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7章 蒼色と金色 (仮面編)

七十四話 蒼い

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「私は………まだっ!!」
(……いかっている、冷静じゃないな。)


 ……仕方ない、次で終わらせて…………?


(……さっきより、速い?)

 ……手を抜いていたはずはない。なら、急成長…………なのか? 何にせよ、多少速くなったところで俺の攻撃は避けられないだろう。

「はぁぁっ!!」
「これで…………!」

 剣の間合いに入る前に俺は突きの構えを取り、突き出す。その刹那、俺は剣を長槍へと変化させ間合いを一気に詰めながら決着を付けにいく。

(……後味は悪いが、あなたが仕掛けた戦いだ。いい加減、もう…………)



「……終わり、だっ!!」


 槍は、飛び込んでくるミカヅキの胸へと突き…………



「ふぅ……っ!!」




 ……………刺さらず、空を突いた。


「……は………!?」
(避けた……今のを……!?)

 ここ数年、味わったことのない驚きに俺は一瞬……思考が止まった。
 その隙を狙ったか図らずか、ミカヅキは自身の間合いに俺を入れて剣を横振りしようとしてきた。

「……っ、だが……!」

 停止した脳をすぐに切り替えさせ、俺はその場でしゃがんで剣撃をやりすごそうとした。

 結果、そのしゃがみは決まり、剣は俺の頭上を………

「ふぅんっ!!!」
(な、なんだそのきど……!?)



「ぐはぁっ!!?」


 しかし、あろうことか頭上を通っていた彼女の剣は振り切られる前に縦へと動きを急転換し……俺を叩き斬った。

「……飛べ、ジェ……!」
「はぁらぁぁっ!!!」
「なっ……!??」

 俺はすかさずジェットでその場から離れようとしたが、ミカヅキは叩き斬った剣をそのまま地面に突き刺し、それを腕の力だけで引き寄せるように動き、俺との距離を縮め……胸ぐらを掴んできた。

「はっ……ぐっ!?」

 抵抗するように俺は剣を振るったが、ミカヅキはそれを避けるのではなく、掴んだ俺を外れさせた。
 そして、俺を地面へと叩き付けて抑えてきた。




(何が、どうなって…………)


 ……おかしい。さっきまでのミカヅキとは動きも反応速度もまるで違う…………というか、なはず。

 いくらステータスがその人の実力とイコールではないとはいえ……明らかに今の動きは、ミカヅキの身の丈を超えている。

(俗に言う、ゾーン状態ってい…………いや、違う。そんな生易しい現象で片付けていいものなのか?)

「はぁ……はぁ……!!」
「…………?」

 息切れを起こしているミカヅキの顔を見てみる。その顔は先程までの彼女の凛々しい表情とは違い、今までに見たこともない剣幕なものだった。


 そして…………




(……目が、『』?)


 確か、彼女の目は黒だったはず。何か魔法でも使っているのか……?




名前・ルリア=ミカヅキ
種族・人族
年齢・16歳

能力ランク
体力・120
筋力…腕・147 体・138 足・167
魔力・160

魔法・17
付属…なし
称号…【解放される力】(条件が満たされた時、己の潜在能力が解放されてあらゆる能力が上昇する)




(『解放される力』………? 昼に見たときはこんな物無かったはず……)

 ……謎の称号に加え、他の能力も一段と上昇している。これがこの称号の力なのか……?

「……ミカヅキさん、意識は……?」
「はぁ……はぁぁァっ!!!」
(……これは、不味いな………!)

 興奮して声が聞こえていないのか、ミカヅキは俺を抑えながらトドメの剣を突き刺そうとしてきた。



(…………仕方ない、ここからは…………)



「………!!」



 意識を切り替え、集中力を限界まで高める。そして、と迫ってくる剣……を握っている方の腕に俺は脚を絡ませ、ミカヅキを投げ飛ばした。

「っ……まだぁぁっ!!!」

 しかし、ミカヅキは空中で体勢を立て直し、着地と同時に最高速度で突進してくる。
 それに対し俺は立ち上がってアビスを片手剣へと変化させ、深く構えた。



(……おそらく解放される力とやらは、ミカヅキにステータス上昇……加え、何か特別な力を与えているのだろう。)



 ……だが、俺はそんな一朝一夕な力に負けるほど、くだらない特訓はしてきていない。たとえ称号から得られるな力であっても、俺を上回ることは………………











「できない。」
「……がはぁっ………!?」



 ミカヅキの剣が届く前に、俺は一閃いっせんを彼女に食らわせる。
 その結果、ミカヅキは魔力防壁を破壊され……地面を転がっていった。

「ぐっ、がっ…………」
「……大丈夫ですか、ミカヅキさん?」

 転がされ、地面に倒れたままのミカヅキさんに近づき、声をかける。
 反応がないので俺は顔を覗き込み、様子を見るが……何故か目の蒼い光はすでに消え去っており、代わりに黒い瞳が月明かりを反射していた。

「うぅ……? これは……私は、何を………?」
「しっかりしてください……気分はどうですか?」
「気分、は……何だ、クラクラするな……それに、体がやけに重たい…………」

 クラクラするのは、今の地面を転がった衝撃からだろうが……体が重たいのは疲れか?
 俺は彼女の体を起こさせ、回復魔法をかける。

「『ヒーリング』」
「すま、ない……しかし、お前……あの魔法武器で、魔力は結構、使ったんじゃ……?」
「……アビスはあんまり魔力を使わないんですよ。それより大人しくしててください、疲れているんでしょう?」

