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九章 凝華する心 『lose』

百十七話 まもるため

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「………………守れ、ウルス。」

 何かを決意した、そんな声が聞こえた瞬間…………





「「「「「「「「………!!?」」」」」」」」







 私は、死を感じた。




























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 俺は…………何のために強くなった?



 自分を守るため? 力を見せつけたいから? 何でもできるようになりたいから?



『…………違うな。』



 誰がと一緒に過ごしたいから? 人を死なせたくないから? 困っている人を救いたいから?



『……………………』



 違う、俺は…………………





「まもるためだ。」



 
























『…………そうか。』



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「……………っ、ぇ……?」


 アーストが光り、ウルスくんが飛び出した……それからは、何も見えずただ体が宙に浮いた。
 衝撃、光の波動、風……様々な物が私たちを襲い、次に目を開いた時には…………私のようにあちこちに飛ばされたみんなと、アーストの目の前に倒れるウルスくんの姿があった。

「い、今、何が……どうしてウルスさんが倒れて………?」
「……こいつは驚きだ! 自爆するとは思ってはいたが……まさか魔力防壁を操作して被害を抑えたとは、練度が凄まじい! まともに相手してられねぇな。」
「ど、どういう………!?」
「おいおい、見てなかったのか? これはウルスも浮かばれねぇなぁ!?」

 赤仮面はそう言ってケタケタと笑い出すが…………私の耳にそんな笑い声は微塵みじんも届かなかった。


「…………そん、な……」


 彼は倒れたまま、ピクリとも動かない。何をしたのか、何をされたのか全く分からない…………それどころか、今……彼…が……………

「ウル……くん………」
(魔力の反応が……小さく…………?)



 人間の体内には魔力が存在し、常に流れている。それは寝ている時や意識がない時も同じであり……その反応が完全に無くなる時は…………それは…………


「ウ、ウルスさん……? どうしたんすか、あなたなら……こんなもの屁でもないっすよね……?」
「………………」
「……ウルス……? なんで、起きないの……」
「……………」
「…………こんな、そんなこと……あっていいのか……!? なあウルス、嘘だと言ってくれよ……!」
「…………」

 みんなの声に、彼は反応を示さない。また、それになぞらえるように魔力反応はどんどんと小さくなっていく。

「ウルス……そんな………せっかくみんなで優勝したのに……起きてよ……!」
「………」
「そうですよ……ウルスさん、まだあなたにはたくさん学びたいことが……!!」
「……」
「…………ウルくん……!!」
「…」

 …………こんなの、あんまりだよ………やっと、やっと、私は…………!!!


「くくっ、もう間に合わないな。少し予定とはずれたが、これで…………」
















「『ブレイクボンバー』」「切れ、『水紋』!」
「…………おっと?」


 膝から崩れ落ち、終わりを感じ取ったその瞬間……2つの魔法が赤仮面を襲う。その魔法たちは残念ながら避けられてしまうが……代わりに、2つの影が立ち上がった。

「何勝ち誇ってんだ盲目が、仮面で人数も数えられないってか?」
「……なんだ、今更やろうってのか?  お前たち如きが俺に勝てるとでも?」
「貴様こそ、そんな高いところから見下ろしてばかりだな。自ら手を下さないところ、よほどやられるのを恐れているんだな、腰抜けが。」
(カリスト……ミカヅキさん………)

 2人は何を思ってか、赤仮面を煽り始める。そしてその煽りが鼻についたのか、男は乾いた笑いで言い返す。

「はっ……お前たち、今の自分の立場を理解してるのか? マルク=アーストはもう使えないが、俺がちょっと手を出せばお前たちなんてすぐに殺せる。おまけに、ここには誰も助けに来ない……細工してあるからな。」
「細工……この空気の汚れ具合と関係が……?」
「おおっ、よく分かったな。まあそういうことだ、だから逃げることも不可能……お前たちは結局死ぬしかねぇってことだ。」



