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十六章 期待 『pride』
二百二十話 良かったな
しおりを挟む「ふぅ……やっと決着をつけられる日が来たな、ウルス。」
「……残念ですが、あなたの望む結末は天地がひっくり返っても起きませんよ。」
「おぉ、挑発的だな。お前ってそんな奴だったか?」
「…………意外と、こんな感じ。」
4回戦、ここに来てついにクルイとの本格的な試合をする日がやってきた。ただ、今回はタッグ戦であり、正確な力の差を測ることはできないが……今更、そんなガキみたいなことは言いっこなしだ。
「調査隊から、俺たちは更に強くなった……今ならハートさんにだって負けないぞ?」
「その前に、私たちに負ける……ウルス、作戦は?」
「ああ、そうだな……30秒稼げるか? その間に、俺が1人持っていく。」
「……そういうこと。分かった、できる限り耐える。」
少ない言葉で全てを把握してくれたようで、俺はブラフのために両手を突き出し、いかにも遠距離からの魔法で攻めると言わんばかりの姿勢を見せる。そして…………
『……それでは、4回戦第3試合…………始めっ!!』
『オーバージェット』
「……!!? ワール!?」
「がぁっ……何の真似、だ!?」
試合開始の合図が聞こえた瞬間、俺は構えた手を背後に流し突進、メイルドだけを突き飛ばして大きくクルイとの距離を取らせた。
メイルドはすぐさま俺を振り払い、こちらの意図を伺ってくる。
「私とクルイの連携を潰そうってか? だが、それなら私を狙えばすぐにあいつがやられるぞ?」
「彼女はそんな柔じゃありません、それに……あなたには早々に退場してもらうので、心配は無用ですよ!」
オーバージェットを解除し、剣を構えて攻め上がる。それに対し、メイルドは短剣を取り出すことはなく、代わりに片手を筒状の形にし……口元に近づけて魔法を発動した。
「灼け、『ドラゴンブレス・シャイン』!」
(ソーラとローナの魔法……見て盗んだのだろう。)
対ニイダたちの試合は見ていたため、驚くことはないが……こちらの方は本家より速さやキレも上がっている。避ける時間ももったいない、消す方が早いな。
「『第一形態・微風』……『レベル1・ウィンド』!」
「緑の光……見たことがある魔法だが、何をする気だ?」
C・ブレードと自身の体に、それぞれ風の魔力の光を漏れさせる。そして、俺は『あの魔法』を再現するために、体の光を剣に擦り合わせ……武器側の光を激しく活性化させた。
「っ!?」
「ただ真似ただけの魔法では、俺たちには勝てません……また、次の機会で。」
『風鐘の一点』
「なっ、ぐあぁぁっ!!!?」
突き出した剣の先からレーザーのように荒れ狂う風が飛んでいき、龍を貫きそのままメイルドへと直撃する。また、威力は超越級に匹敵するといっても過言ではない一撃はあっという間に彼女の魔力防壁を破壊し、予定通り30秒程度で戦いを終わらせられた。
「……今行くぞ、フィア。」
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「……思ったよりやるな。フィーリィアだったか? お前もウルスのことは知ってるんだよな?」
「……そう、ですね。あなたは……調査隊でウルスと。」
既に半分くらい魔力防壁が削られてしまった中、不意にクルイさんが話を張ってくる。それに警戒は緩ませず、時間稼ぎとしてゆっくり私は付き合う。
「そうだ……といっても、何も知らないんだったな。」
「何も? ……何か、調査隊であったんですか。」
「…………まあ、な。」
……確か、ウルスの方にも神が現れて……ギリギリのところで逃してしまったと聞いているが。クルイさんの口ぶりを見ると、それだけではないという意味に聞こえる。
「……ウルスは何も言ってませんでしたけど。」
「…………付き合いが浅いから、はっきりしたことは言いたくないが……あいつ…ウルスは、自分のことより他人を優先する奴だろ? 違うか?」
「…………なんで、そんなことを……」
「俺も似たような思考をしてるからな。まあ、俺は打算的だし? あいつみたいに利益を求めないような真似はできないが、何となく雰囲気で分かるんだよ。」
…………何が言いたいのか、さっぱり分からない。
「……それは「『オーバージェット』!」……!」
「うぉっ!? ……来たか、ウルス!!」
質問をしようとしたところ、彼が遠くからクルイさんを襲いかかるが、反射的に避けられウルスは地面を滑りながら私の元に来てくれた。
「大丈夫だったか、フィア。」
「う、うん……ダメージは受けちゃったけど。」
「そうか、2年の首席にここまで耐えられてたら十分凄い……ここからは、2人で行くぞ。」
ウルスの頼もしい声と背中に、私の胸は柄にもなく高鳴ってしまう。しかし、先ほどのクルイさんの言葉によって、同時にその姿はどこか悲しげなものにも見えてしまう。
『……アンタの常識を、覆してやる。』
(……自分のことで、ずっと周りが見えてなかったけど……あの時のウルスは、少し変だった。)
余裕がない……といった感じで、普段の大人な様子とは違い、回りくどさと直球さが入り混じった高圧的な言い方だった。
今回の大会でもそうだ。カーズたちやクルイさんたちとの挨拶もどこか棘があり、正直らしくないと言うべきか……とにかく、普段とは違う気がする。
「……ウルス…………」
「……なんだ?」
「あっ……いや、また後でいい。」
「そうか、集中してくれよ……一旦離れて後衛に徹してくれ。」
「うん……」
……ここであれこれ言っても仕方ない。私はクルイさんの速さには対応できないし、後ろで頑張らなければ。
「へぇ、前回俺と渡り合えたからって、悠長な体制だな。もっとがっつかないのか?」
「がっついた結果が2対1ですよ。精々、自分が狙われなくて良かったんじゃないですか?」
「……ふはははっ!! お前は本当に強い人間だな、普通の奴らならその挑発も安く聞こえるが……世界最強の言葉は、重みが違う。」
クルイさんの表情は少し危うさを感じさせるほどの笑みで、体に走らせている電気をビリビリと地面へ流し始める。
「……俺は、年上だ。下級生のお前たちより賢く……強くないといけない。」
「年とか、関係ないですよ。」
「いや、あるね……それを今から教えてやる。」
(……拳を構えた、さっきみたいに電気を飛ばすのか?)
……だが、この距離ならなんとか避けられるはず。けど、万が一を考えてドライミラーの準備をして
「…………がっ……!???」
「……なっ、フィア!??」
…………えっ……なんで、やられ……
「……良かったな、自分が狙われなくて……ってか!?」
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