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八章 夏期休暇
九十四話 同じ
しおりを挟む「……そうらしいな。」
…………どうやら、俺は想像以上に彼を見誤っていたようだ。
「さぁ……手を休めるなよ。まだ俺の魔力防壁は壊れていないぞ?」
「言われなくても知ってんよ。」
そう言ってカリストは敢えて大剣を構えず、魔法でも何でもできそうに手を曖昧に構えてきた。
(……今のカリストは魔法も自在に扱ってくる。迂闊には近づけないな…………)
お互いに強化魔法を解除したとはいえ、素の力はあっちの方が上だ。それに、今のカリストに大きな隙はない。仮に小さな隙があったとしてもすぐに修正してくるはず。
「……吹かせ…………」
「紫の奴か……使う前にぶっ潰してやる!」
俺が風神・一式を発動する素振りを見て、カリストはさせまいと接近して阻止しようとしてくる。
……このままなら、俺は発動する前にカリストに斬り飛ばされるだろう。だが…………
「おらぁっ!!」
「………………なんてな。」
「はぁっ……!? 引っ掛けかっ!!」
カリストの言う通り、俺はわざと接近させたところで魔法を解除し、流れを握ってから剣技勝負を仕掛けた。
「はっ!!」
「当たんねぇ!」
ジャブに軽い横斬りを振るうが、もちろん簡単に避けられカウンターの掬い上げが飛んでくる。
それを俺は体を横にして回避するが………………
「見えてんぞっ!!」
「っ……!?」
それを読ん……いや、反応したカリストは避け切る寸前で軌道を無理やり横に変え、俺の魔力防壁を掠らせた。
そのことに既視感を覚えるが、構わず続けて剣を振るうために剣を上段へと掲げる。
「はぁぁっ!!!!」
「それも見………え……?」
カリストは俺の振り下ろしに対し大剣で受け止めようとしたが……生憎、その剣たちがぶつかることは無かった。
「ど、どこ……上かっ!!?」
(気づかれた……だがもう遅い!)
流石に俺の手に慣れてきたのか、カリストはその意味にすぐに気づいたが……その時には既に『策』は決まっていた。
『ジェット』
「ぐぉっ……またそれか………!!」
俺はジェットの爆風で魔力防壁を攻撃しながら距離を取り、頃合いを見定める。
そんな俺を見てか、カリストはジェットで巻き上がった砂埃を払いながらこちらを睨んで来た。そして降ってきた俺の剣を掴み、見せびらかすかのようにチラつかせてきた。
「……本当は俺の防御をずらしてから、上に投げた剣をもう一度掴んで斬りたかったんだろうが…………残念だったな。」
「…………ああ、残念だ。」
思ってもないお気持ちを表明しながら、俺は時を待つ。
「………………」
「……何するつもりだ。」
「別に、ただ…………
…………もう、終わりだなって。」
『水神・一式』
「……なっ、いつのま……!!?」
瞬間、カリストの目の前の足元から魔法陣が現れ……そこから紫色の水の渦が作り出された。
その紫水の渦は開いている方をカリストへと向け…………
「…………刺せ。」
「まずっ……ぐぁぁっ!!!?」
渦から小さく鋭い水の針が大量に形成されていき、一斉にカリストの魔力防壁へと突き刺さっていく。
水神・一式……これも風神・一式と同じ龍属性の魔法だ。また、この魔法は一つひとつの針の威力は小さくとも、苦無ノ舊雨と同等の数と見た目以上の衝撃で相手を攻撃する、束縛魔法でもあったりする。
「がぁ…ぐぉぁっ……クソ、がぁっ……!!」
「ど、どうなってるの……!?」
ラナの驚く声を聞きながら、俺はやられ続けているカリストを見届ける。
(……普通なら、これで終わってもおかしくはない。仮に耐えられたとしても衝撃でまともに立てないだろうな………)
…………いや、奴は……カリストは………
「ぐぉ……らぁァっ!!!!!」
「こ、壊した……!??」
あろうことかカリストは自ら渦の中へ進撃していき、水を掻き飛ばして無理やり魔法を破壊してしまった。
「……ふっ………」
そんなカリストの行動につい、俺は気持ち悪い笑い声を上げてしまう。しかしカリストは反応することなく、代わりに体に力を溜め……再度発動した。
「はぁぁっ……『超越・力』!!!!」
「……来い、カリスト!」
「ああ、来てやるさぁっ!!」
ギラギラした目を俺にぶつけながら、カリストは一瞬で俺の背後へと回り込み腕を掴もうとしてくる。
それをノールックで躱しながら、俺は掴もうとした腕を裏拳で弾こうとするが……もはや当たり前のように避けられてしまう。
「トロいなぁ……ウルスさんよぉっ!!」
「ぐほぉっ……!!?」
(ギアが上がってやがる……!)
戦い続けて神経が研ぎ澄まされているのか、カリストは俺の目を一瞬上回って腹をぶん殴ってきた。
幸いギリギリ耐えることができたが……今の一撃はかなり重く、俺の魔力防壁は破壊寸前にまで追い詰められてしまった。
『ジェット』
「逃がさねぇよっ!!』
「っ、飛び上がって……!」
ダメージが惜しく、俺は着地の衝撃を避けるためにジェットで浮かびあがろうとしたが、カリストはその場の超ジャンプで俺を掴み落とそうとしてきた。
「くっ……!」
「ちっ!」
俺はそれを見てすぐに体を丸め、カリストの掴みを文字通り紙一重で回避することができた。そしてそのまま空を飛びながらカリストの様子を観察していく。
「はぁ…はぁ……降りて、こいよ……!!」
「随分とお疲れだな……限界か?」
「んなわけ……ない、だろ……俺はまだ、やれるぞ……ぐぁっ!?」
そうは言いながらも、地面に着地したカリストは膝を着かせながら息を苦しそうに吐いていた。やがて彼は手までも着いて頭を下げてしまい、完全に息が絶え絶えになっていた。
「がぁ………これ……は……まさ、か………」
(…………魔力切れ、か。)
人の魔力はもちろん有限であり、その量はステータスに書き記されいる。そしてその魔力が空っぽになると頭が激しく痛み、体のあちこちが倦怠感に襲われてしまうといった、一種の疲労状態を引き起こしてしまう。
また、この症状は自身の魔力が少なくなった時点でその前触れが体に現れるので、普通ならすぐに気づいてセーブするものだが…………戦いに夢中になり過ぎて分からなかったのだろう。
「がぁっ……あぁ……!!」
「カ、カリスト……大丈夫なの……!?」
唾を垂らし、その場で藻搔いているカリストを心配してラナが近寄っていく。それを見て俺も一応ジェットを解除して地面に降り立った。
(……っ………!)
「……ウ、ウルスくん。魔力切れだよ……しかも、完全に空っぽになってる……これ以上はもう…………!」
「うる、せぇ……邪魔すんな……!!」
「えっ……!?」
ラナの提案を、カリストは振り払い立ち上がる。その足はおぼつかず、今にも倒れ込みそうな様子だったが…………その焦茶色の眼は、まだ何1つ消えていなかった。
「大体……条件は、同じだ………」
「同じ……それってどういう…………」
「わから、ねぇ……か? あいつも、今……切れてんだよ。」
「………えっ……!?」
「…………よく気づいたな。」
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