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十五章 勝ち取るもの 『certify』
二百十話 勝てない
しおりを挟む「……あのウルスが、一撃で…………」
もはや視認することすら敵わない異次元な戦い、そして今まで見たことのない状況に私は声を漏らす。
(あれが、カリストの真の力……私や3年生の実力を優に超えている。下手をすればフラン=ハートすらも……)
「……ウルスが負けてるのか? あのカリストって奴は何者なんだ……?」
「どうやら、ウルスの『力』を知ってる1人らしいけど……1年はどいつもこいつも只者じゃなさそうだな。」
「…………クルイと、メイルド? お前たち、決勝の準備はいいのか?」
背後から聞こえた声へ顔を向けると、そこには何故か決勝前の2人の姿があった。
2人は私の顔を見た途端、『おおっ』といった様子で隣に並び、話しかけてくる。
「ルリア=ミカヅキか、奇遇だな。決勝はこの後だからな、それにこいつらの試合は観ておいて損はないだろ? どうせ俺が勝つし。」
「ミカヅキ、準決勝はどうも……っていうか、お前も確かウルスのことを知ってるんだよな? なら腹割って観戦できるな! ……あと勝つのは私だ!!」
(仲良いな……)
「あ、ああ……そういう2人もそうなのか?」
「調査隊でな…………まあ、色々と。それよりどうだ、決勝は。」
言葉を濁すクルイにあえて何も聞くことはなく、私は再び舞台に目を向けて壁に埋まっているウルスの表情を観察する。すると、流石にこれは予想外だったのか、焦りと不安な色が目にほんの少し浮かび上がっている様に見られた。
「……負けそうだな、ウルス。こっから挽回できると思うか?」
「いや……まず俺なら思いつかない。あの一撃しか見てないから語りにくいが、正直ハートさんよりも速かった……いくらウルスが強いとは言え、あのステータスじゃまず体が追いつかないはず。」
彼らの目測通り、いくらウルスがあの動きに反応できる目があったとしても、それに対応できるほどのステータスを持ち合わせていない。今すぐにでも本来のステータスに戻せばここからでも難なく勝てるだろうが……それじゃ、ウルスにとって何の意味も無いだろう。
『学院での勝負はどれも刺激的で、こんな俺でも何かを感じ取れるくらいに充実しています。そして、もしこの学院の一番になることができたら……俺は、ここからさらに成長できる。』
『…………いい目標じゃないか。だがその道の歩き方はかなり険しいぞ? せめて少しくらいはステータスを解放した方が………』
『いえ、今のままでいいんです。険しいくらいが丁度いいですから。』
『……ふふっ、お前も物好きだな。』
(……だが、このままじゃ負けるぞ……!)
それとも、まだ奥の手があるのか? これまでに飽きるほどにちゃぶ台返しを見せてもらったが、このカリストですらひっくり返せるのか……?
「ミカヅキ、お前はどっちが勝つと思う?」
「……………私は……」
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「はぁ、はぁ……うらぁっ!」
「当たりどころが悪かった様だな……だかもう崩壊寸前だ。ここからお前に何ができるのか見物だなぁ?」
完全に埋まってしまった体を鎧の噴射で剥がし、息を整えながらカリストを睨みつける。
名前・タール=カリスト
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・344
筋力…腕・362 体・350 足・387
魔力・249
魔法・16
付属…【超越・力】
称号…【力の才】
【魔法の才】
【解放される力】
(……鎖を力で壊し、炎神・一式を大剣で破壊……おまけの蹴り飛ばし。それをあの一瞬でやられてしまっては……手の出しようがないな。)
……おそらく、これが今のカリストの最大出力だろう。ステータスだけで言えば英雄と戦う権利を得られる……羨ましい限りだ。
「……っ……体力も、ガタが来てる……」
疲労感から、頭に少し痛みが走り始める。ずっと極限まで集中力を高めていたせいか…………
