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7章 蒼色と金色 (仮面編)
七十六話 吹っ飛べ
しおりを挟む「………何で、お前たちがいるんだ?」
「まあまあ……いいじゃないすか、見てるだけっすから。ローナさんが果たしてジェットを覚えられるかどうか、見てみたいんすよ。」
「あっ、私は昼までの暇つぶしだよ! それまではローナさんを応援しようと思って……いいよね、ローナさん?」
「もちろん! ウルスは厳しそうだし、2人が居てくれたらいざという時に泣きつけるからねっ!!」
(……そんなことに胸を張るな。)
ラナと昼寝をした次の日。今日は2、3年が課外授業で出払って学院にはほとんど教師がいないので、完全自主練の日となっていた。
そのため、今日は取り敢えずルリア抜きでのジェットの習得訓練をやろうと2人で集まっていたが……4人になってしまった。別に構わないが。
「……まあいい。始めるぞ、ローナ。」
「はい、ウルス先生!!」
「先生はやめろ。」
「あぎゃっ!?」
ふざけるローナの額をデコピンしながら、俺はジェットについての説明を開始する。
「まず最初に……ローナは、空に浮かぶ・飛ぶってイメージがあるか?」
「いめーじ? うーん、あるような無いような……というか飛んだことないから分かんない!」
「……そうか、なら今から俺が飛んでみせる。それを見てどう思ったか教えてくれ……『ジェット』」
そう言って俺はジェットを発動し、軽く飛び回ってみせる。
それを見て、不意にニイダが口出しをしてくる。
「……試合の時も思ったんすけど、足からも飛べるようにしてるんすよねー?」
「ああ、そうだが?」
「へぇ……随分器用なんすねぇ。」
……おそらく、ニイダが言いたいのは『手はともかく、足にまで魔法陣をよく作れるんすね』ということだろう。
基本的に、どんな魔法も手から作り出した魔法陣、あるいは手から直接放つ物ばかりであり、足から魔法を放つなんてことはほとんどない。それは単に足から放つメリットが無いというのもあるが、そもそも足で魔法を扱うのは手よりも数段繊細な操作が必要になってしまうというのが大きい。
そして、ジェットは四肢全てを使って発動する魔法。ただの学生さんがよくできるな、という話なんだろうが…………
「……確かに、俺は器用かもな。でも、特訓すれば誰でもできる魔法だ……感覚的な部分が多いからな。」
「なるほどー……それもそうっすか。」
ニイダは俺の返しがつまらなかったのか、棒読みで返事をしてくる。
(……いつまで疑っているんだ、こいつは。)
「ほへぇ~相変わらず凄いなぁ。」
そんな俺たちのやりとりもどこ吹く風か、呑気そうにローナはのほほんと呟いていた。
一通り飛び回ってから、俺はジェットを解除して地面に降り立ちローナに質問していく。
「……どうだ、ジェットは? イメージは出てきたか?」
「えっと……その前に、『イメージ』ってウルスは言ってるけど……具体的に何を考えればいいの?」
「それは……」
「はい! 私が教えるよ、ローナさん!」
ローナは顎に手を当て、首を傾ける。その質問に対して俺が答える前に、何故か嬉しそうにミルが割り込んで代わりに答えてきた。
「ローナさん、今のウルスくんのジェットってどんな特徴があった? 例えば……『手と足でコントロールしてるな』とか、『風を使ってる』とか……もっと簡単なのだと『飛んでるのは気持ちよさそうだな』『冬だったら寒そう』とかなかった?」
「……印象ってこと? それなら………凄い難しそうだった!!」
「めちゃくちゃざっくりしてるっすね……俺はこう思ったすよ…………」
…………何故か意見交流会になってるが………まあ、それでイメージが固まるならいいか。
(……にしても、今日は静かだな。)
人が少ないのもあるだろうし、この訓練場に俺たちしかいないからだろうが……………何か、変だ。
「……ウルスさん、どうしたんすか?」
「……いや、何でもない。ちょっと静かだなって思っただけだ。」
「静か? あんなに2人が話し込んでるのに?」
「えっと、虫みたいとか?」
「む、虫……それは流石に失礼じゃ……?」
「……そういうことじゃなくて、学院全体が静かだなって話だ。人がいないからな。」
「…………確かにそっすね。何かいつもより静か……というか、『変』というか……」
……ニイダも感づいてる?
「変、とは?」
「そっすね……ちょっと感覚的な話になるっすけど、ここら辺の空気に流れてる魔力がおかしい気がするんすよ。」
「おかしい……どういう風にだ?」
「こう、自然じゃないというべきか……そう、異物感! 普通じゃない気配が混ざってるんすよ、分かるっすか?」
「異物感……」
……俺ですら、本当にやんわりとしか感じ取れないのに……こいつ、何か特殊な勘を持っているな。俺のこともそれで…………
「……ロ、ローナさん? 急にどうしたの……!?」
「「……!?」」
瞬間、その異物感が現実の物へと変化した。
「どうした、ミル!?」
「わ、分からない……でも急にローナさんが……!」
「う、うぅん……何、これ………」
ミルに倒れ込んだローナは、何やらブツブツと呟きながら目蓋を閉じてしまった。
「ミル、ローナを見せろ!」
『神眼』
ローナの体をよこし様子を見ながら、俺は神眼の力を解放して辺りの様子を感じ取る。
(……何だ、これは。感知範囲が………狭まってる!?)
