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十二章 虚と空 (調査隊編)

百三十九話 手数

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(全学年集合………いよいよ学院長の策が話されるということか。)

 秋も中盤を過ぎていこうとする今日この頃。本来ならいつも通り授業のある日だった平日だが、急遽開かれる召集しょうしゅうによって授業は無くなり、俺は朝からその集合場所へと向かっていた。


『まだ細かいことは何も決まってないんだ、こちらも色々と手続きがあってだな……もう少し待ってくれ。』

 
 …………学院生全員を集合させるということは、彼らもその策に巻き込むということなのだろうか。もしそうならば、はっきり言ってかなり危険で無茶なことだと思うが……学院長のことだ、流石に何か思惑があるはず。まずは話を聞いてから…………


「……パパは何を考えて………」
「……

 なんて考えていると、曲がり角のちょうど死角から人が出て来る。それに対し、俺はたまらずバックステップで衝突をか…………







「………………えっ?」
「………………?」




 …………俺は、常に神眼を発動しながら……魔力感知を行なっている。それはつまり……人から出てくる魔力の反応を視覚以外で感じ取っているということだ。
 
 だから……少なくとも、周囲に人がいるかどうかぐらいは分かるということ。なのに…………


(…………
「…………………」


 今、目の前でぼんやりとこちらを見つめてきている女は俺の魔力反応に……いや、そんなことがあり得るのか?? デュオたちが仕掛けてくるあの異様な空気が蔓延しているならともかく、今は正常だ。その証拠に、他の人たちの位置は簡単に魔力感知で確認できるが………この女だけ、何も…………


「…………………」
「…………な、なにか……?」

 俺の大袈裟な動きが気になったのかは知らないが、それでも何故か女は立ち止まってこちらの方をじっと観察してくる。

(み、見たところ……学院生か? しかしこんな人は一度も見たことがない……となると他学年、上級生なのか?)

 基本的に、わざわざ自分から他教室に向かわなければ他の学年の生徒と出会うことはほとんどない。それは教室の場所が違ったり時間割の組み合わせにもよるが…………まず知らないということは上級生に違いない。

 だが……肝心なその学年を示すためのバッジを、この人はどこにも付けていない。それどころか、寝起きなのか何なのかは知らないがやけに羽織っている薄緑のローブコートや膝まで伸びたスカート、ソックス全てが異様にクタクタでありと、かなり適当に服を身につけていた。

「………………君。」
「……は、はい。」

 無表情……いや、無感情な声が彼女の口から開かれ、俺は警戒しながら返事をする。すると……何を考えているのか、俺の方を見ずに何故か自身の緑色の色素が混ざった白髪をクルクルと指に巻いていく。
 そして、こちらのペースなんて知ったこっちゃないと言わんばかりに数秒間を置いてから、小さな声量で続きの言葉をつむいだ。



「……どこかで、

「………………えっ?」

 予想だにしていない質問に、俺の体は凍りついてしまう。

(……会ったこと……いや、こんな人は見たことも聞いたこともない。そもそもこの学院内で会ったことあるのか、それともここ以外の場所で会ったことがあると言っているのか……主語が分からない以上、答えようがない。)

 学院内で、と言うなら百歩譲ってあるだろうが……そんな顔を見たことあるくらいでわざわざ聞いてくるわけがない。ならやはり、外での話だろうが……もちろん記憶はない。

「……いや、無いと思いますが……」
「…………そう。」

 俺がそう返答すると、彼女は心底どうでも良さそうな目をこちらに向け始めた。何か俺の姿に誰かと重ねていたのかは知らないが……初対面にも関わらず、随分な態度だ。

「………………」
「……………まだ、何か?」

 しかし、彼女は未だ俺の顔をジロジロと見てくる。その顔は以前のフィーリィアのような冷たさを感じるが…………あの人を避けるような感覚とは違い、ただ冷徹れいてつて眼中にないような、形容し難いものだった。

「……君の、名前は?」
「名前……? ウルスです。」
「ウルス…………あの、うわさの?」
「……何の噂か知りませんが、多分それです。」
「……………へぇ。」

 彼女は依然として興味のなさそうな雰囲気を漂わせる……一体何を考えているんだ?


