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十五章 息吹く気持ち 『face』(冬の大会編)

二百話 ベリル

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「……俺は、お前たちよりあいつとの付き合いは短い。だから、あの日のことがどれほどの事なのかは計り知れないが……少なくとも、ウルスにとっては『悪夢』でしか無かっただろうな。」
「……悪夢……?」
「ああ……の俺ですら、まだあの時のことを疑ってる…………ウルス本人が一番疑いたいだろうが。」


 1回戦が終わった後、約束通り私はガッラに話を聞いていたが……彼自身も話せないようなことなのか、肝心の出来事については絶対に話そうとはしなかった。

「ウルスは……とてつもなく、理不尽で非情な現実に直面している。解決することのない…………問題だ。」
「……………」
「……俺には、何もできない。そして、それはおそらくお前も同じ……だから、あまりウルスを刺激してやるな。」
「……本当に、何も話せないの?」
「…………今、俺がここで言えば……ウルスからの信用を失う。お前も一緒だろう…………それでもいいのか。」
「…………ダメだね。」

 ……分からない。あまりウルスとの関係性が薄いガッラですら、そう言うのであれば……ライナやニイダは、どんな気持ちなのだろう。

(こうなったら本人に……でも、聞いたところで答えてくれるのだろうか……?)

 本当に何があったのか……きっと、誰かが教えてくれるようなことじゃないし、聞いても絶対に答えないだろう。また……私1人で考えたところで、答えは出てこないはず。


「…………俺は、ウルスの気持ちも分かるし、お前の気持ちも理解できる……だから話した。もしお前の感情がウルスに全て伝われば…………口を開いてくれるかもな。」
(……感情…………)
「……じゃあ、俺は行く。他の奴らの試合も観たいしな。」
「ちょ、ちょっと待って……最後に1つだけ。」
「なんだ?」

 全部話し終えたと言わんばかりに立ち去ろうとしたガッラに、私は最後に感じたを問いただした。




「…………ガッラはもしかして、わざと





「………………さぁ、俺には分かりねるよ。」





 声色からは、何も判断できなかった。















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「……何だかんだ、ウルスとこうやって真剣勝負するのは……以来だね。」
「…………かもな。」

 準々決勝、俺とローナは向き合ってそんな会話をする。その雰囲気はどこかピリつきながらも、まさに真剣勝負といったおもむきとなっていた。

「試験も含めたら、今のところ1勝1敗だね……まあ、を勝ちって言っていいのか分からないけど。」
「……勝負の形は様々だ、それで勝ちをもぎ取ったんだから何も間違ってない……本気の俺に攻撃を当てられるなら尚更だ。」
「ふっ、自信過剰だね……あの時は油断しただけじゃないの?」

 ローナにそう煽られるが……あの時の俺は油断なんかしていなかった。



『……………まだだぁぁっ!!!!!』

『…………なっ………なにが、起こった……!???』



 実際、俺はローナが繰り出すであろう攻撃に合わせた行動をしようとしていたが……それはあくまで手を抜いたわけではなかった。なのにも関わらず、彼女の攻撃は俺が反応する暇もなく直撃してしまっていた。

(あれ以降、ローナに異様な攻撃は見られなかったが……条件がわからない以上、いずれまた起こる可能性だってある。今の状態で受ければ抵抗のしようがないだろうな。)

