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十六章 壊れる者達 『disappear』
二百三十二話 ルーナ
しおりを挟む「『クロスアビリティ』」
『オーバージェット』
「「…………!!」」
それぞれの発動は同タイミングで起き…………俺とハートは辺りに衝撃波を撒き散らしながらぶつかった。
「ウルス!!」
「ラナは、任せたぞ…………がぁっ!!」
「……うん!!」
フィアにそれだけを言い残し、俺は壁へと叩きつけられる。そして、すぐさま振り下ろされた剣を寸前で回避し……彼女の上を飛ぶ。
「……その強さ、どうやって手に入れました?」
「…………その敬語も、気持ち悪く聞こえるね。」
俺の質問に答えるまでもなく、ハートは高速でこちらに接近し垂直斬りを仕掛けてくる。それをほぼ反射的に避けてから、反撃の蹴りを出したが……お得意の転移で回避された。
(……まだ、分からないか。)
「…………ふっ!!」
「……勘?」
しばらくして、更に上へと現れていたハートの拳をノールックで空かし、距離を取って様子を伺っていく。
(武術も普通に使ってくる……スタイルは俺と似てるな。)
この学院では魔法という存在があってか、基本的に武術的な攻撃手段を扱っている人が数少なく、知り合いで言えばローナとマグア、カリスト、そしてクルイが主な使用者だ。一応、俺の周りの人間なら緊急時に使うこともあるだろうが……それでも、こうやって武器として織り交ぜてくるのは珍しい部類だ。
「……攻めてこないの?」
「まずは様子見ですよ、せっかくの決勝……あなたもすぐに飽きたくないでしょ?」
「…………ひょっとして、時間稼ぎ?」
…………意外と鋭いな。
「……あの子が、ライナに勝てるかも分からないのに……そんな短絡的な作戦、通用するとでも?」
「何を言ってるのか分かりませんが、彼女なら勝てますよ。」
「どこにそんな自信が? ステータスも立ち振る舞いも、この場じゃ誰よりも弱い……」
「見ただけで何が分かるんですか? ……その積み重ねが、あなたを負けに導いているんですよ。」
俺のネチネチとした言い回しに、ハートは面倒と言わんばかりにため息を吐く。
「…………仮に勝ったとしても、意味はないよ。」
「意味があるかどうか……それを決めるのは、あの2人だ。」
……そう、俺はフィアに託した。その意味が無いわけがない。
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「……私、ウルくんと約束してたんだ。今回の大会、もし当たったら……勝った方の話を聞く。これがその試合になるね。」
「へぇ……それが、どうしたの?」
「…………興味ないの?」
私の返しが意外だったのか、ライナは不思議そうに真意を問いただしてくる。そんなネチネチした言い回しに……私は、すっぱり言ってやった。
「それは2人の約束……私には何の関係もない。人間、1つや2つくらい隠し事もあるし……聞いても答えないでしょ?」
「……まあ、そうだけど…………」
「…………どうでもいいから、こっちも早く始めようよ。」
突き放すような言い方はしっかりと効いていたようで、彼女の眉が少し震えていた……何を考えてるのか知らないけど、精神的な攻撃もしていかないと。
「『凍てる月晶』……最初から全力で行くよ。」
「……『エアボール』!!」
早々に冷気を噴出し、飛んでくる風の球を打ち消す。すると、噂に聞くとても強い魔法を放つ剣? をライナは鞘から抜き、例の炎を…………
「『ルーナ』……はぁぁっ!!」
「……違う? あれは、氷……!?」
……なぜ、ライナも冷気を……いや、そんなことより!
「咲いて、『絶氷の花』!!」
(っ…………あっちの方が、強い……!!?)
彼女の武器から現れたいくつかの大きな氷塊は、凄まじい迫力と勢いで発射され……対抗するために放った冷気の圧は、ほとんど意味をなすことなく弾かれてしまった。
「ぐはぁ……ふんっ!!」
「……凄い操作性、そっちは自由なんだね!」
ひとつだけそれを掠らせてしまい、防衛として自分を氷の壁の中に閉じ込めてしまう。だが、それも接近してきたライナの一振りで呆気なく破壊されてしまい、こちらも剣を抜かざるを得なかった。
「くっ、なん、で……火じゃ、ないのっ。」
「……闇雲に使うほど、私は馬鹿じゃないよ。」
「じゃあ……まさか、『使えない』…っとか?」
「…………」
……図星だ。
(何で使えないのかは知らないけど……それなら好都合!)
「……はぁっ!」
「なっ、ぐぅ!?」
一度体制を立て直すため、私は足元から体を押し出すように氷を生やし、ライナの頭上を通り過ぎながら斬撃を与える。そして、地面に着地することなくそのまま氷を足場に舞台を回っていく。
「……新しい動きだね、空を飛んでるみたい。」
「似たようなもの…… 『冷々たる雪晶』!!」
競い合いでは勝てないと判断した私は、準決勝で勝ちを呼び寄せた吹雪を彼女へ吹かせ、凍えさせる作戦を打つ。
「………スゥ……」
(……鞘に収めた? 今度は何をするつもり……)
なんて思考をしている頃には、既に冷気は到達しており……ライナの体に霜を付けようとした、その時。
空気が斬れた。
「『氷河・廻』」
(き、斬った……でも、いつ!?)
ライナはその場で一回転しまさかの、冷気を纏った剣でこちらの雪風を裂き、周囲から衝撃波の形をした氷が発生した。その速さはあまりにも異常で、本当に斬ったのかどうかも分からないくらい……鋭かった。
「……悪いけど、フィーリィアさんの新しい魔法も……私の龍器には通用しない。」
「…………」
「早々に倒して、私はウルくん、を…………?」
意気揚々と語り始めようとしたライナだったが……私の顔を見て言葉を途切れさせた。その表情はきっと…………
「今、戦ってるのは私だよ……ライナ。『ウルくん』とか……
…………ちよっとくらい、忘れようよっ?」
……醜いほど、笑顔だろう。
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