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十七章 三国会議 (選抜戦・1)

二百四十九話 認めない

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『アンクル=ロード side』



「……思いつかない。」

 私は1人訓練所で、自身の動きを再確認していた。

 冬の大会でウルスさんに負けてから、私はずっと薙刀を持って己の戦闘法に疑問を浮かべていた。『最小限の動きと回避』を持って、これまで戦って来たが……彼の前では何の価値もない物だと証明された。



『避ける技術だけでいえば、お前は頭ひとつ抜けているかもしれない……しかし、そんなものにこだわったところで勝ちには程遠い。』



 言っている意味は分かるし、痛いほど体感した。私の行動は極論『逃げ』の極みであり、それが直接攻撃へ繋がることはほとんどない。おそらく、それを彼は伝えたかったのだろうが……かといって、今までの戦い方を捨てるのはあまりにも短絡的ではないのか?

「どうすれば…………」
「あら、ロードさん? 奇遇ですわね。」
「あっ……キールさんでしたか。」
「? なにか悩み事でも?」

 思考が行き詰まり、何かないかと模索していたところ……偶然、キールさんが訓練所にやってきた。そして、私の顔が見るからに困っていたのか、彼女はこちらに近づいてきてその意味を問いかけてくれた。

「実は……自身の戦い方に迷いがあって…………」
「戦い方? 特に、ロードさんの動きに変なところはないと思いますわよ? 軽やかで、相手の攻撃を捌ける技術は他の誰よりも優れてますわ。」
「しかし、避けるだけならば誰でもできます。それこそ、ウルスさんのような動きに比べたら私の戦い方は……」
「……そういうこと。意外とロードさんって打たれ弱いんですわね。」
「……えっ、はい?」

 相談の中、予想だにしていなかった自身の評価に、私は素っ頓狂な声を出してしまう。打たれ弱いって……

「ウルスさんに負けて、自信を失った……そんなところでしょう? 確かに、あの人と比べたら私たちは限りなく弱く、歯が立たない……それも、武闘祭から急に頭角を表してきた謎の人物。焦る気持ちも分かりますわ。」
「は、はぁ……それはそうなのですが……」
「けど、アレですわ。何というか……まともにあの人と己を比べても仕方ないですわ。戦い方以前に、が根本から違う……正直、ローナさんたちがついていけてる方がおかしい。だから、あまり正面から受け取っても意味はないですわよ?」

 正面……まあ、そう考えるしかない。彼のことはあまり深く知らないし、彼の周りの人間はずっと関わってきた上でやっと喰らいつけている……それほど、距離のある人なんだ。

「……3年首席を倒して……名実ともに学院の頂点となった。一体何者なんでしょうね。」
「さぁ……私には何も。ただ、……そういうことを思い知らされましたわね。」

 あの試合以降、学院全体の雰囲気はどこか変わっていっている。元々、ステータスで実力を推測っていた人たちにとってウルスさんの存在はあまりにも衝撃的で、否が応でも強さの本当の意味を知ってしまった中……全員がどうするべきなのか迷っている。
 そして、それは私も同じ…………ここから、どう強くなればいいんだ?


「なんだ、お前たちもウルスについて悩んでるのか?」
「……ガッラさん?」


 再び考え込んだ私に……今度は、二刀流の男が話しかけてきた。















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『アンクル=ロード side』



「……そうウルスに言われたのか? このままじゃ通用しないって。」
「まあ……間接的にですが。」

 立ち話を続けるのもあれなので、私たちは訓練所を出て学院内にある芝生の庭で話すことにした。そして、ガッラさんに自身の悩みをぶつけると彼はあっさりと言って退けた。

「別に言わせておけばいいんじゃないか?」
「え?」
「だって、ウルスの言ってること全部が正しいわけないだろ?あいつだって同じ人間だ、時に間違ったことも言う。」
「で、ですが、ウルスさんの言葉はもっともだとは……」
「いやいや、お前はあいつを何だと思ってるんだ? 偉業は讃えても従うものじゃないぞ。」

 ……どういう意味なのだろうか。

「俺から見れば、お前の避ける技術は十分脅威だ。ただ、攻撃が弱いってことはその避ける動作が。」
「繋がってない……?」
「あぁ、お前は回避と攻撃を完全な別物として考えてる。それを繋げてみたらどうだ? 例えば、攻撃の中に回避行動を組み入れるとか……具体的なことは言えないが。」

 攻撃の中に回避……つまり、避けることに時間を割かず、攻撃ができるということか。もしそれができるのではあれば、私はさらに強くなれる…………

「……2人とも、ありがとうございます。少し光明こうみょうが見えてきました。」
「そうか、なら早速……って、武器変えたのか?」
「そういえば……色が変わってますわ。」
「ああ、これの名前は『藤狐ふじきつね』です。前の『兎羅とうら』はかなりボロボロでして、この街の有名な鍛治師に特別な方法で打ってもらいました。」

 そう言って、私は銀の柄に妖しく光る藤色の剣身をした薙刀整を2人に見せる。以前の兎羅は全体的に銀色で統一された色彩だったが、こうしてみるとあまり感じなかった。

「特別な方法?」
「その鍛治師曰く、前の武器を素材の一つとして別の素材と混ぜることでより強力な武器ができるようです。理屈は分かりませんが。」
「へぇ……今度、私も行ってみたいですわ。」
「えっ、でもキールは石ころだろ? それを打ってもらうのか?」
「い、石ころじゃなくて魔鉄石ですわ、いい加減覚えてくださいまし! それに、一応私も短剣使いですわよ!?」
(……使ってるところはあんまり見たことないが……)

 キールさんがプンプンと怒っているのをガッラさんが茶化す……そんな気の抜けそうな光景に苦笑いしながら、私は空を見上げる。



(……元々、私たちは面識自体はあったが……こうやって気楽に話すようになったのはいつからだろう。)

 貴族同士ということもあって、学院に入る前から交流の場にて顔は知っていた。

 初対面のガッラさんは堅物というか、あまり貴族らしい振る舞いをしていなかったが……こうして話してみると、意外と物腰が柔らかく接しやすい。また、キールさんは最初、いかにもお嬢様といった感じで雰囲気も気高かったが、今では少し抜けていて天然だったりと、だいぶ印象は変わっていた。



『……武闘祭ですか?』
『ああ、君がいればより確実に優勝できる。仲間になってくれないか?』



 …………これも、なのだろうか。


「……アーストさんって、今何してるんでしょうか。」
「アースト? ……確かに、武闘祭以降全く姿を見せないよな。どうやら休学してるようだし。」
「ウルスさんたちに負けて……悔しそうでしたが、流石にそれが原因じゃないですわよね?」

 彼は今時じゃ珍しい、貴族としての自尊心がかなり強い人だった。そして、それはウルスさんへギラギラと向けられており、おそらく私たちを武闘祭に誘ったのも彼に勝つ為だったと今では感じる。
 しかし、彼は負けた。その怒りは私たちを置いてきぼりにし……そのまま姿を眩ませてしまった。




『………………認めない。』




 単に『己の負け』なのか、『彼らの勝利』なのか……あの一言の忌み付いた憎悪は計り知れず、驚く他なかった。




「……今度会うことがあれば、聞いてみましょう。」


 何も知り得ない私は、そう呟いた。


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