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六.五章 矛盾
六十九話 あの時
しおりを挟む「ウルスさん、惜しかったすねー。もうちょっとで勝ててたのに。」
「そうだな……まあ、負けは負けだ。」
試合が終わり、負けて帰ってきた俺をニイダが迎えて来た。
今日はいよいよ夏の大会本戦…………といったところだったが、既に俺は1回戦敗退となっていた。
「にしても……相手の人、正直カリストさんより弱かったっすよね? なのに負けるなんて……油断でもしたんすか?」
「そうだな、予選を突破して浮かれていたかもしれない。」
「……へぇ……」
……流石に、このニイダの揺さぶりにも慣れたものだ。
「……それより、ミルのところに行こう。まだ始まっていないんだろ?」
「多分、ちょうど今からってところっすね。行きましょうか。」
話も程々に、俺たちは会場を出てミルのところへと向かう。
(……確か、ミルは1回戦は勝つつもりだと言っていたが……)
「……あっ、ウルスとニイダだ! こっちこっち!」
「お疲れ様……結果はどうだった?」
ミルが試合をしているという会場の観客席に移動すると、既に席に座っていたローナとラナが呼びかけてきた。
その声を聞いて、俺たちは2人の近くの席に座った。どうやらまだ試合は始まっていなかったようだ。
「……あれ? ソーラさんとカーズさんはここに居ないんすか?」
「なんか、他のところで首席の試合があるとか何とかでどっかいっちゃった……まったく、身内がこれから頑張るっていうのに……」
「まあ、強い奴の動きを見て勉強したいんだろう。そんなに責めてやるな。」
不満そうなローナを俺は嗜める。
………首席か、確か名前は……………
(……マルク=アースト、だったか。)
入学式で1回見たきりだが……果たして本当に首席と言われるほどの力はあるだろうか。
ステータスがラナより低いのはともかく、どうにも彼には強者特有の風格みたいなものを感じなかった。まあ隠しているという線も無くはないが………如何せん腑に落ちない。まあそれは構わないが。
「それで、試合はどうだったの?」
「ああ……負けたよ。」
「えっ、ウルスが1回戦で!?」
「そうなんすよー、結構惜しかったんすけどね。」
「てっきり、ウルスくんなら勝てるものだと思ったけど……相手は強かったの?」
「まあ……そうだな。少し油断していたのもあると思うけど、あまり俺の動きがハマらなかったっていうのもあるな。」
「へぇ……あっ、そうだ!」
ここまで話をしていると、不意にローナが思い出したかのように言い始める。上手く誤魔化せたようだ。
「ウルス、前にミルとは『家族だ』って言ってたけど……兄妹とかそんなんじゃないよね?」
「……どうして、また急にそんなことを?」
……確か、ローナと再開した時にそんなことを言ったな。
「いや、ちょっと気になっちゃって。あの時は聞かなかったけど、今はもう友達だし聞いてもいいかなって……ダメだった?」
「…………いいや、気になるって言うなら……少し話そう。」
……このまま、黙っていてもいいが…………
『ねぇねぇウルスくん! 折角だしこの学院を回ってみない? 他にも面白いものがあるかもしれないし!』
『……そうだな、回ってみるか。』
『やったぁ!』
『おはよう、ライナ!』
『おはようミル、今日も元気だね……私は暑くてクタクタだよ。』
『夏、嫌いなの? 私は好きだけどなぁー』
『私は冬の方が好きだね、涼しくて雪も綺麗だし。』
「………俺とミルは、孤児だ。ある人に拾われて一緒に育った、血の繋がりのない家族だ。」
「孤児……!? ご、ごめん…………」
「気にするな……孤児だからといっても、何か特別悲しいことがあったわけでもない。俺たちは親の顔も覚えてない……しな。」
急な話に遠慮したローナに、俺は嘘を混ぜながら話す。
(……何も、俺やミルの辛い過去まで話す必要はない。)
「……俺たちは、その拾ってくれた人に修行を付けてもらった。」
「へぇ、2人に修行を……その人は強いんすか?」
「ああ、強いな。ここに来たのもその人に『魔法を学んでこい』って言われたからだ。」
…………実際はミルの社会見学だが。
「……ああ見えて、ミルは寂しがり屋だ。小さい頃はよくくっ付いてきて手を焼いたものだ。」
「……今もよくくっ付いているような……?」
(…………確かに、そこはあまり変わってないかもしれない。)
でも、少しずつ彼女は成長している。色んな人たちと言葉を交わしたり、共通の目的に向かって協力したり……それはミルにとって刺激的なことなんだろう。
「……………とにかく、これからもミルをよろしく頼む。あいつにとって、お前たちと……『友達』と過ごす日々は、きっと楽しいものなんだ。だから、今後もあいつと仲良くしてやってくれ。」
「そんなの……言われなくても仲良くするよっ! ミルは可愛いし!」
「なんすかその理由。まあ、確かに言われなくても仲良くするっすけど。」
「うん、私もミルと…………みんなと一緒に過ごすのは好きだからね。」
(……みんな…………か。)
「……おっ、出てきたっすよミルさん。」
「頑張れーミル!! 君はこんなところで負ける女じゃないっ!!」
「だ、誰目線なの……?」
「………………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(………あの時……………)
俺はベッドに寝転び、手を伸ばす。
もし、あの時……俺が父さんの言葉を無視して、一緒に戦ったら…………何か変わったのだろうか。
もし、ガイヤの烈風で魔物を蹴散らし、盗賊たちを倒すことができたら…………村のみんなは助かっていたのだろうか。
(……いや、村の人たちは俺が向かった時点でいなかった。なら、俺が村の外で特訓をせず……家で過ごしていたら……………)
「………たられば、か。」
腕の力を抜き、倒れ込ませる。
……今更駄々をこねたって、何も変わらない。仮にその場にいたとして敵を倒せた保証なんてありはしない……そんなことは理解かりきっているのに…………
(……ラナは、今も俺に会いたいのだろうか。)
神眼では、『大切な幼馴染』……そして、『心に深い傷を負っている』とも書かれていた。
しかし……あの夜の彼女を見る限り、既にそれを乗り越えているように見えた。
「『ここまで来た』…………」
……彼女にとって、学院に通うことは何かの通過点……もしくは、ゴールなのかもしれない。
(何を……目指しているんだ…………?)
解りもしないことを必死に考えていき、脳を疲れさせる。
やがて、俺は睡魔に誘われ…………眠っていった。
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