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九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)

百一話 くだらない

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「……えっ、ウルス……もしかして知り合いな」








「「ウルスっ!!!!!」」
「「「………えっ??」」」
「お、おい……急に飛び込んで来るなっ。」

 突然の彼女たちと飛びつきを避け、3人にどう説明しようかと考える。

(……ニイダにはある程度話しても良いだろうが……ローナとフィーリィアには話せないな………)

「ど、どうして避けるんですかウルス様?」
「そうだよウルス様!! せっかくの再会なんだから、避けちゃダメだよ!!」

「え、えっ、『ウルス様』って……さまっ!?」
「……どういう関係なの?」
「くっ、くははっ!!! これはまた面白そうっすねぇっ!!!」
(……こいつ………楽しんでやがる。)

 大笑いするニイダを引っ叩いてやりたい気分だが………それより今は………


「ローナ、野暮用ができたから後で『あの店』でまた合流しよう。」
「えっ、あの店……ってちょっとウルス!!?」

 流石に目立ち過ぎたため、俺は2人を連れてその場を離れた。

(…………どう説明するか……)











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 












 ローナたちと別れたあと、俺たち3人は彼女お勧めの店の中に入ってテーブルに座った。
 あまりこういったアンティークな飲食店に入る機会はなかったのか、辺りをキョロキョロ見回している彼女たちに話をかけた。

「…………色々聞きたいことはあるが……ミーファ、ハルナ。まずなんでここにお前たちは来ているんだ?」
「なんでって……だって、ここは私たちのの場所だから!」
「はい、ウルス様が去年この武闘祭に連れて来てくださったおかげで、私……成長することができたのですから。」
「…………そう、だな。」

 に、俺は苦笑した。




 2人は、俺が旅をしていた時に偶然出会った……いや、出会って少女たちで、成り行きでしばらく同行することになり、1年ほど一緒に旅をした仲間だ。

 頭に猫のような耳がついた獣人族がハルナで、短い茶髪に淡いオレンジのショートパンツに濃い山吹色の半袖とノースリーブのジャケットといった、動きやすさ重視の格好をしている。その服装は全く魔法使いらしくはないが……おそらく、自身の戦闘スタイルに合わせた結果なんだろう。

 対して、長く緑かかった銀髪をした精霊族がミーファ。彼女の服装はハルナとは対照的に、エメラルド色のフレアスカートに白のブラウスと緑のローブといった、いかにも魔導士といった雰囲気を醸し出していた。


「それで、次の質問……の前にだが、お前たち……」
「はい、何でしょうかウルス様?」
「……その、『様はやめろ』っていつも言ってただろ。まだ治らないのか?」
「えーだってウルス様はウルス様だもん、直さなくてもいいじゃん!」

 俺の言うことに、ハルナは意地を張る様に文句を言ったが……今回はそうもいかない。

「いや、さっきの奴らも驚いていただろ? 普通に考えてお前たちのような子どもが、俺のことを『様』なんて付けて呼ばないぞ。」
「ウルス様も子どもだよ?」
「……だから余計ややこしくなるんだ。」

 彼女たちはもうがついてしまったのか、俺のことを『ウルス様』と呼んでしまっている。正直身の丈に合わない呼び方だし、そう呼ばせてしまうことが後ろめたいので止めてくれと言ってるのだが…………全くらない。

「……でも、私たちはそれほど尊敬していますし……おかしいとは思いませんが……」
「……そう言ってくれるのは嬉しいが……生憎、俺はそんな人間じゃない。だから、少なくとも人がいるところではやめてくれ、頼む。」
「「…………はい。」」

 俺が珍しく頼み込んだからか、2人は渋々といった様子で頷いてくれた。これでやめてくれればいいが…………

「……というか、ウルスさ……さんこそ、なんでこの街に居るの!?」
「確か、『帰らないといけない』と言ってましたよね? もしかして私たちにを………?」
「違う、そういうことじゃない。実は………」


 俺は2人に別れた後のこと、俺が学院に入学したことについて軽く話した。
 すると、2人はとても大袈裟に驚きを見せた。

「……えぇっ!!? ウルスさ、さんがソルセルリー学院に!!?」
「び、びっくりです……まさか、にもここに…………しかし、今更ウルスさ…さんが学院で学ぶようなことはないのでは?」
「最初は俺もそう思っていた……けど、実際は違ったんだ。いくらステータスが高くても、俺には足りない物が…………ものが、あったよ。」
「そ、そうなんですか……?」



 …………見ないふりをしていただけだろ。
 


「ということは、さっき一緒にいた人たちも同じ学院生ということですか?」
「ああ、武闘祭にはあの3人と出る予定だ。」
「えっ、ウルス様が武闘………いや、ウルスさんが武闘祭に!!?」
(…………本当に治す気はあるのか?)

