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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)
百八話 野暮
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「……大丈夫かな、フィーリィア。」
「フィーリィアさんならきっと大丈夫っすよ。それより………」
決勝前、俺とローナさんは2人控え室でウルスさんの帰りを待ちながらどうするべきかと悩み込んでいた。
「……武闘祭って、本当に3人じゃ出れないの? タッグ戦を不戦敗にして無理矢理とかは………」
「確か、できないって規定に書いてありましたっす。『出場するなら4人じゃないと駄目』だって。うちには補欠もいないっすし、このままじゃ棄権っすね。」
「うーん……でもまあ、仕方ないかぁ。フィーリィアに無茶はさせたくないし…………ていうか、こんな一大事な時にウルスはどこ行ったの!?」
「さぁ……準決勝が終わった途端、急にどこかに行ったっすからね。朝もどっか行ってたし……何かあるんじゃないっすか?」
まさか、今更人を探していたりは……流石にないか。大体、既に出場している人を引き抜いたりはできないし、学年の違う人もそれはできない。さらに言えば、そもそも試合が始まった以上、そんな…………
「…………いや……確か………」
「? どうしたのニイダ?」
「……ローナさん、フィーリィアさんを運ぶ途中……彼女、『保険』がどうとか言ってませんでした?」
「……そういえば、『ウルスは保険を……』って言ってたような……でもそれがどうし…………」
「待たせたな、2人とも。」
その時、控室の扉が開かれると同時に聴き慣れた声が聞こえてくる。その声の主はもちろんウルスさんだったが……………
「「…………えっ!?」」
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『ついにやってきました!!! それでは武闘祭1年の部決勝戦、第1チーム対第19チームの試合を開始します!! シングル1の選手は出場してきてください!!』
「……あなたがニイダさん、ですか。よろしくお願いします。」
「えっと、確か……ロードさんだったっすね? よろしくっす。」
未だ彼に対しての動揺が収まらないまま、俺は決勝の舞台へと立つ。そんな俺の相手は上位5位のロード=アンクルさんだった。
(武器は……薙刀? これはちょっと厄介か……)
彼の背中には銀色の大きな薙刀が背負われており、あまり見ない種類の武器に俺は少し対策を練りきれていなかった。
(とりあえずステータスを見比べなければ…………)
名前・ニイダ
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・72
筋力…腕・66 体・74 足・93
魔力・78
魔法・13
付属…なし
称号…【忍・表流継承者】
名前・アンクル=ロード
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・80
筋力…腕・82 体・84 足・100
魔力・56
魔法・11
付属…なし
称号…【力の才】
その体格の通り、中々の力があるが……魔法に関しては俺の方が勝っている。薙刀の使い方にさえ気をつけていれば十分勝機はあるな。
『……それでは、シングル1の試合を開始します。用意…………始め!!!』
「いくっすよ!!」
「……速攻ですか。」
俺は定石通り、近距離戦を仕掛けるために合図と同時に攻め上がっていく。対するロードさんは迎え撃つつもりなのか、その場から動こうとはしなかった。
「好都合……はぁっ!!」
「…………!!」
あれは短剣を振るい、ロードさんは当然受け止めてくる。その結果、俺はその受け止められた時に生じる反動に従うように後退して、その反動を踏み出すための力として変換させる。
そして、再びロードさんへと飛び出しいつものように斬りつけと後退を繰り返して力を蓄えていく。
「なる、ほど……私が受け止めた時、の……力を、速さに変えてる……とっ!」
「ご名答、でももう遅いっすよ!!」
仕組みを見抜かれたものの、既に俺のスピードはステータス以上の物となっており、ロードさんに何か対処できるほどの隙はもう無くなっていた。
「はぁぁっ!!!」
(まずは最初のダメージを…………!)
「遅いのはあなたです。」
「…………!?」
十分高まったと判断した斬撃は、ロードさんを斬り飛ばそうと勢いよく振り翳されたが……呆気なく彼の回避に空かされた。
(今のを………しかも、最小限の動きだけで………!?)
