48 / 291
四章 タッグ戦
四十六話 こっちの方が
しおりを挟む「それじゃあお前たち、外に行くぞ。」
「外……? 何しに行くんですか?」
自己紹介も終わり次に学院の説明をするのかと思ったら、何故かラリーゼは外へ行こうと言い出した。
「それは後で説明する……まあ、戦う準備だけしておけ。」
ラリーゼは薄く笑い、教室を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここって……試験の時の場所?」
「多分そうっすね。まあ似たような施設はいっぱいあるそうだし、全く同じ場所かは知らないっすけど。」
俺たちはラリーゼについて行くと、そこにはどうやら試験の時と同じような広い施設があった。
中に入り、施設の真ん中まで行くとラリーゼは注目の指を立てる。
「ここは訓練所だ。今後授業や自主的な特訓に使ってもらう場所だが……今日は実力試しとしてタッグ戦を行ってもらう。」
「タッグ戦?……それはまたいきなりっすね。」
「初日だからな、親睦を深めるのにもちょうどいいだろ。それに……私も、お前たちの実力を見ておきたい。」
実力か……確かにタッグ戦なら味方との連携や作戦の幅、複数いる相手の状況判断など単独戦では測れない……そして、より実践的な実力を測れるな。
「ペアは自由に決めてくれ。数分後にまた集合をかけるから、それまで解散とする。」
ラリーゼがそう言うと、みんな一斉に相手を探し出す。
「タッグ戦かぁ……やっぱ知ってる人がいいな。」
「私はもちろんウルスく……」
「ウルスさん、俺と組まないっすか?」
その時、ミルの言葉を遮るようにニイダが俺にそう申し出てきた。
(ニイダか……)
「……どうして俺と?」
「そりゃ、もちろん面白そうっすから。ウルスさんの力を間近で見てみたいっすし。」
「………………」
……とてつもなく胡散臭いが、かといって断ればそれはそれで面倒だ。それに…………
(俺も……お前のことは知っておきたいしな。)
「……ああ、組もう。」
「おっ、そうこなくっちゃ!」
「…………むぅ………」
俺がニイダの申し出を受けた瞬間、もの凄く不満そうな顔をしたミルが俺の袖をグイグイと引っ張ってきた。
「もう、私だってウルスくんと組みたいのに……勝手に話進めないでよっ!」
「す、すまん……でも、せっかく学院に来たんだ、俺とばかり一緒にいても楽しくないだろ?」
「むぅー! そうじゃなくて私は……!!」
「ほらほら落ち着いてミル、私と組もっ? ねっ?」
「うっ、は、離してローナさん!? まだ話は終わって………うがァー!!」
「「……………」」
ギャーギャー騒ぐミルの首根っこをローナは掴み、宥めながらそのまま遠くへと行ってしまった。そして、そんな怪獣みたいに暴れているミルを見届けている俺たちには何とも言えない空気が流れていく。
「…………あんな声出すんすね、ミルさんって。なんか意外っす。」
「……俺も初めて聞いたな。」
「…………まあ、それより作戦でも考えましょう。どうするっすか?」
「そ、そうだな……作戦は…………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「次、ウルス・ニイダペアとソーラ=ムルス・カーズ=アイクペアだ……こっちに来い。」
全員ペアが決まったあと、すでに試合は回されていった。そして何試合か終わった後、俺たちの番が回って来た。
訓練所の観客席から舞台へと向かう途中、ニイダがこそこそと耳打ちしてくる。
「名前の感じ、貴族っすかね。見た目は平民とそこまで変わらなさそうだったっすけど。」
「……貴族は派手な奴らばっかりって言いたいのか?」
「いやぁ、首席とかクラスのオラオラしてる人も貴族で目が痛い服を着てたじゃないっすか。俺、意外と世間知らずなのでそういうところわかんないんすよ。」
「……意外……?」
「……なんすかその目。」
……クナイをいきなり投げる奴の言葉とは思えない。もしかして本気で言ってるのか…………?
「……揃ったな。」
なんてやりとりをしながら舞台に立つと、既に相手の2人は戦いの準備をしていた。
名前・ソーラ=ムルス
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・53
筋力…腕・43 体・57 足・51
魔力・48
魔法・8
付属…なし
称号…なし
名前・カーズ=アイク
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・49
筋力…腕・40 体・43 足・46
魔力・50
魔法・8
付属…なし
称号…なし
(……ローナ以上、ニイダ以下くらいか…………)
ソーラ=ムルスは黒髪で身長が高めの男で服は質素なものの……茶色のコートと足首が見える長さのズボンを基調とした、どこか力強さを感じさせるものだった。体付きはゴツゴツしており、顔もその雰囲気に合った強面な男だ。
対してカーズ=アイクは少し長めの茶髪を持ち、服はソーラ=ムルスよりもきっちりとして貴族らしさを少し醸し出していたが、派手とまではいかない深い青色のコートと長ズボンといった構成だった。体付きは細く、きっちりとした顔つきをしていた。
「……こっち来るっすね。」
1人で特徴を分析していると、向こうから近づいて話しかけてきた。
「初めまして、カーズ=アイクです。カーズと呼んでください。」
「ソーラ=ムルスだ、俺もソーラでいい……2人はどっちがどっちなんだ?」
「俺がウルスだ、よろしく。」
「俺がニイダっす……悪いけど負けないっすよ!」
「おう、かかってこい!」
ニイダの挑発に、ソーラは景気の良い顔で返す。とりあえず悪い奴らでは無さそうだな。
「改めてルールを説明するが……基本的に禁止するものはない。それとここは試験の時とは違って決められた舞台はないから落下負けもない、どちらかのチームの魔力防壁を全て破壊した時に勝敗を決める。」
舞台落ちがない……なら、大胆に距離を取るのもありだな。
「……そういえば、ウルスさん。作戦は本当に『アレ』でいいんすか?」
「ああ……俺たちはまだお互いのことを深く知らない。下手に練るより自由なほうがいいだろ。それに………お前の戦い方的にも、こっちの方がいいだろ?」
「…………くくっ、なるほど……よく見てますね。」
そう言ってニイダはニヤっと笑う。
「両者、準備はできたな……それでは、勝負を始める。」
ラリーゼの言葉に、ソーラとカーズは深く構える。それに対して俺たちは…………
「……? 棒立…………」
「では…………始めっ!」
合図と共に、突撃した。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
閉じ込められた幼き聖女様《完結》
アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」
ある若き当主がそう訴えた。
彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい
「今度はあの方が救われる番です」
涙の訴えは聞き入れられた。
全6話
他社でも公開
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる