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十三章 龍と仮面

百五十七話 力

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「…………やっちゃいましたっすね、ウルスさん。これで良かったんすか?」
「……命よりていを優先するほど、俺は照れ屋でも馬鹿でもじゃない。お前こそ、こうなる前に手の打ちようはあったんじゃないか?」
「いやいや、これでも全力だったんすよ? ただ魔物が想像以上に強くて流石に焦ったというか……」

 俺はクルイたちが相手をしていたゴブリンキングを風で打ち上げて燃やしている中、空を飛びながらニイダとそんな会話をする。

 俺たちが倒し終わった後、クルイたちの方を見てみると既に限界が来ていたので、予定を変え本当の実力を出してやった。もちろん、突然のことで彼らはあり得ないと言わんばかりに固まっていたが。


「にしても……何度見ても圧倒的っすね。これはみんなも驚きまくりっすよ。ガッラさんなんて目玉が飛び出そうになってるっす。」
「…………そんなことより、お前はガッラに説明してきてくれ。俺は2人を回復させてくる。」

 既に灰へとなりかけているキングを地面に打ち付け、その間にクルイたちの元へ移動する。どうやらクルイは軽い魔力切れを起こしているようだが、メイルドの方がもっと重症らしく、抱えられながら苦しそうに声を漏らしていた。

「ど……えっ、ウルス、お前………一体何を……!??」
「話は後でします、それよりメイルドさんを。」
「あ、ああ……でも相当体にきてる、普通の回復魔法じゃ……」
「大丈夫です……『ホープエンジェル』」

 クルイに彼女を降ろさせ、破壊級魔法ですぐさま回復させる。すると、ダメージがあったのはあくまで身体的なものだけだったようで、大した時間もかからずあっという間に傷が治っていった。

「は、破壊級魔法…………ウルス、お前は何者なんだ……?」
「……何者でもありません。ただ力を持つだけの、平凡な人間です。」
「……平凡……そんな風には見えなかったけど、な。」
「ワール……もう大丈夫なのか?」
「…………………ぁあ。」

 ほぼ全快したメイルドがゆっくりと立ち上がり、俺にそんな疑いの目を向けてくる。その目を俺はしっかりと見返しながらを高めていく。

「1年……いや、たった15、6にしては冷静すぎると思ってたが…………その余裕っぷりからして、もっと何か隠しているだろ?」
「…………ええ、そうですね。」
「……助けてくれたのは感謝してるが……まずは色々と聞きたいな、そうだろクルイ?」
「そ、それはそうだが、今はこのことを報告しに帰らないといけない。結局デュオは居なかったし、お前の傷も心配だ。ウルスのことはその道中にでも聞くとするか。」


 流石に急な展開からか、2人は俺のことを勘繰っていたが、ひとまずはこの現状を受け止めてくれていた。ここで変にパニックを起こされるより何倍も助かるが………………



「……………その前に、2人とも。」
「なんだ? とりあえず合流しないと……って、なにを」
『転移』


 俺は2人の肩を触り有無を言わさず、ニイダたちの所へ一緒に転移させる。そして…………ラナへとを掴んだ。


「………………えっ、ウルくん? いつのま………っ!??」
「…………やっと姿を現したな……仮面ども。」
「ちっ……流石、世界最強さんだ。」

 仮面……もとい、デュオ一味いちみであろう青黒い仮面男は舌打ちをしながら、掴まれている剣を手放し距離を取る。どうやら洞窟の奥にこっそり隠れていたようだ。

「てっきり油断して切っていると思ってたが、そこまで腑抜けじゃないらしい。ガキらしく学んでいるってことか?」
「そのガキに捕まった仲間大人もいるらしいな……お前たちの目的は『俺』か?」
「お、おいウルス、あれってもしかして……!!?」
「ああ、デュオだ……みんな、俺から離れるなよ。」

 慌てふためくガッラをなだめ、俺は守るようにみんなの前に立つ。

(…………あっさりと出てきた。やはり俺の油断を感じ取って来たんだろうが…………。)
「お前1人か? まさか、あんな魔物2体でどうにかできるとでも思ってたんじゃないだろうな。」
「ふっ、大人だって学ぶんだ…………そして、子供はそれを知らずに夢をみる。今も……自分が上だと信じ切ってな。」
「……一体何の……えっ、何これ……?」
「…………!?」

