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十六章 壊れる者達 『disappear』
二百三十四話 これからも
しおりを挟む「……いけっ!」
俺は無作為に氷を発生させ、舞台の壁や半端な高さまで伸ばしたりと、完全にフィールドの状況を別ものへと変えていく。また、その影響でどんどん会場の気温は下がっていき……ただの息でさえ、見えなくなるほどの白い息へとなっていた。
「……苦手だから、やめてほしいけど。それより飛ばしまっくて……大丈夫?」
「心配は無用です……最低限なので。」
その虚勢とは逆に、魔法の切り替えの数によって思ったより消費が激しい。かといって彼女相手に界晴を使うのは色々と面倒……今更な話だが。
(……もう少し、触れることができれば……)
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「くっ……!?」
「……それじゃ、何にもならないよ?」
向かってくる氷をドライミラーで跳ね返そうとしたが、威力の高さで強引に壊され、そのまま貫通してダメージを食らう。また、その間にライナはこちらに冷風を吹かせ……牢屋のように私を閉じ込めた。
「『雹牢』!」
「しまっ……『凍てる月晶』!!」
私はその閉鎖的な状況に焦り、反射的に冷気を再び解き放ってしまう。結果、雹の壁は消え去っていくが……
「……使っちゃったね。」
「……そういうこと…か……!」
おそらく、私に無理やり発動させて魔力切れを起こさせる……そんな作戦だろう。それにまんまと乗っかってしまった手前、解除するのももったいない……
「はぁ……!!」
「させないよっ!!」
魔力を溜める動作に入ったところ、ライナは以前まで使っていた剣を取り出し、剣身を伸ばして突いてくる。それを氷壁でいなしながら……魔法に神経を注ぐ。
(これで……決めてやる!!)
「埋もれて、『冷々たる雪晶』!!!」
「来たね……『絶氷の花』!」
雪風は先ほどのように吹き荒れるが、ライナの氷によって堰き止められ……宙へと舞い上がっていく。また、体温の低下により体力が激しく削られ、息を吸うのに必死になってしまう。
「はぁ…がっ、ふぅ……!!」
「……残念だったね。もう少し威力があれば…………」
「…………ふふっ。」
地面に膝をつけ、その場に崩れながらも……私は口角を釣り上げる。そして…………空を指した。
「……う…えっ!? まさか、始めから……!!?」
「その…とおり、これで……ライナを倒すっ!!!」
ライナは夜空に発生した、な雪と氷の大剣を見て驚愕する。それはアイシクル・グラディウスよりも強く、硬く……舞台の半分を占めるくらいに巨大だった。
「逃げ道はないから……『ホワイト・スノーブレード』」
「…………!!」
私は指を上から下へ指し示す。すると、雪風の超大剣は降り注ぎ……ライナを押し潰そうと迫っていく。それに対し、彼女は驚のまま龍器を掲げ、作り出した氷を全て融合させた。
「『冰永の花弁』……はぁぁあっ!!!!」
「っ……ぐっ………!!」
大きく、磨き上げられた氷塊は大剣とぶつかり……ブリザード・フィールドのような吹雪を展開させていく。
「つぶ……して……!!」
「壊す……私は、負けない……!!!」
お互い、必死に魔法を操作し…………やがて、徐々に決着の前兆が現れ始めた。
「…………ぐっ!? つ…つよ……がぁ!??」
最初は、ライナの魔法が強いと勘違いしたが……すぐに訪れた倦怠感により、即座に己の状態を理解した。
今まで経験したことの……いや、するはずもなかった、魔力切れという状態を。
「私の……勝ち、だぁっ!!!!」
「ぐぉ……あっ、あぁ……!!」
頭痛によって体の力が一気に抜け、その隙のままに大剣は粉々に砕かれ……雪を降らす。そして、膝で支えていた体は地面に打ち付けられ……情けなく、倒れ込む。
そんな私に、ライナはゆっくりと近づきながら……勝者の台詞を告げた。
「…………凄い魔法だったけど……ヘリオースには、勝てなかったね。」
「……ハァ………ハッ……」
「……武器に頼りすぎたかもしれないけど、勝つためだから……恨まないでね。」
何かを後悔してるのか、認められないのか……彼女は、ポツリポツリと溢す。
「…………私は、叶えたいの。もう……苦しんでほしくない、だから……彼に言うんだ。」
「………………」
「……卑怯だとは思う。でも……もし、私のことを少しでも…………」
言い訳なのか、何なのか…………ライナは、何がしたいのか。
「……どうして……ハートさん、なの?」
「……………。」
その問いかけに、ライナの足は止まる。
「仲が良くも……認識も、ない人に…頼るなんて、らしくない。」
「…………人は、変わるよ。」
「変わらない……ライナなら、ミルと…………少なくとも、他人と……歩まない…」
「……フィーリィアさんの思い違いだよ。」
「…………なら、何で……自分を責めてるの?」
……彼女の、冷えていく心が……手に取るように、分かる。その心は……泣いてるって。
「『約束』が、苦しいの……?」
「…………私は、果たすんだ。私の……想いを……」
「……約束は…………
…………そんな顔で、するものじゃないよ。」
『……私は今まで誰かとこうやって……遊んだり、街を歩いたり……したことなかった。ちょっとだけ……羨ましかった。』
『……フィーリィア…………』
『でも、今日はお願いが叶った。私はそれだけで十分だよ。』
「もっと、楽しくて、ワクワクして……心が踊るような、もの。」
「……それは、フィーリィアさんの勝手な想像……だからっ。」
「……だとしても…………私は楽しかった。」
「楽しくない約束だってある、人は……ウルくんは………!」
「…………私は、」
それでも。
「……私は、ウルスが好き。 ……ライナも、そうなんでしょ。」
「────。」
「ウルスは…私の氷を溶かしてくれた。暗くて、冷たい心の中から……引っ張り出してくれた。」
体が…………包み込まれるように冷えていく。
「私が悩んでいた時も……一緒に悩んでくれた。苦しい時、辛い時は側に…………居てくれた。私はそんなウルスが、好き。」
身体に、力が漲ってくる。
「ウルスは、私を信じてくれた。魔力暴走を持っている私を、くよくよして情けないこの私を。私はそんなウルスを信じて……もっと、知りたい。」
心が…………綻ぶくらい、温まる。
「怖がっても、恐れてもいい。私は私を受け入れて……これからも成長していくんだ。」
剣は、騎士のように構えられ……映る景色を黒に染める。
「だから……………私は、あなたの想いに勝つ。」
【ライム・クリスタリゼーション】
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