「…………強いの?」
「………はい?」
「だから、強いのかって。君は……強いの?」


 …………何を求めている、この女は。


「……………逆に、あなたにはどう見えてますか?」
「…………正直、なみ……かな。」

 俺の問いに、女は特に悪びれるわけでもなくそう答える。もしカリストなら今すぐにでも喧嘩を売りそうなもんだが……別に、そこまで気にするほどでも無い。



 だが…………重要なのは、俺より彼女のことだ。



「…………あなたは、強いのですか。」
「………………











 ……………強いよ。」

 
 ………カリストの時のような傲慢ごうまんさや、アーストのような自尊心じそんしんを全く感じさせない…………見栄みえ忖度そんたくの欠片もないその態度には『強者の気配』があった。

「…………じゃあ、行くね。」

 女は聞きたいことはもう無いのか、それだけを言い残して何処かへと歩いていってしまった。その背中にはどこかだらしなさを感じなくもなかったが……それでも隙のない、軸のある歩みをしていた。


(……魔力を感じられない。一体何者なんだ………?)


 


 










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「みんな、今日は急な集合で済まない。話はすぐ終わるが、今から伝えることはとても重要だ……しっかり耳を傾けていてくれ。」

 謎の女のことはひとまず置いておき、俺はその集合場所へと到着した。そしてしばらくした後に全員がこの場に集まったようで、学院長は前に立って話をし始める。

「集まってもらったのは他でもない……近頃、世間を賑わせている仮面の集団、デュオのことだ。以前、この学院にも襲撃され、幸いにも重傷者はが……またいつ、奴らがここや他の街を襲ってくるか分からないのが今の現状だ。」

 学院長は嘘を織り交ぜながら喋り続ける。

 なお、学院生のほとんどはデュオの襲撃が一度……夏の大会後に来た件だけしか知らされておらず、アーストの話はあの場にいた俺たちだけのこととしている。その理由は色々とあったりもするが……何より、生徒自身も利用されるという恐怖は必要以上の混乱を招きかねないという判断だろう。
 また、重傷者という話も下手に出せば俺のことがバレかねないことから、一応念のため黙ってもらっている。あまり隠し事を増やしてもメリットは無いが…………少なくとも、今話すべきでは無い。

デュオはここだけじゃない、人族の国のあらゆる場所で何か活動している報告もある。精霊族や獣人族での報告はまだ正式には届いてはいないが……確実に奴らの被害は出ているそうだ。そこで…………今回、このソルセルリー学院の生徒と教師、そして冒険者からデュオを捜索する『調査隊ちょうさたい』を組むことにした!」
(……調査隊………?)

 …………それが、学院長の策だというのか? 

「調査隊……つまり、決められたチームでデュオの存在が報告された、もしくは噂されている場所へとおもむいてもらう。そこで奴らの痕跡や情報を集められるだけ集めてもらいたいんだ……あと、先に言っておくが、戦闘を目的にしていくわけではない。そこのところは勘違いしないでくれ。」


 『戦闘が目的ではない』……それはそうだろう。雑魚の方ならともかく、もし赤仮面のような者が現れれば太刀打ちできる人間は、少なくとも生徒の中では俺……甘く見積もってカリストがいけるかどうかぐらいだろう。まず見つけたら逃げる以外に選択はない。

「そして、肝心の調査隊のメンバーの決め方だが……行う。」
「………今から?」

 随分と唐突なことに俺含め生徒たちは困惑の声を上げるが、学院長は構うことなく話を続ける。

「形式は至って簡単、2回ほどこちらが指名した相手と試合をしてもらうだけだ。もちろん、今回は特例なこともあって勝負の結果は一切成績には入らないし、結果だけを見てチームを決めるわけではない。普段のような模擬戦とは違った、な観点から君たちの戦いを判断し、調査隊として選ばしてもらう。」

 学院長の『実践的』という言葉に、学院生のほとんど……特に1年は首を傾げていた。おそらく『普段の試合は実践的ではないのか?』とでも思っているのだろう。
 
 これは考えれば当たり前な話だが、俺たちが普段行っている特訓や対人戦はあくまで勝敗を決めることが目的であり、決して相手を打ち負かす……つまり、ための戦いではない。それに対し調査隊としてこの街の外に出て、デュオを探すというのなら当然魔物との接敵は回避できない。
 その時はその魔物を倒すのではなく、殺さなくてはならない……何故なら、そうしなければこちらがられてしまうからだ。

(2、3年は課外活動で魔物と対峙していると聞いたが……流石にまだ何の経験もない1年が参加するとなると厳しいはず……?)

