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十八章 分解した心 (学園編・1)
二百六十四話 カクゴ
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「……意味が、わからない。」
「そのままの意味だ、アースト。お前は朝、ここを出て俺たちと一緒に行動……精霊族の国に向かってもらう。」
「……何だと?」
俺の脈絡もない提案に、アーストは当然の疑問と困惑を見せた。
マルク=アースト……俺と同じソルセルリー学院の一年で、入学から武闘祭まで首席となっていた男。事実その実力は一応偽物ではなく、それなりの強さは持っていたが……実際のところ、半分は相手のステータスを奪う武器のおかげだった。
そんな男を俺とカリストは武闘祭で倒し、凝り固まった自尊心を打ち砕いた…………が、それが裏目に出てしまい、こいつは神に利用されて俺たちを襲った。
(……以前とは、雰囲気が違う。落ち着いているな。)
「君が? 僕と? ……何の冗談だ。」
「冗談でも何でもない。お前もいい加減、軟禁は飽きていただろ? 聞いたところによると出れるのは後、数ヶ月も先……早く出られるなら好都合だろう。」
「それが餌か? ……悪いが帰ってくれ、僕はまだここを出る気はない。」
以前までの傲慢な態度はどこに行ったのか、アーストは随分と謙虚な様子で俺の話を断った……彼に選択肢などないが。
「……出たくないのか。」
「…………それ以前の話だ。僕は罪があってこの病棟に隔離されている……『精神状態がどう』なんて先生たちは言ってたが、とっくに正気だ。」
「……なら、その罪はなんだ。」
「…………殺人未遂。君の大切なお仲間を殺しかけた……わざわざ言わせるなんて酷な人だ。」
アーストは背を向いて、あの日に己が行った罪を淡々と呟く。
「僕は、君に負けたことが悔しくて、あの仮面男の誘惑に負けて……無関係な人間まで傷つけた。記憶は正確じゃないけど……君のことも、殺しかけた。」
「……ああ。」
「…………君に説教された時、自分が間違っているのだと……そして、それを認めることが怖くなった。だから最後は考えることを放棄して……」
『何も無いんだよ……叶えても、継いでも、戻らない。人は……かえってこないんだ…………わかってるのか、アーストッ!!!』
『ァ……ガ、ァ………!!!?』
「……君も、誰も僕を許さないだろう?」
「…………それはお前が決めることじゃない、あいつらに直接聞け。」
「はっ、今ならもう少しまともに会話できると思ったが……今度は君がおかしくなっている。根本的に合わないな、僕たちは。」
「………………」
アーストの言う通り……武闘祭で聞く耳を持たせられなかった時点で、俺はこいつと息が合うことはないのだろう。
今まで出会った学院の人間は良くも悪くも個性的な奴らばかりだったが、何だかんだ最終的にはどこか共有し合える部分があって…………。でも、この男の心は今も動かせていない。共通点が無かったからだ。
(……だが、ここに来て話をして…………こんな形でも、見つけられた。)
それでも……今だからこそ、告げられる言葉もある。後悔を自覚し、後ろ向きでも進もうとする今の彼なら…………
「…………お前だけが、罪を背負っていると思うな。」
「……なに?」
簡易的な仕組みでできた、硬そうなベッドに入り込もうとしたアーストだったが……俺の言葉に、横目を見せる。
「……人間、生きていればかならず罪を背負うことになる。例えそれが小さなことでも、大切なことでも……一度してしまえばもう、業を忘れることはできない。」
「…………君に、そんな物があるとは思えないが。人を守ろうとしていた君に……」
「罪は、目に見える物じゃない。」
……分かり合えないこいつだからこそ、吐露できる。弱さを孕んだ、情けない話も…… 否定されることなく。
「もし、その罪を償える方法があるのなら、それはただ時間を待つんじゃない……二度と、同じことを繰り返さないように生きる。それだけだ。」
「……自論にしか聞こえないが。」
「…………本当に、そう思っているのか?」
名前・マルク=アースト
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・127
筋力…腕・113 体・114 足・109
魔力・125
魔法・13
付属…なし
称号…なし
「……見たな。」
「見なくても、気配からして以前のお前とは異なっている……とても、引き籠ろうとする人間には見えない。」
「…………」
ここに、トレーニングルームなんて存在しない。だとすればこの6畳程度の寝室でこっそり鍛えていた……それも、並々ならぬ努力と鍛錬を。それこそ、ペースで言えばローナたち以上……普通では辿り着けない領域だ。
「……その強さは、許されるための理由になる。繰り返さないように、繰り返さない意味を探すために…………ここから出ろ。」
「…………勝手だな、君は。」
「数ヶ月前のお前よりマシだ……カクゴはできたか。」
意志を、問う。選択肢なんてないくせに……あくまで、自分から進めようと足を動かす。
……今の俺に、手を差し伸べる資格なんてない。導く勇気も、行動も示せないのだから…………無理矢理にでも自立させるしかない。