『お前たちの目指す 強さ っていうのはな……結局、見映え・名誉のお飾りでしかねぇんだよ。勝負だの戦いだの、ぬるま湯に浸かってるだけで喜んでるようじゃ、には勝てねぇんだよ。』


 
「うっ………ぅ……!!」

 あの時の記憶が、私の体を震わせる。それを必死に振り切ろうにも……恐怖が、思考を邪魔していく。

(なんで……あの時はできた、のに………まだ、私は動け……)

 火傷も、痺れもないはずなのに……私の体にはまるで稲妻に撃たれたかのような痛みの錯覚が起こる。そして、その痛みは体を縛りつけ、力を入れさせようとはしなかった。

「な……まだ……だって、2人が……!!」
「おうおう……金髪のお前はよく分かってるな。 まあ無理もない、一度味わった激痛と畏怖いふはそう簡単に抜け落ちないもんなぁ。」
「う……うるさ…い……わ、わたしだって………!」
「相変わらず威勢だけはいいな、笑えるっ! 何もできないくせに口だけは達者、そういう奴ほど夢半ばでくたばるんだよ!!」



『ウルくぅ………みんなぁ………いヤぁァぁっ!!!!!』



(ちがう……そんなこと………私は、わたしのゆめは……!!)



『………………でも、ウルくんは……もう、いない。』



(いたんだ……生きて……でも、いや、やだ………!)




『…………じゃあな、ラナ。』



(いや、いやぁ……待ってよ、ウルくん………やだ、いやだっ………)



 もう…………だめ……………














「……違う、ライナは…………そんな人じゃ、ない……!」
「…………!?? ミ、ミル……!?」

 不意に、抱えていた彼女……ミルから、か細い声が聞こえる。堪らず閉じてしまいそうになっている目をそちらに向けると、まだ傷が痛むのか、苦しそうな表情をしながらもしっかりと目を開けている彼女がいた。

「ライナ……怖がらないで。まだ、ウルスくんは………」
「で…でも………」
「大丈夫……ウルスくんはずっと、自分を鍛えてきた。もう、誰も……大切な人を失わないために……だから…………!!」
「ミ、ミル……立っちゃ……!」
「……………ん?」

 ミルは私の腕から離れ、ふらふらになりながらも腰にかけている細剣……ではなく、ボックスから見知らない武器を取り構える。すると、そんな姿を見た赤仮面は何故か唸り声を上げる。

「……まだ立つか、これはまた驚きだ。だが……そんななお前じゃ通用しな……」
「関係、ない……ウルスくんは、どんなに辛い時でも、耐えて、たえて……頑張ってきた。ずっと、ずっと…………それに比べたら、こんなの……痛くないっ!!」
「うぉっ…………?」

 ミルはその叫びと同時にアクアランスを飛ばし、赤仮面はそれを避ける。一見、その攻防自体におかしな流れは無かったが………

(は、速い……しかも、威力もいつもより……!?)
「……なるほど、お前も力を隠してた口か。これはちょっとは……って、またかよっ。」

 その言葉の意味を考えるより先に、多方から三度みたび赤仮面を襲う魔法が飛んでいく。それは…………


「……そうですね、ウルスさんはいつも僕たちの想像を超えてきた。」
「うん……ウルス…あの人はまだ生きている! 絶対にまた立ち上がる!」
「それまで俺たちが時間を稼ぐ……この人数ならいける!!」
「……許さない、ウルスを………!!」
「そっすね、許しちゃ駄目っすよ。ウルスさんなら絶対にここで挫けない……諦めてたらまた叱られるっすしね。」
「…………みんな………」




『うん、私もミルと…………と一緒に過ごすのは好きだからね。』




 …………そうだ、私はもう……1人じゃない。ミル、みんなが…………彼だって、生きてたんだ。


「……もう一度………!!」
「…………金髪。お前も、やるか?」
「……今度は……みんなであなたを倒すっ!!!」
「…………呆れた。だったら………












 …………皆殺しだ。」

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