 現状、その攻撃をされたら負けだ。偶然だとしても……それが起こる前に倒さなければ。

『それでは、1年の部準々決勝第1試合……ウルス対ローナの試合を開始する。用意…………始めっ!!』


「『アサルトミスト』」
「き、霧……? でも、『ジェット』!」

 スタートした直後に俺は霧を蔓延させ、対してローナはそれを回避する為に空へと逃げる。


「どうしたの、そっちも飛ばないと勝負にならないよ?」

 深い霧の中、上空からこちらを挑発するような声が響く。それを聞いた俺は同じようにジェットで飛び上がった。

『ジェット』
「……というか、空が飛べたら霧の意味がないと思うんだけど……何か作戦でもあるの?」
「仮にあったとして、教える馬鹿はいない……はぁっ!」

 軽口を叩きながら、俺は飛び蹴りを仕掛ける。それをギリギリのところで避けられた後、今度はあちらから反撃の拳が飛んできた。

「空中戦……面白いねっ!!」
「……俺の方が上手だがな!」
『フレイムアーマー』
「うわっ!!?」

 無詠唱で四肢に炎を纏わせ、その拳はローナの肩をかすっていく。

「そっちは同時に使えても精度が落ちるだろうが……こっちにはそれがない。どうする、ローナ?」
「……舐めないでよね、私だってまだまだ隠し玉があるんだから!」

 そう言ってローナは片腕を太陽へと掲げ……小さな火の玉を作り出す。だがそれは瞬く間に大きくなっていき…………更に、際限はなかった。

「『サンフレイム』……食らえっ!!!」
「っ!?」

 こちらが何か行動を起こす前に降り掛かってきた炎は、彼女の手を離れてからもどんどん膨張していき、やがて太陽のような迫力とともに俺を襲おうとしていた。
 
(逃げられない……なら、壊すまで!)

「『グランドアーマー』……おラぁっ!!!」

 左足へと炎を集約させ、ジェットの推進力を合わせて太陽を蹴り飛ばす。その結果、大きさの割に威力がなかったおかげで、あまりダメージを受けずに打ち消すことができたが…………

「………!?」
「予想通り……りゃっ!!」
「ぐっ…………」

 サンフレイムの影に隠れていたローナは、それが壊れた瞬間に俺を拳で地面まで突き飛ばした。炎で魔力感知が鈍ったせいで彼女の反応が捉えきれず、無駄なダメージを受けてしまった…………まあ、

「ほら、そんな霧の中にいたら……」
「『何もできない』と、思ったか? ……『爆神ばくじん一式いちしき』!」
「……えっ!!?」

 設置していた魔法を発動した瞬間、舞台全てをカバーするほどの大きさの魔法陣が地面に現れる。そして、その魔法陣からは無数の風船のような形をした紫色の爆破の魔力が生まれ……空へと無差別に飛んでいった。

「うわっ、な、何これ……霧で分からな…ぐはぁっ!?」

 ただでさえ規則性のない発射に地面に漂う霧も相まって、この攻撃はローナにとってかなり避けにくい魔法となっていた。範囲と威力を調整している為、単発ごとの威力は小さいが……それでも十分ダメージは与えられているようだ。

「くっ、こうなったら……『ウィンドアーマー』!!」
(ウィンド……風か。だが何をする気だ……?)

 爆神・一式が終わった頃に、ローナが見知らぬ属性のアーマー魔法を発動したようで、俺は疑問を浮かべるが……その答えはすぐに現れた。


「……落下、そして…………こうっ!!」
「……っ、霧が……!?」

 ジェットを解除したのか、ローナは無抵抗に落下しながら霧の中へと入っていき…………着地とともに謎の風圧でアサルトミストをすべて吹き飛ばしてしまった。
 また、霧が明け、地面に接地していた風の拳をしまい……彼女はニヤッと笑いかけてきた。

「……拳で衝撃を殺しながら、その衝撃で広がった風が霧を払った…………ローナにしてはスマートな解決策だ。」
「それ褒めてるの? ……まあ、とにかくこれで振り出し!! お互い魔力防壁も削れてるし……ここからが本番だよっ!!!」

 ローナはそんなセリフを発しながら、ウィンドアーマーを解除し……またもや何か魔法を発動する準備へと取り掛かっていた。

(……隙だらけだ。ここを攻めれ、ば……いや………!?)



「……どうしたの、かかってこないの?」
「…………いいから、見せてみろ。今のお前が出せる『本気の鎧』を。」
「ありゃ、バレてる……じゃあ遠慮なく、はぁぁぁっ!!!!」

 不意に感じた、彼女の異様な気配に俺は誤魔化しながら発動を促す。それは、今から繰り出される魔法の圧なのか、はたまた彼女自身が出すオーラなのかは分からないが……今、手を出せば確実に

(……感じたことのない空気…………こんなに気迫のある奴だったか?)

