介からだ。顔合わせも兼ねて……じゃあ、フィーリィアからしてくれ。」
「はい……1年のフィーリィアです。得意な魔法は氷で、最近は何でもできます。よろしくお願いします。」
フィーリィアの挨拶を皮切りに、それぞれ自己紹介をしていく。
「同じく1年、ロード=アンクルです。魔法はあまり使いませんが、強いて言えば土……薙刀を使った戦いが得意です。よろしくお願いします。」
「1年、マグアです! 主に光属性かな? 剣使ったり魔法も格闘も何でも御座れ! よろしく!! ……あっ、この指輪はタールくんから貰ってね、これがまた──」
「同じく1年の、ナチ=キールですわ。強化魔法や付属魔法が得意で、武器はあまり使いませんが短剣……今回は補欠という立場ですが、しっかり皆さんを支えるのでよろしくですわ!」
「ちょっと、僕の話はまだむぐぅっ!?」
「次、どうぞ。」
1年の自己紹介が終わ……フィーリィアが無理やりマグアの口を閉じて終わらせ、2年の俺に促す。この暴走娘の扱いは彼女に任せるのが適任か。
「2年のクルイだ、武器は短剣、魔法は電気。よろしくな。」
「……3年、アーシル=ケイルです。武器はこの杖と特別な魔導書で、魔導書には僕専用にあらかじめ魔法を貯めて、いつでも扱うことができます。よろしくお願いします。」
俺の話の後に、ケイルさんが淡々と紹介する。彼の戦い方は1年の頃から見てきたが、あの魔導書が特に厄介……逆に、仲間となれば戦略の幅が一気に広がって頼もしい限り……だが、少し様子がおかしい。
「…………」
「…………?」
(……フィーリィアを睨んでる?)
確か、選抜戦で戦ってた2人だと思うが……そういえば、3年生はハートさんを崇拝している人が多かったか。彼もよく『彼女は素晴らしい』など言ってたが、ウルスがそれを粉々に崩した……逆恨み甚だしいが、ここも注意しておかないと。
「じゃあ次の話だ。チームの訓練は基本毎日……と行きたいところだが、三国会議は何も試合だけじゃない。文字通り国同士がこれからについて話し合う場面でもある、その会議に儂も出席する……チームを引っ張る立場としてリーダーと副リーダーを決めさせてもらう。クルイ、お前だ。」
「俺ですか?」
「ああ、服リーダーはケイルだ。2人とも頼んだぞ。」
「……承知しました。」
俺がリーダー……首席だからか? 前のこともあってあんまり自信はないが……やれというなら務めさせてもらおう。
「では早速、特訓を始めるとする。今から今日のお題を言うぞ。」
「えっ、早くない? 親睦を深めるにもまずはお茶でも……」
「杞憂だな、マグア。だが善は急げ……親睦は戦いの中で深めていけ。」
「えぇー……」
マグアの膨れ顔を横目に、学院長は人差し指と中指を立てた。
「今日は2対2対2……タッグ戦の三つ巴だ!」
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改めて、この度はレビューしていただきありがとうごさいました。自作の長所や特徴を分かりやすくまとめられていて、すごく読みやすかったです。
これからも残りの活動、頑張ってください。
【簡単なあらすじ】
ジャンル:ハイファンタジー
主人公はある事件をきっかけに両親を失い、その事を発端として前世の記憶をも思い出す。もし2度も両親を失ってしまったなら? 全てを失ってしまったならば。主人公でなくても、守るためには強くならなければならない、強くなりたいと願うのではないだろうか? 強さを手に入れても、人としての優しさや思い遣りを失わない彼の、最強を目指す物語。
【物語の始まりは】
それはある事件の七日前のこと。
主人公がいつもより、早起きしたところから始まっていく。その日主人公は、朝ご飯も食べずに父へ魔法を教えてくれとせがむ。
父に魔法を教えて貰うようになった主人公は、その日一人で魔法の練習をしていた。すると爆発音が村の方から聞こえてきたのである。慌てて村へ向かう主人公。果たして父たちは無事なのだろうか?
【舞台や世界観、方向性】
魔法や魔物が存在する異世界が舞台。
ゲームのようにステータスが目視確認できる。
全体的に話し言葉(口語)で描かれている物語だという印象。視点の切り替えもあるが一人称である。
【主人公と登場人物について】
物語の始まりでは、主人公は6歳の男の子。
彼はあることから、前世の記憶を垣間見ることとなる。
村が襲われた時、父に逃してもらったものの魔物に追われた彼は負傷してしまう。父から習った特別な魔法により、なんとか自力で魔物を倒すことができたものの、気を失ってしまう。目覚めた彼は両親の安否が気になり一度村へ戻るが、そこに残されていたのは自分の末路を悟った父の手紙であった。
主人公は父の手紙の手紙から、全てを失ったことに気づく。ショックを受けた彼に流れ込んできたのは、前世の記憶。彼はあまりの頭痛に再び気を失ってしまうのであった。
次に目覚めた時、主人公は見知らぬ場所いた。そこで”伝説級の魔法使い”グラン=ローレスという者が自分を助けてくれたことを知るのだった。彼との出会いが、主人公の運命を大きく変えていくのではないだろうか?
続く
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます。是非これからも彼らの物語を楽しんでいってください。