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十四.五章 別れ行く道たち
百八十三話 もっと
しおりを挟む「新しい魔法ねぇ……私のスレッドスパイダーなら教えられますが?」
「うーん……そういうのじゃないんだよね………」
今回、タッグ戦があるということで私たちは訓練所で早速色々と戦いに向けて練っていた。だが私の『新しい魔法を作りたい』という案に良い物が浮かんで来ず、うんうんと悩んでいたところだ。
「……ナチはそれ、どうやって思いついたの?」
「キール家の家業は代々、編み物などで作られる衣類を取り扱うといったものでしてね。母親がよく目の前で編んでくれていたので、そこから着想を得ましたわ。」
そう言ってナチは炎の糸を一本魔鉄石に繋げ、ふわふわと宙に操作してみせた。
ナチ=キール。武闘祭の決勝で私と戦った第4席の明るい茶髪の女の子であり、その時は何とか私が勝利することができた。
それ以降、出会うたびにおしゃべりをする仲になり、今回も私の提案で冬の大会に出たいと伝えたところ、軽く了承してくれた。そして、私の『新しい魔法』の開発を手伝ってくれていたが…………
「…………新しいのが浮かばないのであれば、既存の魔法を変えてみてはどうかしら?」
「既存の?」
「ええ、例えばローナさんのフレイムアーマーとかの派生魔法……もしくは新しく違う感じにするとか。具体的な案が出なくて申し訳ないけれども……」
「…………フレイムアーマーを……」
……これまでにも、自分で作ったグランドアーマーやウルスに考えてもらったアーマーバーンがあるが……確かにこの魔法にはまだまだ可能性がある。だがしかし、これ以上何か……
『俺は風と爆破を混ぜたり使い分けて推進力を生んでいる。まあ最初は風を軌道修正、爆破を加速として考えた方がいいな。』
「…………あっ! そうだそうすればいいじゃん!!」
『ジェット』
「えっ、何か思いつき……ちょ、ローナさん!?」
私は思いつくがまま空を飛び、訓練場の外壁の上に登り足を下ろす。すると……………
「……………あった……」
そこから見える景色はとても青く、広く、小さく……大きなものだった。
少し先では学院生たちが楽しく話していたり、軽い稽古をつけていたり、また、もっと奥に見える街中では賑やかな様子で人々が行き来して、生活していて…………とにかく様々な景色があった。
「……………広いなぁ。」
そして……青空には雲が所々存在し、見つめているとゆっくりと大海を移動するように……『風』に流されていた。
『詠唱と無詠唱……確か、『イメージ力』ってやつだよね? その魔法に対してどれだけイメージがあるかないか、イメージがちゃんとしてたら……無詠唱でもできる………だったっけ?』
『お前は普段魔法を覚える時、ほとんど頭を使って覚えようとしてない。目で見た物やその時の感触だけでやろうとする……別に悪いことじゃないが、それだけじゃより複雑になった時に混乱してしまうぞ。』
……あの時は特に気にしていなかったが、よくよく考えたらウルスたちの言っていたことはちょっと矛盾している。
『魔法のイメージ』が強ければ強いほど、その魔法に対して素早く発動できたり、無詠唱で出来たりする……つまり、イメージは『魔法を形成するための要素』ということになる。
それに比べて、『魔法の仕組み』は理解していればしているほど、その魔法の発動を容易にしたり、失敗することが無くなったり……『魔法を発動するための要素』ということだ。
つまり、イメージは『形成』、仕組みは『発動』……だが、これではさっきの仮説はおかしくなってしまう。
(……発動と形成……イメージと仕組み…………難しいなぁ。)
授業ではそこまで深く魔法自体について学ばないので、ここからは自分で考えるしかないのだが…………頭が爆発しそうだ。
「フレイムアーマーは……炎を鎧のように纏わせてる。風も……撫でる感覚で行けば…………」
イメージは完璧、あとは仕組み…………風の流れを鎧として、混ぜ合わせれば…………
「ローーナさーん!! 降りてきてくださいまし!」
「…………あっ、忘れてた。ごめーん!」
下の方から声が聞こえ、向くとそこには大きく手を振りながらこちらへ呼びかけているナチの姿があった。それを確認した私はすぐにジェットで飛び降り、綺麗な着地をしてみせた。
「ふご……すっかり夢中になってた、ごめんごめん。」
「まったく……人に聞いておいてそれはどうなのですの? ……まあ、それより何か思いついたようですわね。一体どのような魔法を?」
「ふっふーそれはね…………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ぷはぁぁ!! 生き返るぅ!!」
「はしたないですわよ、ローナさん。女でしたらもっと気品高く……きゃ、飛び散ってますわよ!!?」
2人で練習した後、私たちは一緒に風呂場へと入り湯に浸かった。やっぱり疲れを取るには風呂が一番だ…………
「…………そういえば、最近物騒ですわよね。調査隊もそうだったらしいですが、学院の方でも襲撃がありましたわね。」
「そう……だったね。私もよく知らないんだけど、確かウルスたちが出くわしたって言ってた。」
……本当はもう少し知ってるけど、ナチはまだ知らない方の人間だ。あんまり言っちゃうとバレるし、何より…………
(……帰ってきてからみんな……特にウルスの元気がなかった気がする。何かあったんだろうけど『取り逃した』ってことしか教えてくれない……)
ウルス曰く『それだけ』と言っていたが……多分それだけじゃない。きっと何か、大きなことが起こったはず…………
「……いつか、私も……戦わないといけないのかな。」
「戦う? ……神のことでしょうか、その人たちの力はかなりのものだと聞きましたわ。ですが私たちのステータスではなにも出来ないと思い……」
「…………できないままじゃ、ダメなんだよ。」
『…………ありがとう。』
あの言葉は……単なる感謝じゃない。わたしたちを信用し、頼り始めようとした……意志の言葉なんだ。
だったら、私も……………
「…………もっと、強く。」
憧れを追い越すために、もっと。
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