「…………どうした、かかってこいよ! お前はまだまだこんなもんじゃない、『最強』とは名ばかりか!!?」
「………………」
「おいおい、熟考か? 俺だってあまり体力は残ってねぇんだ……チンタラしてたら終わらせちまうぞ!!」
「…………。」
「お前との戦いは……他の奴らとは比べ物に何ねぇ、階段を何段も飛ばした、格別の勝負だ。もっとやらせろよ……なぁおい、ウルスっ!!!」
『…………ああ、覚悟は……できてるよ。』
……これが、カリストの本気。もう…………
「…………勝てないな、これは。」
「…………………………ハぁ?」
ポツリと、俺が溢した本音は己の身を消火させたが…………代わりに、あちらの火を焚きつけてしまった。
「……いま、なんつった。」
「…………諦めるつもりはない。だが……もうお前には勝てないと悟った。」
「…………テメェ……それは虫が良すぎるだろうが……!!」
「……だろうな。でも実際、これ以上俺にできることはない。」
「な…なら、抑えてる力を解放しやがれ……所詮、仮初だろうが!? そうすればまだ……!」
「ダメだ、そんなことをしたら何の意味も……」
「意味がなんだ!? 下らない自尊心にそこまでの価値はねぇだろう!?? 勝手に合わせて、勝手に負けを認めて……馬鹿にするのも大概にしろやっ!!!」
激昂し、戦いも忘れて俺の胸ぐらを掴むカリストだったが……俺には俺のプライドがある。言いたいことも分かる………しかし、それを破れば俺がここにいる意味を失ってしまう。
「……さぁ、続きを」
「何納得してやがる? 上げろや、ステータス……それだけでまだ俺に喰らいつけるんだろ。 それとも、お仲間の意思を尊重できないのかぁ?」
「…………そっちこそ、勝ちたいからここにいるんだろ? 今が絶好のチャンス……それを逃すほど、平和ボケしたのか?」
「あぁ? 棚に上げろとは言ってねぇだろクズ。俺は本気でやって、お前はまだ何も出し尽くしてない……こっちに非を押し付けるな。」
「……………お前が望んだ戦いはもう十分やった。これ以上何かを願うのは……烏滸がましいんだよ。」
「ふははっ、血が昇ったか? そうだ、怒れよ! そして俺と戦って、お前の本当の力を見せてくれよ!! それでこそ、この舞台の『意味』が完成する……なぁ、もっと頑張ってくれよ!」
『………ウルス、頑張れよ。』
「…………気安いんだよ、お前。」
……熱くなるな…………同じ意味な訳がないだろうが。
「お前の自己満足に、何故俺がそこまで付き合わないといけないんだ? お前は俺に、何か良いことでもしてくれた覚えがあるのか?」
「……何言ってんだ、お前。一番自己満足してるのはそっちだろ。」
「…………お前に、わかるのか? 何も守れない、助けられない……それを満たすための偽善がどれほど虚しいか、知ってんのか。」
「何の話だよっ、話を逸らすな。訳わかんねぇ事言って……」
「だろうな…………お前はまだ、誰も守ろうとしたことがない。それを失った時、その辛さが……想像できんのか。」
「………………知るか。」
…………俺は、おかしくなってしまったのだろうか……いや、元からだ。
「…………身の上話なんて知ったこっちゃねぇ……もういい、興が冷めた。仕切り直しだ。」
「…………ああ。」
俺の被害妄想に愛想を尽かしたのか、カリストは冷たい表情で俺から手を離し、スタスタと距離をとっていく。その背中は何の警戒心もないガラ空きだったが…………俺は、手を出そうともしなかった。
「…………見損なった。お前がこんな……面白くない奴だったとは。馬鹿なのは俺だったな。」
「……………すまなかった。」
「気持ち悪ぃ……これ以上、失望させんな。」
もう何も聞かなくないのか、カリストはただ目を蒼く光らせ雑念を払うように大剣を深く構える。そんな戦闘体勢を見ても…………俺の体はとても、戦おうとする意思が宿らなかった。
(……こんなに…………俺は弱かったのか? 違う……俺は…………)
諦めるのは早い……そんなことは分かっているのに、この眼はボヤけるばかり。俺が目指したのは、こんな儚く辿々しいものだったのか…………?
「…………さぁ、こいよ。」
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