 知らないうちに成長していたのか……それとも…………







「…………まとえっ、『ベリルアーマー』!!!!」
「…………!!」


 発動した刹那、風と炎の衝撃がローナの周囲から放たれ……彼女の体にはなびくエメラルド色の炎が纏われていた。
 その炎は普通のフレイムアーマーより数段勢いが激しく、またその体を覆うだけではなく、まるで風に揺られているかのような広がりを見せていた。

「……風と炎を合わせた鎧か。」
「それだけじゃない……私なりに色々組み替えて作った、最強の魔法だよ。味わってみる?」
「…………ああ、返り討ちにしてやる。」
「へぇ……できればいいねっ!!!」


 俺の挑発を笑い飛ばし、ローナは地面を蹴った。その速さは…………こちらの判断を鈍らせるほど、凄まじいものだった。

「っ……ぐっ!?」
「さすがウルス、反応は凄い……けど、それもいつまで持つかな!?」

 ローナの高速の拳をなんとか腕で受け止めるが……フレイムアーマー状態の2倍はあるであろう威力に耐えきれず、後方へ押し飛ばされる。すると、それを好機と捉えたローナは続いてどんどん攻撃を繰り出してきた。

(スピードも跳ね上がっているが……何より、『加速』が異常だ。)

 フレイムアーマーもそうだったが、こういったアーマー系魔法を使用した際に最も恩恵が得られるのは威力や速さではなく、加速だ。

 最高速にまで達する時間が短くなるということは、単に攻撃速度が速くなるだけではなく……仮に、十分な加速時間が無くともその域にまで簡単に辿り着けるということ。言い換えればそれは…………僅かな動きだけでも最高の威力の攻撃を行えるということだ。

「ららラぁっ!!!」
「ぐぉっ………厄介だ……!」

 まるで機関銃のようなのない連続攻撃に、俺の防御はどんどん脆くなっていくとともに、魔力防壁も壊れかけていく。このままじゃ直ぐにやられてしまうな。

(…………だが、これは……感覚的に言えば。だから…………)



「……。」
「…………あ、えっ!?」

 集中力を高め、俺は拳や蹴りを流すように避けていく。反撃する余裕こそあまり無かったが……『超加速の攻撃』なんてクルイで慣れたものだ。それに…………

「まだ、
「ぇ……なんでそれを!?」
「その拳一つひとつに、全く重みがない…………ずっと、お前たちの動きは観察してきたんだ。分からないわけがないっ!!」

 この連続攻撃は数ある選択肢から選んだものでは無く……今の彼女が、できる物から消去法で選んだもの。
 そして、消去法で選んだものは…………簡単に切り替えられない。


「ぐはっ……これが、。」
『ジェット』『フレイムアーマー』
「わ、わざと…………っ!!?」

 一撃だけ、できる限りダメージを最小限にして俺は食う。すると、その勢いのままに体は壁へと激突し……一瞬、彼我ひがの距離が大きく開く。


 その距離を…………俺は、ただ駆け抜けた。


「食らえ、ローナっ!!!」
「ぐっ、ぁあぁっ!!!?」

 四肢から出る爆風全てを推進力へと変え、それからその爆風の軌跡を魔力として体の炎へと絡ませる。すると炎はバチバチと火花を立てていき……彼女の横を通り過ぎた直後に大きな花火を起こした。

 そして、花火は電気ショックのように散って彼女を攻撃し、魔力防壁を呆気なく破壊した。




『そ、そこまで!! 準々決勝の勝者はウルス!!!』















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(な……何が、起こったの………?)

 受けた現象を理解する暇もなく、私はただ驚きのままに息を吸うことしかできなかった。

(最終兵器のベリルアーマーも……難なく破られて、結局ウルスは…………だけで勝った。遠く及ばない……発想力と機転だけで。) 

 ……この大会は、今まで学院で習ったことや自分で考えた新しいものをぶつけ合う戦い…………だが、ウルスは違う。

 結果的に、知らない魔法も使ってきたりしていたが……別に、その方法がウルスにとって試すような意味合いもなければ、奥の手を披露したような気配もない。




『いいから、俺の心配なんていらない。』

『ちょ、ユウ……っ!?』




『……………ウルスからは、何も聞かれなかったの?』

『………………うん。』









『─────な、俺は。』

『…………はっ、笑い草を。』










「……遠すぎる…………」



 距離も、強さも。


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