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九章 凝華する心 『lose』
百十八話 鬼神化
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…………………
………。
(……………………。)
…………今、俺は……何を……………
「くくっ、もう間に………な。少し…………ずれた……これで…………」
(……この、声……そうか…………俺、は………)
やられた…………のか。それほど、あのアーストの暴走魔力は……強力だった……という、ことか。
(ま、ずい……意識が……体が………死にかけてる。)
腕、足、指……それどころか、口、脳、肺……全てが動かない。辛うじて開いている目も……何も映せない。焦点がボロボロなのか……?
「ウ、ウ……………どうした……か、あなたなら……こんなもの……もな…………ね……?」
「……ス……そ……………せっか………のに……起………よ……!」
「………………くん……!!」
(…………みんな……生きてる………な……)
…………何、安心してんだ……俺は、そんな小さな……甘えたこと言える……立場か?
「……うもくが、仮………………てか?」
「貴様………………ばかりだ…………ろ、よ……………恐れ………………が。」
(カリスト…………ルリア………)
もしかして……やる気なのか……あの仮面相手に………
「…丈夫……ウルスく………………た。もう、誰も……大……………に……だ……ら…………!!」
やめろ、ミル…………お前でもこの赤野郎には…………
「……ですね、ウルス………はいつも……………きた。」
「うん……ウルス…あのひ……………! 絶対……また立ち上………!」
やめろ………やめろ……ヤメろ…………
「それ……………稼ぐ……この人数………ける!!」
「……許……い………スを………!!」
立つな………ナンで…………お前たちじゃとても………
「そっす………許しちゃ駄め……………なら………ない…………また叱………れるっすし…………」
………………………。
【呪え。】
……………………そうだ
…………………人に縋るな
………………俺だろ
……………俺だろう
…………俺だ
………俺が
……俺
…おれ
オレ
…………僕が。
(…………『殺せ』。甘えた自分を……呪って、恨んで、憎んで……取るに足らない、意味のない『感情』なんて……何の意味がある?)
心配させない? 悲しませない? 守りたい?
(捨てろよ、そんな心。俺の原点は…………)
【運命の束縛者】
『 失 い た く な い 』 だ ろ
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「……さぁ、どうしてや………あぁ、今度はなんだぁ?」
赤仮面が手を振り上げ、魔法を放とうとした…………瞬間、空間が揺れた。
その発生源は…………なんと、『彼』だった。
(ウ、ウルスくん…………?)
「けっ、やっぱ復活して……って、はぁ?」
「か、髪が……白くなってる? 何かの魔法か……?」
ルリアさんの言う通り、ゆっくりと立ち上がろうとしている彼の髪は何故か白く染まっており、体からも何か異様な気配を発している……それも、明らかに目に見えるように。
(ま、魔力……? いや、でも何も……けど、じゃああれは………!?)
「……はぁ、すげぇよ本当。てっきり英雄が一番の厄介もんだと思っていたが……まさかお前が俺たちの脅威になるのか? 『運命』っていうのは残酷だぜ……」
「………………。」
「……なんとか言えよ、ウルス。そのボロボロの身体で俺にど」
その時……私は、瞬きをした。緊張からか、ずっと見開きっぱなしの眼はその乾きを潤そうと、自然と閉じてしまった。
コンマ1秒以下…………そんな数えるほどでもない秒数と動作。けど勝負の世界ではそれが命取りになることぐらい、私でも知っていた。予備動作、思考、判断……人は思っているより行動に時間を要さない。
………………だけど。
「……………ぇ?」
先に、自分の声が聞こえた。今日何度目の困惑か分からないが…………目の前に起こっているこの光景は、まず間違いなく違う世界だった。
「……えっ、あれ……? なんで、仮面が……?」
「倒れて……い、る……のですか? でも…え……??」
「……空間が歪ん……っ!??」
「ど、どうしたのフィー……うっ!?」
彼らの周りに浮かぶ、捻れた空間を見た途端……フィーリィアさんとローナさんが頭を抱え込んでしまう。それは2人だけではなく、他のみんなも次々と膝をついて苦しみ始める。
「ぐぅっ!? 何だ、これ……!!?」
「頭が……目が、痛い……! 何故急に……!?」
「み、みん……いっ?」
心配しようと動き出そうとした時、私にもその痛みが頭と目に走り始める。しかしその痛みはチクリとする程度で、みんなのように倒れるほどではなかった。
(なんで、私だけ……いや、それより今は……!)
「ウ、ウルスくん……いるんだよね、そこに……? これは、何が……?」
「………………」
「…………ウルくん?」
歪んだ空間からは何も返ってこず、私は覗き込むようにその空間を回り込む。するとどういうわけか、その歪みは横? には存在していないようで、徐々に彼らの姿を視認できるようになる。そして、そこには……仮面を踏みつけている彼の姿があった。
「ウ、ウル………!?」
「……その目、そうか…………くくっ。確かに、俺は傑作な野郎だった……『ソレ』を使われたらもう、言葉なんてこの世にいらねぇよな……」
「………………。」
「『英雄』なんて、お前にとっちゃそこらの人間と対して変わらない、ゴミ同然…………勿体ねぇ。そこまでの力を持ってして、何故なにもしない……こんな飯事に現を抜かして、束の間の平和を必死に謳歌することに、何の意味が…………」
「………………。」
「……ああ、そうだよな。口なんていらねぇんだよな…………だったら、もう何も言うことはない、惜しいがこのまま逃げ「死んでくれ。」」
(…………ぃま…なんて………?)
受けも聞いたこともない厭悪の言葉が、私の耳に届いた。また、それと同時に彼はボックスから剣を取り出す。
それはとても禍々しくて、黒くて……………
「死んで、知ってくれ。息を引く痛みを…………ナくすことの、渇きを。」
…………赤い瞳には、深淵が見えていた。
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