 ……まあ、実のところ神器は普通の魔法武器とは違い魔力を一切消費しないので、俺の魔力は有り余っているんだがな。


「………………」
「………………」


 ……さっき、あれほど言い合った手前……話をし辛い。

 
(……普段の俺なら、あそこまで言わない……はず………)



『うん、私もミルと…………と一緒に過ごすのは好きだからね。』

 

 ……理由は、分かっている。










「…………曖昧なんだ、記憶が。」
「……曖昧、とは?」

 不意に、ミカヅキが話をしてくる。


「お前と口論をした後……そこからの記憶がぼんやりとしていて……自分が何をしたのか、よく覚えていないんだ。体が勝手に動いたような、やけに頭がよく働いたというか…………」
「……それは多分、今さっき現れた称号のせいだと思います。」
「……称号だと? 私に称号なんて無いは……?」

 言い切られる前に、俺は彼女のステータスを見せる。すると全く気づいていなかったようで、ミカヅキは目を大きく見開いていた。

「か……解放される力? 何なんだこの称号、こんな物見たことも聞いたこともないぞ。」
「俺も初めて見ました。何やら条件を満たすとステータスが上昇するようですが……どうも戦った俺からすると、それだけとは思えないんです。」
「それだけ、とは?」
「はい……あの時のミカヅキさんは動きが鋭くなった……というより、咄嗟とっさの行動での躊躇がほぼ無かったんです。」

 仮に、俺の全ての能力がミカヅキと同じだったとしても、あんな動きをすることは不可能だろう。それ程に彼女の動きは異常で、不規律だった。

「俺の胸ぐらを掴んだ時、覚えてますか?」
「……何となく、そんなことをしたような…………」
「あの時、俺は手を離させようと剣を振るいました。その場合、普通なら手を離すかどうかして剣を避けたりするものです……ミカヅキさんでもそうするはずでしょう?」
「…………おそらく。そもそも私は胸ぐらを掴むような攻め方はしないから分からないが…………」
「けど、ミカヅキさんは離すことはなく、俺を回転させて剣を外させた……こういう言い方はあれですが、今のミカヅキさんの実力や判断能力で出るような行動ではないと思います。」

 ましてや、彼女の戦闘スタイルは比較的硬派。自前の剣技で攻めていくような動きをする彼女に、あの行動を即決するほど肝は据わっていないだろう。

「だから、これは憶測ですが……その解放される力とやらは、ステータス上昇に加え…何かしらの判断力? を向上させる……みたいな物だと思います。まだ1回しか見ていないので不確かですが。」
「…………結局、何が何だがさっぱりだな。変な力に目覚めてしまったものだ……」

 そう言ってある程度回復し切ったのか、ミカヅキはゆっくりと立ち上がって月を見上げた。それを見て俺も魔法を解除し、月を見つめる。


 月は薄く俺たちを照らし、夜の暗闇を明かしていた。心なしか、いつもより明るい気がしたりもする。






「……さっきは、すまなかった。私にも色々思うことがあってな……後先考えず、言ってしまった。」
「……いえ、こちらこそすみません。俺も、追い詰めるようなことをして。それに…………」





 ………………それに。




「……ミカヅキさんの言っていたことは、間違ってません。」
「……そうなのか?」
「はい、俺は……逃げているん、だと思います。勝って、強さを示す……その責任を、抱える度胸が無い。」


 ……2に出会うまで、俺に躊躇いはなかった。
 その時までも目立つこと自体は好かなかったが、それはあくまで面倒ごとに巻き込まれたくないといった、単純な理由だけだったんだ。


「強くなれば、見えてくる景色もあります。でも…………。」
「…………見えなく、なる……」
「……まあ、俺が不甲斐なかっただけなんだと思います。ミカヅキさんのようにちゃんと自分の強さと向き合って実力を高めれば、何も間違いは起きないはずです。」
「……………お前は、間違えたのか?」


 …………俺は…………







「間違えた…………………かもしれませんね。」
「……………そうか。」


 俺たちは、訓練場の出口へと歩き向かう。


「……俺の武器のこと、この戦いでこと……くれぐれも他の人には言わないでくださいね。」
「ああ……言いたくても言えないさ、後輩に完敗したなんてな。」
「完敗……ですかね?」

 そんな会話をしていると、訓練場の外へと着いてしまう。
 時間もすっかり経ってしまい、月の位置もちょうど頭上に移動していた。

「……それじゃあ、ミカヅキさん。またジェットの……」
「あっ……ウルス、最後に少しいいか?」
「……何ですか?」

 俺が首を傾げていると、ミカヅキは俺に手を差し出してきた。

「握手がまだだった。昼の時も忘れていたし、ちゃんとやっておこう。」
「……きっちりしてますね。」

 そう言いながらも、俺はミカヅキの手を握る。

「……ミカヅキさん。今日は、ありがとうごさいました。」
「ああ、こちらこそ。」


 ……別に、何かが変わったわけでも無い。俺の力の一部がバレて、彼女の新たな力が目覚めただけで…………何も楽になってはない。



「……いい機会だ、ウルス。私のことは『ルリア』と呼んでくれ。」
「…………良いですけど、何故ですか?」
「何故? 特に理由はないが……こうやって色々話し合ったんだ、親しみの意を込めてってやつだ。」
「はぁ……まあ、そういうことなら……」




 『言葉にした方が楽になる』……なんてミルには言ったことがあるが…………相変わらず、なことしか言ってないな。





「……それじゃあ、今度こそ。おやすみなさい、ルリアさん。」
「ああ、おやすみ。」














 …………責任、を。
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