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十四.五章 別れ行く道たち
百八十五話 意志
しおりを挟む「ちっ……なんで俺がこんなこと…………」
「とか言いつつ、ついて来てくれんだよね。やっさしいなぁ!」
「……てめぇの餌に釣られてやっただけだ、お前のことなんて微塵も興味ねぇ。」
「あっ、ちなみに僕のお父さんの前でそんなこと言ったら武器作ってくれなくなるから気をつけてね?」
「…………めんどくせぇ。」
悪態を吐くも、喧騒響く街中ではあっという間に消えてしまい、ただただ俺は苛立ちを募らせて行く。
『ねぇタールくんーー起きてるよねぇーー!!!』
『うるせぇな……朝っぱらから何だお前。』
『僕、ちょっと武器の見直しをしに街に行きたいんだけど着いてきてよ!!! ついでにデート!!』
『は? 1人で行けよボケ野郎、俺は今日も特訓すんだよ。』
『ボ、ボケって……いいのかなぁ? そんなこと言って、せっかくタールくんの武器を新調してあげようと思ったのに……』
『…………あぁ?』
今朝、自分の扉をガンガン鳴らされたと思ったら、マグアにそんなことを言われ俺は仕方なくついて来た。話を聞くと、ソルセルリー学院に置いてある貸し出しの武器などはすべてコイツの親がやってる鍛冶屋らしく、前々から武器を変えようと思っていたので都合が良かったが……やっぱりこの女に絡まれるのは最悪だ。
『邪魔すんな…………俺の行く道を。』
(……つうか、この前突き放しただろうが。)
あの言葉は……流石に無視できないはずだ。なのに今もコイツは隣でヘラヘラ笑ってやがる……それこそ神に殺されかけたと聞いていたのに、何なんだ…………
「おっ、着いたついた……おーいお父さーん!! 来たよー!」
「ん? おぉっーマグア!! 久しぶりだ……なぁ??」
(……あれがマグアの父親か。)
何故か裏口から入ったマグアの後ろを追いかけると、そこには石炭臭く文字通り鍛冶場といった煉瓦調の作業部屋が存在しており、手前の方で濃い顎髭を伸ばしたガタイのいい男が座っていた。
その男がどうやら父らしく、マグアの声を聞いてニコニコの表情を見せたが……俺に目を向けた途端、謎の睨みを効かせてきた。
「……おぉ? その馬の骨は誰だマグアぁ?」
「誰が馬の骨だ……その男がお前の親父か?」
「うん、この人が私のお父さんのガータだよ!」
「おい、説明するんだマグア! 俺が認めた男以外には付き合わせないって約束だろ!?」
(…………馬鹿娘に馬鹿親ってか、くだらねぇ。)
そう愚痴を溢しそうになったが……あまり言うと作ってくれないんだったか。下手に喋るよりここはコイツに任せ……
「僕だって大人だよ? 誰と付き合ったって自由じゃん!」
「いいや駄目だ! 最低でもお前より……いや英雄より強い奴じゃないと認めん!!」
「なら大丈夫! タールくんはいつか英雄を超える男だし、これでお父さんもなっと」
「おい、何の話だ!? 誰と誰が納得だぁ!? つうか変な方向に持って行くなアホが!! ……それより早く武器を」
「誰の娘がアホだこらぁっ!!? こんな男は絶対認めないぞマグア!!」
「話を聞けやっ!!」
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「……本当に、マグアの彼氏じゃないんだな?」
「どんだけお花畑なんだよ、違うっつってんだろうが。」
「えぇーそんなにはっきり言われると傷つくなぁー」
「おい、言葉には気をつけろ!」
「いいから話を進めろ!!」
…………あぁ、血が濃すぎる。
「俺はあんたに武器を作ってもらえるって聞いてきたんだ、間違いねぇよな?」
「うん、お父さんは凄腕の鍛治屋だからきっとタールくんも満足できると思って。僕の剣の手入れついでに作ってあげて!」
「…………マグアがそう言ったんなら、やってやる。不本意だがな。」
「一言余計なんだよ……」
もうキレるのも面倒なので、適当に流しながら俺はボックスから大剣を取り出しガータに見せる。すると、やっと本題に入る気になったのかしっかりと職人の顔を見せ始めた。
「……まあ、普通の高級そうな大剣といったところか。名前は?」