「らっ!!!」
「ぐぅっ!!?」
完璧な回避に、完全に虚を突かれた俺をロードさんは薙刀の突きで吹き飛ばす。
すかさず俺は地面を転がりながら彼の動きを分析し、対策を立てようとするが……彼はそれを許そうとはせず、すぐさま距離を詰めてくる。
「っ、速いっすね……!!」
「聞いたところによると、あなたも中々の強敵と言われているようで。だから……短期戦でいかせてもらいます!」
「……それは、俺も願ったり叶ったり!!」
元々、俺だって長期戦は得意じゃない。向こうから近距離で攻めてくれるならそれに越したことはないが…………
(くっ……全然ブレない……!!)
『軸』がしっかりしていると言うのか、お互いの剣撃の最中でもロードさんは全くと言っていいほど動きに不安定さが無かった。そのせいでつつく隙も見当たらず、彼のステータスの高さにじわじわと壁際まで追い詰められていく。
「奥の手、は、使わないの……ですかっ!」
「……そう、言われて『はい使います!』って、返す馬鹿は……そうそう、居ないっすよ!!」
「…………くっ!?」
俺はそう言い放他と同時に、その場から飛び上がって壁を蹴り大きく距離を取りながら、下手の彼に細やかな斬撃を与える。
その攻撃は大したものでもなかったが、おそらく彼の予想外の物だったこともあってまたすぐに距離を詰めて来るようなことはなかった。
(今のうちに…………)
「……面白い行動ですが、それくらいじゃ痒いだけです。」
「人生、痒くてもどかしいぐらいが一番楽しいんすよ?」
「…………何を言ってるんですか??」
脳なしの会話で時間を稼ぎながら、苦無ノ舊雨の準備をしていく。幸いにも俺の魔法について詳しくは知らないようで、俺が手を後ろに隠してもロードさんは特に反応を示すことはなかった。
(最大出力で……そのためには…………!)
「…………剣はもう終わりですか?」
「さぁ、どうすか……ねっ!!」
『錬成・クナイ』
「……っ!」
俺は空いている手でクナイを作り出し、距離を取りながらから目掛けて投げ飛ばす。もちろん不意打ちとはいえ距離もあったのでロードさんは軽々とそれを避けるが……それはそれで構わない。
「……浅いですよ。そんな物、当たる方が難しい!」
(やっぱ、来るよな……!!)
予想通り、ロードは距離を取りたがっている俺へと接近してくる。それに対してどんどんクナイを投げ続けていくが、当然当たらない。
しかも、彼の方が純粋な速さは上手なため、追いつかれるのは時間の問題……そして、その時間では苦無ノ舊雨の最大威力にはギリギリ届かない。
「万策、尽きましたか?」
「まさかっ、お楽しみはこれからっすよっ!!」
口八丁に虚勢を張りながら、どうやって時間を稼ぐか思考を巡らせる。
(このまま普通にクナイを投げているだけじゃ意味がない、かといって何かウルスさんのように相手を嵌める策も浮かんでこない…………)
俺が今できるのは、再び剣で攻めるかクナイを投げ続けるか……しかし、剣はどの道当たることはもうないだろう。
(考えろ……手はあるはずだ、どこか……今までの戦いで見てきたものを…………!!)
『…がっはっは! 肝に命じておくよ!』
『……やってくれたな。』
『おっ、無詠唱でも使えるんすかそれっ!』
『…………燃えろ、『ドラゴンブレス・ファイア』!!』
「…………くくっ。」
…………我ながら、馬鹿らしい策だ。
(だが……『コレ』が今、俺が考えうる最善手!!)
