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四章 タッグ戦

四十六話 こっちの方が

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「それじゃあお前たち、外に行くぞ。」
「外……? 何しに行くんですか?」

 自己紹介も終わり次に学院の説明をするのかと思ったら、何故かラリーゼは外へ行こうと言い出した。


「それは後で説明する……まあ、戦う準備だけしておけ。」


 ラリーゼは薄く笑い、教室を出た。













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「ここって……試験の時の場所?」
「多分そうっすね。まあ似たような施設はいっぱいあるそうだし、全く同じ場所かは知らないっすけど。」

 俺たちはラリーゼについて行くと、そこにはどうやら試験の時と同じような広い施設があった。
 中に入り、施設の真ん中まで行くとラリーゼは注目の指を立てる。

「ここは訓練所だ。今後授業や自主的な特訓に使ってもらう場所だが……今日は実力試しとしてタッグ戦を行ってもらう。」
「タッグ戦?……それはまたいきなりっすね。」
「初日だからな、親睦を深めるのにもちょうどいいだろ。それに……私も、お前たちの実力を見ておきたい。」

 実力か……確かにタッグ戦なら味方との連携や作戦の幅、複数いる相手の状況判断など単独戦では測れない……そして、より実践的な実力を測れるな。

「ペアは自由に決めてくれ。数分後にまた集合をかけるから、それまで解散とする。」

 ラリーゼがそう言うと、みんな一斉に相手を探し出す。


「タッグ戦かぁ……やっぱ知ってる人がいいな。」
「私はもちろんウルスく……」


「ウルスさん、俺と組まないっすか?」

 その時、ミルの言葉を遮るようにニイダが俺にそう申し出てきた。

(ニイダか……)

「……どうして俺と?」
「そりゃ、もちろん面白そうっすから。ウルスさんの力を間近で見てみたいっすし。」
「………………」

 ……とてつもなく胡散臭いが、かといって断ればそれはそれで面倒だ。それに…………

(俺も……お前のことは知っておきたいしな。)

「……ああ、組もう。」
「おっ、そうこなくっちゃ!」
「…………むぅ………」

 俺がニイダの申し出を受けた瞬間、もの凄く不満そうな顔をしたミルが俺の袖をグイグイと引っ張ってきた。

「もう、私だってウルスくんと組みたいのに……勝手に話進めないでよっ!」
「す、すまん……でも、せっかく学院に来たんだ、俺とばかり一緒にいても楽しくないだろ?」
「むぅー! そうじゃなくて私は……!!」
「ほらほら落ち着いてミル、私と組もっ? ねっ?」
「うっ、は、離してローナさん!? まだ話は終わって………うがァー!!」
「「……………」」

 ギャーギャー騒ぐミルの首根っこをローナは掴み、宥めながらそのまま遠くへと行ってしまった。そして、そんな怪獣みたいに暴れているミルを見届けている俺たちには何とも言えない空気が流れていく。


「…………あんな声出すんすね、ミルさんって。なんか意外っす。」
「……俺も初めて聞いたな。」
「…………まあ、それより作戦でも考えましょう。どうするっすか?」
「そ、そうだな……作戦は…………」














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「次、ウルス・ニイダペアとソーラ=ムルス・カーズ=アイクペアだ……こっちに来い。」

 全員ペアが決まったあと、すでに試合は回されていった。そして何試合か終わった後、俺たちの番が回って来た。

 訓練所の観客席から舞台へと向かう途中、ニイダがこそこそと耳打ちしてくる。

「名前の感じ、貴族っすかね。見た目は平民とそこまで変わらなさそうだったっすけど。」
「……貴族は派手な奴らばっかりって言いたいのか?」
「いやぁ、首席とかクラスのオラオラしてる人も貴族で目が痛い服を着てたじゃないっすか。俺、意外と世間知らずなのでそういうところわかんないんすよ。」
「……意外……?」
「……なんすかその目。」

 ……クナイをいきなり投げる奴の言葉とは思えない。もしかして本気で言ってるのか…………?


「……揃ったな。」

 なんてやりとりをしながら舞台に立つと、既に相手の2人は戦いの準備をしていた。



名前・ソーラ=ムルス
種族・人族
年齢・15歳

能力ランク
体力・53
筋力…腕・43 体・57 足・51
魔力・48

魔法・8
付属…なし
称号…なし







名前・カーズ=アイク
種族・人族
年齢・15歳

能力ランク
体力・49
筋力…腕・40 体・43 足・46
魔力・50

魔法・8
付属…なし
称号…なし


(……ローナ以上、ニイダ以下くらいか…………)


 ソーラ=ムルスは黒髪で身長が高めの男で服は質素なものの……茶色のコートと足首が見える長さのズボンを基調とした、どこか力強さを感じさせるものだった。体付きはゴツゴツしており、顔もその雰囲気に合った強面な男だ。

 対してカーズ=アイクは少し長めの茶髪を持ち、服はソーラ=ムルスよりもきっちりとして貴族らしさを少し醸し出していたが、派手とまではいかない深い青色のコートと長ズボンといった構成だった。体付きは細く、きっちりとした顔つきをしていた。

「……こっち来るっすね。」

 1人で特徴を分析していると、向こうから近づいて話しかけてきた。

「初めまして、カーズ=アイクです。カーズと呼んでください。」
「ソーラ=ムルスだ、俺もソーラでいい……2人はどっちがどっちなんだ?」
「俺がウルスだ、よろしく。」
「俺がニイダっす……悪いけど負けないっすよ!」
「おう、かかってこい!」

 ニイダの挑発に、ソーラは景気の良い顔で返す。とりあえず悪い奴らでは無さそうだな。

「改めてルールを説明するが……基本的に禁止するものはない。それとここは試験の時とは違って決められた舞台はないから落下負けもない、どちらかのチームの魔力防壁を全て破壊した時に勝敗を決める。」

 舞台落ちがない……なら、大胆に距離を取るのもありだな。

「……そういえば、ウルスさん。作戦は本当に『アレ』でいいんすか?」
「ああ……俺たちはまだお互いのことを深く知らない。下手に練るよりなほうがいいだろ。それに………お前の戦い方的にも、こっちの方がいいだろ?」
「…………くくっ、なるほど……よく見てますね。」

 そう言ってニイダはニヤっと笑う。



「両者、準備はできたな……それでは、勝負を始める。」


 ラリーゼの言葉に、ソーラとカーズは深く構える。それに対して俺たちは…………


「……? 棒立ぼうだ…………」





「では…………始めっ!」




 合図と共に、突撃した。




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