「『ブレイク・ロード』だ。」
「ブレイク・ロード……おっ、こりゃ重たい大剣だな。これを振り回してたとなると、流石に主席の名は伊達じゃないってことか。」
「あ? 俺のこと知ってんのか?」
「俺は学院に武器を届けててな、そのついでに試合をちょろっと見ただけだ。」
……知ってるなら尚更つっかかってくんなよ。
「で、だ。どういった注文だ?」
「今の俺じゃこいつは力不足だ、だから全く新しい奴を頼む。これより少しだけ小さく、そしてもっと重くだ。」
「重く? ……よっぽどだな、だがこれ以上重いとなると扱えるのか、お前。」
「舐めんな、むしろ軽いぐらいだ。それに……ウルスや神と渡り合うためにはこの剣は脆すぎる。」
「ウルス? …………あぁ、そう言えば武闘祭で一緒に戦ってたな。友達なのか?」
『ウルス』という名前に、ガータは反応する。そういえばマグアと戦っている時、あいつも何か言っていたような……
『……十分あり得る魔法だからな。それに……お前の父親から色々聞かされてるしな。』
「……なぁ、あんた。ウルスのことはどこまで知ってるんだ?」
「…………その口ぶりじゃ、全部知ってそうだな。マグア、お前はどうなんだ?」
「えっ、ウルス? なんか英雄のグラン=ローレスの弟子だとかめちゃくちゃ強いとか、フィーリィアたちからちょっとだけ聞いたけど……えっ、まさか2人とも知ってたの!!?」
「ほう、てっきり隠し通してると思ったが……意外とバレてんだな。まあ、それもこれも神のせいだろうがな。」
「…………!」
ガータはそう言って手に持っていたトンカチを机に置き、俺たちに体を向ける。そして、何かを思うようにやんわりと口を動かした。
「……あいつと一緒に過ごすと、色々大変だろ?」
「…………なんだ、急に。」
「いや、別に大した話じゃない。ただ、あいつは……ウルスはお前たちと歳は変わらないのにも関わらず、何でもできる超人……そんな奴と足並み揃えて進むのは苦労するだろうなって。」
「確かに、一回戦ったけどボコボコにされたよ! あれで本気じゃないって言うし、英雄より強いだなんて信じられないよ!」
「はっはっ、そりゃそうだ!! 俺も初めてあいつの強さを知った時は度肝を抜かれたよ!」
「…………何が言いてぇんだ、結局。」
またくだらない方向に逸れそうだったので、俺は結論を急かす。だがガータは変わらずニヤけた表情で、今度は俺に質問をぶつけてきた。
「お前はどうなんだ、ウルスと戦ったことはあるんだろ? 挫折の1つや2つは感じたんじゃないか?」
「挫折? ……あぁ、確かにしたが。だからなんだ? 挫折したから立ち上がっちゃいけないなんて、誰かが決めていたのか?」
「…………なるほど、じゃあ聞くが……タール=カリスト。『お前の目標』は何だ?」
……………目標、か。
『俺の……俺の目標は、『お前を超える』ことだ。そのために俺は…………もっと、もっと強くなる。精々……覚悟するんだな、クズ野郎。』
……あれから、あいつの本当の力を知って……その道の長さを思い知らされた。実際に何度も戦って、ついぞ勝ちはまだ手にしていないが………………俺がこれから目指して行くモノは、何1つ変わらない。
「…………英雄を超えて、ウルスを超えて……世界最強だと証明する。それだけだ。」
「……タールくん…………」
「……ウルスの力を知ってなお、目指すのか?」
「関係ねぇ、目指すのは俺なんだ。他の誰でもない……だから、あんたに口出しされる道理なんてさらさらねぇんだよ。」
「……面白い、お前みたいな野心丸出しの男は久しぶりに見たな。それなら……俺もそれに答えられる武器を作ってやろう!」
「当たり前だ、でなきゃ来てない。」
「減らねぇ口だな! 別にもう気にはしないが、そんな生意気だと俺の娘はやれないなっ!!」
「だから何でそうなる!!?」
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「じゃあねお父さん!! 明日一緒に取りにくるから! ……あ、あと僕の情報はあんまり垂れ流さないでよ、不利になるから!!」
「不利? ……よく分からんが分かった!!」
