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六章 仮初 (夏の大会編)
六十七話 伸びた
しおりを挟む「……な、何故…俺が……ぐぅ……!」
「……大丈夫か?」
試合が終わり、俺は倒れているカリストの元へ近づく。どうやら俺の魔法の威力が高すぎたせいで、体にもダメージがいってしまったようだ。
……このまま帰っても良かったが、流石にそれは大人気ないので、一応回復魔法でも…………
「っ、いらねぇ!!」
しかし、カリストは俺の手を払って自力で立とうとする…………が、思ったよりもダメージがあったようで、すぐにその場でフラついて膝を付いてしまっていた。
カリストは苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
「クソが……俺の方がステータスは…圧倒的、だった……のに……!!」
「……言っただろ、ステータスや知識がいくらあっても……」
「100以上の差があって……関係ない、わけ……ないだろ!!」
カリストは、俺に行き場のない怒りをぶつける。
(……カリストの言う通り、いくら技術で上回っていようとも、圧倒的力の差をひっくり返すのは難しい……というか、不可能に近い。)
体を捻って拳を放てば、ただ突き出すだけの拳より強くなる。腰を深く落として衝撃を受ければ、ただ棒立ちで受けるよりも耐えられる……そんな技術の話は前世でよく聞いた。
もちろん、それは正しい。しかし、それはあくまで互いに差のないレベルでの戦いであり…………仮にその道の人と素人が競い合う際、技術などでは埋められない差は必ず現れる。
その穴を埋めるためには…………
「たとえお前が……剣が上手かろうが……魔法が得意だろうが……ステータスの差は、変わらない…のに、何故……なんで…!!?」
地面に拳をぶつけながら、俺の顔を見上げて言い放ってくる。
「…何をしたんだ……お前は……!!」
「……俺は、先を見ていた…それだけだ。」
「……さ、き……?」
「ああ、『先』だ。」
……これは、『相手が次にする行動を読む』……みたいな、単純な話ではない。
「お前は今……この負けを通して何を感じた?」
「……負けは、負けだろうが……!」
…………意外と素直だな。
「それだけか?」
「……それ意外になにがあるんだよ。」
「なら……お前はそこまでだ。」
「な……!?」
俺の言葉に、カリストは意味が分からないと声を漏らす。
「負けたから、勝ったから、それで終わり…………そんな考え方じゃ何も生まれない。また同じようなことを繰り返すだけだ。」
「………………」
「今の戦いは、お前の負けだ。ステータスが俺より上回っていようが、この戦いの負けはお前なんだ。その事実をどう受け止めるか……それはお前次第だ。」
言えることはまだまだあったが、とりあえず俺は舞台を降りて観客席へと戻っていった。
(……後は………)
「お疲れ様、ウルスくん。」
観客席へ戻ると、朝の時と同じようにラナが声を掛けてきた。
「凄い戦いだったね、まさかカリストがあんな力を隠してたなんて……何で私の時に使わなかったのかな?」
「……おそらく、俺に対策をさせたくなかったんだろうな。あと、いきなり見せつけて俺が絶望しているところを拝みたかったとか。」
「なるほど……確かにカリストはやたらウルスくんに絡んでたからね。」
……まあ、俺は俺で散々煽ったので、今更カリストの行動についてとやかく言えるほど偉くはないが。
「……でも、それに勝っちゃうんだね。ミルが自慢したくなっちゃうのも分かるよ。」
「……自慢?」
「うん、ミルはいつもウルスくんのことを話してるよ。『強くて優しい!』って。」
「……………」
……いつか、自爆しそうだな…………
「…………まあ、それより次は……いよいよだな。」
「……ふふっ、楽しみだね。」
そうは言いながらも、ラナはじっと俺を見つめてくる。
(戦っているところを見た感じ、ラナは何でもできる万能型っていったところか…………)
俺のような奇を衒ったようなことはあまりせず、かと言って型にハマりすぎない動きだった。
「私もまだウルスくんには見せてない物もあるから……驚いた顔が楽しみだよ。」
「……その魔法武器のことか?」
「………よく分かったね。」
俺の指摘に、ラナは少し驚く。
ラナが持っている武器は見た目はただの金色の剣だが、魔法武器特有の魔力を放っていた。なので間違いなく何かしらの能力があるのだろうが……今のところ、それを発動したところは見たことがない。
「流石にどんな性能かは分からないが……精々楽しみにしておくよ。」
「余裕そうだね?」
「さぁな……じゃあ、また後で。」
話も程々に、俺はラナの元を離れていく。
(……まあ、最初から負けるつもりだから余裕も何もないが。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『それでは、1年の部・第2グループの最終試合、ライナ対ウルスの試合を開始する。』
「おっ、やっと始まるな。」
「次席の試合……折角早く終わったんだし、ここで拝んでおかないと!」
時間は経ってすっかり夕焼けに当てられながら、ついに俺とラナの試合が始まろうとしていた。
また、既に全試合を終えたグループの人たちが俺たちの……というより、次席であるラナの試合を見ようとこの試合会場へ集まって来ていた。
(……これは、無闇にジェットは使えないか…?)
