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六章 仮初 (夏の大会編)
六十一話 問題児
しおりを挟む「………ふぅ…」
ひとり、俺は教室の窓から見える景色を眺めながら息を吐く。
オリジナル魔法を作る課題が終わってから、さらに1ヶ月ほど経った今……気温もかなり上がり、このコートを着るのも暑くなってきた。
……まあ、魔法で常に体温調節をしているから汗をかくほどではないが…………暑いのはやっぱり好きじゃないな。
(……あれは…………)
授業が始まる前の教室の中、周りを見渡してみると……少し目に入る光景があった。
「おはよう、ライナ!」
「おはようミル、今日も元気だね……私は暑くてクタクタだよ。」
「夏、嫌いなの? 私は好きだけどなぁー」
「私は冬の方が好きだね、涼しくて雪も綺麗だし。」
その光景とは、仲睦まじく話をしているミルとラナだった。
2人は以前のオリジナル魔法の課題から仲良くなったようで、度々2人で話をしたり訓練をしたりしているようだ。
(………………)
そんな姿を見て、俺は嬉しさもあり寂しさもあるが……正直、それどころではない焦りがあった。
「あ、ウルスくんもおはよう!」
「……ああ、おはよう。ミルと……『ライナ』。」
「うん、おはよう『ウルスくん』。」
ミルがこうやって俺に話しかけてくる結果、必然とラナと交流する機会も増えてしまった。
………この『呼び方』の通り、俺はまだラナに話をしていない。
話すのは簡単だ。ただ『生きていた』と言えばいい話。
しかし…唐突にそんなことを言い出しても、変な奴としか思われない……はずだ。
(……まだ、今じゃない。)
「ウルスくんは夏と冬、どっちが好きだったっけ?」
「………そうだな、確か冬だったか。寒さなら服を着ればそれでいいが、暑さだと調節が面倒だからな。」
「そうだね、それに夏だと汗が気になって色々と大変だし。」
「えぇー? 夏は美味しい食べ物とかいっぱいあるしいいと思う……あっ、フィーリィアさん!」
そんな話をしていると、教室の扉からフィーリィアが入ってきて、ミルがこちらに呼びかけた。
フィーリィアはそんなミルの大声に驚きながらも、ゆっくりとこちらに向かってきた。
「……お、おはよう……みんな。」
「おはよう、フィーリィアさん。」
「フィーリィアさんおはよう!」
「……おはよう、フィーリィア。」
一通り挨拶が終わると、フィーリィアはそそくさと俺の隣に座った。
フィーリィアは課題が終わってから少しずつだが、俺に話しかけてくるようになった。
そんな中でミルやニイダたちなどとも話す機会が増え、最初こそ俺の後ろに隠れたりなどしたりはしていたが……最近は普通に話をしたりするようになっていた。まだ緊張はあるようだが。
「フィーリィアさんは夏か冬、どっちが好き?」
「……夏、かな。」
「おお、これで2対2だ!」
「……何の勝負だよ。」
ミルのよく分からない言葉に、俺は笑って返す。
(………新鮮な気分だ。)
……前世での学校生活では、誰かと話したり笑いあったりすることはなかった。
それは前世の俺が選んだことであり、今更そんな生活を後悔するようなことはない。
(……けれど、今の暮らしも悪くない。)
師匠の家での暮らし、旅の時間………そして、今の学院生活。
これからも、色んな障害はあると思うが……こんな生活が続けば…………
「おいおい、なんだぁ?俺も混ぜてくれよ。」
……そう簡単には、続かないだろうが。
「……あなたは確か……タール=カリスト?」
「ああ、そうだ……よく覚えてるな。」
(……悪目立ちしてるからな。)
心の中でそう答えるが、口にはしない。
いきなり馴れ馴れしく話しかけてきた、この金に近い茶髪を持った男の名前は『タール=カリスト』。入学当初から素行が悪いことで、学院内ではちょっとした有名人となっていた。
まあ……素行が悪いと言っても言葉や態度が悪かったり、人を揶揄ったりする問題児程度の奴だそうだが。
「何か用か?」
「いやいや、お前に用なんかない。用があるのはそこの3人だ。」
「……私たち?」
俺のことは眼中に無いようで、カリストはケタケタと笑いながら話を続ける。
「いやぁ……そんな陰気な奴と話すより、俺と話したほうが楽しいだろ?なぁ?」
カリストはそう言って、引き連れている子分気質の奴らと卑しく笑い出す。
(……陰気か…まあ、間違ってない……か?)
あんまり自分の性格について考えたことはないが……確かにニイダやローナみたいに明るくはないし、かといってカーズのように利口な感じでもない。そう言われれば納得はできるが………
「……邪魔。」
「…………あぁ?」
不意に、隣から聞こえてきた苛立ちの声にカリストは素っ頓狂な声を上げる。
その隣を見てみると……一見表情は変わってないが、目の奥に煮えたぎる怒りを持ったフィーリィアが拳を強く握っていた。
「……邪魔、だから…帰って。」
「……フィーリィアさんの言う通りだよ、誰かを馬鹿にするような人と私は話をしたく無い。」
「そうだよ、ウルスくんを馬鹿にしないで!」
3人ともそう言ってカリストたちを遇らう。
そんな3人の様子を見て子分たちは気後れしていたが……カリストだけはニヤッと笑って俺に言ってくる。
「……随分と愛されてるようだな、弱いくせに。」
「…………そう、らしいな。」
安い挑発を俺は軽く流す。
そのついでに俺は、カリストのステータスを盗み見てみた。
名前・タール=カリスト
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・80
筋力…腕・90 体・80 足・91
魔力・40
魔法・8
付属…なし
称号…【力の才】
(魔法系は普通より少し低いぐらいだが……それ以外は結構なものだ。)
見たところ、カリストは完全にパワー型といったところか。魔法を習う学院でこんな形なのは何とも言えないが…まあ、それは人の勝手か。
「……つまらん反応だな、これがモテる男の余裕ってか?」
「……らしいな。」
「…けっ、まあいい。いつか痛い目に合わせてやるから、それまで楽しみにしておくんだな。」
俺の反応が面白くなかったのか、カリストはそう言い捨てて子分たちと離れていった。
(……痛い目…か。)
………また、変な奴に目を付けられたものだ。
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