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六章 仮初 (夏の大会編)

六十六話 ボコボコ

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「……馬鹿みたいな戦い方だな。」
「…それはどうも。」
「けっ……卑怯もんが。」

 ニイダとの試合が終わり観客席へ上がろうとしたところ、カリストがそんな事を言い放ってくる。

「卑怯? カリストも案外女々しいんだな。」
「……ちょっと勝ってるからって調子に乗るなよ?」

 俺の煽りがカリストには頭に来たのか、怒りの表情で凄んでくる。

「お前が今まで戦ってきた奴らはただの雑魚だ。次席のライナあいつに勝ってわけでもあるまいし……虚勢を張るのもいい加減にしろ。」
「……虚勢だと思うなら、そんなにつっかかってくるなよ。そこまで弱い者いじめしたいのか?」
「……こいつ…!!」

 俺の挑発にカリストは朝の時のように詰め寄ってくる。そして、俺の胸元を再び掴もうとしたが…………

「………っ…!」

 カリストは掴もうとした手を寸前で止め、後退りをする。


(……。)

「……用がないなら、行かせてもらうぞ。」
「…ちっ、クソが。」

 悪態を吐くカリストの横を俺は素通りする。



「……………」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














『それでは、1年の部・第2グループの第8試合、タール=カリスト対ウルスの試合を開始する。』


「……ぶっ潰してやる。」
「…………」

 始まる前から、カリストはそんな血の気の多い事を言う。


(……あくまで、負けるとは思ってないようだ。)



 俺は、試合が始まるまでにカリストを挑発……そして、『力』を見せてきた。


『ぐっ……な、何しやがった…?』
『…さぁな、ただの偶然だ。』


 明らかにステータスが下の奴に、簡単に膝をつかされた……この事実は、プライドの高いカリストにとっても相当な屈辱だろう。加えてジェットやボックスなど、何をしてくるか分からない不気味さを見せつけて来たのだが………そこから出てくるが、今のカリストからは見えない。


(……やはり、何か秘策でもあるのだろう。)



『3、2……』
「……大剣か。」

 カリストがおもむろに大剣を構え始める。やはり力のごり押しで来るか………


『1……始め!』
「おらぁぁっ!!!」
「…来たな。」

 開始と共に、カリストは勢いよく攻め上がってくる。
 それを予想していた俺は、カリストから距離を取るように後ろを振り向いてダッシュする。

「いきなり逃げか? 情けない奴だ!!」

 そう煽られながらも、俺は足を止めず走り続ける。

(……流石に速いな。)

 大剣を持っているとはいえ、今はカリストの方が足は速い。なので少しずつ距離を詰められていくが…………


「馬鹿がっ、そこは壁だ!!」



 カリストの言う通り、このまま走り続ければ俺は壁とカリストに挟まれ逃げ場を失ってしまう。

(…………)


 カリストとの距離はもうほとんどない、この間合いなら…………

「……ふっ!!」
「っ、何ぃ……ぐっ!!?」

 俺は壁へと辿り着いた瞬間に足の裏を壁へとくっつけた。そしてカリストの方へと振り向き、走った勢いをそのまま壁を蹴って変化させ……体当たりを食らわせる。

「『ジェット』」
「ぐふっ…小賢しい…!!」

 体当たりで怯んだカリストに手のひらを当て、ジェットの爆発でダメージを与えながら空を飛び上がる。

「『アクアアロー』」
「当たんねぇよ!」

 空から水の矢を放つが、流石に避けられる。反応速度を見ても遠距離からの魔法はまず当たらないか…………


(…………なら、ジェットで掻き乱す!)
「……ちっ、ハエが…!!」

 俺はもどかしい距離でカリストの周りを飛び回る。その意図が分かっているようで、カリストも下手に動こうとはせず反撃の時を待っていた。

(……意外に冷静……だが、そう簡単にはいかない。)
「………!」

 俺はカリストの背後を取った瞬間、全速力で蹴りを飛ばす。

「はっ、何度も見てんだよそれはよぉ!!」

 カリストは俺の動きが読めたようで、嬉しそうに振り返って大剣を合わせようとしてきた。

(……甘い。)


