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十三章 龍と仮面
百六十四話 頑張れよ
しおりを挟むそ……んな…………
「ど、どうしたんだウルス……なんであんな怖気付いて、ってライナ!?」
「おじ……さん…………」
ガッラくんの声に反応する余裕がなく、私はただ力なくその場にへたり込んでしまう。
(なんで…………確か、ウルくんは……たった1人の、生き残りだって………)
『……俺が住んでいた村はある日、盗賊たちに襲われ失いました。父も母も、家も村のみんなも全て。』
ウルくんは……そう言ってた。そして実際、あの村には石碑があって……もう誰も…………居なくなっちゃったはずなのに…………
「ライナさん、何か知ってるんすか? ウルスさんが顔を見た瞬間に様子が変になったっすけど……もしかして、知り合いなんすか……?」
「……………あのひと、は…………ウルくんの、お父さん……」
「「「……………っ!!??」」」
「えっ……ウルスの父親…………?」
ウルくんの事情を知っているニイダくんと、そうであろう弟子のハルナさんとミーファさんは『あり得ない』という表情に対し、何も知らない他の3人は何が何だか全くわかっていないようだった。
だが……それは私も同じで、今怒っている目の前の状況全てが不可解で……どういう感情を持てばいいのか解らなくなっていた。
「ど、どうして……確か、ウルス様のお父さんは事故で亡くなって…………」
「偽物……って感じじゃ無さそうっすね。けど、ウルスさんみたいにただ生き残ったわけでも無さそうっす……」
「な、亡くなった? 生き残った? さっきからお前たち何を……?」
「……盛り上がっているところ悪いが……今、お前とやり合う気はない、ウルス。」
あの頃と変わらない声色で話すおじさん……ハルラルスさんは、混乱する私たちを他所に仮面たちの元へと歩いていく。そんな様子を私はただ見ていることしかできず、ウルくんもあまりの衝撃にただ頭を抱えることしかできていなかった。
「……これは、こっぴどくやられたな。女の顔は傷付けるなって教えなかったか?」
「………………………」
「…………まあ、殺し合いに女も何もないか。戦場に立てば何が起こるか分からない、誰が生きて誰が死んでるか……考える余裕もないしな。」
(何を、言って………?)
「今回の作戦は大失敗、向こうじゃ大量にうちの人員が捕まってしまってるようだ……俺たちも怠慢だったわけだな。」
彼の発言に、私は今更ながらも彼がこちらの敵側であることを呑み込みかけたが……それでも『過去』がその真実を消化しようとしてくれなかった。
『おっ、帰ってきた……って、泥だらけじゃないかお前たち!? 森で何してたんだ!??』
『うぅ……ごめんなさい………』
『……僕が転んで、泥を被ったんだ。それでラナも巻き込んでしまったんだ。』
『まったく……仕方ないな。ライナの両親には俺が伝えとくから、2人は早く体を洗ってきなさい。』
『ねぇおじさん! ウルくんもおじさんみたいにいつか大きくなるの?』
『ああ、もちろん。今は2人とも一緒ぐらいだが、10年後にはライナのお父さんとお母さんみたいに差が出てくると思うぞ。』
『……えっ、それじゃ……ウルくんと同じじゃなくなるの?』
『おいおい、そんな泣きそうになるなって。例え同じじゃなくなっても、ウルスはずっとライナのそばに居てくれる……そうだろ、ウルス?』
『ライナはいい子だな、優しくて可愛くて……ウルスには勿体ないかもなっ!』
『もったいない? 何がもったいないの?』
『ん? いやぁ、この村でお前たちぐらいの歳の子どもはいないし、いつか2人が結婚でもするだろうしな……ちゃんと自分を磨いとけよウルス!』
『みがくって……強くなれってこと?』
『………………ああ、強くなるんだ。』
「ぁ…………あぁ……………」
想い出が、あの日々が……崩壊していく音が聞こえる。
そして、その音は……………現実となった。
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地面が、揺れていた。
……………心も、揺らいでいた。
「…………しかし、このまま帰るわけにもいかない。だから……ウルス、お前にはコレを贈ってやる。」
「………………な…に………?」
揺れている原因…………それは……お父さんなのか……いや、アレは……………
「………龍…………だ……と………??」
「そう。20年前、英雄5人がかりでやっと倒せた伝説上の存在…………龍だ。」
「えっ……ドラゴン………!!?」
頭上、遥か彼方から現れたそれは……金色に染められ、悠々と大空を羽ばたく、御伽噺で何度も目にし、口にした巨大な『龍』だった。
「まあ、お前にとってはそれほどの敵じゃないかもしれないが………油断はしないほうがいいかもな。」
「ど……うし、て…………」
「理由を考える前に、体でも動かしたらどうだ? お前が今ここで倒さなければこの場の全員……いや、世界中の人々が死ぬかもしれない。いつまでも泣き叫ぶ子どものままじゃいられないぞ?」
「な……待っ、て………僕は………俺、は………」
この場を去ろうとする仮面に手を伸ばすが……震えた身体では、とても届くことはなかった。
(俺は、僕は……いったい、なんのために……………)
あのことば…………さいご……最期……最後だったはずの……言葉は………………………
「『………ウルス、頑張れよ。』」
─────ただの、呪いだった。
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