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三.五章 『守る』ために
四十一話 師匠
しおりを挟む「いよいよ明日か……」
俺は椅子に座りながら、夜の景色を見て呟く。
外は月明かりに照らされ、一帯の草原が青白く光っていた。
(確かに、俺が学院に行ってみないかと言ったが…………いざこうなると寂しいな。)
明日はついに、あいつらが学院に通う日だ。学院では寮生活になる為、そうしばらくは会えなくなるだろう。
……そう言えば、ミルにあれを頼まれてたな。そろそろ時期的に植えておかないと…………
「……帰ったか。」
そんなことをぼんやり考えていた時、玄関から扉を開く音がした。
そして居間の扉が開き、ウルスが神妙な面持ちで近づいてきた。
「…….遅くなりました。」
「おお、おかえり……確か、村に行ってたんだな……どうだった?」
「……村には墓石がありましたよ、誰が作ったのかは知りませんけど……一応、手を合わせておきました。」
「……そうか…………」
「………それで、用事とは?」
「あ、ああ……そうだった。」
ウルスになんて返そうか迷っているうちに、彼から本題を切り出される。
……まあ、渋るようなことでもない。明日に負担をかけたくはないし、早々に始めよう。
「勝負だ勝負………俺とお前の、な。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……何故、急に勝負を?」
学院に通うことになる前日の夜。いきなり師匠に勝負を挑まれ、流れのまま戦うことになっていた。
「まあ、あれだ……入学前の一勝負ってやつだ。それに、最近戦ってなかったしな……お前の力を再確認しておきたいんだ。」
「……そういうことなら、分かりました。ルールはどうします?」
「そうだな……今回は武器の使用は禁止、先にどちらかの魔力防壁を壊した方が勝ち……でいいな?」
「はい。」
その返事を皮切りに、俺と師匠は互いに構える。
……今となっては俺の方がステータスは上回っているし、帰ってきてから何度か戦って全て勝利はしているが………油断できるような相手じゃない。
(……せっかくだ、『アレ』を試すか………)
「じゃあ……行くぞ!」
「……いつでもどうぞ。」
俺が挑発すると、師匠は超級魔法のギガ・スパークを早速放って来た。
俺はそれを軽く避け、一瞬で師匠の背後に回り込む。
「……やっぱり避けるか。」
「いきますよ………!」
俺は手を手刀の形に変え……魔法を唱えた。
「『スウァフルラーメの呪剣』」
「………っ?」
瞬間、手から紫色の半透明の光が剣の形を形成していき、師匠目掛け超スピードで伸びていく。
「うぉっ!!?」
そんな声を上げながらも、師匠は振り返ってその剣を避けようとした。
しかし完璧に避け切れてなかったようで、紫の剣は師匠の魔力防壁を体を避ける形で貫き穴を空けていた。
「なっ、穴を……どうなっている……?」
魔力防壁は基本的にひび割れるように壊れるのが基本的で、一部だけ欠けたり穴が空いたりするようなことはほとんどない。ましてや師匠クラスの魔力防壁なら、俺でも綺麗に穴を空けるほどの魔法はこれくらいしかない。
師匠は驚いたまま俺に質問をする。
「……この魔法も、龍神流か?」
「はい、最近覚えた魔法です。魔力消費は多いですが、このように威力もずば抜けて高くて、長さも調整できるので便利ですよ…………まあ、貫く程のものなので人にはあまり使えませんが。
「な……なら使うなよ!?」
「師匠なら避けると思ったので。」
実際スピードも抑えていたし、急所を狙っていたわけでもないので、最悪俺の回復魔法を使えばいいので使うのに躊躇はしなかった。
(……それに、こういう時くらいしか『人』には使えないからな、他に試す場がない。)
「はぁ……相変わらず凄い魔法だな、龍神流は。確かお父さんが作ったんだよな? どうやって作ったのか聞いてないのか?」
「……さあ、あまり父の身の上話は聞いたことないので……俺も小さかったし、覚えてなかっただけかもしれませんが。」
……よく考えたら、ただの村人がこんな魔法を使えるなんてとても不思議なことだが…………きっと、父さんには才能があったのだろう。
………それに……………
「……でも、この龍神流を完全に極めれば……何か分かるかもしれません。」
龍神流は、父さんが俺に残してくれた唯一の物だ。
(これは、俺をきっと導いてくれる…………そう、信じよう。)
「……そうだな、じゃあ続けるか。」
「はい……かかって来てください。」
「お前も言うようになったな……じゃあ、遠慮なく!」
それから俺たちは、夢中になって勝負を続けた。
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