しかし、何故か俺の神眼や魔力感知は学院の敷地内程度にしか届かなかった。いつもならこのプリエの街全体は軽く感じ取れるはずだが………
「ウルスさん、ローナさんの肩に針が!」
「針…………これは、何だ……?」
ニイダに言われ、俺はローナの肩に深く刺さっていた小さな針を引き抜く。そして神眼で分析してみると……どうやら、針の先に薬の様な物が塗ってあった。
(……睡眠薬? というか、普通なら魔力防壁が守って…………)
『『スウァフルラーメの呪剣』』
『なっ、穴を……どうなっている……?』
(……針が貫いたってことか……?)
魔力防壁は基本、どんな攻撃も最低一度は守ってくれるが、強烈で鋭利な攻撃を受けるとそのまま貫通してしまうことがある。俺のスウァフルラーメの呪剣がそうだが……
「こ、これ……相当深く刺さってたっすよ。どんな威力で飛んできたんすか!?」
「ヒ、『ヒーリング』!」
……ローナのステータス的に、彼女の魔力防壁は特別頑丈ってわけでもない、が……それでも根元まで刺さるほどの速さ。一体誰の仕業…………
(…………何かっ!?)
「…………っ、2人とも!!」
「なっ!?」
「きゃっ!?」
俺はニイダとミルを突き飛ばし、飛んでくる針を避けさせる。そして、俺は自身に向かってきた高速の針を摘んでキャッチした。
「……そこか。」
『刃の息吹』
「…………!」
俺は針が飛んできた方向に風を放つ。するとすぐにそれを回避する様に1つの影が飛び出し、舞台へと降りてきた。
その影の正体は……………
「…………仮面を? …………何者だ?」
「……よく気づいたな、確か1年しかいないって聞いてたが…………優秀な奴もいるもんだ。」
顔に仮面を付けた謎の男は、俺たちを見て感心をしていた。俺のことは知らない……ということか。
(……まずは、情報を……)
「……この学院の人間じゃないな?」
「もちろん、今日は視察がでらここを見に来ただけだ。」
「視察……?」
……何の視察だ? この学院に何か珍しい物なんてあっただろうか?
「何の視察だ。」
「それは……言えないな、生憎そこまで馬鹿じゃない。」
「……なら、この針は?」
「ああ、意外と便利なもんだ。知恵も様様だな。」
………これ以上は引き出せないか、なら神眼で………
「………は?」
………見れない!?
「ウルスさん、何か増えてきたっすよ!!」
「これは……ワープ!?」
「っ…………!」
神眼ですら見れないことに動揺していると、2人の言う通りどんどんと謎の仮面をした奴らがこの訓練場に転移で現れ始めた。
(何故見れな……いや、それより今は……!)
「……おとなしく眠っておくんだったな、お前ら。」
初めに現れた仮面は、そう言って笑い声を上げる。
(……あの針とローナの魔力防壁を考えると……おそらく、少なくともあの男のステータスは100以上………仮にこの場にいる奴らが全員そうだとすると……)
ミルはともかく、ニイダじゃ1人が限度。ましてやこの数……手を抜いた俺じゃ対処しきれない………
「ウルスくん……!」
「くっ………」
『ミル……入学試験や学院生活では少し手加減するんだ。』
『えっ、なんで?』
『ミルは師匠とずっと一緒に育ってきたから分からないかもしれないが……俺たちの能力は、子供にしては異常に高い。まだ学院のレベルも分からないが、俺たちより高いことは無いはずだ。そんな俺たちが圧倒的ステータスで今後過ごすとなると絶対に目立ってしまう。』
「ウルスさん……どうするっすか、このままじゃ……!」
幸い、と言うべきか…………ローナは眠ってしまい、居るのは前から疑ってばかりのニイダ。
「…………ニイダ。」
「な、なんすか?」
「……お前は俺のことをいつも疑っていたよな? 本当はもっと強いんじゃないかって、しつこくな。」
「い、今はそんな話をしてる場合じゃないっすよ!? この状況、とても俺たちじゃ……!」
「大丈夫だ。」
「…………!!」
俺の言葉……そして解放した圧に、ニイダは目を見張る。それをミルも感じてか、俺に鋭い眼差しを向けてきた。
「………ウルスくん、やるんだね?」
「……………ああ、ローナを頼む。」
俺はミルにローナを預け、手を突き出す。その行動を訝しんでか、仮面の奴らが揃って構えを取った。
「……何をするつもりか知らないが、ただの学生が俺たちに敵うわけが…………」
「忠告、大変有難いが………お前たち如きじゃ、話にもならない。」
「はぁ……? 恐怖でイカれたか?」
手に魔力を込め、地面へと当てる。
「吹っ飛べ。」
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