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十六章 期待 『pride』
二百三十一話 後悔
しおりを挟む「フィア、大丈夫か?」
「ウルス……うん、少し落ち着いた。」
控え室に向かうと、先に戻っていたフィアが椅子に座って息を整えていた。やはりと言うべきか、完全にコントロールできてはいても、体力的にまだ慣れていないところがあるのだろう。
隣に座り、俺は色々と質問をしていく。
「……さっきの勝負、暴走の心配はなかったか?」
「暴走……うん、それは大丈夫だけど…………」
「だけど?」
どこか歯切れの悪い彼女の言い方に、俺はオウム返しをする。すると…………フィアは、疑問と言わんばかりに呟いた。
「……一回魔法が切れて、最後にもう一回発動できたけど……あの時、私の魔力はほとんど無かったはず。なのに……発動できた。これも暴走の影響だったり……する?」
「……いや、違うはずだ。魔力暴走は文字通り、無意識に魔力を暴れさせるだけで、取得者の魔力を増加させるものじゃないんだ。仮に、魔力暴走が消えかかっている状態だったとしても……理由にはならない。」
…………確かに、言われてみればあの試合……それと、フィアが初めて暴走した村での話を聞く限り、彼女の魔力量を明らかに超えた出力が出てしまっている。もろちん、多少ならばその限界を超えて出すことは出来なくないが……それにしては、今のフィアは元気すぎる。
(……ステータスには現れない、また別の……いや、そんなことが…………)
「ねぇ、ウルス……1つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
思考を巡らせていると……不意に、フィアがこちらへずいっと近づき…………それを、尋ねてきた。
「前から思ってたけど……なんで、ウルスは魔力暴走に詳しいの? そんなに有名じゃ…ないよね?」
「……まあ、そうだな。まず滅多に……特に、先天的なものは俺も見たことがない。」
「…………後天的なのはある、ってこと?」
「…………ちょっとな。」
その話をしていいものなのか……少しだけ考えた結果、俺は首を軽く横に振った。
「……でも、もう終わった話だ。その時の経験と本から得た知識を頼りに俺は話してるだけで、まだまだ分からないこともある……ただ、絶対に治せるものだ、それだけは保証する。」
「そう……うん、信じるよ。何でか分からないけど、さっきから体も軽いし、魔力の重圧感もないしね。」
そう言ってフィアは見せつけるように体を捻り、調子がいいと伝えてくれる。そんな彼女の姿に安心しながら……次の、決勝について話を進めた。
「……決勝戦、おそらくカリストたちの時のように、俺がハートさんでフィアがラナ……完全な1対1に持って行こうとしてくるはずだ。」
「じゃあ……無理やり2人で戦うのは難しいかな。」
「ハートさんは俺と戦うことに執着してる。『生意気な歳下を今度こそ黙らせる』……そんなところだ。」
「私は眼中にない……ムカつく……」
「そ、そうだな……」
俺の推測に、フィアは頬を丸く膨らませ、怒りの炎をその目に宿らせる…………思ったより怖い顔するな。
「……つまり、今回はどちらかを倒すまでほぼ個人戦……ハートさん相手じゃサポートは難しい。それでもいけるか?」
「当然。ライナに勝てないようじゃ、ハートさんに立って勝てない……私たちの力で、2人を倒す!」
「あぁ……頼んだぞ。」
……ラナは1年の次席。以前までの実力なら正直、今のフィアに手も足も出なかっただろうが……龍器を使ってくればまた変わってくる。
そして、学院最強と謳われるフラン=ハート。決勝の力は出せていなかったものの、あのカリストすら上回るパワーとスピード、判断力を兼ね備えた……英雄の娘。
まず、試合を観に来る人たちは思うだろう…………『最強に勝てるわけがない』『絶対に負ける』『棄権した方が早い』と。
『頼む……生徒たちの『可能性』を広げるためにも、お前の力が必要なんだ。どうかやって見せてはくれないか。』
『……だが、もう儂に変えられるようなことじゃないんだ。だから……儂は…………』
娘を想い、恥も立場も捨てて…………彼はそう言っていた。深く、こびり付いた人の『脆弱さ』を変えるために。
『…………それじゃ、代わりにはなれない。私は……あの子の『オヤ』なんだ。』
