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三章 入学試験 (学院編)

三十九話 ポーカー

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「……すぅ……!」

 呼吸を整え、俺は剣を学院長に斬りかかった。だがもちろん、それは軽く両手剣で受け止められる。
 それを読んでいた俺はこの至近距離から魔法を放とうと手を突き出した。

「炎のたっ……」
「やらせん!」
「……!?」

 しかし、学院長はあろうことか魔法が放たれようとしている俺の手を握り潰し、無理矢理魔法の発動を防いだ。
 そして徐々に力を加えていき、俺の魔力防壁を傷つけていく。


「……とんでもない力ですね。」
「その割には随分落ち着いているな、痩せ我慢か?」
「ポーカーフェイスなだけです……よっ!」
「……おっ?」

 俺は受け止められている剣を受け流しで躱し、その受け流しでしゃがんで学院長の体勢を下げる。
 そして、顔を蹴り上げようと俺は足を伸ばしたが、学院長はすかさず俺の手を離し、首を傾けてそれを避けながら立ち上がった。

「剣や魔法だけに頼らない……いい動きだ。」
「ありがとうごさいま、すっ!」

 俺はその場で飛び上がり、学院長の頭上へと移動する。
 そして俺は学院長……ではなく、その足元に魔法を放つ。

「『エアボール』」
「っ……!」

 俺は上級魔法の風の球を作り出し、足元に放つ。すると風の球はそこで弾け、周りに風圧を起こす。
 学院長は予想外のこともあってか、その場で転んでいた。油断でもしていたのだろう。


「はっ!」
「おっと……!」



 俺は剣を両手で持って、転んだ学院長に突き刺そうとした。
 だが、学院長はそれでも慌てることなく、転んだまま剣で受け止めてくる。


(……体勢的に………次は『これ』か。)

「……ふっ!」
「……っ!?」


 剣同士が触れた瞬間、その衝撃を利用して俺は再び飛び上がる。

「無茶苦茶な奴だ……!」
「どうも……『ライト』!」
「……!」

 学院長が立ち上がっている間に、俺は宙からライトを目に浴びせる。
 結果、視力を奪われた学院長は立ち上がったは良いものの、その場で立ち尽くして瞬きを繰り返していた。

「………………」

 その先に俺は地面にそっと降り立ち、息を殺しながら回り込む。
 そして、に手を付いた後、背中を斬りに行こうと地面を蹴った。



「……そこだ!」
(……やはり分かるか。)


 しかし、すぐに学院長は目が見えないまま俺の位置を把握し、剣を合わせようとしてきた。おそらく地面を蹴った音と俺の魔力を感じ取っての行動だろう。



 ……だが、それも想定内。


「……今っ!」
「ば、爆発……!?」


 俺はさっき手を付いた場所に到達した瞬間、仕掛けておいた魔力の塊を破裂させ、その爆風でスピードを急上昇させた。


「くっ……やるな!」

 流石の学院長も急なスピード上昇に遅れを取ったのか、俺の剣のダメージを受けていた。

(……油断あっての『これ』だろうが………)





「……まあ、か。」



 俺はその勢いを殺すことなく、そのまま舞台から飛び出て会場の壁へと激突した。


「ぐっ……!」

 ………本来ならこんなもの痛くも痒くもないが、力を抑えているせいで魔力防壁が残りながらも若干の痛みが体に走る。

「ウ……ウルスさん、大丈夫っすか?」
「……ああ。」

 壁に埋まったままの俺にニイダが駆け寄ってきた。

(少し雑な退場だったが……まあ、十分戦えただろう。)

 この試験は試験官……つまり、学院長の目に多少入るほどの実力を示せれば、それでいい。

 おそらく、今の試合で『ニイダと同じく少しダメージを与えられるほどの実力を持つ者』……そう捉えられたはずだ。

「お前さん、大丈夫か?」
「はい……大丈夫、です。」

 近づいてきた学院長の言葉を返すように、俺は壁から体を出す。
 壁に埋まって付いた埃を払っていると、不思議そうに学院長が聞いてくる。
 
「……あまり悔しくなさそうだな?」
「……まあ、勝てるとは思ってなかったので。」
「そうか…んじゃなくて、か?」

 ……思ったより敏感な人だ。


「そんなことないですよ……ほら、次が詰まってますよ。」
「ふっ……そうだな。そういうことにしておこう。」

 俺が誤魔化したとでも思ったのか、学院長は鼻で笑って舞台へと戻って行く。





「ニイダにウルス……覚えておこう。」



 去り際…………そんな言葉が耳に届いた。


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