「さぁ、お楽しみっすよ!!!」
「……そのクナイで、私の薙刀を封じれるとでも?」
俺は苦無ノ舊雨の準備を切らないようにしながら、ある部分へ全神経を集中させる。そしてロードさんとの距離を詰め、より効果的な機会を狙い定める。
案の定、彼は何の迷いもなく薙刀を構えてきたが…………そうじゃないんだよな、これが。
「すぅぅっ………はぁぁっ!!!」
「さぁ、かかってきてください!」
間合いに入る直前、俺は大きく息を吸い込むと同時に口を大きく開けた。また、空いている手でクナイを持ちながらロードさんの気をそちらへと向けさせる。
そして、ロードさんが俺のクナイを弾こうと薙刀を振りかざしてきた瞬間…………
『錬成・クナイ』
「ばぁっ!!!!!」
「っ!???」
口から、クナイを飛ばした。
(決まった、今だっ!!)
「確か、こうっすよね……ウルスさんっ!!!」
「くっ……ぐはぁっ!!?」
本来ならあり得ないところから出てきたクナイにロードさんは流石に対応しきれなかったようで、もろにクナイを受けて怯んでいた。
また、そうなることを確信していた俺は見様見真似の回し蹴りを彼に食らわせ、大きく吹き飛ばした。
「さて……決着っすよ、『苦無ノ舊雨』!!!!」
「っ…………!!」
彼が立ち上がる前に、俺は足早に最大まで溜まったそれを発動させる。するとロードさんの上空には夥しい数のクナイが出現し、一斉に豪雨として降ってきた。
(これで、1勝…………)
そう思い込み、気を抜いた瞬間…………
「甘いですよ、ニイダさん。」
彼は、そう言ってクナイの雨を捌き始めた。
「なっ………!!?」
(よ、避けてる……!?? )
苦無ノ舊雨は圧倒的な物量があることから、基本的に防御することはできない。ましてやこの量…………大楯でもない限り無効化は普通不可能だ。
だが……彼は軽やかな体捌きと薙刀を上手く扱い、クナイの豪雨による攻撃を最小限にまで抑え込んでいた。
「流石に、多い、です…が、この程度、では、私には通用……しません!!」
「くっ……なら、ここから………うっ!?」
苦無ノ舊雨が決まらなかったことに尾を引かれながらも、俺は追撃の魔法を飛ばそうとしたが……途端、体に力が入らなくなっていき、それと同時に小さな頭痛が走っていく。
「これは……魔力、切れ……!?」
「まあ、この量、です……そうなるのも、必然ですっ。」
……確かに、最大出力の苦無ノ舊雨は量が多い分、魔力消費も半端ではないが……まさか、こんなところで………!!
(ま、満足に……動かせない………)
なんとか体を前に進めようとするが、一気に襲ってきた倦怠感が心身を犯し始め、たまらず膝をついてしまう。
やがて……俺が足掻いているうちにクナイの雨は降り終わり、ロードさんが俺の側へとゆっくり近づいてくる。
「降参しますか? 私も弱りきった相手に手をかけるような真似はあまりしたくないので、できればそうして欲しいですが。」
「……それは、つまんないっす……よ。勝負なんす、から……きっちり、決着はつけない、と……」
挑発か本心か分からない発言に、俺は腐るようにそう吐き捨てる。すると俺の意思を汲んでか、彼は大きく薙刀を振りかぶった。
「……そうですか、なら一思いに終わらせます。覚悟はいいですか?」
「そういうこと、聞くのは…………
…………野暮っすよっ!!!!!」
俺はついていた膝を崩し、大きく横へ転がって薙刀の軌道から外れる。そして短剣を抜き、半ばヤケになりながらもロードさんへと突撃する。
「勝負は、最後まで…………!!」
「分からない……知っていますよ!!」
彼も俺がここで潔く終わると思っていなかったようで、俺の突然の行動に驚くことなく最後の斬撃を振おうとしてきていた。
そして………………
「はぁぁっ!!!!」
「ぐぅ、がはぁっ……!!」
俺の魔力防壁は、壊された。
「……大丈夫かな、フィーリィア。」
「フィーリィアさんならきっと大丈夫っすよ。それより………」
決勝前、俺とローナさんは2人控え室でウルスさんの帰りを待ちながらどうするべきかと悩み込んでいた。