「落ち、ろぉっ!!!」

 カリストは俺が間合いに入った瞬間、大剣を勢いよく横振りした。
 その剣の振りの形は不恰好ではあったものの、速さはそれなりの物だった。食らってかなり危なかったな。


「…あ? どこに…………」

 剣を振り切ったあと、目の前からいなくなった俺を探し始める。

 そんなカリストに……俺は煽るように声を掛けた。


「ここだ。」
「なっ……どこに…………












 …………は?」


 俺がいた場所に、カリストはあり得ないと言わんばかりに口を開ける。
 その結果、驚きのあまりで隙だらけになったカリストに俺はゼロ距離からの魔法を放つ。

「燃やせ、『フレイム』!」
「しまっ……ぐぉっ………!!?」

 見事に魔法が直撃し、カリストは大きく吹っ飛んでいく。そのまま俺は追撃を食らわせようとしたが、カリストが即座に立ち上がって剣を構えてきたので断念する。

 カリストは未だ驚きの表情をしながらも、俺を睨む。

「…………何しやがった。」
「お前が見た通り、お前の剣をだけだ……シンプルでいいだろ?」


 あの瞬間、俺に避ける選択肢は無かった……かといって、さっきの状況で俺の蹴りが先に届くことも無かった。


 だから……俺は寸前で蹴りをやめ、足でカリストの大剣を挟んだ。そしてそれを悟られないようにジェットで上手く調節しながら、カリストにに剣を振り切らせた。

「なっ……ふ、ふざけるな……そんなめちゃくちゃな方法で……!!」
「だが、これが事実で現状だ。」
「……ちっ…!!」

 カリストは舌打ちをしながら、俺との距離をゆっくり取り始めた。その体は震えているようにも見え、俺は一応追い討ちの言葉をかけておく。

「…どうした? もしかして怖気付いたのか?」
「……くくっ。」


 歪んでいた口元が、その笑い声と共に上がっていく。


「……正直、驚いたよ。お前みたいな雑魚でもここまでできるなんてな……だが、それはあくまで雑魚の範囲の中でだ。」

(……何かやるつもりか…………)

 …態々わざわざ待ってやる義理もないが…………


「……やってみろ。」
「あぁ?」
「お前の本気はこんなものじゃないんだろ? だったら、それを見せてみろ。」
「……はっはっは!! どこまで思い上がるんだお前は!!」

 俺の提案に、カリストは大笑いする。

「いいだろう、見せてやる……そして、この魔法でお前を完膚なきまでにぶっ潰す!!!」
(……魔法?)

 魔法は得意じゃないと自分で言っていたが……一体何をするつもりだ?

「はぁぁっ……!!」

 カリストは体に力を入れ始める。すると、カリストの実力ではあり得ないほどの強い魔力反応を感じ始めた。


(この魔法は……!!)








「『超越・力』ぁっ!!!」
「……っ…!?」


 それを唱えたと同時に、カリストから感じる覇気が以前とは桁違いな物へと変化した。

 そんなカリストの様子を見て、俺はすかさずステータスを確認した。





 名前・タール・カリスト
 種族・人族
 年・15
 能力ランク
 体力・180
 筋力…腕・189  体・174 足・200
 魔力・40
 
 魔法・8
 付属…超越・力(体力、筋力のステータスが超上昇する。)
 称号…力の才




(……まさか、カリストが……!)