「…………できるわけ、ないだろう。」
──するしかねぇんだよ、俺たちは。
「……意味が、わからない。」
「そのままの意味だ、アースト。お前は朝、ここを出て俺たちと一緒に行動……精霊族の国に向かってもらう。」
「……何だと?」
俺の脈絡もない提案に、アーストは当然の疑問と困惑を見せた。
マルク=アースト……俺と同じソルセルリー学院の一年で、入学から武闘祭まで首席となっていた男。事実その実力は一応偽物ではなく、それなりの強さは持っていたが……実際のところ、半分は相手のステータスを奪う武器のおかげだった。
そんな男を俺とカリストは武闘祭で倒し、凝り固まった自尊心を打ち砕いた…………が、それが裏目に出てしまい、こいつは神に利用されて俺たちを襲った。
(……以前とは、雰囲気が違う。落ち着いているな。)
「君が? 僕と? ……何の冗談だ。」
「冗談でも何でもない。お前もいい加減、軟禁は飽きていただろ? 聞いたところによると出れるのは後、数ヶ月も先……早く出られるなら好都合だろう。」
「それが餌か? ……悪いが帰ってくれ、僕はまだここを出る気はない。」
以前までの傲慢な態度はどこに行ったのか、アーストは随分と謙虚な様子で俺の話を断った……彼に選択肢などないが。
「……出たくないのか。」
「…………それ以前の話だ。僕は罪があってこの病棟に隔離されている……『精神状態がどう』なんて先生たちは言ってたが、とっくに正気だ。」
「……なら、その罪はなんだ。」
「…………殺人未遂。君の大切なお仲間を殺しかけた……わざわざ言わせるなんて酷な人だ。」
アーストは背を向いて、あの日に己が行った罪を淡々と呟く。
「僕は、君に負けたことが悔しくて、あの仮面男の誘惑に負けて……無関係な人間まで傷つけた。記憶は正確じゃないけど……君のことも、殺しかけた。」
「……ああ。」
「…………君に説教された時、自分が間違っているのだと……そして、それを認めることが怖くなった。だから最後は考えることを放棄して……」
『何も無いんだよ……叶えても、継いでも、戻らない。人は……かえってこないんだ…………わかってるのか、アーストッ!!!』
『ァ……ガ、ァ………!!!?』
「……君も、誰も僕を許さないだろう?」
「…………それはお前が決めることじゃない、あいつらに直接聞け。」
「はっ、今ならもう少しまともに会話できると思ったが……今度は君がおかしくなっている。根本的に合わないな、僕たちは。」
「………………」
アーストの言う通り……武闘祭で聞く耳を持たせられなかった時点で、俺はこいつと息が合うことはないのだろう。
今まで出会った学院の人間は良くも悪くも個性的な奴らばかりだったが、何だかんだ最終的にはどこか共有し合える部分があって…………。でも、この男の心は今も動かせていない。共通点が無かったからだ。
(……だが、ここに来て話をして…………こんな形でも、見つけられた。)
それでも……今だからこそ、告げられる言葉もある。後悔を自覚し、後ろ向きでも進もうとする今の彼なら…………
「…………お前だけが、罪を背負っていると思うな。」
「……なに?」
簡易的な仕組みでできた、硬そうなベッドに入り込もうとしたアーストだったが……俺の言葉に、横目を見せる。
「……人間、生きていればかならず罪を背負うことになる。例えそれが小さなことでも、大切なことでも……一度してしまえばもう、業を忘れることはできない。」
「…………君に、そんな物があるとは思えないが。人を守ろうとしていた君に……」
「罪は、目に見える物じゃない。」
……分かり合えないこいつだからこそ、吐露できる。弱さを孕んだ、情けない話も…… 否定されることなく。
「もし、その罪を償える方法があるのなら、それはただ時間を待つんじゃない……二度と、同じことを繰り返さないように生きる。それだけだ。」
「……自論にしか聞こえないが。」
「…………本当に、そう思っているのか?」
名前・マルク=アースト
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・127
筋力…腕・113 体・114 足・109
魔力・125
魔法・13
付属…なし
称号…なし
「……見たな。」
「見なくても、気配からして以前のお前とは異なっている……とても、引き籠ろうとする人間には見えない。」
「…………」
ここに、トレーニングルームなんて存在しない。だとすればこの6畳程度の寝室でこっそり鍛えていた……それも、並々ならぬ努力と鍛錬を。それこそ、ペースで言えばローナたち以上……普通では辿り着けない領域だ。
「……その強さは、許されるための理由になる。繰り返さないように、繰り返さない意味を探すために…………ここから出ろ。」
「…………勝手だな、君は。」
「数ヶ月前のお前よりマシだ……カクゴはできたか。」
意志を、問う。選択肢なんてないくせに……あくまで、自分から進めようと足を動かす。
……今の俺に、手を差し伸べる資格なんてない。導く勇気も、行動も示せないのだから…………無理矢理にでも自立させるしかない。
「…………できるわけ、ないだろう。」
──するしかねぇんだよ、俺たちは。
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