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十六章 期待 『pride』
二百二十一話 盗む
しおりを挟む(み、見えなかった……? いや、そんなはずは……っ!?)
クルイの予備動作を見届けたと思ったら、次の瞬間には目の前から彼の姿は消え……代わりに、遠くでフィアの魔力防壁が破壊される音が聞こえた。
振り返ると…………そこには、こちらを見るだけの動作であちこちに稲妻が溢れ、その焼け跡がはっきりと確認できるほどの高圧電流を纏っているクルイが立っていた。
「……ライジングじゃない……?」
「……気づいたか。これは『ライジング・ブレイカー』……お前を倒すための魔法だ。」
「…………それはまた、局所的な魔法ですね。」
軽口を叩きながら、俺は剣をボックスに投げて対抗策を考える。初見でライトニング・ライジ……
「考え事はさせねぇぜ!!」
「……っ、ぐっ!?」
思考を妨害するかのように、クルイはまさに電気の速さの如くこちらに接近し、蹴りを食らわせてくる。それを何とか反射的に防御して受け止めるが……弾ける電流と超絶スピードの重みによって紙切れのように吹き飛んでしまう。
「空に……『オーバージェット』!」
「ちっ、逃げたか!」
しかし、ただで吹き飛ばされるのも効率的ではなかったので、一度考える時間を作るためにもオーバージェットで上手くベクトルと上空へと変えながら、俺は追撃を食らう前に曇り空へと向かった。
「『アイスショット』……!」
「へっ、牽制は無駄だぜ!」
流石に空はまだ飛べないのか、クルイがこちらの出方を伺っていたので、俺は氷の弾を数発放って様子を見たが……周囲に自然と流れ出ている電気によって壊されてしまう。
(……つまり、近くに立っているだけでも影響があるほどの状態変化魔法……速さだけで言えばカリストの全力に近い。)
名前・クルイ
種族・人族
年齢・17歳
能力ランク
体力・176
筋力…腕・188 体・191 足・342
魔力・120
魔法・15
付属…『ブレイクモード』(ライジング・ブレイカーを使用した時に付く。主に足のステータスを軸に大幅上昇し、魔力が活性化する。)
称号…【神速の脚】
「……思いついた、これで……はぁぁっ!!」
(っ、ここまで電気が……)
何か小声で呟いたクルイは、不意に体の電気を見境なく撒き散らし始める。すると、かなりの距離がある俺のところにまで電流がちらほら走ってくるが……だからといって当たることは…………!?
「なっ、昇った……!?」
「よう、落ちてもらう……ぜっ!!!」
「がっ……!!?」
まさかと言うべきか、クルイは空へと昇ってきた電流にまるで乗り移ったかのように、伝って俺の上を取った。そして、俺のコートを掴んでそのまま地面へとダイブし、叩きつけようとしてきた。
『ジェット』
「くっ…ウらぁっ!!」
「おっと!?」
俺は咄嗟にジェットへと切り替え、大地に打ち付けられる前にクルイの顔面で爆風を吹かせて力を抜かさせ、手中から離れて再び地面に近い所で距離を取る。
(見えていても、体が追いつかない……しかも、下手に足だけが速いせいか、直線的にも関わらず撓った動きで実態を捉えにくい。)
威力は見た目ほどじゃないが、既に半分はやられてしまっている……鎧う碧炎を纏えばいけるかもしれないが、こちらからの攻撃は確実に当たらないだろう。
「これでも食らいついてくるか……流石だな、ウルス!」
「……惜しいですね。もう少し力があれば……もう、俺はやられていた。非力で助かりましたよ……」
「…………随分な物言いだな、全力も出さずに……いくら舐められても構わないが、それで負けたら小っ恥ずかしくなるだけだぞ?」
クルイは挑発と共に、先ほどと同じように拳を深く構える。しかし、今回はその手に電気がどんどんと溜まっていき、風船のように膨らんだ雷の塊は……勢いよくこちらへと発射された。
「『ブローニング・ブレイカー』!! …………っ!」
「くっ……はっ、やっぱりな!」
軌道は分かっていたため、発射と同時に何とか飛んでくるそれを避けた俺は、その塊に付いてくるように背後に隠れていたクルイにいち早く気づく。さっきの応用だろうが……流石に読めていた俺は、奴その位置に来るであろうタイミングで足を蹴り上げていた。
その結果、クルイは見事そこにハマり……軽くダメージを受けて体を浮かした。
「がっ……でも、おあいこだろう!?」
「……そのようですね。」
やられたはずのクルイが見せる優勢な表情に、俺は同意する。やはり、あの纏った状態で物理攻撃をすればダメージを受けてしまうのか……厄介にも程がある。
(かといって、素直に魔法は当てさせてくれない。強力な範囲魔法を撃つ暇もないし、これは…………)
「どうだ?さすがのウルスも、これには一本取られたんじゃないか?」
「……半本くらいなら、あげてもいいですよ。電気を活発にして、更に稲妻のような動きを再現する……俺には出にくい発想でしたよ。ですが…………」
……できる限り、取っておきたい芸だったが……ここまで圧倒的な力を見せられたら仕方ない。
「……クルイさん、魔法はどうすれば完璧に扱えるようになると思いますか。」
「え? なんだ、急に。そりゃ誰かに教えてもらったり、魔道書を読んで学べば……」
「違いますよ。」
体の魔力の感覚をしっかり掴み、馴染ませるように……あるいはより濃い色を見せつけるように、俺は解放した。
『ライトニング・ライジング』
「……人から、盗むことです。」
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