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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)
百二話 鳴らした
しおりを挟むハルナとミーファと再会した、その2日後………ついにその日がやって来た。
「…………あっ、やっと帰って来た! もうどこ行ってたのウルス!?」
「すまん、ちょっと野暮用があったんだ。」
「それにしてもギリギリっすね……まあ間に合ったからいいっすけど。」
武闘祭、本番当日。俺は少し保険をかけるために時間ギリギリまで出かけていた。そして何とかその用事も終わり、ローナたちと合流して大会の準備をさっさと終わらせていく。
「……何の野暮用だったの?」
「ああ、本当に大したことじゃないから気にしないでくれ。」
「えぇーますます気になるっすねぇ?」
「もう、みんな緊張が無さすぎだって……私なんて腕がプルプルしちゃってるよ!」
「…………よし、待たせたな。」
ギャーギャーとみんなで騒いでいるうちに俺は戦う準備を完了させ、みんなにそう声をかけた。
そして時間も迫って来ていたため、俺たちは早々に控え室を出ようとしたところ…………急に前を歩いていたローナが何やらポケットの中を探り始めた。
「どうしたんすか、ローナさん? ちゃんと前見ないと危ないっすよ。」
「えっと、確かここに…………あった!」
「…………赤い鉢巻?」
フィーリィアの言う通り、ローナがポケットから取り出したのは4本の至って普通の赤い鉢巻だった。すると、彼女は俺たちにそれぞれ1本ずつ渡してからその鉢巻を自身の頭に巻き始めた。
「…………これでバッチリ、みんなも付けてね!」
「ローナ、何なんだこれは?」
「『何なんだ』って、チームの証だよ!! やっぱり仲間たるもの、連帯感は大事だからねっ!」
「そういうことっすか……ならっ。」
そう言ってニイダは頭……ではなく、自身の灰色のスカーフに結ぶように巻き付けた。それを見た俺は腕に、フィーリィアは手首に鉢巻を括り付けた。
「えっ、頭に付けないのみんな?」
「……まあ、頭だと引っ張られたら不味いからな。」
「…………頭に締め付けられる感じが、好きじゃない。」
「あ、俺は趣味っす。」
「…………さ、さいですか……」
自由な俺たちに言葉が出なかったのか、何とも言えない表情でローナは呟く。まあ本当はどこでも良いんだが……何となくだ。
『……それでは、只今より武闘祭・1年の部を開催します。まず初めに当たるのは第1チームと…………』
「おっ、始まったっすね。」
「よし、じゃあ呼ばれる前に円陣を組もう!!」
「円陣……私はちょっと……うっ!」
フィーリィアの有無を言わずに、ローナは無理やり俺たちの肩を掴んで円を作り…………何故か俺に振ってきた。
「それじゃあ……リーダーのウルス! 何かみんなに向けて一言を!!」
「………ここはローナじゃないのか? というかこのチームにリーダーなんていないだろ。」
「まあまあ、何だかんだこういうのはウルスさんが適任っすから。このチームを引っ張ってきたのもウルスさんっすし、誰も異論は無いっすよ。」
「……私も、ウルスがリーダーでいい。」
「………………はぁ。」
流れでリーダーになってしまったが…………まあ、仕方ない。
「…………俺たちは、今日まで厳しい特訓をしてきた。その成果を見せつけるためにも………
…………………絶対優勝するぞ!」
「「おぉっー!!!」」
「………おぉー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『それでは、1回戦第1試合……第1チームと第2チームの勝負を開始します! シングル1の選手は登場してください!!』
「頑張ってね、ニイダ!!」
「おっす、すぐ終わらせてくるっすよ~」
ニイダは初陣にも関わらず、そんな飄々した様子で舞台へと上がっていった。
