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十五章 息吹く気持ち 『face』(冬の大会編)
百九十四話 今更
しおりを挟む「……全員残ってるのか、意外だな。」
「そうっすか? 俺は、みんななら予選くらいは軽く突破すると確信してたっすけどね。」
予選が終わった夕方頃、俺とニイダは食堂で飯を食いながら張り出されている今日の結果を眺めていた。そこにはカリストやラナを始め、顔見知り全員が予選を突破しているといった情報が見て取れた。
「私はニイダにやられてギリギリだったけどね……ミルもウルスに負けちゃったんだよね?」
「うん、泥棒されたり騙されたり……ウルスくんはズルばっかだよっ!」
「そっちだって神器使っただろ、お互い様だ。」
「むぅ……最近ウルスくんが冷たいよ~」
「よーしよし、ウルスは人の魔法とか武器をすぐ自分の物にする獣だからねー」
「くくっ、酷い言われようっすね。」
「…………ほっとけ。」
ミルとローナにガヤガヤ言われながら、俺はコップの水を飲み干す。
今は俺とニイダ、そしてミルとローナの4人で食事と今日の結果報告を軽くしていた……といっても、ほとんど雑談会みたいなもので、基本目の前でミルとローナのじゃれあいを見せられていたが。
「……大体、いつも言ってるが……ミルは戦いに感情を出し過ぎだ。無表情とはまでは言わないが、もう少し抑えろ。」
「だ、だって……戦ってるとつい…………」
「昔からそうだ。今日も思ったが、見ただけで分かる力の入れ具合や焦り、動揺に裏をつこうとするしたり顔……直した方がもっと強くなれるんだぞ?」
「うぅ……そうなのかな、ローナさん?」
「うーん…………私も人のことは言えないけど、分かりやすいね。まあ別に、それだけで全部行動が読めるってわけでもないからいいんじゃない?」
「そうそう、ウルスさんだから分かるってだけっす。それほど熱い視線を向けられてるんすよぉ~?」
「え、えへへ……そうなの?」
「何でそうなる……」
叱っていたはずが、いつの間にかよく分からない方向に話が進んでしまい、俺はため息を吐かざるを得なかった……というか、大体ニイダのせいだが。
「まったまたぁ~照れちゃって、素直になっちゃいましょうよー」
「…………最近、お前と手合わせしてなかったな……どうだ? 今から俺と勝負するか……本気で。」
「おおっ、いいね! 私の分までやっちゃってよウルスっ!!」
「ウルスくんの本気は凄いからね……明日、ニイダくんは出れないかも?」
「ちょ、えぇ? 2人とも裏切るんすか!? 俺は良かれと思って言っただけなのに……」
「何が良かれだ……まったく。」
二度目のため息を吐くが……3人の表情は変わらず笑顔で、何とも言えない歯痒さに体を揺さぶられる。 ……まあ、楽しいのならば何も文句は無いが。
『………ミルは、通ってみたいか?』
『うん、いつまでもここに閉じこもってたらダメだと思うし…ウルスくんは嫌なの?』
『………嫌じゃないが……』
『じゃあ行こうよ!私、昔から街に行ってみたかったし、ウルスくんが居てくれたらきっと楽しくなると思うんだ!!』
「………………。」
…………まさか、こんな風景を……こんな日々を、ここで過ごせるとはとても思わなかったが…………それが人生というやつなのだろう。
『……ここでは、誰もが強くなろうと日々励んでる。少なくとも、俺の周りの人間は……みんなはそうだった。だから、俺も何かしたいと……思ったのかもしれない。』
知らない人、慣れない場所で時間を過ごし…………様々なことを経験した。それは、とても1人では得られることのない……新鮮だった。
「…………そういえば、最初はこの4人だったっすね。」
「……何だ、急に。」
不意に、2人に聞こえないようにニイダが小声でそんなことを呟く。その表情は真剣……とはいえないが、どこか穏やかなものだった。
