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九章 凝華する心 『lose』
百十四話 復讐
しおりを挟む「………………。」
周りが歓喜の渦に飲まれている中、俺は何とも言えない気持ちで棒立ちしていた。
もちろん、嬉しい。裏式魔法もちゃんと機能し、200以上のステータスの差がある相手にも勝つことができ、これで学院長の願いを十分助けられたことだろう。加えて俺自身の思考スピードもより成長できた……これ以上の結果は何もないはず。
『来るな、化け物がっ!!!』
「……すぅ…………」
深呼吸で湧き上がる朧を吐き出す。
(…………女々しいな、本当に。)
「なんすかウルスさん、辛気臭い顔して。せっかく勝ったんすからもっと喜ばないと!!」
「……いや、ちょっと疲れただけ……って、フィーリィア?」
その時、いつの間にか舞台へと上がって来ていたニイダたちの声が聞こえ顔を上げると、その中には何故かローナに肩を借りているフィーリィアも居た。
そして、俺の驚く声に反応するかのようにこちらへと歩み寄って不意に俺の手を強く握ってきた。
「……えっと、その……ありがとう、ウルス。優勝してくれて……私をこのチームに入れてくれて。」
「…………俺はただ、フィーリィアの力がチームに必要だと思っただけだ。それにいくら作戦とは言え、フィーリィアには何度も無理をさせた……文句を付けられることはあっても感謝される謂れはない。」
「そんなことない。ウルスがいなかったら、私は何もできなかった……だから、本当にありがとう。それと…………」
そう言ってフィーリィアは俺の手を離し、カリスト含め他の3人にも頭を小さく下げた。
「……ニイダとローナも、ありがとう。2人が居てくれたから、私もこのチームで頑張れた。」
「え、そ、そんなことないよもう~! 照れくさいじゃんフィーリィア!!」
「そっすよ。フィーリィアさんも十分活躍してくれたし、俺たちもあなたと組めてとても楽しかったっす。フィーリィアさんも楽しかったっすよね?」
「…………うん。」
ニイダの問いかけに、フィーリィアは口元を綻ばせる。
(……あと、もう少しだろうか。)
彼女は初めて出会った時よりもずっと明るく、心を開くようになってきた。誰かに頼ることを覚え、共感を示せるような友だちも増えた。このままいければいずれ精神的にも安定し、魔力暴走の危険も限りなくゼロになるだろう…………
『私は、昔からまともに魔法を使えなかった……そのせいで、沢山の人を傷つけてしまった。』
『私は、人を傷つける…私が、傷つけたくなくても…そうなる……から、私は…わたし、はっ……!』
…………しかし、まだ根は張られている。それも深く、凍りつくように。
それを溶かせることができれば、きっと……消すことができるはずだ。
「………あと、カリストも。私の代わりに出てくれてありがとう。」
「……けっ。」
フィーリィアの感謝に、カリストは居心地が悪そうに呟く。フィーリィアはもう気にしてないようだな。
「だ、大丈夫かアースト?」
「……………」
その時、反対方向からガッラたちが倒れ込んでいるアーストへと駆け寄りそう声をかけるが……何故か反応がない。確かに怒涛の畳み掛けで多少なりとも衝撃を受けたとは思うが……流石に気絶するほどでは無かったはず。何か思うことでも……………
「………………認めない。」
「「「……え?」」」
(……………そう来るか。)
突如放たれた言葉にガッラたちは驚く。そしてゆっくりと立ち上がり、俺たちに向かって指を見下すように突き差してきた。
「……僕は認めない。君が、僕よりも強いなんて……認めない!」
「あ? 往生際が悪い奴だなぁ。負けに認めるもクソもねえんだよ。それに……『逃げるな』って言ったよな?」
「っ…………うるさいうるさい……認めない、認めないっ!!!」
「お、おいアースト、どこに行くんだ!?」
カリストの言葉が受け入れられなかったのか、アーストは子どもが癇癪を起こしたかのように怒り狂い、そそくさと舞台から降りて行ってしまった。また、その奇行にガッラたちはどうしたものかと首を捻らせる。