そんな様子が少しアレだったのか、フィーリィアは不安そうに俺に聞いてきた。
「……いきなり上位のいるチームと当たったけど…………大丈夫なの?」
「心配ない、俺たちはもう十分強い。それに……例え誰が相手でも、落ち着いて対処していけば勝てないなんてことはない。上位だろうが主席だろうが……な。」
「…………うん、そうだね。」
俺の言葉にフィーリィアは納得したのか、安心しながら舞台の方へと顔を向けた。
『……それでは、シングル1の試合を開始します。用意…………始め!!』
「じゃあ……いくっすよっ!!」
(……速攻か。)
試合の開始と同時に、ニイダは対戦相手目掛けて突撃していった。おそらく相手の長物の武器を見て、懐から崩していこうと考えたのだろう。
相手も当然それを警戒したようで、距離をとりながらニイダに魔法を放ってきた。
「燃やせ、『フレイム』!」
「よっと。」
「なっ……!?」
しかし、飛んでくる炎を軽やかに避けたニイダはそのままスピードを落とさず前進していく。
「くっ……このっ!」
あまりにも簡単に避けられたことに焦ったのか、相手はまんまと両手剣を引き抜きニイダを待ち構えてしまった。
それを見たニイダは…………したり顔を作った。
「……………はっ!!」
「は、速っ……ぐはぁっ!!?」
相手の間合いに入った瞬間、ニイダは左右にフェイントを織り交ぜていく。そしてさっき以上のスピードを直前に解放することで相手に錯覚を起こさせ、視界から消させた。
その結果、相手は完全に対応が遅れてしまい……ニイダの短剣に斬り刻まれていった。
「ぐぅっ、がぁっ、あぁっ!!!?」
「ほらほら、終わっちゃうっすよぉ~?」
「く、クソっ……うぉあっ!!!」
ニイダの煽りに反応した相手は、がむしゃらに剣を振るって彼を引き離そうとしたが……ニイダは完全に軌道を読み切っていたようで、楽々と斬撃を躱しながらどんどん攻撃を続けた。
「す、凄い……相手の剣も遅くは無いのに……!」
「……ニイダは動きのキレが人一倍極まってる。だから、咄嗟のことでもすぐに体が反応できるんだ。」
それに加え、相手を分析する観察眼に……魔力に対しての敏感さ。これらを今以上に戦いで扱えるようになれば、いつか唯一無二の戦闘スタイルを確立できるだろうな。
「これで………トドメっす!!!」
「ぐっ、ぐぁぁっ……!!!?」
ニイダは混乱したままの相手に渾身の一撃を喰らわせ……魔力防壁を破壊した。
『……そこまで!! 勝者、第1チーム!!』
「ふぅ……こんなもんすね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『続いて1回戦第1試合、シングル2の選手は登場してください!』
「ふぅ……じゃ、じゃあ行ってくるっ!」
「頑張って、ローナ。」
「勝って2人の出番を減らしてくださいっすねー」
「おい……余計なプレッシャーをかけてやるな。」
ローナは緊張していたのか、体を小刻みに震わせながら舞台へと上がっていった。
「まあまあ、大丈夫っすってローナさんは。何てったってあの魔法があるっすから!」
「おそらく、相手はローナが使えることは知らないからな。隙を突けばまず間違いなく勝てる。」
「あとは……あの緊張だけ。」
『……それでは、シングル2の試合を開始します。用意…………始め!!』
「吹け、『エアボール』!!」
「い、いきなりか……はっ!」
開始早々相手が風の球を牽制として飛ばしてきたが、ローナは難なく避けていく。それは予定通りだったのか、相手は彼女が避けたのを見てから接近していく。
対してローナは自身の普通武器である片手斧・ベアーアックスをボックスから取り出して待ち構えた。
「『フレイムアーマー』……はぁっ!!」
「っ……だが、遅いわっ!!」
ローナはそのままフレイムアーマーを発動し、腕と足を炎でコーティングして勢いを増させた斧を振るったが……その性質を相手は知っていたのか避けられてしまう。
