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十五章 息吹く気持ち 『face』(冬の大会編)

二百三話 ご忠告

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「いやぁ、カリストさんも丸くなったっすね~」
「……あぁ? 丸く? 俺が?」

 準々決勝、出会い頭にニイダが相変わらずのふざけた様子で訳の分からないことを言ってきた。

「そうそう。最初の頃はあんなに尖ってたのに、今ではマグアさんと微笑ましい生活を送ってるじゃないっすか。羨ましいっすよほんと。」
「はぁ? 頭沸いてんのか、俺とマグアのどこが微笑ましいってんだ。」
「えぇ? だって、さっきもマグアさんの試合を観てたじゃないっすか……それも中々の釘付けで。」
(……居たのかよ。)

 …………別に、あいつの試合だから観ていたわけじゃない。大体、純粋に当たりそうな奴らの勝負は逐一ちくいち確認していただけで……と言っても茶化されるだけだろうが。

「……どいつもこいつも、勝負にくだらん理由を付けやがって…………お前だってそうだニイダ。てめぇ、試合に集中し切れてねぇだろ。」
「…………なんでそう思ったんすか?」
「顔見れば分かるんだよ。キールと戦ってた時のお前の顔も、一部の奴らも……上の空で戦ってやがる。そういう態度が……ムカつくんだよ!」
「……それは、悪かったすね。でも、安心してください。」

 俺の苛立ちに、ニイダは特に悪びる様子もなく……淡々とこちらを諭そうとする。また、ちょうど試合の開始の合図が響き…………


『準決勝第4試合、ニイダとタール=カリストの勝負を開始する……始めっ!!!』



「手を抜く気も……笑うつもりもないっすよ!!」
「ちっ……気持ち悪りぃ!!」

 始まりと一緒に、ニイダは生成したクナイを投げ飛ばしてくる。それを大剣で弾きながら奴の出方をうかがっていく。

(接近……だが、こいつのステータスではまともに俺とやり合えない。必ずからを使ってくるはず。)

 逆算しろ、こいつが取るであろう行動を。そうすれば………


「……だろ。」
『超越・力』
「苦無…………!?」

 力を増幅させ、ニイダの手が光った瞬間に地面を削り……衝撃波を飛ばす。すると、どうやら詠唱するつもりだったようで、奴はすぐさま口を閉じて回避に専念していた。

「長い魔法の名前だと不便だなぁっ!!?」
「なら、無詠唱っすよ……威力は落ちるっすけど!!」

 ニイダはそう言って今度こそ手を振り下ろし、空からクナイの雨を降らせる……まあ、暇つぶしにもならんが。

「おらぁっ!! ……で、次は何だっ!?」
「さすが、馬鹿力!!」
「うるせぇ!」

 大剣の一振りで雨を崩し、ニイダの短剣攻撃を弾き飛ばす。だが、それは予想通りだったようで、奴は構わず無駄な攻撃を繰り返してくる。

(……動きが細かい、俺の行動を警戒してるな。)
「『ブレイクボンバー』!」
「おっと!」

 攻防の中、予備動作無しで放った爆破放線はニイダの魔力防壁を掠るだけに留まり、俺はその反動で軽く距離を取った。

「……ここまで、話にならない試合ばっかりだったからな…………ニイダ、お前ならもっとやれるだろ?」
「くくっ、期待してくれてどうも……『空乎舞焔鳥』!」

 ニイダの手から出た炎の鳥はその翼を燃やしながら、俺目掛けて一目散に向かってくる。一見威力は小さそうなものの、魔力の反応からして中々の密度だったため、大剣で叩き斬ろうとしたが……鳥は瞬時に軌道を変え、こちらの背後へと回り込んだ。

(精度も機動力も高い……俺の機敏性じゃゴリ押しはできないな。)

 解放を使えばそれまでだろうが……正直、こいつ相手に使っているようじゃには勝てない。

「……めんどくせぇ、なっ!!」
「……ん、何を……?」

 鳥と適度に距離をとりながら、俺は剣をボックスへしまって手ぶらになる。そして、の距離まで移動し……俺は火の鳥に思いっきり拳をぶつけた。

「ぶっ壊してやらぁっ!!!」
「酔狂な……でも、付き合うっすよ!!」

 俺の無茶な対抗策に、ニイダはで精一杯りきんでいた。すると当然、この魔法の勢いはどんどん愚直に増していき、魔力防壁を削っていく。

(馬鹿にできないダメージ……だが、これでいい。奴の意識を完全に魔法へ向かさせてから…………)


 やがて、魔力防壁が半分まで削れた頃…………俺は拳を今一度握りしめ、

「ほらよ。」
「…………えっ、うわぁっ!?」

 鳥から拳を離し、体を逸らす。その結果、魔法はその勢いのまま真っ直ぐ進んでいき……背後にいたニイダへと突撃していった。
 まさか、俺がそんなことをするとは思っていたなかったニイダは素っ頓狂な声を上げ、急いで魔法を解除する。


「ふぅ、あぶな「かったなぁ?」…ぐはぁっ!!?」

 ギリギリのところで自滅を回避したニイダだったが、その余韻に浸らせる暇もなく俺は急接近して殴り飛ばす。

「は、速い……『メタルコメット』!!」
「効くかよ、『マグナムボム』!」

 お互い最上級魔法である鉄屑と爆発弾を飛ばし、相殺させる。そして、その煙に紛れながら壁まで吹っ飛んだニイダの目の前へ移動し……足を振り上げた。



「今のお前じゃ、これが限界だ。」
「…………ご忠告、どうも。」
「……生意気な。」



 そう言った奴の表情は、縫い付けられた仮面のようだった。










『…………試合終了、勝者はタール=カリスト!』




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