「ど、どうしたのかしらアーストさんは? あんな風に怒っているのは初めて見ましたわ……」
「さぁ……私も見たことがないです。負けたからといって、何もあそこまで……」
「……まあ、それほど熱くなってたってことだろ。あとで表彰式もあるし、その内落ち着いたら戻ってくる。それより今は…………」
そう話をまとめ、不意にガッラが俺たちの元へ近づいてくる。そして手をまっすぐに伸ばし、フッと薄く笑った。
「アーストの代理と言っちゃなんだが……まあ、締めとしてな。どうだウルス?」
「…………ああ。」
伸ばされた手を、俺はしっかりと握り返す。すると周りの観客たちはより一層舞台を沸かし、それこそ祭りのようにこの空気を熱く燃えていた。
(…………疲れたな。)
だが、俺の心はそれに逆らうように沈み、疲労しきっていた。
それは単に今日だけの話ではなく……きっと、『勝たなければいけない』という責任感から、気付かぬ内に溜め込んでしまっていたからだろう。
『逃げるなよ、アースト。ここでお前は俺たちに負ける……そして、現実を知ることになる。その現実が辛かろうが、先が見えなかろうが…………目を逸らすなよ。』
(……………きっと、それだけなんだ。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「クソ……クソ、クソっ!!!」
1人舞台から降りた僕は、その鬱憤を少しでも晴らそうと口々に呟いていた……が、全くと言っていいほどそれが解消されることはなく、むしろ憎しみが溜まる一方だった。
「なんで……僕の作戦は完璧だったはず。強化魔法を使ったカリストのステータスを奪って、そのままウルスごと倒す……300もあった僕のステータスで、完膚なきまでに打ちのめせたはず…だったのに………!!!」
仮に、1や2の誤差ならこんなことは起こりうる可能性はあったかもしれない。それくらい小さな差ならば何かのミスでひっくり返る……そんなことがないとは言えない…………だが………!!!
(200……200以上の差だぞっ!?? 力も速さも、どれだけ甘く見積もってもウルスとは3倍以上はある……天地がひっくり返ってもあり得ないぞ、そんなこと!!!)
それに加え……カリストの異常な力。
壁にぶっ飛ばし、完全に倒したと思ったら……カリストは突然目を青く光らせ、僕に歯向かってきた。しかもステータスをほぼ全て奪ったにも関わらず、ウルスと同等かそれ以上の速さ……絶対に何かが狂ってる。
「あァ……クソ………憎い……憎いにくいニクイ……」
おかしいのはあいつらだ、僕は正しいんだ、何も間違ってない……正しくてただしくて、偉くて、正しく……………
「そうだよなぁ……憎いよなぁ?」
「……!? 誰だ……?」
刹那、不意にそんな同情するような声が通路の遠くから聞こえた。
「誰? ……そうだな、お前に手を貸す者ってところか。」
「手を貸す……? ………なっ、その顔は……!??」
奥からゆっくりと近づいてくる、背の高い男の顔は………
「おいおい、今はどうでもいいだろそんなこと。今はお前の話だ。」
「な、何を言ってる。お前たちは……!」
「憎いんだろ、あいつら……ウルスが。」
「……!!」
その名前に体が反応した瞬間、男から急に何かを握らされる。そして…………
「ぐっ……ぐぁぁっ、何だ、これは……!?」
「これはお前の力を増幅させる、特別な石だ。ウルスに復讐するにはぴったりだろ?」
「復、しゅう………」
「ああそうだ、『復讐』だ。 あいつらがお前にしてきたこと、言ってきたこと……考えるだけでも狂いそうになる、そうだろマルク=アースト!」
…………………そう、ダ。
『世界の広さを、お前に叩き込んでやる。』
「……何ガ、『世界の広さ』だ。」
『止めてやる、お前を。』
「ボクは、止まラナい。」
『……守れないから。』
「マモる? だッたラ………」
『…………だ。くだらない理由で人に刃を向けるなら、相応の覚悟をしろって………』
「覚悟が、有レバイインダロ?」
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