上 下
248 / 290
十七章 三国会議 (選抜戦・1)

二百四十六話 クソ女

しおりを挟む
 


『タール=カリスト side』



「今日は一段と寒いね、タールくん!!」
「……あぁ。」
「寒いと言えば、雪もちらほら積もってるし雪合戦とかしない!? 小さい頃、家族でいっぱいやったんだよねぇー」
「…………へぇ。」
「こういう日はあったかい飲み物が欲しくなるけど……ここは逆に、冷たい飲み物とか良さそうじゃない!?」
「………………かもな。」

 三国会議の代表に向けて、とりあえず俺も鍛え直すために訓練所へ向かうところ……いつも通り、隣をこのアホ毛マグアが歩いていた。

 冬の大会以降、その前までのお淑やかさは何処にあったのか、反動のようにこれまで以上にくっついてくる。もちろん最悪で反吐が出そうなのには変わりないが……どうせ引き離してもしつこくだけなので、最近は特に抵抗することもなくなった。





『…………もし、今この場で出せないなら……俺が導いてやる。』
『…………えっ?』
『決勝戦……お前に、証明してやる。強くなること、勝つこと……その本当の意味を。』







(……柄にもねぇ、余計なことをしやがって…………)
「おーい、聞いてる?」

 
 ……俺は、決して絆されたわけじゃない。強いて言えば、こいつの態度が気に食わなかっただけ……ただそれだけなのに、こいつはなぜ俺に…………


(もう満足したはずだ。『答え』を出して、俺とつるむ必要なんか無くなったはず……まだ何か狙ってるのか?)
「いいのー? どっちなのー??」


 腹の内は知れたものの、相変わらずこいつの考えはよく分からない。我ながら昔よりは丸くなったとは思うが、それでも俺みたいな口の悪い奴に付き纏う理由なんてないだろうが。



『…………でも、カリストって嫌な奴じゃん。そんな奴が居るのはあんまりいい気がしないよ。』




「…………ちっ。」
「えっ、舌打ち!? ……って、また1人の世界に入り込んでるでしょー!! イイかダメかくらい言ってよぉ!!」
「はぁ!? なんだ急に、誰もダメなんか言ってないだろうがっ!!!」

 不意に、横の馬鹿マグアが俺の体をグラグラと揺らしながら涙目で訴えてくる。それを見た俺は訳も分からず、何となく面倒ではないであろう方向の返答をした。とりあえず肯定しておけばこいつは静かに…………



「ほんとっ!? じゃあ明日の朝、学院の入り口で待ってるから!!!」
「……は? 何の話だ?」
「えっ? 明日、僕としてくれるんでしょ? ダメじゃないならイイよね?」
「………………はっ、いや、行くわけないだろ!!? 何勝手に決定してんだ!!」
「えぇ? さっきのは了承してくれた返事だと思ったんだけどぉ~? もしかしてタールくんは嘘を平気でついちゃう男の子なの~??」
(こ、こいつ……!!)

 ……いや、俺が行く理由も道理もない。こいつが勝手に…………



「じゃあ約束ねっ、タールくん!!」















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




















『タール=カリスト side』



「よし、じゃあ行こう!! タールくんはどこ行きたい?」
「………………」

 ため息すら出ない、面倒過ぎる状況に俺は気分が下がっていくのを感じる。



『迎えにきたよ、ターーールくーーん!!!』
『……行かねぇって言っただろ、てか入り口の話はどこいった!』
『ふふん、タールくんのことはお見通しだよ? どうせ『マグアのことだし』ってサボろうとしたでしょう? でもそうはいかせない!!!』
『おい、うるせぇ叩くなっ!!! 怒られんだろうがっ!!』
『なら、僕とお出かけしてよっ!! 男に二言はないよねぇ!?』
『脅してる奴が言うことじゃねぇ!!』




