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十九章 戦いと抗い (選抜編・2)

二百八十六話 名前

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『ガータ side』



「ちっ、何でこんな魔物がここに……うぉっ!?」
「グラァァァッ!!!!」

 夏の暑さも落ち着き始めた今日この頃、俺は1人素材を探す小さな旅に出ていた。といっても2、3日の本当に遠出みたいなもので、それもわざわざ店で買う金をケチったくだらない理由だったが……どうやら、それが裏目に出たようだ。

(オーガか……それも強個体、鈍った体じゃきついか……?)

 粗方あらかた洞窟の素材も取り終わり、鬱蒼うっそうとした森へ飛び出したところ……背後から突然巨大なオーガに襲われ、追い付かれないよう必死に俺は走っていた。しかし、足のステータスは相変わらず貧弱で……長年鍛えてなかった体も相まって攻撃を掠らせてしまう。

「あるのはツルハシと……いや、殴った方が速いっ!!」
「グォッ……!?」

 あれこれ考えても仕方ないので、ひとまず急停止からの全身全霊の拳をオーガの腹にぶち込む。すると、まさか弱者が刃向かってくるとは思っていなかったのか奴は防御を遅らせ、見事にこちらの攻撃が的中した……まあ、素人同然の殴りなんて大したダメージになってなかったが。

「ギャ、ラァッ!!!」
「ぐっ!!?」

 反撃の蹴り飛ばしをもろに喰らい、俺は大木へ激突し魔力防壁を壊してしまう。この威力と速さ……明らかにオーガの域を超えてやがる!

(体が痺れて……クソ、死ぬのかこんなところでっ!!?)

 死という恐怖に、俺は体を蝕まれてしまう。やりようによっては倒せるステータスを持っているのに……が、自由意思を縛る。

「ガァァアァ!!!!」
「くだらねぇ……こんな半端なとこで……俺は、ぐ」














「『水弾』」
「ガッ……? グルゥオッ!?」



 …………えっ?



「……大丈夫か。」
「…………あ、あぁ、なんと、か……?」
(……子ども……?)

 オーガからの追撃を喰らいそうになった刹那……背後から小さな水の弾が飛び出し、奴を怯ませた。そして、俺を守るように子どもが前に現れた。それも、まだ12、3くらいの若造…………しかし、黒の背中や茶色のマントから滲み出るは間違いなく強者のソレだった。

(……今、放ったのは水弾……だが、初級魔法であのオーガを怯ませるなんてできるのか?)
「ガグ、ギャ、ガァッ!!」
「……すぐ終わらせるから、動くなよ。」
「す、すぐって……っ、来るぞ!!?」

 謎の少年はそう言ってこちらの顔を確認してくる。その目はどうなっているのか、フードに隠されてよく見えなかったが少し光を放っており……と思っていた瞬間に、復活したオーガが手に持っていた大剣を彼へ振り下ろ…………なっ。


「…….グギッ!?」
「…………なまくらが。」
(……摘んで、!?)

 あろうことか、少年はオーガの大剣を見もせず親指と中指で挟み受け止め……とんでもない馬鹿力で真っ二つに砕いた。そして、割れた剣先の方を掴み取り、容赦なくオーガの目に投げつけた。

「ガギャァァッアアッ!!?」
「死ね……『ポセイドンの万斬ばんざん』」

 オーガが痛みで苦しんでいる隙に、少年は何かを唱えるとともに指を十字になぞってみせた。その結果、奴の大きな腹に水のような物体が同じよう十字に現れ…………核である魔力石ごと

(う、嘘だろ……!?)
「…………ァ……」
「……割れたか、まあいい。」

 元々魔力石を回収するつもりだったのか、少年は諦めの言葉を呟く。そして、惨たらしく4つに引き裂かれたオーガだったものを魔法で燃やし……こちらを一瞥いちべつした。

「怪我は。」
「な……ないが、魔力防壁が壊れ……いや、それよりお前は一体……?」
「知る必要はない、ただの旅人だ……不安なら、送ってやる。目的地はどこだ。」

 こちらの質問に答えるつもりはないようで、少年は淡々と必要なことだけを話してから、俺に立つよう指を招く。しかし、あまりにも劇的な展開の速さに未だ頭の処理が追いつかず、立ち上がる気力が湧かなかった。

(何者だ……こんな子どもが一人旅……? いや、それよりあの強さ。今まで見た誰よりも洗練されていて…………そんなことがあるのか?)

 見た目的には娘……マグアと一緒ぐらいの歳だろうか。武器も背負わず、怖いもの知らずと言わんばかりの立ち振る舞い……ステータスはどうなって





『詳細不明』







「……見たな?」
「っ……!??」
(しょ、詳細不明……?? しかもバレた……!?)


 ……間違いなく普通じゃない。助てくれたとはいえ、信用していいものだろうか…………?


「…………名前を聞いていいか? ちょっと……正直、色々と怪しすぎるんだが、お前。」
「……名前を聞いたところで変わると?」
「ま、まあそれもそうだが……ダメなのか?」
「…………」

 表情は見えないが、明らかに嫌そうな雰囲気を出しながらも…………少年は冷たくを口にした。







「…………ユウ、だ。」





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