 そんな疑問を持ちながらも、俺は首を縦に振る。

「しかし、ウルスさんが大会などに出てしまえば、大会その物が成り立たなくなるのでは?」
「そこは心配ない。俺はソルセルリー学院ではステータスを学生たちレベルまで抑えている、だから大会が荒れることはない。」
「抑えて……じゃあ、ウルスさんの本気は見れないってことかぁ……残念。」

 俺の全力を見たかったのか、ハルナは分かりやすく落ち込む。そんな彼女に励ますわけではないが、代わりの言葉をかける。

「……だからといって、負けるつもりはないぞ。」
「…………えっ、それってどういう……?」
「そのまんまだ。ステータスを抑えた状態で俺は……武闘祭で優勝する。」
「……そのようなことは可能なんですか? いくらウルスさんが強いとはいえ、彼らと同じ土俵で戦えば一筋縄では………」








「いや、必ずできる………………できなければ、俺に価値なんてないからな。」
「……な、なにを…………」

 




「あっ、いた!!!」

 その時、店の入り口からそんな溌溂はつらつとした声が耳に届いた。そして、その声の主……ローナは俺目掛けて突撃してくる。

「もう、急に飛び出さないでよウルス! 今日はみんなで回る約束だったじゃん!!」
「わ、悪かった……でも、少し2人と話をしておく必要があったんだ。」
「話……そう、それだよ!! なんでウルスがこの2人と知り合いなの!? しかも『ウルス様』って……一体どんな関係なの!!?」
「お、落ちいてくださいっすローナさん、とりあえず座りましょうって。」
「……ローナ、周りに迷惑。」

 今まで見たことがないくらいに興奮していたローナを、後ろから来たニイダとフィーリィアがなだめながら、3人は同じテーブルの席に座った。
 しかし、それでも冷めやらないローナは俺の肩を揺らしながら聞いてくる。

「で、で、なんでウルス様はハルナさん、ミーファさんと知り合いなの!?」
「う、移っ、てる、ぞ……という、か…………落ち着けっ!」
「あいたっ!!」

 あまりにもしつこかったので、俺はローナの額をデコピンし強制的に鎮めた。そして、おでこを抑えている彼女に質問をする。

「……というか、何でお前はここまで興奮してるんだ。別に学院生に冒険者の知り合いがいても、そこまで不思議なことじゃないだろ?」
「そ、それはそうだけど……でも、この2人は『特別』な人たちなんだよ?」
「特別……そうなのか?」

 ローナの発言に、俺はハルナとミーファに目を配るが……まるで思いつく当てがないと言わんばかりに頭を横に振った。

「私たちが特別……何か悪いことでもしてしまったのでしょうか?」
「と、とんでもない! 逆です逆、冒険者として現れてたった数ヶ月で数え切れないほどの依頼解決……そして、その歳であるにも関わらず冒険者の中でも1番といっていいほどの強さを持つ、2人は超有名人なんです!!!」
(…………何で説明口調……?)

 ローナの急な解説に困惑しながらも、俺は2人が今どんな立場なのか理解する。確かに、彼女たちの実力ならば目立つのも必然だろうな。

「『その歳』って……いくつなの?」
「ああ、確か……2人も今年で『14歳』だったよな?」
「はい、あともう少しで誕生日だったです。」
「……ということは、俺たちの2つ下……? なのに、冒険者の中でも1番強いってめちゃくちゃ凄いっすね。」
「えへへ、それほどでもー」
「こらハルナ、調子に乗らないでください……それで、ウルスさん。この人たちの紹介をしてくれませんか?」

 満更でもなさそうなハルナに優しくチョップしたミーファがそう頼んできたので、俺は軽く3人を紹介する。

「ああ……この赤い髪をした女がローナ、煩いのがたまきずだ。次にこの胡散臭そうな男がニイダ、実際胡散臭い…………そして最後はフィーリィア、しっかり者だ。」
「ちょっとー? なんでフィーリィアだけ褒めてるのー?」
「そっすよーまるで俺たちだけめんどくさい人みたいじゃないっすかー」
(………お前はまさにそうだろ。)

 なんて言えばニイダに噛みつかれそうなので、俺は無視して今度は彼女たちのことを紹介する。

「次は2人だな……この、やんちゃそうなのがハルナだ。見た通り獣人族で、猫みたいな耳が付いてるのが特徴的だな。」
「どうも、ハルナです! みなさんよろしく!」
「そして、おしとやかなのがミーファだ。こっちも見た目通り精霊族で、ハルナが妹ならミーファが姉みたいなかんじだな。」
「どうも、姉のミーファです。ウルスさんとは昔馴染みで………」


「ちょっと待った、どちらかというと妹はミーファだよ!」
「……いえ、姉妹で表すなら私が姉ですね。ハルナはいつも慌しくて目が離せませんし。」
「ぐっ……それを言うなら、ミーファだって子供っぽいよっ! この前も『杖に付けたいから』って咲いていた青い花を摘んで……!」
「そ、それはウルスさ…さんが『好きな花だ』って言っていたからで……そもそもハルナは……!」




