上 下
169 / 290
十三章 龍と仮面

百六十七話 ここまでだ。

しおりを挟む




 ずっと、ずっと…………彼は頑張っていた。


 あの日の悲劇を繰り返さないように。もう二度と大切な人を失わないように。周りの人をどんな危険からも守るために……


 ………….ずっと。




 世界で一番強くなった。大人よりも、英雄よりも、誰よりも強く…………本当に、昔の頃とは別人のように、強くなった。



 そして、誰よりも優しかった。困った人が居たらすぐに手を差し伸べ、相手のことを想って、嫌なことがあっても愚痴をこぼさない……昔から優しい人だ。






 だからこそ、



 彼は…………




 ………………ウルくんは、今、この瞬間…………泣きたいはずなんだ。


 でも、彼は泣かない。強い人だから。



 そんな人だから、私は………彼をずっと────















 

 ずっと、        。  










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















(……………生きて……る、か。)


 数秒、気絶していたのか…………俺の意識は朦朧もうろうとしており、光か煙かは分からないが未だに目を開けることができなかった。

(…………キーンと……左耳の鼓膜が……それに、左腕も……吹き飛んでる………)
『ホープエンジェル』

 やがて体へ伝わってくる激痛が、俺の左腕が欠損しているということを知らせてくる。時間はかかるが、今のうちに魔法で治しておかなければ……………


「…………た、い……りょくも……削れ……すぎ、た。」



 水蒸気爆発。水が急激に熱されることで瞬間的に蒸気となり、数千倍にも膨張することで爆発が起こる恐ろしい現象。

 前世の……悠の記憶の隅っこに、そんな聞いたような話として残っていた知識。前世ではまず日常的に起こせるものでもなければ、何かに向けて放つような機会なんてなかった。



 だが…………ここは 異 世界だ。


(……………森は……弾け、飛んでる……)


 白い気配が消えかかり、やっと目が開けられた。すると、そこに映っていたのは……もはや、森というにはあまりにもさびれた跡地だった。
 木は薙ぎ倒され、葉は全て散り……生い茂っていた雑草も灰となって舞い上がり、空気はちりによって汚れてしまっていた。

「…………この、世界は………簡単に………」
『…………イマノハ、キイタ。』
「……………!?」


 しかし、その塵も……ヤツの降り立つ風圧によって呆気なく吹き飛んだ。


「まだ……魔力、防壁すら………」
『タッタ、ヒトリデ……ココマデヤルトハ。ダガ……モウ、ゲンカイノヨウダ、ナ。』
「…………なら、もう一度………ぐふっ!?」

 再生した左腕に力を入れ、再び絶・水爆を放とうとしたところ……身体に溜まったダメージが喀血かっけつとして現れる。それも大量の血が飛び散り、不覚にも即座に自身の状態を把握できてしまった。

「がぁ……く、そ…………」
『……キサマハ、オノレヲ。“ スベテ ”ヲ、トケバ……コンナモノジャ、ナイダロウ?』
「お前…………なんか、に、何が………」


 ………………言われなくても……分かってる。けど……だめなんだ。


 思い出が…………自分の不甲斐なさが…………俺の限界を、決めてしまっている。
 あの人の……あいつの……顔を見た、途端……今まで自分がやってきたこと全てが、否定されたかのような……もう、何をどう想えばいいのか…………本当に、わからないんだ。



『………俺は、今日から………最強を目指す。』




 そう決意したあの日から、ひたすら俺は強くなろうとがむしゃらに突き動いた。かえりみることをやめ、前を向き……それだけじゃだめで、そこから周りと一緒に生きて……歩幅を合わせて、大切なものを守ろうと…………でも、全部……俺の『今日きげん』は…………そこだった、のに…………………




「………おれ、は……………」



 もう…………立てない。俺の人生が、父さんの背中を追うことなら…………もう、生きている意味なんて……………!















『…………アキラメル、カ?』


「…………好きに、しろ。俺は……ここまでだ。」


『ソウカ、ダガ……ソノマエニ………………
















 ………………きゃく。』





 ………………その時、声が聞こえた。




 何度も。何度もなんどもきいた、こわいろ……………






「ウルくん、大丈夫!!!?」









 …………聞きたくない、言葉。




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺はハーレムを作るために勇者になったわけじゃない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:574

貧弱の英雄

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:45

竜の国の侍従長

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:44

異世界でラブコメしたりギルド登録したり別の人になったり!?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:38

数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:611

奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:74

異世界転移しても無能力者なオレだけど無双ハーレムするぜ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

処理中です...