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十三章 龍と仮面
百四十八話 二度と
しおりを挟む(…………何人か中にいるな。)
魔力感知で俺の目の前の部屋……学院長室にいるであろう人物たちの反応を感じ取る。
時間は経ち、冬へ差し掛かってきたこの頃。数週間前から始まっていた調査隊の具体的な話をするため、俺は学院長に呼ばれていた。
また、部屋にいる数人の反応からして今回一緒に行動するのがこのメンバーに違いない。1人だけ全く知らない反応と学院長がまだ居ないことから、待機中だということは分かるが…………果たしてこのメンバーの意図は何だろうか。
「……あっ、ウルくん!!」
「おっ、来たっすね。とすればやはり同じ番号の人と組むってことになるんすかね?」
「らしいな……にしても仰々しい集団になったな、これは本当に実力者しか選ばれてないようだ。」
扉を開けると、そこにはラナとニイダ……そして、武闘祭決勝でアーストと組んでいた二刀流の使い手、ライト=ガッラが待っていた。
ガッラは俺を見た途端、何を思ってか嬉しそうな表情をする。
「……武闘祭以来だな、あれから強くなったか?」
「もちろん。そっちこそ、あの時はあまり戦いを見れなかったが……お前の実力はあんなものじゃないだろ?」
「ああ、タッグ戦は苦手だったからな。それに、アーストとはほとんど連携の練習もしていなかったし、今回こそこの調査隊で本領を発揮してみせるさ。」
「お前らバチバチだな、でも今回は勝負じゃないぞ?」
「いいじゃん、1年なのに臆してないだけ凄いって。」
そんな一言を告げたのは2年首席であるクルイであり、俺たちのやり取りに軽くため息を吐いていた。そして、クルイに突っ込んだのは…………例の知らない魔力反応の持ち主である1人の女だった。
その女は朱色の短髪に動きやすさ重視の黒い短パンや腰に巻いたホルダー付き茶色のベルト、半袖の白いシャツに茶色マントと、完全に戦うことに特化した服装をしていた。
(……腰に銅色のバッジ……ということは2年の上位ということか。)
「…………なんだ、ジロジロと見やがって。もしかして私のことを知らない口か?」
「……そうですね。」
格好を色々観察しているとその視線が気に障ったようで、女はこちらにズンと近づき、強く光る空色の瞳で俺の目を覗き込んできた。
「っ、あ、あの、近すぎじゃ……!!」
「…………うーん……なぁクルイ、本当にこいつは強かったのか? 見た感じそんな強そうには見えないが……」
「おいおい、見た目で判断するなよ……安心しろ、少なくとも次席のお前よりずっと強いから。」
「な、なんだと!!? てめぇ、首席になれたからって調子に乗ってるだろっ!!!?」
「いや、それとこれとは……って、揺らすな酔うだろ!!!」
(…………なんだ、この人は。)
名前・ワール=メイルド
種族・人族
年齢・17歳
能力ランク
体力・111
筋力…腕・109 体・134 足・130
魔力・121
魔法・15
付属…なし
称号…なし
……ステータスを見たところ、全体的に高めのバランス型な感じか。まだ戦い方は知らないから何ともいえないが……2年の上位で次席、ここにも呼ばれているということはそれなりの実力者であることは間違いないはず。それも追々見極めればいいが………………
「…………どうしたラナ、さっきからそんな顔して……」
「えっ……いや、何でも……ちょっとびっくりしただけ!」
(びっくり…………ワール=メイルドのことか?)
