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十八章 分解した心 (学園編・1)
二百七十三話 拒絶
しおりを挟む学園に来て2日後、俺とマルクは休暇を少し挟んでから、フレッドの紹介のもと、三国会議の学園代表たちと訓練所の舞台で会うことになった……が、その道中、何故かマルクは心在らずといった様子で浮ついていた。
「……………」
「……何かあったか、マルク?」
「え……い、いや。何でも。」
「そうか……あまり上がりすぎるなよ。」
「別に上がっては……」
「……どうやら、みんな先に到着しているようですね。」
小話も束の間、暗い出口を抜けると……その舞台の真ん中には3人の少女と1人の少年が立っており、俺たちの姿を見た途端、そわそわと騒ぎ始めた。
「……あれ? フレッド先生の後ろ……あのような生徒、学園にいましたか?」
「さぁ? 詳しい話は聞いてなかったからな……俺はナルと一緒に過ごすので忙しかったから。」
「もう……イルったら。」
「ちょっとそこ、暑苦しいって何回言ったら……ってぇ!?!?」
「…………あ。」
灰色の髪をした男とそれに蜜柑色の女が抱きつき、胸焼けするほどの愛情劇を繰り出し……咎めた黄土色の女が俺たちを認識した瞬間、とても初対面とは思えないほどのリアクションを見せる。また、同時にマルクも何かに気づいたような表情を見せ……顔を逸らした。
「……知り合いか?」
「いや……ちょっと、たまたま出会しただけだ。」
「例の夜の散歩か? 別にお前の勝手だが、あまり不審なことをするなよ。だからあんな反応される。」
「あれは……そういうものじゃないけど。」
「はいはい、ひとまず話を進めますよ皆さん。」
含みのある言い方をするマルクに首を傾げるも、フレッドさんが手を叩いてその場を制し、本題へ移った。
「さて、集まってもらったのは他でもありません、1ヶ月後に行われる三国会議の試合……その詳しい内容を今から話します。特に、4人は聞き逃さないように。」
「……確か、私たち4人はすでに決定していて……学園長が残り1名を生徒から選抜すると、そう聞いていましたが……その人はどこにいるのですか?」
「はい、最初はそういう話でしたねリリーさん……ですが、事情により急遽予定を変更し、残り1人は外部の人間に頼むことになりました。」
「外部? それって……まさか、その金髪か黒髪の人ってこと? どっち?」
「彼の方です……さぁ、自己紹介を。」
フレッドに背中を押され、マルクは改まった様子で前に出る。思ったより緊張していないのは意外だが……仮にも上流の貴族だ、人前で萎縮するほどの臆病はないのだろう。
「……僕はマルク=アースト。君たち……は分からないが、そこの彼女とは同い年だ、よろしく。」
「同い年……ってことは、どこかの学生さん?」
「ええ、彼はあの有名なソルセルリー学院の生徒で、かなりの成績を残しています。きっと、今回の試合を通じてあなたたちにも良い影響を……」
「待ってください、学園長!!」
細かい事情は包み隠しながら、流れるようにフレッドが事を進めていたところ……不意に、マルクと顔見知りだという少女が大声でそれを邪魔した。そして、彼を不躾に指差し、あり得ないと首を横に振る。
「いきなりどういうことですか、これは!? 聞いていた話と全然違うし、なんで見ず知らずの人族なんかと三国会議に出ないといけないんですか!?? ましてや不審者の……意味がわからない!!」
「ね、姉さん!!」
「黙っててリリー! ……いくら学園長の指示だとしても、納得できません! 大体、『精霊族代表』として相応しくないでしょう!?」
「……それは、人族の人が精霊族として出場するのがおかしいということですか?」
確かに、それはごもっともな疑問である。種族が違うのにその代表として出るのは世間体的に少しおかしな話……ではあるが、どうやらこの世界はそこまで堅苦しいルールは無いようだ。
「三国会議の出場条件として、『出身、もしくはそこに所属している者』という内容があります……わかりやすく言えば、彼の場合、出身の人族代表かこの所属している学園……精霊族代表か、となります。」
「……なっ……そんな、だってあんたは……!」
「……言っただろ、不審者でも部外者でもないって。」
マルクはやや呆れた様子でそう呟く。2人の間にどんなやり取りがあったのか知らないが……どうやら穏やかな関係ではないらしい。またマルクが余計なことをしたのかとも思うが…………彼女の態度からして、違いそうだ。
「臨時ですが、留学生として今、彼はこの学園の生徒です。それでもまだ納得はできませんか、エルサ?」
「で、できる訳ないです、そんな強引な理由……!! 人族を呼ぶなんて、一体何を隠しているんですか!?」
「いい加減にしてください姉さん!! 学園長に失礼です!」
姉さんと呼ぶ白銀の少女が静止させようとするが、変わらずエルサとやらは怒りを見せたままマルクを睨み続ける。このままでは話は平行線……これ以上マルクにヘイトを向けさせるのも良くない、一度空気を変えなければ。
「…………そんなにマルクの存在が不服か?」
「……あんたもよ、黒髪! 話に入ってこないで!」
「悪いが、そうもいかない。 ……俺はウルス、今回このチームの指導役として呼ばれた者だ、よろしく。」
「指導役……お前がか? 見たところお前も同い年っぽいが……?」
「彼も歳は変わりませんが、実力はあなたたちよりも遥か上……指導者としてピッタリだと思います。」
一応、今回はあくまで俺の存在はおまけ……行動しやすいためにそういう立場に立たせてもらってるが、そもそもこの国に来たのは三国会議じゃなく、神だ。今更そんなことに時間もかけられない……要は片手間の仕事ってことになる。
「わ、私たちよりも……? 本当なのそれって?」
「あ、あり得ないわよ! 見たところステータスがちょっと高いだけで、この私たちに勝てるわけ……どうせその男と大差ないんでしょ!?」
「……戦ったのかマルク?」
「えっ、あぁ……まぁ……」
(……この様子じゃ、負けてそうだ。)
色々とややこしくなってきた状況だが……ここも案外、学院と同じくステータス主義に近い思想が広まっていそうだ。
そうなれば、やるべきことは一つ…………言葉より、体現だ。
「……エルサ、だったか? 人族であるマルクと組むことの何が不服なんだ? 『実力が無いから』って言うなら、個人戦と団体戦は全く別……経験も無しに否定するのは賢い選択とは言えないぞ?」
「なに、あんた……偉そうに。言っておくけど、あんたに教えられることなんて何もないから。私たちは既に実践も経験済み……温室育ちの言葉なんて薄っぺらくて聞こえないわ。」
「…………以下にも、お嬢様が言いそうな言葉だな。」
……結局、どこに行っても馬鹿は居る。暴君にプライド、無関心に続き…………拒絶。
だがもう、俺はそれを正す気にはなれない。そんな時間も余裕も無いから。
「御託はここまでだ。エルサは当然として、他のみんなもまだ俺たちのことは受け入れられないだろう……だから、こうしよう。」
「……え? まさか……」
ボックスからC・ブレードを取り出し……地面へ深々と突き刺す。
「お前たちの経験とやら……どれほど薄っぺらいものだったか、その体に刻んでやる。」
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