 そんな俺の疑問に答えるかのように、学院長は生徒を一瞥いちべつしてからそのことを伝えた。

「なお、今回は君たち生徒にも危険がともなう話だ……だから、仮に調査隊として選ばれたとしても断ってくれて構わない。それに、その調査隊に呼ぶ教師や冒険者も一定の実力がある者だけ参加させる予定だ。君たちの安全も今回は保証させてもらう。」
(…………ある程度、か。)

 一見、こちらの身を案じてくれているような言い方だが……学院長の顔は安心させるようなものではなく、もはやと勘違いさせるほどに真剣な表情だった。

「1年はもちろん2年3年も、少しでも自信がないと思ったら試合の結果の有無に問わず辞退するつもりでいてくれ。それほどにこの調査隊では何が起こるか分からない……学院での評価は捨て、自分の力が通用すると思った者のみ参加する意思を見せてほしい。それでは、しばらくしたら順に名前を呼んでいく……それまでここで待機していてくれ。」




「じ、自信……そんなにやばい奴らなのか、デュオっていうのは……?」
「分からない、けどこの前襲われて眠らされた子が『何をされたか理解できなかった』って……」
「俺……参加する気はないぞ。この前の魔物とやり合ったときも結構苦戦したし、今の実力じゃとても敵いそうにない……」


 学院長がここから去った瞬間、そんな不安と畏怖の声があちらこちらから飛び交ってくる。見たところ既に半数は試合の前から調査隊に参加する気は失せてしまっているようだ。


(……そもそも、ソルセルリー学院は最終的に魔物を倒し、国を守ったり冒険者として活躍するための教育機関だ。だから、弱音を吐いている人たちは正直情けない、臆病なのだろう…………)


 …………だが、それを言うのは酷な話だ。いくらそのためにここに居るといっても…………
 


『ぅ………ぅっ…………』



 ……誰だって、痛みを受けたくはない。今までなら相手は魔力防壁を壊すまでで許してくれる『対戦者』だったが……魔物はもちろん、デュオという『敵』はそこで手を緩めてくれるわけがない。必ず激痛を…………命を刈り取ってくるに違いない。


(…………だが、学院長は何故ここまで……?)

 そこまで思ったところで、俺はある疑問が頭に浮かぶ。それは……何故、調査隊を派遣……そして、どうしてここまで俺たちを脅したのか…………

(時期はともかく、もし調査隊を多く用意したいならここまで俺たち学院生の参加させる意思を削ったのか……あんなことを言われてしまったら、調査に出たいなんて言う人間はほぼいないはずだ。)

 彼なりの優しさといえば理解はできるが……それはそれで変な感じだ。無責任な言い分かもしれないが、数は多ければ多いほどその分デュオも追い詰められる。もちろんそんなことをするつもりなら俺が止めるが…………いまいち学院長の意図が読めない。



『だから、こっちのことは任せておいてくれ……なに、ちゃんとも借りる予定だ。発表の時まで今しばらく待機していてくれ。』



「…………俺の、力。」













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「おっ、ウルスさん。あなたもこの会場っすか?」
「……ニイダか、ああそうだ。」

 集会の後、俺は指定された訓練所まで移動した。するとそこにはニイダを含めた何十人かが集まっており、中には武闘祭で見た顔もいくつか居たりした。
 ニイダは俺の顔を見た途端、相変わらずの不敵な笑みでこちらに話しかけてくる。

「いやぁ思い出すっすね、入学試験の時のことを。あの時も確か俺とウルスさんの2人だったすよね?」
「そう言えばそうだったな……あの挨拶クナイは衝撃的だった。というかよくあんな真似をしたな、俺が通告していたらその時点で入学できなかっただろうに。」
「またまたご冗談を~、そんなちっさいことをする人じゃないことぐらい、俺も見抜いてたっすって。これでもには自信があるもんで。」
「…………そういえば、そんなことも言ってたな。」



『あんた、めちゃくちゃ強いでしょ。』



 いきなりあんなことを言われたのはかなり衝撃的だったが……今にして思えばあの行動も何か確信があってこそのものだ。だとすれば、その判断材料は…………


『そっすね……ちょっと感覚的な話になるっすけど、ここら辺の空気にがおかしい気がするんすよ。』


『いや、何も。俺には魔力暴走がどういう物かは分かんないっすし、『怯えてた』って言っても彼女のを見てそう思っただけっすよ。それに…………ウルスさん、フィーリィアさんには特別優しいっすからね。』



「……ニイダ、お前にとって俺の魔力は今どう感じる?」
「えっ、魔力っすか? そっすね………」

 俺が唐突にそう聞くと、ニイダは特にこちらを見るわけでもなく淡々と答えた。

「……今はステータスを抑えているからだと思いますが、これと言った特徴はありませんね。良くも悪くも見た目通り……ただ1を除いて。」
「……その『1つ』が、俺の力を見抜いた理由ってことか。」
「あ……なるほど。確かに話してませんでしたっすね、俺がウルスさんを何故射抜いぬいたか……じゃあ、軽く説明するっすよ。」