『…………もう、お前にしかできないんだ。『助けてくれた恩人』でも、『仲の良い友人』でもない……『大切な人』じゃないと、あの子を闇から救ってあげられない。どうか…………頼む。』
子を愛し、藁に縋るように……彼女は願った。冷たく、閉ざしてしまった人間の『恐怖』を切り拓くために。
『…………呑まれるな。まだ、何も分かってないんだ。』
『過去が変わっても、今は変わらない……耐えるんだ。』
……。
「……フィア、手を出してくれ。」
「手? ……あっ。」
差し出された手に触れ、発動する。そして…………一緒に連れて立ち上がり、言った。
「……全て出し切れ、絶対に……勝つぞ。」
「…………うん、絶対に。」
フィアは髪留めをいじってから……俺の袖を引き、控え室の扉を開いた。
窓からは、肌寒い風が吹いていた。
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「……君は、飽きさせないでくれるの?」
「…………相変わらず、子供みたいなことを言いますね。」
「子どもだよ?」
夕焼けも通り過ぎ、すっかり暗い空となった中……くだらない問答をハートが仕掛けてくる。そして、あまりにも馬鹿らしい返答に、俺は無視して話を続ける。
「カリストは強かったでしょう? 結果はどうあれ、流石に焦ったのでは。」
「……他よりはマシってだけで、結局一緒だよ。君も、あの男の子も。」
「…………」
何も変わらない、変わろうとしない答えに…………俺は……
「…………ふははっ!!!」
「「…………え」」
「……ウルス?」
…………笑うしかなかった。
「……なに?」
「いやっ……本当に、何にも期待してないのだと、そう思うと面白く感じまして。」
「……そうだけど?」
「…………嘘吐くなよ、お前。」
……頭痛がしてくる。
「怖いんだろ、人に期待するのが。それで勝手に失望して……誰にもぶつけられないのが、お前は耐えられない。だから…………人を見下し始めた、そうだろ?」
「……年上に、言うこと?」
「だからなんだ? 何もしてない人間が尊敬されるわけがない。強くて年配だから誰にも怒られない……子供のまま大人になって、誰がお前を認めてくれるんだ?」
…………どうせ、最後だ。言えるだけ言わせてもらおう。
「でもな、負けるんだよお前は。今日、ここで……俺たちの前に、敗北する。 ……その覚悟はしてきたか?」
「……おかしいよ、君は。」
ハートは剣を抜き……初めて、俺を強く睨んだ。
「いつから、期待されるって……それに値しない人間じゃ羽音にしかないないって、いつになったら分かるの?」
「…………分かるまで、言い続けるんだよ。」
『でも、少しずつ……頑張ってみるよ。今はまだできなくても……少しずつ、ゆっくりでも理解してもらえるように。俺という人間を伝えていくよ。』
「……俺たちは、お前たちを倒す。倒して……すべてにピリオドを付ける。“ 約束 ”も、 ' 意地 ‘も……『成長』も全部、ここで。」
「…………勝手にしたら。」
『さて、いよいよ開始となります!! 左手には3年主席と1年次席のチームである、フラン=ハート・ライナです!!! 』
「…………約束……」
息は白く、気温の低さを示してくるが…………もはや、そんなものは微塵も感じてこなかった。
『対するは、1年の部準優勝者と上位十席、ウルス・フィーリィアチーム!! 果たしてどちらのチームが勝利を勝ち取るのか!!?』
「…………成長。」
つぎはぎな心を、何とかここに引き留め続けたが…………この最後の戦いで、それも終わりだ。
ルリアたちには『勝てる』と言ったが……結局、そんなことを保証してくれる人間もいない。
『………ミルは、通ってみたいか?』
「うん、いつまでもここに閉じこもってたらダメだと思うし…ウルスくんは嫌なの?』
『………嫌じゃないが……』
『じゃあ行こうよ!私、昔から街に行ってみたかったし、ウルスくんが居てくれたらきっと楽しくなると思うんだ!!』
勝つのか、負けるのか……誰にも分かりやしない。それでも、この学院に通って過ごした時間の意味は…………誰にだって理解できる。
だから────
『それでは、冬の部、タッグ戦決勝……始めぇっ!!!!!』
後悔だけは、しない。
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