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十七章 三国会議 (選抜戦・1)
二百五十二話 叶わない
しおりを挟む『クルイ side』
ふと、時計を見た所……既に開始まで3分を切っており、喧騒に満ちていた舞台も少しずつ静けさを戻していっていた。
「……にしても、何故こんな決め方を……」
学院長のやり方には疑問だ。試合形式もそうだが……何人まで絞るのか、どういう意図での形式なのか、ただ戦えと言うだけで何も提示してこない。指導者としてはやや不可解……少なくとも、今までの彼のやり方らしくない。
(三国会議の試合は毎回変わるらしい……そして、この集団戦。そこから導き出せるのは…………実戦に近いということか?)
まさか、この大人数で本番も戦うわけじゃあるまいが……これはただの遊びと思ってやらないほうがいいな。
「…………あの人は、そう思ってなさそうだが。」
「……すぅ……さむっい……」
そんな俺の思考とは真逆に、空に浮かんですやすやと眠っている彼女……ハートさんに目を向ける。どこから持ち出してきたのか、肘掛けを器用に足に巻いてスカートを抑え……てか、何してるんだ?
「あのー、もうすぐで始まりますよ、何寝てるんですかー」
「……クルイ……なに?」
「いや始まりますって。空飛んでたら流石に勝負にならないですよ。」
「……だったら、そっちも飛べばいいよ?」
(……正論のような、暴論だ……)
空を飛ぶのは誰にだって出来ることじゃない。一定の実力……それも、彼女並みの強さを持って初めて成せる力……魔法でもなければ普通の人間は不可能に近い。
「飛べるでしょ? あの……電気でなんとかできないの?」
「まあ、『飛』ぶじゃなくて『跳』ぶに近いものなら……とにかく、いいんですかそれで?」
「無駄な戦いはしないだけ……戦いたくなったら起こして、じゃあ。」
「ちょ、ちょっと……はぁ、行ってしまった。」
どうせなら、久しぶりに戦ってみたかったのだが……今回は生き残ること優先だ。最強が戦わないのなら好都合…………
「……って、甘えんな。」
……都合よく考えるな。俺が目指すのは1番だ、格上だろうが何だろうが……挑んでやる!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ライナ side』
「残り1分……もう始まっちゃう。」
龍器……ヘリオースを握りながら、私は早まっていく心臓に深呼吸で対抗する。でも……やっぱり、まだ心の整理は付けてなかった。
(…………ウルくん。)
泣いて、悲しくて……何かをするのも億劫だった。何のために生きてきたのか、彼が何を思って私の前に再び現れてくれたのか……………アレを見るまで、記憶すら飛んでいた。
「……生きて。」
『……この称号を付けた奴を倒せば、必ず呪いは消える。まだ何も……諦めてなんかない。』
『うぅ……しんじゃやだぁ………』
『死なない、絶対。俺は……あいつらを倒す。だから……泣かないでくれ。』
『やだっ、やだぁ……いきてぇ……』
でも………私は、託された。託す意味は、まだ分からないけど……私は、彼に生きてほしい。
そのために、私は強くならないといけない。
「…………まだ、渡せてないんだ。」
あの日から、ポケットにずっと入れている贈り物を取り出してじっと見つめる。
時が経ち、真ん中に付いている緑の宝石や装飾も徐々に輝きを失い……とても、彼に喜んでもらえるような代物では無くなっていた。結局、再会した時も嬉しさのあまり、すっかり忘れてて……こんなことになってしまった。
(それも、これも全部……私が弱かったせいだ。ウルくんが誰にも話していなかったのは……私たちが、弱いからなんだ。)
彼は分かってる。どれだけ綺麗事を並べても、過ぎていく現実を変えることはできない……だから、姿を消して、私たちとは異なる道を選んだのだと思う。
その道が何なのか、どんなモノなのか……それを確かめるためにも、強くなるんだ。
「開始30秒前だ、皆準備はできたか!?」
龍器には頼らない。今は私自身の力だけで強くなって……一緒に、歩きたいんだ。
『ここでだって、一緒だ。ミルの友達になってくれたり、本気で心配してくれたり……俺はそれだけで十分、救われてたんだ。だから…………胸を張ってくれ、ラナ。』
まだ、再開して3ヶ月も経ってないんだ。全然まだまだ、足りないんだ。
『ラナ、そんなに焦るな……俺はここにいるんだ、明日でも明後日でもたくさん話せる──』
埋まらないんだ、寂しかった記憶が泣いてるんだ。溢れて、止まらなくて…………想いが、胸を締め付けてくるんだ。
『美味しいぞ、ラナ。昔より上手くなってる。』
生きてほしい、たくさん思い出が欲しいんだ。振り返っても俯かないように、笑っていたいんだ…………
でも、もう叶わない。
「10秒前!!」
これからこの先、何があっても……私の過去は凄惨で、彼にとっては呪いなんだ。
一生、苦しい傷で、心臓を刺す痛みで……それでも、前向く人間に…………私は、手を差し伸べたい。そして────
「試合、開始っ!!!!」
笑顔を、もう一度見せてほしいんだ。
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