「いやぁ、ちょっと思い出して。今もそうっすけど、ウルスさんは表情が分かりづらくで苦労したっすよ。」
「……仏頂面で悪かったな。」
「……そうやって誤魔化すところも変わらないっすね。」
「………………また、何か言いたいことでもあるのか?」
「おっ、ウルスさんも俺のこと分かってきたっすか? 付き合いの長さは嘘をつかないっすねぇ。」
ケラケラと笑いながら、ニイダは息を吐く。そして……予想通りの言葉をぼやいた。
「…………いつまでも、隠しておけることじゃないっすよ。」
「………………」
「これまで……自身のことだけなら、どうとでもなったかも知れないっすけど……これはもう、あなただけの問題じゃないんす。」
「……分かってる。」
…………きっと、父のことだろう。
「あなたが黙っていても、いつか誰かがバラす……その『意味』も、分かってるっすか。」
「…………秘密を抱える人間が多ければ……そんな話か?」
「……へっ、面白くない冗談っすね。嘘も下手になってるっすよ?」
「………………」
「……本当は分かってるくせに、認めようとしない……武闘祭の時もそうだったっすね。」
『…………優しい奴は、人を選んだりしない…………だから、俺は優しくなんかないぞ。』
『……………………』
「実際、あなたが人にしていることは自己満足に過ぎないかもしれない……でも、それでも…………助けられた人間はたくさんいる。」
「…………偶然だ。」
「……たとえ、あなたが思っていなくても……みんなはそう感じている。それくらい、見れば一目瞭然だ。」
…………こういう時のニイダは、いつにも増して面倒だ。
理想的なことを並べて…………俺を甘やかそうとする。正しいかどうかなんて知りたくもないが……少なくとも、俺が取るべき行動ではないことばかり告げてくる。
「…………俺に、お前の『考える選択』なんて取れない。これはもはや……綺麗事じゃ済まない話なんだ。」
「………………」
「……失ったモノが多すぎる。村も、人も……親も、途方もなく醜い真実を知って…………他人に何ができると思う?」
…………そう。
もう…………後戻りはできない。ここまで進んできた道を取り消して……新しい道を開拓することは、不可能だ。
「…………心配してくれるのはありがたいが……俺は大丈夫だ。これからのことも考えてある……だから、お前が気にすることじゃない。」
「……強がりっすねぇ。」
「強いからな、俺は。」
「…………はっ、笑い草を。」
ニイダはそう言い放って、俺の言葉を一蹴する。しかしその表情には笑いのかけらもなく…………ただ、こう投げかけた。
「……だとしても、もし……何か必要であれば、せめて俺だけでも力になりますよ。なんせ、俺はみんなのようにあなたのことを 強 い 人 間 と思ってませんから。」
「……………。」
「『最強』だとか……友達なら、誰も興味持たないですよ。大切なのは、その人が笑って生きているかかどうか…………そうでしょ?」
『…………やっと…………やっと……やっと、頑張って良かったって……今日まで、生きて…きて……よかったって……!!』
『……………!』
『また、あえたってっ……わたし……うれしくてぇ………ウルくんに、またぁ………!!!』
「────」
…………頭が、痛くなる。痛くなるが…………今更だ。
「……まあ、今日はこれくらいにしましょう。今は大会に集中っと…………えっ、ローナさん? まだ食べるんすか?」
「ほへ? フぁってフぁしたカらフぉんふェんフぁしばぁいぶぉぐを……」
「あははっ、さっきからこんな調子で何言ってるか全然分からないんだよっ! ウルスは分かった?」
『ねぇ……ウルスくん。』
『…………何だ。』
『…………もう、居なくならないよね……?』
「…………『だって、明日から本戦だし体力を』……だろ?」
「ホぅほぉぅ!!」
「……元気っすねぇー」
「…………そうだな。」
。
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