(………、覚えておかなければ。)
「ねぇねぇ、どこかある?」
「あぁ? ねぇよ、大体テメェが言い出したんだからテメェで決めろ!」
「じゃあ、僕のおまかせってことね!」

 もう考えるのも億劫になってきたため、こいつに連れられるがまま俺は動いていく。

(……つうか…………決めてきてんのかこいつ。似合わねぇ……)


 目に入ったこいつの服は、普段の中性的で戦闘向きな服装とは打って変わり、青の色々と派手でヒラヒラとした女っ気のある衣装をしていた。群青の半ズボンは水色のスカート、厚着気味だった上の深めな色の服は綿の……あの、羽織るやつみたいな…………よく分からないが、とにかく普段とは雰囲気が変わっていた。

「どう? 似合ってるでしょう?」
「……知るか。」
「えぇ、そこは褒めてくれないと! ほんと、女の子の扱いがなってないんだから……」
「何が女の子だ、特訓の時間を奪いやがって……三国会議があるってのにお気楽だな。」
「そんな気負い過ぎても仕方ないって。どうせタールくんなら余裕だし、たまには休むのも良いと思うよ?」

 マグアはそう言って掴んでいる腕を何故か俺に見せつける。

「……その休息がお前と歩くって、拷問以外の何物でもないんだが。」
「僕は楽しいけどねー……あっ、あそこ!! まだ入ったことない店なんだ、行こっ!!」
「聞けや……!」

 俺の話はどこ吹く風か、マグアはお目当ての店を見つけて中へと入っていく。そこはどうやらこの街でも有名な装身具そうしんぐ屋なようで、中に入ると眩しいくらいの壁紙やその売り物が目に入ってきた。

「わぁ……ねぇ、見て回ってもいい!?」
「……好きにしろ。」
「やったぁー!」

 光り物には目がないのか、マグアは一目散に飾られている装飾品へ駆け出していった。そんな背中を見届けながら、俺も何となく品物を眺めていく。

(……昔は、こんなのも付けてたっけか。)

 今にしては……ただの虚勢だったのだろう。金や見た目で己の身を強くして…………情けねぇ話だ。




『いやぁ……そんな陰気な奴と話すより、俺と話したほうが楽しいだろ?なぁ?』




(あぁ……思い出すだけで恥ずかしい。)


 いくら喧嘩をふっかける言い文句だったとしても……あれはない。マグアがそれを知れば絶対に大爆笑するだろうな。

「………………。」


 ……冬の大会が終わってから、やけに昔の自分と今を比べてしまう。『あの時ならこうしていた・今ではこう言ってしまう』……考えても仕方ないのに、頭は勝手に比較したがる。


(……お出かけこれも、少し前なら何としても行かなかった。あいつが泣き叫んでも、起こりまくっても……)


 …………俺は、あいつに『何か』を感じている。好意とか、そんな甘酸っぱいものではなく……何か、重々しいもの…………


「…………あぁ? 何やってんだ?」
「ん? いやぁ、これ良いなぁって。ちょっと高いし、僕じゃまだ買えないけどね。」
(……指輪か。)

 色々と流し見していると、マグアがじっくり眺めている所まで追いついてしまう。また、どうやらマグアはその透き通る瑠璃色るりいろの指輪だった。
 思ったより派手な感じもなく、宝石もほとんど付いていなかったが……案外こういうのが好みなのか?

「うーん、でも欲しい……でもお金ない…………」
「お前、持ち合わせもないのに入ったのか? 冷やかしするような店じゃねぇのに。」
「いいじゃん、見るだけはタダだし! ……あっ、この赤いのとかタールくんの剣に合ってて良さそうじゃない? なんか魔法道具っぽいし!」
「魔法?」

 全く興味が無かったが、その一言に俺は目を向けてしまう。どうやら、その指輪は付けていると空気中の魔力を集める作用があるとか。
 一見、存在価値が分からないが、俺のキング・スターの『空間の魔力を吸う』という特性に適ってそうだが…………