 そう言ったニイダは手を自分の体に当て、何かの流れをイメージさせるかのように指を心臓から腕へ撫でた。

「魔力というのは体を常に循環している……それは知ってるっすよね。」
「ああ、生物はその体内の魔力を使って魔法を放っている……それが関係しているのか?」
「まあ関係というか、俺が相手の強さや感情を知るための判断材料としているんすよ。例えば、魔力の流れが荒れている時は感情が激しく動いていたり、魔法を使っても魔力が落ち着いていたらその人は安定して魔法を使える人だったり……勘と言われればそこまでっすけど、そんな感じっす。」

 ニイダはなんとも言えない表情でそう告げた。

(……俺は、魔力感知の広さなら随一だと自負しているが……いくら何でも相手の感情まで知れるような力は持っていない。)

 魔力の圧や量から相手の力量を測るぐらいなら俺でもできるが、ただ相手の魔力を感じ取っただけでニイダのようなことは判断できない。それほどまでにニイダの魔力に関する察知能力は優れているということだが……重要なのはそこからだ。

「……それで、俺のことはどうやって判断した? 魔力の流れと言っても、抑えている状態じゃ量は測れないはず……お前は何を基準に俺を強いと決めつけた?」
「…………それはもう、ウルスさんは分かりやすかったっすよ……だって、あなたの魔力には全くと言って良いほどが無かったので。」
「………にごり?」

 聞き慣れない表現に、俺は首を傾げる。空間に存在する魔力の話ならともかく、人体の魔力にそんなものがあったりするのか………?

「どういう意味だ?」
「まあ、正確に言えばその逆……ウルスさんの魔力は誰よりも整っていてだった。これは俺の経験則なんすが、強い人ほど魔力の流れによどみがなく、洗練されているっす。例えば、魔法が苦手なソーラさんやローナさんなら流れに詰まりがあったり、逆にライナさんやカーズさんは魔力がんでいたりと、細か~い特徴があるんすよ。」
「……なら、俺の魔力は?」
「淀みもない、詰まりも濁りもなければ、特別澄んでいるわけでも圧倒されるような凄いものでもない……とにかく綺麗で、だった。それが俺にとっては違和感でしか無かったんすよ。」
「……つまり、俺の魔力は整いすぎて不自然だったということか?」
「…………まあ……はい。」

 ……確かに、言われてみれば俺はステータスを抑える際には良くも悪くも普通でいようとしている。その結果、ニイダからすればそんな普通すぎる魔力は目に余ったということなのだろうが…………



(……本当に、それだけのことで俺の力を判断したのか?)



 これは彼にしか分からない感覚なので、どうしようも無いことだが…………いくら魔力の流れが不自然だったとしても、その魔力だけで俺の力量なんて本当に見極められるものなのだろうか。何か他にも理由が…………


「それでは、名前を呼ばれた者は指定された舞台へ向かってください。この会場では……ウルス対ナチ=キール!」
「おっ、早速出番っすよ。ほらほら、いってらっしゃいっす!!」
「あ、ああ………」

 ニイダに半ば押されながら、俺はその舞台がある訓練所へと向かっていく。まだ気になることは幾つかあったが……また別の機会にでも聞いておこう。

(……それで、確か俺の相手は…………)



「まさか、こんな早く貴方あなたと戦う時が来るとは思いませんでしたわ……ウルスさん。」

 舞台へ上がると、そこには既に袋から例の魔鉄石まてっせきを手中に持っているナチ=キールの姿があった。
 彼女は俺を挑発するかのように長い茶髪を流しながら、戦闘態勢へと足早に入っていく。

「……確か、武闘祭でローナとやりあったんだよな。その石の操作の精密さには目を惹かれたよ。」
「そちらこそ、最終試合では物凄い動きでしたわ。あそこまで不可解な行動をされては私も手の打ちようがない……だから、でいかせてもらいますわ。」

 ……わざわざそんな宣言をするということは、他に何か策があるのだろうか。

(……もし言葉の通りなら、彼女は開始と同時に石を……10個全て飛ばしてくるだろう。俺の『不可解な行動』を抑えるためには手数で攻める……仮に違う選択を取るとしても、必ず石は使うはず。)

 …………なら………、試してみよう。


「それでは、試合を始める前にルールを説明します。基本的なルールは普段の大会と同じ、どちらかの魔力防壁を壊すかで勝敗が決まります。しかし、今回の勝負ではもう1つ、『5分間の制限』が存在します。」
「……5分間? その間に決着を付けないといけないのですか?」
「はい。もし試合時間が5分を過ぎれば、その時の優劣に問わず引き分けとなります……そこまで試合が長引くことはあまりありませんが、一応頭の中に入れておいてください。」

