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十五章 息吹く気持ち 『face』(冬の大会編)
二百四話 『覚悟』を
しおりを挟む「ウルス、今回は負けないよ!」
「……結果は同じだ。」
息巻くマグアを、俺は挑発する。
(……準決勝、マグアが勝ち上がってきたのは意外だな。)
正直なところ、フィーリィアに勝つとは思わなかったが……転入生にも関わらず、よくここまで来たものだ。
『…………僕は、空っぽだったから。』
「…………お前は、何でこの時期に学院へ転入してきたんだ?」
「ん? 唐突だねぇ、そんなに僕のことが気になるの? ウルスも好きだねぇ??」
「……そうやって誤魔化すのは勝手だが、薄っぺらい人間に人は魅力を見出さない。ましてや、『空っぽ』な奴に誰が信頼を寄せるんだろうな。」
「…………ウルスも、意外とそういうこと言うんだね。」
「人の所為にするなよ、言わせてるのはお前だ。」
……これまで、こいつの真意は一度たりとも見えてこなかった。故意に隠しているのは丸分かりだったが……例えそこを突かれても、決して全てを話そうとはしない。
「……ウルスも、色々背負ってるんだよね。どれだけ強くなっても、悩み事は消えないなんて……理不尽な世の中だね。」
「…………そうだな。」
「君に比べたら、僕のことは取るに足らない拗らせた『話』。聞くだけ無駄だから、ウルスは目の前のことに集中した方が得だよ。」
「……俺には、話したくないってことか。別に、それで構わないが……一番親しい人間くらいには、話しておいても損はしないぞ。」
「…………考えておく。」
そう言ってマグアはこれ以上話す気は無いと言わんばかりに剣を深く構え、俺を観察し始める……そんな顔もできるんだな。
(前回、手を抜いていたわけじゃ無いだろうが……今回は最初から全力で来るに違いない。)
『準決勝、ウルス対マグアの試合を開始する。用意……始めっ!!』
「……霧は出さないの?」
「同じ手はつまらないだろう? 趣向は凝らせてもらう。」
C・ブレードを握り、ほどほどのスピードで接近していく。対するマグアは特に逃げる様子もなく、間合いに入ったところで斬りかかってきた。
「『融』」
「おっと、趣向を凝らすんじゃなかった…のっ!」
さすがに警戒はしていたようで、マグアは俺の剣に触れた瞬間に鍔迫り合いを避けるように攻撃を仕掛け続けてくる。
「どうしたの、さっきの威勢は!?」
「……そっちこそ、動揺してるな。『空っぽ』じゃなかったのか?」
「……自分で言っておいて何だけど、ムカつくねっ!!!」
焦っているのか、マグアは愚直に剣を振るい続ける。当然俺はそれを誘うために煽っていたため、特にアクションを見せずに壁際まで追い詰められてやった。
「もう逃げ場はないよ!」
「知ってる。」
『ジェット』
「……っ!?」
無詠唱でジェットを発動させ、振り下ろされた剣の腹を食らう前につっぱりで弾き飛ばす。すると彼女の体勢が大きく崩れたので、軽く横腹を蹴り押して距離を取らせた。
「ぐぁっ……分かんないね、その動き!」
「なら、もっと分からなくしてやる……『ジャングルフォレスト』」
「…………? 何も起こらな……うわぁっ!?」
詠唱して数秒後、舞台の地形が無規則にデコボコへと変化していく。そんな地面の変化をジェットで俯瞰しながら、マグアへ説明をしていく。
「封迷流の魔法だ。地形を大きく変化させて、勝負の環境を変える……凝ってるだろ?」
「……ふふっ、ちょうど飽き飽きしてたところだったしね。で、何するの?」
「すぐに分かる……っ!!」
俺はジェットで急降下し、盛り上がった地面の影に隠れながら蛇足にマグアへと接近していく。ただの平坦な地形ならともかく、こうやって崩れた舞台ではこちらの動きを把握するのは困難……また、ジェットの擬似的無重力移動も相まって、マグアに軌道のタイミングを掴むことはほとんど不可能だ。
「むっ、変な動き……うっ!?」
「足元はちゃんと確認するんだな……はぁっ!」
「ぐっ!!」
俺の行動に気圧されたのか、マグアはほんの少しだけ後退りをした。その結果、その着地地点が小さな溝になっていたようで躓き、それを見た俺はすぐさま近づいて蹴り飛ばす。
「光れ、『ライト』!!」
(っ、目眩しか……)
しかし、マグアはこちらの接近を逆手に取り、至近距離での発光によって俺の視界を潰す。また、その隙に何処かへと移動する彼女の足音が聞こえ、目を開けた頃にはすっかりその姿は消えてしまっていた。
(魔力の反応が薄く、気配も消している……意外と繊細な魔力操作ができるようだ。まあ神眼を使えば丸分かりだろうが……それはフェアじゃないだろう。)
一応こちらも魔力の気配を薄めて、デコボコのフィールドをどうするか考える。範囲魔法で一掃すれば一番手っ取り早いが、魔力消費を考慮すればあまり得策ではない。ならば、もう一度ジャングルフォレストを発動して地形を変えるか………
(…………いや、『アレ』でいこう。)
おそらく、今の状況でマグアが俺の位置を把握する材料は、『気配』と『音』しかない。そして、まずマグアの技量では俺の気配を正確に悟ることはできないと自身で理解しているはず……そうなれば、後者だ。
『ステップトーン』
「……………!」
俺は魔法を無詠唱で発動し、足音を操作する。できる限り自然な形であちこちを歩かせ……やがて、大きな山が出来ているところまで来た瞬間、彼女は現れた。
「ここだ…よ……あれ??」
「まぬけだな。」
「えっ、どこぐぁっ!!?」
見事、足音に引っかかったマグアは勢いよく飛び出し、何もない場所を思いっきり剣で斬り裂いた。そして、その背後に迫っていた俺が代わりに背中を大きくぶった斬ってやった。
「なんで、後ろに……!? じゃあこの音は…魔法!?」
「隠れたまではいいが……隠されるとは思ってなかったようだなっ!」
「ぐぉっ……!」
振り返りざまに横降りされた剣をジャンプで避けてからジェットですぐ着地し、彼女の腹を頭突きで吹き飛ばす。
「スターダス」
「そんな時間はないぞ!」
「っ、煙……!」
焦燥に駆られたマグアが無理やり自分の魔法を使おうとしたが、当然発動させる暇なんて与えさせず距離を詰める。また、円の軌道を描くように背後は回り込み、攻撃を…………
「見えなくても……分かってる!!」
「解った気になるなよ。」
「…………え」
…………攻撃をせずに、マグアの肘打ちを避けてから両腕を後ろへ流し、放った。
「回せ、『オーバージェット』!!」
「かっ、げほぉっ……!!?」
オーバージェットの推進力を回転へと変換し、超スピードでの後ろ回し蹴りを食らわせ……魔力防壁を破壊した。
『試合終了! 決勝進出者はウルス!!』
「…………負けた……何もできずに……」
(……他の奴らも同じ感想だっただろうな。)
今回の大会、ここまで苦戦と呼べるよう戦いはほとんどなかった。強いて言えば、ローナとの試合は味のあるものだったが、それでも俺が全力を尽くせるほどでは無かった。
(……後は、『アイツ』だろうな。)
悪いが、彼女がアイツに勝てる可能性は……無いだろう。
「…………『覚悟』を、決める時だな。」
「……僕は…………」
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