 男の意味深な言葉を聞いた直後、ハルナからそんな疑問を上げる声が耳に届く。
 振り返るとそこには、何やら見たこともない不思議な形をした小さく……そして異様な魔力を発生させる機械が地面へ転がってきていた。


「っ、ハルナ! それを壊せ!!」
「もう遅い、発動だっ!!!」
「な、何が起こって……うわっ!!?」

 俺の判断が遅かったからか既に手遅れであり、機械から謎の波動のようなオーラが噴出し始める。また、そのオーラは瞬く間に辺りを包み込み、ドーム状に俺たちを結界の中へと閉じ込めてしまった。

「け、結界……なんすか? にしては変な気配がするっすけど。」
「いい感覚だな、そこのスカーフ。この結界はただ閉じ込めるだけじゃない、その魔法具に登録された者以外は魔法が使えなくなる特殊な物だ。だから、その世界最強さんの力も半減ってことだ。」
「そ、そんな……!? で、でもウルくんはそれくらいじゃ……」












「『呪縛じゅばくくさり』」

 その瞬間、今度はあらぬ方向から魔法が俺目掛けて飛んできた。

 












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


















「まだまだ、『ステータスロック』!!」
「ウ、ウルくんっ!!?」
「…………これは、してやられたな。」

 不意を突かれ、一瞬の隙にウルくんへ2つの魔法がかけられてしまう。その結果、ウルくんの体の動きが遅くなり、今度は背後からわたしたちを挟み込むように黄色の仮面をした女の人が現れた。

「いつの間に……お前もデュオなのか!??」
「えぇ、見たらわかるでしょう? これでもう最強じゃなくなったわ。」
「は、破壊級魔法……それも2つ、どうなってるんだ……!?」

 破壊級魔法が平然と使われている状況に驚いているクルイさんたちを横目に、私は今の現状を認識するため辺りを見渡す。

(……結界の範囲は大体15メートル、私たちは魔法が使えずウルくんも動きを大分鈍らされている……逃げようにも手段がない。)

 ウルくんの動きがどれほど制限されているかは分からないが、少なくとも私たちを連れてこの場を去るような真似はできないだろう。だとすれば、ハルナさんやミーファさんを中心に私たちも協力すれば…………



「……みんな、手を出すなよ。こいつらは俺が倒す。」
「えっ、でもウルくん、その状態じゃ………!」
「そうだ、俺も戦う! 魔法が使えなくても多少は……」
「ギャーギャー五月蝿うるさいな……雑魚は黙っとけっ!!!」
(…………っ!!?)

 クルイさんがそう言って一歩前に出た瞬間、青い仮面の方が瞬きの間に目の前に現れ、拳を彼の顔へ突き当てようとするが…………ウルくんが奪った武器でそれを阻止した。

「ウ、ウルス…………!」
「……気持ちはありがたいですが、クルイさんたちじゃとても敵う相手ではないです。今は守りに徹してください。」
「それはあんたも………だっ!!」
「ウルくん!!」

 しかし、その気配も感じさせなかった黄仮面が私たちの後ろから現れ、彼の背中を蹴り飛ばし追撃の斬撃も与えた。

「まずはこいつからだ、どうせ雑魚どもじゃ手の出しようもないからな。」
「ええ、もちろん……『トールハンマー』!」
「……………!!」

 吹き飛ばされたウルくんを追い討ちするように雷の巨大なハンマーが出現し、彼を地面へ打ち付ける。そのダメージは彼にとっては大したようではなかったが……やはり魔法で縛られているせいか、回避を取るのはとてもじゃないが難しそうだった。

「『水災すいさい咆哮ほうこう』……手も足も出てないようだな。」
「…………ステータスが下げられようとも、魔力防壁の硬さは変わらない。」
「でも、避ける努力で精一杯だろ? はどこまで持つかな。」
(わ、私たちはどうすれば…………)