「何だその会話……つうかお前は来なくていいだろが。」
「えぇーいいじゃん! 僕もタールくんの新しい武器を拝みに行きたいし!!」
色々と武器の調整を話した所、出来上がるのは明日と言われたため、ひとまず俺たちは学院に帰ることになった。
(……魔法武器か、色々と策が増えそうだな………)
「…………ねぇ、タールくん。ちょっといい?」
「うるせぇ、俺は特訓するんだ。」
早歩き気味に動かしていた足を、不意にマグアに止められる。すかさず俺は掴まれた腕を振り払うが……再びコイツは握ってきた。
「ちょ、ちょっとだけ……」
「…………なら、先に俺の質問に答えろ。」
「…………え?」
さっきより力強く振り払い、俺はマグアの真正面に立ち……聞いた。
「……お前、何であの親父に何も話さなかった?」
「……………な、何も? 別に僕は……」
「そうか……なら、何故ガータが神の話をした時にあんな顔をした?」
「…………そ、それは……」
…………コイツはその時、顔を一瞬だけ強張らせてすぐにいつもの作り笑いを見せた。あの男が気づいていたかどうかは知らないが……少なくとも、散々気持ち悪い笑顔を見せられている俺からすれば、あれは不自然極まりなかった。
「だって……僕、神に襲われたじゃん。でも、お父さんは知らなさそうだったし……心配かけるのもアレかなって。ちょっと困っただけ。」
「へぇ……あんなに楽観視していて、殺されかけてやっと理解したってたか。自分が甘ちゃんの世間知らずってことが。」
「そ、そんなこと……いや…………そうだったね。僕はまだ……何も知らなかったよ。」
俺の挑発に乗ることはなく、すっかりマグアは元気を無くしてしまったが……別に俺が励ます理由もない。聞きたいことだけ聞かせてもらおう。
「どうだった、神は。あんな殺意丸出しの奴らと対峙して何を思った?」
「ど、どう……うーん。とにかく悪い人たちってことは分かったけど……なんて言えばいいのかなぁ。」
「…………仮にも殺されかけておいて、薄い奴だな。お前は何も感じない『空っぽ』なのか?」
「……かもね、ただ…………『意志』? みたいなのは感じたよ。」
「………?」
意志……? 何言ってんだコイツは…………
「その、言ってることはめちゃくちゃだったし、共感できることもほとんど無かったけど……何か、奥の方に心? 信念? みたいなのを感じた気が……」
「馬鹿かお前、他人に信念をペラペラ喋る奴には何もねぇ。本当に意志がある人間は何も言わねぇんだよ。」
…………そう、昔の俺みたいに……口だけで強くなった気になったような人間に、信念なんて無いも同然。あんな奴らの言葉に惑わされるとは……相当参ってるようだな。
「弱い奴は、偽物にすら騙される。感受性が高いのは勝手だが、そのせいで周りまで迷惑を被る場合もある……それでもいいのかお前は。」
「それは…………嫌だね、うん。だからこそ……やっぱりそうだ、タールくん! 僕はちゃんと答えたし、次はこっちの話を聞いてね!!」
「…………なんだ。」
マグアはしょんぼりした顔から一転、またもや作り笑いをしながら体を回転させ……手を後ろに回し、言った。
「今度のタッグ戦、僕と組んで出てようよ。どうせまだ決まってないんでしょ?」
「……俺がその話に乗るとでも?」
「分かってるって、でも僕が強い人間だったらタールくんも認めてくれるでしょ? 実際にウルスとも組んでたし。」
「は? ……つうか、お前は何で武闘祭のことを……」
「というわけで、もし僕が個人戦の方で優勝したら組んでよ!」
「……………何だと?」
一瞬、その言葉を疑ったが……どうやら冗談ではないようで、マグアは腰に手を当てながら毅然とした佇まいで俺の目を見た。
「……つまり、俺を倒すと?」
「うん……あっ、でもタールくんと当たったらタールくんが判断してね! そっちの方が手っ取り早いし。」
「…………ふん、そこまで言うならやってみろ。まあどうせ、お前如きじゃ予選負けが関の山だろうがな。」
「それ関の山でも何でもないよ! もう、必ず見返してやるんだからね!!」
…………何やってんだ、俺は。
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