「……武闘祭って、本当に3人じゃ出れないの? タッグ戦を不戦敗にして無理矢理とかは………」
「確か、できないって規定に書いてありましたっす。『出場するなら4人じゃないと駄目』だって。うちには補欠もいないっすし、このままじゃ棄権っすね。」
「うーん……でもまあ、仕方ないかぁ。フィーリィアに無茶はさせたくないし…………ていうか、こんな一大事な時にウルスはどこ行ったの!?」
「さぁ……準決勝が終わった途端、急にどこかに行ったっすからね。朝もどっか行ってたし……何かあるんじゃないっすか?」
まさか、今更人を探していたりは……流石にないか。大体、既に出場している人を引き抜いたりはできないし、学年の違う人もそれはできない。さらに言えば、そもそも試合が始まった以上、そんな…………
「…………いや……確か………」
「? どうしたのニイダ?」
「……ローナさん、フィーリィアさんを運ぶ途中……彼女、『保険』がどうとか言ってませんでした?」
「……そういえば、『ウルスは保険を……』って言ってたような……でもそれがどうし…………」
「待たせたな、2人とも。」
その時、控室の扉が開かれると同時に聴き慣れた声が聞こえてくる。その声の主はもちろんウルスさんだったが……………
「「…………えっ!?」」
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『ついにやってきました!!! それでは武闘祭1年の部決勝戦、第1チーム対第19チームの試合を開始します!! シングル1の選手は出場してきてください!!』
「……あなたがニイダさん、ですか。よろしくお願いします。」
「えっと、確か……ロードさんだったっすね? よろしくっす。」
未だ彼に対しての動揺が収まらないまま、俺は決勝の舞台へと立つ。そんな俺の相手は上位5位のロード=アンクルさんだった。
(武器は……薙刀? これはちょっと厄介か……)
彼の背中には銀色の大きな薙刀が背負われており、あまり見ない種類の武器に俺は少し対策を練りきれていなかった。
(とりあえずステータスを見比べなければ…………)
名前・ニイダ
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・72
筋力…腕・66 体・74 足・93
魔力・78
魔法・13
付属…なし
称号…【忍・表流継承者】
名前・アンクル=ロード
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・80
筋力…腕・82 体・84 足・100
魔力・56
魔法・11
付属…なし
称号…【力の才】
その体格の通り、中々の力があるが……魔法に関しては俺の方が勝っている。薙刀の使い方にさえ気をつけていれば十分勝機はあるな。
『……それでは、シングル1の試合を開始します。用意…………始め!!!』
「いくっすよ!!」
「……速攻ですか。」
俺は定石通り、近距離戦を仕掛けるために合図と同時に攻め上がっていく。対するロードさんは迎え撃つつもりなのか、その場から動こうとはしなかった。
「好都合……はぁっ!!」
「…………!!」
あれは短剣を振るい、ロードさんは当然受け止めてくる。その結果、俺はその受け止められた時に生じる反動に従うように後退して、その反動を踏み出すための力として変換させる。
そして、再びロードさんへと飛び出しいつものように斬りつけと後退を繰り返して力を蓄えていく。
「なる、ほど……私が受け止めた時、の……力を、速さに変えてる……とっ!」
「ご名答、でももう遅いっすよ!!」
仕組みを見抜かれたものの、既に俺のスピードはステータス以上の物となっており、ロードさんに何か対処できるほどの隙はもう無くなっていた。
「はぁぁっ!!!」
(まずは最初のダメージを…………!)
「遅いのはあなたです。」
「…………!?」
十分高まったと判断した斬撃は、ロードさんを斬り飛ばそうと勢いよく振り翳されたが……呆気なく彼の回避に空かされた。
(今のを………しかも、最小限の動きだけで………!?)