 ……今、私たちは守られている身。下手に手を出せばウルくんの邪魔になりかねないが…………は違うはずだ。

「ハルナさん、ミーファさん!! 2人ならウルくんの手助けができる、だから…………」
「…………いえ、手は出しません。皆さんは私たちが守るので。」
「「……………えっ!?」」

 予想外の却下に、ニイダくんと一緒に声を上げてしまう。また、それはハルナさんも同じようで、苦戦しているウルくんの姿を見ても何も動じることなく頷いた。

「ど、どうしてっすか? ハルナさんたちならあの仮面とも渡り合えると思うんすけど……」
「でも、多分勝てないよ。ステータスはともかく、私たちはまだまだひよっこだからね、あんな動きについていけるかどうかと言えば首を縦に触れないよ。」
「で、でもそれじゃウルくんが……!!」
「…………ライナさん。」

 私たちが慌てふためく姿を見て、ミーファさんは何故か小声で口を開き……私を安心させるよう、肩に触れた。

「信じてください、あの人を。ウルス様は……何か『考え』があるはずです。」
「か、考えって…………」
「ウルス様はいつも私たちを守ってくれます……それはライナさんも知っているはず。だから今は待ちましょう。」

 彼女の目はよどみがなく、何の迷いもなく彼を……ウルくんを信じていた。その姿はまるで…………


(…………確かに、何か『考え』があるなら任せた方がいい……けど…………)



『俺は……まだまだ青い。誰かの支えになれるほど強くないし、人の気持ちもちゃんと理解できない。ラナが思っているほど、万能じゃないんだ。』



『今にして思えば……2人はもう、戦いたくなかったはずだ。地獄をずっと受けてきて……もう何の危険もない、安らかな時間が欲しかったに違いなかったのに……俺は…………』




「…………本当に、いいのかな。」




 その疑問を打ち消せるほど、私に力は無かった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





















「お仲間は棒立ちだな……まあ、邪魔してきたら殺すが。」
「……お前らで殺せるとでも?」
「強がっちゃって、まずは自分の心配をしたらどう?」

 何度も繰り返される攻撃に耐えながら、俺は息を頑張って吐き散らす…………疲れるな。

「……俺を殺すのが、お前たちの目的か?」
「どうした、ついに命乞いか? ……ああそうだ、お前みたいな『異分子』は潰しておかないと後々面倒だからな。」
「まんまと作戦に引っ掛かってくれて助かったわ、普通に戦ったら流石の私たちでもでも足も出ないからね。おかげでの方も上手くいきそうだわ。」
「『あっち』…………?」

 俺の鸚鵡おうむがえしに、黄色の仮面の女が律儀に答えてくれた。

「ふふっ、無様ね。せっかく色々と準備していたようだけど、結局私たちデュオにはどうしようもないわね。」
「お前らには守るものがないからな。だから、どこまでも私利私欲で他人をおとしいれられる……何がためにそこまでできるんだ?」
「私利私欲? ……失礼だな、俺たちはちゃんとした『目的』があるんだ。」
「そうよ、あんたたちとは違って崇高すうこうな『夢』がある、それを叶えるために邪魔なのよ。」
(……何が崇高だ、屑が。)

 なんて言葉を吐く前に、続けて俺は奴らの話を引き出そうと口を紡ぐ。

「…………目的、だと?」
「ああ、そのためにお前や英雄の存在は邪魔すぎるんだ。どうせくだらない正義感で ソ レ を阻止してくるだろうしな。」
「英雄だけならどうとでもなったのに……本当に忌々しい存在よ、あんたは!」
「ぐっ…………」

 何をもって忌々しかったのか、黄色の仮面は俺の岩壁へと斬り飛ばし、俺の首を絞めようと持ち上げてきた。そしてじわじわとこちらの魔力防壁を削ろうと力を込め始める。

「いい加減なぶるのも飽きたわ……そろそろ終わりにしましょう?」
「それもそうだな、時間をかけても仕方ない。随分と呆気なかったが、これで俺たちの目的も達することが……」

 
 ……………もう、これ以上は何も引き出せないか。



「さぁ、精々苦しみなさい。これがデュオの力よ!」
「…………………













 

 ………………何が『力』だ。」



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