すかさず相手は細剣で突き、ローナの魔力防壁を軽く傷付けさせた。
「うっ……!」
「隙ありっ………!!」
その突きに怯んだローナを見て相手は好機と判断したのか、さっき以上に距離を詰めて斬り飛ばそうとした。
「あ、危ない……!」
「……いや、あれでいい。」
「………え?」
…………おそらく、今ので相手は勘違いをしただろう。
『フレイムアーマーはただの飾り、大した効果はない』…………と。
「…………いまっ!!!」
「なっ……ぐぅっ!!??」
細剣が届きそうになった瞬間、ローナは片手斧を握っていない方の手を握りしめ……思いっきり突き上げた。
その速さは明らかに先ほど見せた斧のスイングよりも高く、反応すらさせずに相手を吹き飛ばした。
「うぉっ、何すかあの加速! あんなにローナさんの拳って速かったっすか?」
「元々あんなものだ……ただ、ローナは拳を速く感じさせるようにはしていたな。」
「速く……感じさせる?」
「ああ。最初、ローナが斧を振った時はあんまり速く感じなかっただろ?」
「……確かに、いつものフレイムアーマー発動時よりは遅く感じましたね…………あっ、なるほど。そこからローナさんお得意の武術を見せたら、急に速くなった攻撃に相手も驚いて反応できないってことっすか?」
「……まあ、そういうことだな。」
正確に言えば、フレイムアーマーは性質的に五体その物で動いた方が恩恵を受けやすいようで、武器やらでの加速はあまり乗らないようだ。
対して、拳やら蹴りには存分にその効果を発揮する。元々ローナはそういったスタイルの方が得意なので、まさにピッタリな魔法だな。
「はぁっ!!!」
「がはぁっ……つ、強い……!!?」
続けざまの蹴り飛ばしもクリーンヒットさせた結果、既に相手の魔力防壁はボロボロになっていた。
そして、想像以上の威力と速さにすっかり怯えてしまったのか、相手はあからさまに距離を取って魔法攻撃へと切り替えていた。
「と、飛んでいけっ『アクアランス』!! …………んなっ!?」
「そんな水じゃ、私のフレイムアーマーは剥がせないよっ!」
しかし、相手が飛ばした水の槍たちはローナの鎧にぶつかった途端に蒸発し、完全に無意味なものとなってしまっていた。
「じゃあ……そろそろ終わらせるからっ!!」
「お、終わらせ……!?」
ローナはそう宣言し、フレイムアーマーを解除する。そして、片手斧を深く構え…………詠唱した。
「『ジェット』!!!」
「じぇ、ジェットってまさっ…ぐぅっあっ!!?」
瞬間、ローナはジェットを爆発的に発動させ………相手に対応させる暇もなく、吹き飛ばした。
その結果、相手の魔力防壁は呆気なく崩壊し…………
『……そ、そこまで!! 勝者、第1チーム! また、これによって既に2勝を収められたので………この戦いの勝利チームは、第1チームです!!!』
「やったよみんな、2回戦進出だー!!!」
試合が終わった途端、ローナは嬉しそうにピョンピョン跳ねながらこちらに戻ってくる。
そして、その喜びを分かち合おうと…………手を軽く上げて、ハイタッチを求めてきた。
「……何、それ?」
「えっ、何ってハイタッチだよっ!」
「そうそう、こうやって……はいっ!」
フィーリィアはその手の意味が分からなかったようで、ニイダが代わりにおちゃらけながらその手を鳴らした。
「いぇーい!! ほらっ、フィーリィアも!!」
「えっ、あっ……えいっ。」
「いぇい!!」
フィーリィアは困惑しながらも、小さくローナに手を合わせた。
そして…………やがて、その手はこちらにも向かれた。
「はい、ウルス!! …………って、どうしたの?」
『………別に、やる必要ないだろ。』
『えぇ、つれないっすねぇー』
「…………いや、何でもない。」
引っ掛かっていた『何か』を振り払い、彼女の手を…………俺は、軽く鳴らした。
「…………やったな、ローナ。」
「うんっ!!」
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