「……本当に効果があるのか?」
「あると思うよ、タールくんなら付けておいて損はないんじゃない?」
(…………なら……)

 興味がないとは言ったが、利便性があるなら話は変わってくる。しかも、それが戦闘に使えるのであれば……使ってみる価値はあるだろう。


「……綺麗だなぁ…………」
(…………ちっ。)


 ……こういう時だけ、何も言わない。無駄な常識は持ってやがるのがまた頭に来る。


「……それ、寄越せ。」
「え? 泥棒?」
「違ぇよ、それも買ってやる。俺だけ買うのも変な話だろうがっ。」
「えっ? でもお金持ってないよ?」
「だ、か、ら、俺が奢るってんだよ!」
「……いいの?」

 マグアは虚を突かれたような、値段と俺の顔を何度も見合わせてくる。そんな態度がまた癪だったので、俺は捲し立てるように話を進めた。

「お前と俺の資金力を一緒にするな。俺は貴族、金だけは有り余ってんだよ。」
「そ、そういうもの? 確かにタールくんは良いとこの家系だとか……」
「いいから、要るのか要らねぇのかどっちだ! 3秒で決めろ!!」
「い、要ります!!」


 俺は強引に指輪を奪い取り、会計へ向かった。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















『タール=カリスト side』



「ほ、本当に貰っちゃうよ? いいんだね?」
「嫌なら返せ、質屋に売っ払うぞ。」
「そ、それはダメ!!」

 夕焼けが差す帰り道、未だ動揺しているマグアにそう言うと大事そうに指輪を守り始めた。そして、その指輪をボーッと眺めながら当然の疑問をぶつけてきた。

「……なんで、僕の分も買ってくれたの? いつもならそんなことしてくれないのに。」
「あぁ? まだ文句があるのか?」
「も、文句じゃなくて……」
「…………気まぐれだ。」



『勝ってぇ、タールくーんっ!!!!!』



「理由が欲しいなら……冬の大会、お前は俺の勝利を願った。その褒美ってだけだ。」
「褒美? ……その理論なら、褒美って言うより……」
「気まぐれっつってんだろ。そんなに嫌だったらはっきり言えや。」
「えっ、嫌じゃないって! ありがとう、タールくん!!」

 俺の言葉を否定し、マグアは満開の笑顔でお礼を言ってくる。その表情に陰りもないことが……俺の精神をくすぐってきた。

「……あっそ。」
「ふふん、じゃあ早速……あっ、タールくんも付けてみてよ! どんな感じか見てみたい!」
「はぁ……えっと。」

 すぐに身に付けるのもあれだったので、ポケットに入れたままだった紅い指輪を取り出し、その指にはめるか考える。別にどこでもいいのだが、邪魔にならない左の……

「……えいっ!」
「は、なっ、おい何勝手に付けてんだこのっ!!」
「隙を見せた君が悪い……ほら、こんな感じ!!」

 無理やりに嵌められたその輪っかを真似るように、マグアは自身の指輪も付けて俺に見せびらかせる。

「いやぁ……噂されちゃうねぇ?」
「っ……くそっ、外して……あぁ!? 取れねぇ!!」
「ああ、それは戦いの最中にも外れないよう特別仕様になってるらしいよ? 解除方法は……えへ、忘れた!!!」
「ふっざけんなぁテメェ!! どう責任とってくれんだぁ!!?」
「えっ、責任を取るのは普通タールくんじゃない?」
「はァァっつぁアァ!!!!?」




 クソが……クソ女がぁっ!!!




 
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:3,776

ドリーム・ファンタジアライド

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【R18】偽りの騎士〜鎧の下の身体〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:49

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:661pt お気に入り:481

【R18】第二王子と妃の夫婦事情

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:702pt お気に入り:1,931

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:23,440pt お気に入り:3,265

童貞食いのお兄さんが童貞(仮)を誘惑する話

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:236

女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,502pt お気に入り:491

処理中です...