 超越・力……この魔法は、自身の体力と筋力を大幅に上昇させる魔法であり、これを発動すれば約100程度はステータスを上げることができる。

 しかし…この魔法のクラスは『超越級』。『上級』の上の『最上級』……そして更に上の『超級』の、そのまた上の魔法レベルの代物であり、学院でこのクラスの魔法を使える人物は限りなく少ないと言っても過言ではない。

 ましてや、カリストの魔法のランクは『8』に対して……超越級を扱うためのランクは、最低でも『21』。本来ならまず使えないはずだが…………


「…………よっぽど練習したんだな、その魔法。」
「……相変わらず詰まらねぇ反応だが……俺には分かるぜ? 心の中でお前が怯えまくっているのがよぉ?」


 例外的に……ランクが足りていないレベルの魔法でも、1つの魔法に絞ったりして必死に特訓すれば、カリストのように格上の魔法を扱えないこともない。
 しかし…その方法があるとしても、格上の魔法を習得するのは至難の業だ。

(………意外と努力家な奴だ。)
「どうした、ビビって声も出ないか? 普段から女に庇ってもらってるから何も言えないってか?」

 俺がそう感心していると、カリストが台無しにするように挑発してくる。


「……ビビる?」
「そう強がるなよ、普段から誰かの影に隠れてるようなお前だ…そうだ、今なら降参する権利を…………」














「降参? 何故俺が降参する必要があるんだ?」
「……はぁ…?」

 意味がわからないと言わんばかりに、カリストはこぼす。

「いくらステータスが上がっても、それはにはならない。いくら知識があっても、それはにはならない。」
「…………」
「ましてや…お前のそれは、ただの『仮初かりそめ』。そんな着飾った奴に……俺は負けない。」



 ……少し、らしくない事をしているのかもしれない。





 入学した当初の俺は、ただのミルの付き添いとして日々を過ごそうと思っていた。普通な日々を3年間、誰とも深く関わらず…………そう、思っていた。


 しかし……俺の想像していた日々を送ることはできなかった。


『ねぇ! あなたって……もしかしてユウ!?』

『あんた、めちゃくちゃ強いでしょ。』

『初めまして、カーズ=アイクです。カーズと呼んでください。』

『ソーラ=ムルスだ、俺もソーラでいい……2人はどっちがどっちなんだ?』


『うん、優しくて……強い人。』

 旅の途中で出会ったローナとの再会から始まり、やたら俺のことを勘繰ってくるニイダ。入学してからは貴族のカーズとソーラに加え………魔力暴走を持ったフィーリィア。



『……ただの興味本位だよ。』



 そして………『元』幼馴染のラナ。







「………ついに頭もイカれたか。」
「そうかもな。」




 そんな奴らと学院生活を過ごしていく中……気づけば、俺にとって少しずつではあるが、『守る』べき存在たち………そう、思うようになっていた。


「さぁ……かかって来い。」


 みんなの名誉を守る……なんて大層なことは思ってないが、だ…………勝ちは貰っていこう。


「……くくっ…はっはっ!!! そこまでやられたいのか!?」


 カリストは大笑いしながら、剣を深く構える。



「だったら……やってやろう。後悔しても……
















 ……知らねぇぞぉっ!!!」


 刹那、俺はカリストの叫びを聞いて剣を構えようとした………が。


「くぉらぁぁっ!!!」
「っ…ぐはぁっ……!」


 カリストは上昇したステータス通りの動きで一気に俺に詰め寄り、大剣を振るってきた。
 その速さに俺は対応しきれず、ギリギリで剣を合わせるも紙切れの様に吹き飛ばされる。

「…ジェ……」
「やらせねぇ……よっ!!!」

 俺は体勢を立て直しながら空へと逃げようとするが、それすらもカリストは許さず一瞬で接近してくる。そして、俺を叩き潰すかのように剣を縦振りしてきたので今度こそしっかり剣で受け止める。

「っ、ぐぅ……!!」
「おうおう、そこからどうするんだ? このままじゃ全部潰れておしまいだぞ?」

 しかしカリストの大剣の勢いは止まらず、俺の剣をどんどん押し潰してくる。それに対して俺は地面に膝を付かせ、無理矢理押し返そうとするが……良く言って堪えられているだけで、状況は微塵もひっくり返る様子はなかった。