いきなり接近してきたメイルドを止めようとしたラナだったが、彼女が離れた後も頬を膨らませ、その声色もやや怒りの色を含んでいた。また、それを聞いたニイダは突然不気味な笑い声を上げた。
「くく……見てて面白いっすねぇ……」
「……何が面白いんだ?」
「ん? いやぁこっちの話っす。まあ言ってあげてもいいっすけど……」
「ちょ、いいよニイダくん!? 余計なこと言わないで!」
「はいはーい。」
「……何のやり取りだ?」
「…………解らん。」
ガッラの質問に、俺はそう答えるしかなかった。
「…………おっ、揃ってるなお前たち。」
「学院長……と、もう2人? 一体誰が…………」
しばらくして部屋の扉が開かれ、その主である学院長が入ってくる。だが、入って来たのは彼だけではなく…………
「……ミーファと……ハルナ?」
「はい、お久しぶりです……といっても1ヶ月無いくらいですけどね。」
「いぇい!! まさか私たちもウルスさ……」
「…………。」
「………っん、とこんなに早く再開できるとは思わなかったよっ!!!」
入室してきて早々口を滑らせようとしたハルナに睨みを効かせ、何とか1番面倒な展開を封じる。それこそニイダの兄であるクルイがこれでもかと探ってくるだろうしな……
「わっ、し、知り合いなのウルくん?」
「……確か、この2人は有名な若手冒険者だったか? そんな2人と何で1年のお前が知り合いなんだ、外で戦ったことでもあるのか?」
「……まあ、そんな感じです……そんなことより、今は先の話をしましょう。」
「ああ、そうだな。それじゃあみんな座ってくれ、ちょっと長話になるかもしれないからな。」
メイルドの勘繰りをそれとなく流しながら、学院長に早く話をするよう促す。すると、大体のことはもう聞いていたのかさらっと俺たちを長椅子に誘導して強引に中断してくれた。
また、学院長も自身の机の前に座り……俺たちを一瞥してからあることを聞いてきた。
「さて、本題に入る前に……1つだけお前たちに確認しておきたいことがある。」
「確認?」
「ああ……もうあらかた予想はついていると思うが、今から話すことは調査隊についての具体的な作戦だ。そして、この作戦はできるだけバレたくない……だから、ここからは誰にも他言無用で頼みたい。それほど重要で『隠密』に行いたい事だが……それが約束できない、もしくは覚悟がない奴は帰ってほしい。」
「……それほど、重い任務ということなんですか? その……神といった奴らは。」
「…………そうだ。」
学院長のただならぬ圧に、全員が表情を引き締める。俺もまた同じように顔を強張らせる…………意味は違うが。
(…………隠密か。確かに、今までの傾向からして奴らがいつ、どこで現れるか全く想像付かないが……それなら少しおかしな話だ。)
『…そこで…………今回、このソルセルリー学院の生徒と教師、そして冒険者から神デュオを捜索する調査隊を組むことにした!』
…………普通、『隠密に行きたい』というのならばそもそもの話、学院全員にわざわざあんな演説をする必要がない。
奴らは神出鬼没であり、神眼を持つ俺ですらその直前になるまで気配を悟れないほどに見つけるのが困難であり、だとすれば今この瞬間この場に現れてもおかしくは無い。
そんなことができるとなれば、当然日常のどこかで奴らが人知れず紛れていることも十分にあり得る。実際にアーストが取り込まれたのがその最たる例だ。
(…………どちらにせよ、今は聞くしか無いな。)
「…………もちろん、俺はやりますよ。弟が一度被害にあっていて、黙ってるほど甲斐性のない男じゃないので。」
「私も、そんな脅しを言われてビビらないっすよ。」
「そうか……じゃあ、1年の方はどうだ?」
「俺も大丈夫です。力を学んでいる身として、倒すべき敵から目を逸らすようなことはしたくないので。」
2年の2人とガッラは何も動じることなく答え、続いて2人に問いかけてくる……といっても、ラナとニイダの答えは聞くまでもないのだろう。
「…………当然、行くっすよ。」
「……はい、行きます。」
(………………)
ただ、彼らの表情は他の3人とは違い真剣などといったものではなく…………使命感に従っているような、力のある想いを感じた。そして、それはおそらく…………
『ぅ………ぅっ…………』
…………あんなのは、二度とごめんだ。
「…………ウルス、どうだ?」
「…………俺に、選択肢なんてありません。」
学院長もそれは分かっているだろう……だから今、彼が聞きたいのは……………
「乗ります、その作戦に。」
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