……いや、使わなければ使わなかっただけでラナに何か言われるかもしれない。ただでさえ負けるつもりのなのにこれ以上手を抜けば…………
「……どうしたの?」
「……いや…何でもな、い……?」
…………今、俺の表情は変わっていないはず……
『ウルくん、頑張って!』
『うん、頑張るよ!!』
(……………。)
衝動を振り払い、剣を構える。
今回はカリストとの試合にやったような、なまくらの剣を折らせて不意を突き、上級魔法・スモールエフェクトで小さくして背中に隠していたシュヴァルツで斬りかかる…………なんて戦法はもうできない。
『3、2……』
カウントダウンで、ラナも同じように剣を高く構える。
(……いきなり来るか? いや、今まで俺の試合を見ていたラナなら…………)
『1……始め!!』
「……………」
「……………」
始まりの合図が鳴り、会場には静寂が訪れる。やはり俺の動きを見てくるか。
「……来ないの?」
「……そっちこそ、ずいぶん警戒してるな。」
「ウルスくんは突拍子もないことばっかりしてくるからね、それも……大体後手の時に。」
(……予想通り、見破られてるか。)
今までの試合での俺は、ほとんどが相手の行動を活かしたカウンターばかりだった。カウンターなら、あくまで相手の力を利用した形になるので『素直な疑い』を向けられないことにはなるからだったが……
(ラナは動く気がない、俺から行くしかないか……)
「……燃やせ、『フレイム』」
挨拶代わりに炎を飛ばす。まあ距離があるので当たることはないと思うが、これで何かリアクションを……
「……はぁっ!!」
「っ……斬ったか。」
ラナは構えていた剣を勢い良く振るい、簡単に炎を真っ二つに斬り伏せた。魔法を斬るのは中々に難しいはずだが……これが次席の力か。
「じゃあ、次はこっちから……『業火の舞』!」
ラナがそう唱えると、俺の足元に大きな魔法陣が現れる。
(……最上級魔法、それも魔力消費の多く、設置されていた物でもないので発動に時間がかかる……)
……これはおそらく、俺を避けさせるための行動。
動かない俺に対しての誘導……なら、敢えてここは……
「……………」
「…………?」
そのまま棒立ちしていると、ラナが疑問の表情を浮かべたが……それを無視して炎の渦に包まれる。
業火の舞は発動しても魔法陣の中心にいればすぐに攻撃されることはなく、最初は炎に囲まれる形となる。そして、次第に渦は締まっていき、最終的には炎に焼かれてしまう。
仮にも最上級魔法……ラナからすれば、例えブラフの行動であっても俺が避けようとしないのは変な話だろう。
(……けど、俺にはこの魔法がある。)
業火の渦は完全に締まり切るまでには、上に穴がある。渦は結構な高さがあるので、俺の今のステータスでは届かない…………が。
『ジェット』
「……えっ、あれ……!?」
「と、飛んでる!?」
俺は空を飛び上がり、渦を抜け出す。そんな俺を見て会場にいる観客たちは驚きの声をあげていたが、構わずラナに自身の影を合わせる。
「……『水弾』」
「っ……!」
俺はジェットを解除して落下し、ラナの視界を影から夕焼けの光に変えて困惑させる。そして落下しながら水の弾を放って攻撃をする。
それに対してラナは流石に水弾を斬ろうとせず、普通に避けていく。
「それは……安直だな!」
「くっ!」
落下の勢いを上手く加速に変え、避けた後の隙だらけのラナに接近して剣を振るう。
ラナは俺の剣を受け止めて軽く弾き返すが、続けて俺は攻めていく。
「こんな、ものか、次席……はっ!」
「言って、くれる……ねっ!」
剣を打ち合いながら、軽口を叩き合う。
(ここで何かしてもいいが……それじゃあ勝ってしまう。)
「……取っちゃったね、距離。」
意味もなく俺がラナから距離を取ると、何故か嬉しそうに煽ってくる。
そして、剣を後ろに回して何故か両手で持ち始める。
「……そんなに重たい剣だったのか?」
「うん…………重いよ、これは。」
……もちろん、そんなはずはない。一体何を……
「いくよ……!」
ラナは剣を仰々しくその場で横に振り回そうとする。何か剣から飛んでくるのだ…………
「くぉっ……はぁぁっ!!!」
「……!?」
ラナの剣の状態に驚き、咄嗟に身構えた。
「ぐっ…………がぁっ!!」
しかし……ラナの伸びた剣に、俺は吹き飛ばされた。
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