 ……5分間、か。この教員もそのルールの意味をそこまで理解していないのだろうが…………調査隊もとい魔物退治では、戦いが長引けば長引くほど命の危険だと言っても過言ではない。
 魔物はルールを守ってくれるわけでも『1試合』なんていう概念を持ち合わせているわけでもなく、相手を殺すまで手を緩めることは絶対にない。そんな相手がうじゃうじゃといる中で悠長に戦闘なんてしてられない。だからできるだけ短く、体力を使わないのがベストであり、死なないための基本的な考え方だ。

(……まあ、この戦いではそこまで求めれられていないだろう。時間のことは考えず、いつも通りやれば良い。)

 俺は剣を取り出し、浅く構える。そんな俺や準備万端のキールを見た教師は早速、開始を合図を出した。

「それでは………始めっ!!!」


「いきますわ、『スレッドスパイダー・ファイア』!!」
「宣言通り……か。」

 開始と同時にキールは手に持っていた方と腰につけていた袋に入っている石を一斉に放り投げ、全て赤い魔力の糸で繋いでいく。そして、そんな様子をただ傍観していた俺が気になったのか、彼女は口で意図を聞いてくる。

「……私のこれは知っているでしょう? なのに随分と余裕ですわね。」
「……そんなに焦るような攻撃じゃない、所詮は情報量が多いだけだ。」
「言ってくれますわね……なら、見せてくださるかしら!!?」

 自身の持ち武器を貶されたからか、キールはやや眉をひそめながら繋がれた石たちをあらゆる方向、タイミングで飛ばしてきた。

(複数の物を巧みに操る水平思考力は、俺にもそう簡単に真似できない芸当だが……元々の攻撃力は大したことないのが欠点だな。)

 そう思いながら俺は体を脱力させ、しなやかな状態にしてから飛んでくる石たちを剣で次々に弾き飛ばしていく。

「なっ……!!?」

 手数で完璧に抑え込められると思っていたのか、キールは大きく目を張っていた。それを確認した俺は次の攻撃が飛んでくる前に接近戦を仕掛けようと前進していく。

「驚いている暇は無いぞ、キール。」
「くっ……まだですわっ!!」

 俺の接近を恐れたキールは右指の石を自分側から、左指の石を俺の背後から挟み撃ちするよう同時に飛ばしてくる。本来なら、ジェットで回避するか水平斬りで弾くところだろうが…………せっかくだ、試してみせよう。

しゃ
「……!? 何を……!!」

 俺は石が到着する前に無詠唱で剣の魔法を唱えてから、おもむろに手前へと放り投げる。そして……

「『』」
「…………えっ!!??」

 俺がそう唱えて手を伸ばした瞬間、指先から緑色の風の魔力がC・ブレードへと繋がり、まるでキールの石のように宙へと浮かんでいく。
 それが成功したと思った直後に、俺はその剣を操作し……向かってくる石を一瞬にして弾き飛ばした。

「な、何故私の……ぐはぁっ!!?」

 困惑して固まっていたキールに容赦なく剣をぶつけ、大きく吹き飛ばす。また、追撃を仕掛けるために俺は吹き飛んでいく彼女を追いかけていく。

「はぁっ!!」
「がぁっ……動きが、全然違う……!!?」

 キールは俺の振り回している剣の挙動を見てそう呟く。

 彼女のスレッドスパイダーは石をのように扱うため、一つひとつの動きは遅いものの囲い込むような広い範囲をカバーできる動きだ。それに対し俺の方のイメージは糸ではなくであるため、範囲はやや狭くなるものの、しなるような柔軟性の高く速い攻撃が繰り出すことができる。

 同じ魔法でも、使い方や解釈の仕方で性質が変わるのはよくあることだ……まあ、それをオリジナル魔法でやられるとは思わなかっただろうが。

「ぐっ、がっ……!!」
「そろそろ終わりだ……!」

 どんどんダメージを与えていきながら石を破壊していき、やがて残り1つとなったところで俺は一度剣を彼女の目の前で静止させた。そして俺から伸びている魔力を吸収させ……一気にキールの元へ飛びついた。

「っ……はぁっ!!!」

 急接近に焦ったキールはなけなしの石を差し向けてくるが……俺は空いている手でそれをキャッチした。

「なっ……素手で、掴むなんて……!!??」
「手数だけじゃ、抑えられないものもある……覚えておくんだな。」

 そう言い残し、俺は魔力防壁を斬り壊した。



「……そこまで!! 試合時間40秒、勝者はウルス!!!」


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