「………仲、いいね。」
「……そうだな。」

 いつの間にかくだらない口喧嘩を始めた2人を見て、フィーリィアが呟く。



 この世界は3つの国が存在する。その3つの国はほぼ均等に分けられており、それぞれ『人族の国』『獣人族の国』『精霊族の国』と、そのまま種族ごとに区別されている。ちなみに分かり切っていることだが、プリエがあるのはもちろん人族の国だ。

 そして種族ごとの違いだが……まず、獣人族は他種族よりも魔法が比較的つたない代わりに、身体能力の高い者が多い。それは『獣人族は獣の力を持っている』といった特徴があるからで、事実ハルナの耳のように、獣人族はその体の一部分に動物の器官が存在しているばばかりだ。
 中には、その獣の力を自在に操る人間もいるが……少なくともハルナにはそんな力はない。

 そしてその対照的なのが精霊族であり、他種族よりも身体能力が低い代わりに、魔法関係の力が優れているといった特徴がある。また、耳が他種族より伸びていたり、美形が多く若い姿の時間が長いといった特徴もあるが…………何より、背中に魔法の羽を持っているのが大きな長所だ。
 精霊族はその背中の羽に魔力を込めることで、ジェットなどを使わずに簡単に空を飛ぶことができてしまう。しかも魔力消費はほとんどゼロといったところから、『ある程度のレベルまでは精霊族が一番強い』とまで言われている始末である。


(……まあ、実際はどの種族も同じレベルらしいが。)














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














 

「…………で、ウルス。今度こそ聞くけど………なんで2人と知り合いなの? しかも『様』なんて付けられちゃったりして……何かとんでもないことでもしたの?」

 2人の言い争いが収まってきた頃に、再びローナがそんなことを聞いてくる。それに対して俺はさっきのミーファの言葉を借りながら誤魔化す。

「……ミーファもさっき言いかけていたが……俺とこの2人と昔馴染みなんだ。」
「昔馴染み?」
「はい、まあ昔といってもたった2、3年前の話ですが。私たちはある日、ウルスさんの師匠といった方に用がありまして、その寄った際に知り合いました……ですよね、ウルスさん?」
「…………ああ。」

 俺の意図を汲み取ったのか、ミーファは代わりに嘘も大嘘のような内容をあたかも真実かのように話した。

「だから、この2人を知ってたんだ。」
「……じゃあ、『様』っていうのは?」
「それは……私たちはそのウルスさんの師匠のことを『様』と呼ばせてもらっていたので、その弟子である彼もそう呼ぶべきであると考えた結果なのですが…………どうやらお気に召さないようです。ねっ、ハルナ?」
「……えぇ…あ、うんそうそう!」
(…………聞いてなかったな。)

 ミーファの含みのある言い方にも言いたいことはあったが……まあ、これで納得はしてくれただろう。

「…………なるほど……そのウルスの師匠って、もしかして親の人のこと?」
「……………
「ああ、そうなるな。」
「へぇ、やっぱりすごいんすねその人って。いつか会ってみたいっす。」
「それは……できるか分からないが、考えておくよ。」



 ちなみに、ミーファとハルナは俺の本当の実力はもちろん、師匠……グランさんとミルのことも少しだけ知っている。流石に俺の過去や前世までは話してはいないが…………わざわざ彼女たちに話す必要もないだろう。





「…………あの、ハルナさんミーファさん!」
「は、はい、何でしょうか?」

 話もひと段落ついたところで、不意にローナが2人に顔を近づけ、何やら手を合わせてお願いのポーズをとった。

「2人は忙しいだろうし、これからも何か予定があるのかも知れませんが……少し、少しだけでいいので話を聞かせてくれませんか!?」
「話……なんの話かな?」
「冒険者としての話ですっ!! 私、いつか世界中を旅してみたいと思ってて、その『憧れ』のためにも話を聞きたいんです! ………ダメですか?」
「おっ、それは俺も聞いてみたいっす……フィーリィアも聞きたいっすよね?」
「う、うん…………」

 ローナたちがそう言うと、ミーファとハルナは互いに顔を合わせ……頷いた。

「……そういうことでしたら、もちろん。ここ数日はこの街に居るので時間はありますし、いくらでもお話しできますよ…………あと、私たちの方が歳下なので敬語はいらないですよ?」
「い、いや……そういうわけには…………」
「甘えとけ、ローナ。変な敬語を使うくらいなら普段通りに話してくれたほうが…………こっちも助かる。」
「えっ、私の敬語が変? そんなことないよねニイダ?」
「……まあ、慣れてなさそうっすね。というかそもそも敬語になってないというか………面白いので俺は構わないっすけど。」
「お、面白い!? というかニイダにだけは言われたくないよ!!」



「あははっ、面白い人たち!!」
「ふふっ……そうですね。」

 自分でふっておいてけなされたローナは、納得いかないと言わんばかりに頬を膨らませる。それを見て俺たちはくだらないと思いながらも笑ってしまう。


(…………ほんと、くだらないな。)
 
















「…………………………」


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