「らっ!!!」
「ぐぅっ!!?」
完璧な回避に、完全に虚を突かれた俺をロードさんは薙刀の突きで吹き飛ばす。
すかさず俺は地面を転がりながら彼の動きを分析し、対策を立てようとするが……彼はそれを許そうとはせず、すぐさま距離を詰めてくる。
「っ、速いっすね……!!」
「聞いたところによると、あなたも中々の強敵と言われているようで。だから……短期戦でいかせてもらいます!」
「……それは、俺も願ったり叶ったり!!」
元々、俺だって長期戦は得意じゃない。向こうから近距離で攻めてくれるならそれに越したことはないが…………
(くっ……全然ブレない……!!)
『軸』がしっかりしていると言うのか、お互いの剣撃の最中でもロードさんは全くと言っていいほど動きに不安定さが無かった。そのせいでつつく隙も見当たらず、彼のステータスの高さにじわじわと壁際まで追い詰められていく。
「奥の手、は、使わないの……ですかっ!」
「……そう、言われて『はい使います!』って、返す馬鹿は……そうそう、居ないっすよ!!」
「…………くっ!?」
俺はそう言い放他と同時に、その場から飛び上がって壁を蹴り大きく距離を取りながら、下手の彼に細やかな斬撃を与える。
その攻撃は大したものでもなかったが、おそらく彼の予想外の物だったこともあってまたすぐに距離を詰めて来るようなことはなかった。
(今のうちに…………)
「……面白い行動ですが、それくらいじゃ痒いだけです。」
「人生、痒くてもどかしいぐらいが一番楽しいんすよ?」
「…………何を言ってるんですか??」
脳なしの会話で時間を稼ぎながら、苦無ノ舊雨の準備をしていく。幸いにも俺の魔法について詳しくは知らないようで、俺が手を後ろに隠してもロードさんは特に反応を示すことはなかった。
(最大出力で……そのためには…………!)
「…………剣はもう終わりですか?」
「さぁ、どうすか……ねっ!!」
『錬成・クナイ』
「……っ!」
俺は空いている手でクナイを作り出し、距離を取りながらから目掛けて投げ飛ばす。もちろん不意打ちとはいえ距離もあったのでロードさんは軽々とそれを避けるが……それはそれで構わない。
「……浅いですよ。そんな物、当たる方が難しい!」
(やっぱ、来るよな……!!)
予想通り、ロードは距離を取りたがっている俺へと接近してくる。それに対してどんどんクナイを投げ続けていくが、当然当たらない。
しかも、彼の方が純粋な速さは上手なため、追いつかれるのは時間の問題……そして、その時間では苦無ノ舊雨の最大威力にはギリギリ届かない。
「万策、尽きましたか?」
「まさかっ、お楽しみはこれからっすよっ!!」
口八丁に虚勢を張りながら、どうやって時間を稼ぐか思考を巡らせる。
(このまま普通にクナイを投げているだけじゃ意味がない、かといって何かウルスさんのように相手を嵌める策も浮かんでこない…………)
俺が今できるのは、再び剣で攻めるかクナイを投げ続けるか……しかし、剣はどの道当たることはもうないだろう。
(考えろ……手はあるはずだ、どこか……今までの戦いで見てきたものを…………!!)
『…がっはっは! 肝に命じておくよ!』
『……やってくれたな。』
『おっ、無詠唱でも使えるんすかそれっ!』
『…………燃えろ、『ドラゴンブレス・ファイア』!!』
「…………くくっ。」
…………我ながら、馬鹿らしい策だ。
(だが……『コレ』が今、俺が考えうる最善手!!)