「力、任せなっ……訓練を、さぼってたツケが…あるなっ…!」
「ふん……まだ強がるか!」

 …おそらく、カリストはまだ全力ではないだろう。いくらステータスが上がったとはいえ、急上昇した能力はそう簡単には扱えない。
 そして……ただ力任せに剣を押し付けるぐらいの簡単なこの状況なら、必ずここで全力を使えるはず。

(そのタイミングで………)

「とっとと……潰れろっ!!!」

 分かりやすく、カリストはそのタイミングを声で言ってくれた。

 剣がを鳴らす中、俺は…………力を抜き、受け止めている剣を斜めに傾けた。

「っ、んなっ……!?」

 その結果、カリストの大剣は俺の剣を勢いよく滑っていき、その勢いのまま地面へと突き刺さった。
 慌ててカリストが剣を抜こうとするが、俺は抜かれる前に一歩下がってから勢いを付けてカリストへと斬りかかろうとする。

「油断したな、カリスト!」
「ちっ……そんなもん、拳で……!!」

 しかし、カリストのステータスが高まっていたせいが、俺の行動をみて即座に剣を抜くのを諦め、拳で対抗してきた。


 確かに、それなら多少ダメージは受けても拳の勢いで俺を吹き飛ばすことはできるだろう。

「油断したのはお前だ、吹きと…………」











「ああ、。」


 剣と拳がぶつかる瞬間……衝撃を消すため、俺は剣を握る力を弱めた。






 そして、それらはぶつかり……俺の剣は、



「………はっ?」
「……気を抜くなよ、剣は………」

 俺は背中側のコートの裏に手を入れ、ソレにかかっていた魔法を解き……手に取った。



「……まだある…ぞっ!!」
「な……ぐうっ!!?」

 そして、ソレを……・シュヴァルツを鞘から抜き取り、カリストを斬った。

(……まだか。)
「くっ…ふざけるなっ……!!」

 カリストを通り過ぎ、俺は一旦距離を取る。どうやらカリストは今の一撃で完全に頭に血が昇っているようで、ただ大剣を抜こうと必死になっていた。


(……もうカリストの魔力防壁はボロボロだ。魔法でも当てれば壊せるはず……だが、今のあいつのステータスじゃ半端なものは避けられる。)


 本当は今ので終わっている予定だったが……超越・力の速さで上手くクリーンヒットを避けられたか。


「……仕方ない。」
「クソがぁ、何と、しても……倒すっ!!!!」

 俺は手を突き出し、魔力を溜めていく。その頃カリストはちょうど剣を抜いた所で、あまりにも力を入れて抜いたせいか勢い余って体勢を崩していた。

「ちっ!! ……そこにいたか!!」
(……すっかり焦っているな。)


 そしてあたりをキョロキョロと見渡し、俺の姿を確認して舌打ちをする。

「もういい……これで、終わらせてやる!!!」

 カリストはフラフラになりながらも、かなりのスピードで突進してくる。魔法が来る事は分かっているようで、俺の手に全神経を尖らせていた。

(まあ……もう避けられないがな。)

 準備が終わり、魔力を解放させていく。すると、手から無色の風が一旦エアボールの様に球を形成していく。そしてその風は一瞬にして紫色へと変化し、その紫の風の球から魔法陣が現れる。

「そんなもん、避けて終わりだ!!!!」

 ……残念だが、では無理な話だ。

「……吹けっ……」





風神ふうじん一式いちしき






「……は、ぐはぁっ!!!?」


 紫風しふうが、カリスト目掛けて一気に吹き荒れる。

 それを避けようとしたカリストだが、そんな暇もなく一瞬にして吹き飛ばされ…………魔力防壁を壊されていった。



『……そ、そこまで!! 勝者は……ウルス!!』


(…………3連勝だ。)

 


 ……これは、ボコボコと言っていいだろうな。


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