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十七章 三国会議 (選抜戦・1)
二百四十八話 負け
しおりを挟む『ルリア=ミカヅキ side』
「……フラン=ハートさん。」
「…………君は、確か……ウルスの知り合い。」
三国会議の選抜戦も間近になってきた今日この頃、私は廊下を歩いていた彼女を引き留めた。どうやら顔は覚えてくれていたようだが、その何とも言えない覚え方に少しモヤっとする……口にはしないが。
「何か用?」
「はい、その……私と手合わせしてくれませんか?」
「……君と?」
何を思っているのか、ハートさんは私をジロジロと見つめ始める。そして、ある程度品定めが終わった瞬間……質問が飛んできた。
「なんで、私と戦いたいの? 3年主席だから?」
「まあ、それが一番な理由ですね。あとは……うちの後輩が世話になっていたようなので、自分でも力を試してみたくなったんですよ。」
「…………ふーん。」
……冬の大会後、彼女の雰囲気が何となく変わった気がした。以前までは誰も寄せ付けないような、孤高で堅い雰囲気があったが……今ではそんな様子は全くなく、目の色もどこかしら輝いていた。
(これも、ウルスが変えたのか……流石だ。)
私もそうだが、おそらくあいつと関わってきた人間のほとんどは良くも悪くも変えられてしまってる。強くなることの意味を日々考えさせられて……そして、あいつが居なってから、みんなはそれぞれの道を歩み始めている。
果たして、これを想定してのことなのか……それとも、他の…………
「おっ、ミカヅキ。何やってんだこんなところで。」
「……メイルド? いや、ハートさんに……」
「いいよ、3人でやろう。」
……………ん?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ルリア=ミカヅキ side』
「…ふわぁ。」
「余裕そうだな……」
「……というか、良かったのかメイルド。いきなり連れてこられて……」
「別に、暇だったしな。ハートさんと戦えるならお釣りも来る……が、どういう試合だ? ミカヅキと組めってことなんですか?」
「違う、1対1対1。」
……三つ巴ってことか?
「な、何故そんな形式を? 私とじゃ不満でしたか?」
「いや、不満じゃない。三国会議に向けてやるだけ。嫌ならやらないけど。」
「……三国会議に向けて? それが三つ巴と何の関係か?」
話の見えない内容に、メイルドが問いただす。すると、ハートさんは欠伸をしながら自身のボサボサな髪を手で梳かしていく。
「勘の話だけど……全員で選考するってことなら、普通の形式はあり得ない。それなら、冬の大会の結果である程度絞り込めるし……無駄な時間をかけているに過ぎない。」
「無駄……」
「でも、学院長はそんなことはしない。ただでさえ神っていう奴らの対策を練ってるらしいのに……そう考えると、選考含めて本番は少なくとも1対1じゃない。」
(……ハートさんは、知らないんだよな。)
……ここまでくれば、ウルスのことがバレるのも時間の問題だが……下手に伝えるのも悪手だ。まだ口にせずに、様子を見た方がいいな。
「だから、この形式……理由は分かりましたが、私はあくまであなたの実力を確かめたくて……」
「じゃあ私を狙えば? ……はい、始め。」
「えっ、あ、軽っ!?」
今までで一番締まらない始まり方に私たちがガクッとつんのめっていると、早速ハートさんは剣を握ってメイルドへ向かう。
「しかもこっちかよ!」
(……よし、なら私も!)
それに便乗するため、私はハートさんの後ろについて一緒に接近していく。一気にやればメイルドはまず…………
「…………なっ、てんぐぉっ!!?」
「えっ、がぁっ!?」
「安直だね、ミカヅキ。」
瞬間、目の前のハートさんが姿を消してしまい、目があった私とメイルドはギョッとして固まってしまう。そして、振り返る隙も与えずに背後に出現した彼女の剣に斬られ、2人ともども吹っ飛ばされてしまった。
『ジェット』
「ぎゃっ、残りっ屁かよ!!」
「言い方!!」
すぐさま体勢を整えるため、私はジェットでメイルドから離れながら品のない言い回しを咎める。天・双翼に比べて柔軟性が無いジェットだが、こういう使い方には丁度いいな。
「……って、そちらも飛べるんでしたね!」
「怯まないね……『エンドショット』」
同じく空へと浮かんだハートさんのエンドショットを避け、接近する素振りを見せる。だがあくまでこれは引っ掛け、本命は……
「…………そっち?」
「うぉ、やるか!?」
「あぁ!」
ジェットで急展開し、目下のメイルドへ剣をぶつける。そして、すぐさまジェットを解除して地面に降り立ち、背後の気配を感じながらその時期を見計らう。
(……これは、いつもとは全然違う……集中が分散する!)
普段なら、敵は1人。他の要因なんて考えることはそうそう無かったが、全く異なる動きが2つもあるだけで動きの精度が落ちてしまう……その結果、単調な攻撃しかできず、突破口を見出せない。
「もっと冷静にいかないと、負けるよ?」
「くっ、今度はそっち……!?」
「らっ、『ドラゴンブレス・シャイン』!!」
背後の気配が消え、ハートさんはメイルドの後ろに出現した。それに対し、メイルドは一度私の剣を弾いてから振り返り、光のドラゴンを放って牽制するが……無詠唱のエンドショットにて相殺された。
「……これが混戦、どう?」
「……頭、使いますね。今にも爆発しそうですよ。」
「そう、ミカヅキは?」
「…………あなたの転移がより光るってことだけは分かります。」
「……解っちゃった?」
…………意地の悪い人だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ルリア=ミカヅキ side』
「か、勝てねぇ……何回、やっても……」
「はぁ、はぁ……」
「……今日はここまでにしとこ。」
あれから私たちは結局あっさりと負けてしまい、それからも魔力防壁が復活するたびに手合わせをしたが……まともな一発も入れられることなく日が傾いてしまった。
(解放を封じていたとはいえ……よくウルスたちは勝てたな。)
前から理解していたことだが、直に体験すると1年の強さの異常性がよく分かる。もちろんハートさんも規格外ではあるが、それを超えるウルスやフィーリィア、カリスト……一体、いつになったら追いつけるのだろうか。
「…………ねぇ、聞いてもいい?」
「な、んです……か?」
「……私と戦ってて、楽しかった?」
「「……?」」
不意に、意図の読み取れない質問に、私たちは揃って首を傾げる。
「ふぅ……どういう意味ですか?」
「……2人とも、私には全然通用してなかった。なのにこんな時間まで、ずっと挑んで……負けるって分かってるのに、辛くなかったの?」
ハートさんはそう言って私たちの目をじっくりと見つめてくる。それは、少し暗い色を見せており……しかし、どこか期待をするような、摩訶不思議な瞳だった。
「……確かに、負けるのは辛いです。でもそれが諦める理由にはならないですよ。」
「そうだよなぁ、私だってクルイに負けた時は悔しさでいっぱいだったけど、負けて分かることもあるしな。」
「…………」
『……最後の、お前の戦う姿。やっと整理が付いたようだな。』
『……ルリ…ミカヅキさんのおかげです。』
「……なので、『楽しかった』といえばそうでしたよ。ただ…………次こそは勝ちますよ。」
「……みんな、生意気だね。」
単純で、負けず嫌いな台詞に……ハートさんは笑ってそう溢した。
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