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八章 夏期休暇

八十四話 才能は

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「くっ……まだ狙った通りに飛べないな……」
「………うわぁぁっ!!!?」

「……苦戦してるね、特にローナさん。」
「ああ……先は長い。」

 ジェットの特訓が始まり1週間、ローナは相変わらずでまだ5秒ほどしか浮かぶことはできていない。それに対してルリアはもう空を飛べており、ゆっくりではあるが確実にコツを掴んできている。

「これほどに差が出るとは……ローナさん、大丈夫っすかね。」
「…………また転んだ。」

 流石に毎日全員が見にきているわけではなく、今日はニイダとライナ、そしてフィーリィアが見学をしにきていた。

(……見学されているのもおかしいが…………)

「ぼべぇっ!!」
「……ローナ、少し落ち着け。転ぶのは構わないが、何で転んでしまうのか考えてから再開しろ。」
「そ、それはそうなんだけど……なんでミカヅキさんはあんなに飛べてるのに私だけ…………」

 自分だけできていないことに落ち込んでいるのか、ローナはガクッと肩を落とす。
 ……やはり、少し焦っているようだ。ここは…………



「……ローナ。」
「なに…………?」
「お前には多分……魔法の才能はない。」

「「…………えっ?」」
「………………ほぉ?」
「……ん!?」

 、ローナは心の無い言葉に声を詰まらせる。

「ウ、ウルスくん……さすがにそれは言い過ぎじゃ……?」
「かもな……でも事実だ。この5日間で分かったが、ローナは単純な魔法ならともかく、複雑な魔法となると感覚に全部頼ってしまう癖がある。」
「癖……?」
「そうだ。前に魔法はイメージとは言ったが、もちろん仕組みもある程度理解してないと使えない物だ……ライナ、業火の舞の仕組みは分かってるか?」
「仕組み?」

 俺はミルに質問したように、今度はラナに聞き出してみる。

「……大きな赤い魔法陣を地面に作って、そこから魔法陣の外周状に炎が出てぐるぐる回りながら渦を作って、相手を包む……それで、最終的には渦が絞られて相手を燃やす……で、あってる?」
「ああ、その通りだ……じゃあ次にローナ、刃の息吹の仕組みを説明してくれ。」


「えっ、刃の息吹は…………風がなんかビュンって飛んで、相手をババッとする魔法でしょ?」
「「…………………」」
「…………下手。」
「がぁ!?」

 ローナのあまりにもざっくりとした説明にラナとニイダは絶句し、フィーリィアがバッサリと斬り捨てる。
 そんなフィーリィアの言い草が気に入らなかったのか、ローナは膝をつきながら恨めしさに顔をあげる。

「な……ならどういう魔法なの!? これ以上うまく説明して見てよフィーリィア!」
「刃の息吹は風を刃状……剣みたいに鋭く、そしてそれを細かくして飛ばして相手に斬撃のようなダメージを与える魔法……あとえぐるような感じもあるから、物を削ったりする時にも便利…………だよね。」
「なっ……そ、そんな正確に………」

 フィーリィアの完璧な説明にローナは倒れ込む。俺もここまでフィーリィアが魔法に対して理解しているとは思って無かったが……彼女なりに勉強してるのだろう。
 倒れ込んだままのローナの頭をつつきながら、俺は話を続ける。

「こういうことだ、ローナ。」
「どういう……こと?」
「お前は普段魔法を覚える時、ほとんど頭を使って覚えようとしてない。目で見た物やその時の感触だけでやろうとする……別に悪いことじゃないが、それだけじゃより複雑になった時に混乱してしまうぞ。」

 知識や技術を学ぶ時、人それぞれによって覚え方は多種多様だ。目だけで覚えようとしたり、手に書いたりして覚えようとしたり、口に出して覚えたり…………方法はいくらでもある。そして大体の場合、人は自分が1番やりやすい・できやすい方法1つだけを取るはずだ。

 しかし、その1つの方法だけじゃ全ての知識などは、とてもじゃないが習得することはできない。時には慣れない方法でも覚えようとしなければ、必ず壁にぶち当たる。

「正直な話、ローナのペースで特訓するくらいなら普通に他の特訓をしたほうが目に見えて強くなれるが…………それでもまだ、続けるか?」
「………………」

 時間をかければ、ローナでもジェットは覚えられるだろうが……おそらく彼女は…………









「もちろん!! こんなところで諦めるなんて選択肢、私のにはないよっ!!」
「…………そうか。」


 の意味は分からないが……彼女の中にも何か、並々ならぬ目標のようなものがあるのだろう。
 
「なら、少しでも早く習得しないとな。」
「うん! じゃあもう一回………はぁっ!」

 俺の言葉に頷き、ローナは再びジェットの特訓を再開する。その姿は先ほどよりも勇ましく、自信に満ち溢れたいつものローナだった。


「…………これが『狙い』っすか?」
「……何の話だ。」


 そんなローナを見届けていると、ニイダが隣に立って小さな声で話しかけて来た。

「さっきまでのローナさんは|を探していました…………個人的な考えっすが、そんな消極的な発想じゃこの魔法はできないっす。」
「……………そうだな。」
「だから一度、落とすところまで落としてからを使って現状を説明、理解させる。何でもかんでもが語るのも苛つくっすからね。」

 ニイダは手をひらひらと揺らす。

「あらかた言ったら、今度違う選択肢を与えて間接的に否定させる……ローナさんみたいな人にこれをさせたらもう、頑張って否定の選択肢を否定して、を無理矢理にでも作り出す…………って感じっすよね?」
「……まあ。」

 …………何故、ここまで思考を読まれているのか……全くもって理解できないが、どうせツッコんだら余計面倒なことを言われそうだし、はやめておこう。

「『魔法の才能がない』……も方便っすね。」
「……嘘を吐いたつもりはない。実際、ローナは魔法に関しては俺たちよりはどうしても劣る部分があるからな。」
「いやいや、まだローナさん含め俺たちは発展途上もいいところ……いくらでも変わるチャンスはあるっすよ。ウルスさんもそれは分かってるんでしょう?」

(…………本当に、こいつは。)

「……まあでも、結構綱渡りな作戦だったっすね。いくらローナさんとはいえ、あんなに言われたらもっとへこんだりしてもおかしくないっすよ?」
「いや、それはない。」





『………それでも、来るつもりか?』

『……うん、行くよ。』









「ローナは、一度決めたら絶対にそれを突き通す人間だ。周りが反対しようが、どんなに危険なことでも……だ。」

 魔物が街を襲ってきた時もそうだった。俺が脅してもついてきて、実際に魔物に恐怖して……それでもなお、彼女はここに立っている。


「……ある意味、襲撃の時は眠ってくれてて助かったかもな。もし起きていたら俺の転移について来ただろうし。」
「えぇ? そこまで危なっかしくはないと思うっすけど……」

 

 ……だから、俺は…………







「……あっ、飛べてるよローナさん!」
「……本当だ。」
「や、やったぁ!!!」

 ラナたちの歓声が聞こえ見てみると、ついにローナが空中で浮かび続けることができていた。
 それを見たニイダが発破をかけに行く。

「おおっ、すごいっすよローナさん! なら次は飛び回って見てくださいっすよ!」
「よし、この調子なら…………って、うわぁぁっ!!!?」
「……まだまだ、だな。」


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