「さぁ、お楽しみっすよ!!!」
「……そのクナイで、私の薙刀を封じれるとでも?」
俺は苦無ノ舊雨の準備を切らないようにしながら、ある部分へ全神経を集中させる。そしてロードさんとの距離を詰め、より効果的な機会を狙い定める。
案の定、彼は何の迷いもなく薙刀を構えてきたが…………そうじゃないんだよな、これが。
「すぅぅっ………はぁぁっ!!!」
「さぁ、かかってきてください!」
間合いに入る直前、俺は大きく息を吸い込むと同時に口を大きく開けた。また、空いている手でクナイを持ちながらロードさんの気をそちらへと向けさせる。
そして、ロードさんが俺のクナイを弾こうと薙刀を振りかざしてきた瞬間…………
『錬成・クナイ』
「ばぁっ!!!!!」
「っ!???」
口から、クナイを飛ばした。
(決まった、今だっ!!)
「確か、こうっすよね……ウルスさんっ!!!」
「くっ……ぐはぁっ!!?」
本来ならあり得ないところから出てきたクナイにロードさんは流石に対応しきれなかったようで、もろにクナイを受けて怯んでいた。
また、そうなることを確信していた俺は見様見真似の回し蹴りを彼に食らわせ、大きく吹き飛ばした。
「さて……決着っすよ、『苦無ノ舊雨』!!!!」
「っ…………!!」
彼が立ち上がる前に、俺は足早に最大まで溜まったそれを発動させる。するとロードさんの上空には夥しい数のクナイが出現し、一斉に豪雨として降ってきた。
(これで、1勝…………)
そう思い込み、気を抜いた瞬間…………
「甘いですよ、ニイダさん。」
彼は、そう言ってクナイの雨を捌き始めた。
「なっ………!!?」
(よ、避けてる……!?? )
苦無ノ舊雨は圧倒的な物量があることから、基本的に防御することはできない。ましてやこの量…………大楯でもない限り無効化は普通不可能だ。
だが……彼は軽やかな体捌きと薙刀を上手く扱い、クナイの豪雨による攻撃を最小限にまで抑え込んでいた。
「流石に、多い、です…が、この程度、では、私には通用……しません!!」
「くっ……なら、ここから………うっ!?」
苦無ノ舊雨が決まらなかったことに尾を引かれながらも、俺は追撃の魔法を飛ばそうとしたが……途端、体に力が入らなくなっていき、それと同時に小さな頭痛が走っていく。
「これは……魔力、切れ……!?」
「まあ、この量、です……そうなるのも、必然ですっ。」
……確かに、最大出力の苦無ノ舊雨は量が多い分、魔力消費も半端ではないが……まさか、こんなところで………!!
(ま、満足に……動かせない………)
なんとか体を前に進めようとするが、一気に襲ってきた倦怠感が心身を犯し始め、たまらず膝をついてしまう。
やがて……俺が足掻いているうちにクナイの雨は降り終わり、ロードさんが俺の側へとゆっくり近づいてくる。
「降参しますか? 私も弱りきった相手に手をかけるような真似はあまりしたくないので、できればそうして欲しいですが。」
「……それは、つまんないっす……よ。勝負なんす、から……きっちり、決着はつけない、と……」
挑発か本心か分からない発言に、俺は腐るようにそう吐き捨てる。すると俺の意思を汲んでか、彼は大きく薙刀を振りかぶった。
「……そうですか、なら一思いに終わらせます。覚悟はいいですか?」
「そういうこと、聞くのは…………
…………野暮っすよっ!!!!!」
俺はついていた膝を崩し、大きく横へ転がって薙刀の軌道から外れる。そして短剣を抜き、半ばヤケになりながらもロードさんへと突撃する。
「勝負は、最後まで…………!!」
「分からない……知っていますよ!!」
彼も俺がここで潔く終わると思っていなかったようで、俺の突然の行動に驚くことなく最後の斬撃を振おうとしてきていた。
そして………………
「はぁぁっ!!!!」
「ぐぅ、がはぁっ……!!」
俺の魔力防壁は、壊された。
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