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三章 入学試験 (学院編)
三十七話 1本
しおりを挟む「お前の力はこんなものか……終わりたければ終わってもいいんだぞ?」
「……まさか、もうちょっとだけやらせて欲しいっす……よっ!」
ニイダは空いている片手にクナイを錬成させ、学院長へと投げるが、彼は特段驚くこともなくそれを簡単に弾く。
「クナイか……珍しい物を使うようだな。だが、そんな1本程度じゃ………」
「………くくっ。」
学院長が言い終わる前に、ニイダは嘲笑のような声を上げる。
「……何がおかしい?」
「いやぁ……『確かに』と、思いまして。クナイ1本であなたを倒せたら忙しないですよ。」
ニイダはゆっくりと後退し、舞台の端まで下がってから空いていた片手を前へと突き出す。
その片手は薄く光っており、何やら魔法を溜め込んでいるようだった。
「時間がなかったので、少ないかもしれないっすけど……
……喰らってくださいっす!!!」
ニイダはその光っている手を掲げ、一気に振り落として……唱えた。
「『苦無ノ舊雨』」
(知らない魔法………)
オリジナル魔法か……しかし、見たところ変化はない。
………いや………………
「………っ、空か!」
「正解っすよ!」
学院長の言葉に周りの受験者は空を見上げ、俺もそれに倣うように目をそこに向けた。
すると……そこにはとてつもない量のクナイが存在しており、まるで雨のように学院長の頭上目掛けて降ってこようとしてきていた。
「なっ……なんだあれ!?」
「あ、あんなのどうやって避けるのよっ!?」
空に映る異様な風景に周りの人たちも愕然としていたが、俺は驚きを他所に1人この魔法について考察する。
(……苦無ノ舊雨か…………あの様子からして、片手はフリーにしていないと発動できないのだろう。)
その証拠に、ニイダは学院長の攻撃に対して普通なら両手で短剣を握れば耐えられるところを、敢えて片手持ちで対応していた。そこまで頭が回っていなかったと言えばそこまでだが……あの感じからして、きっとそんな奴ではないだろう。
(他は…………時間で威力が変わる、か?)
さっきの口ぶりからして、時間をかければかけるほど威力が上がる………今分かるのはそれくらいだろう。
「……面白い…………なら、正面突破だ!」
学院長は楽しそうに剣を今度は両手で持ち、クナイの雨に対して構えたが……当然、とてもそれだけで解決できるようには誰も思えず、みんな困惑の色を示していた。
(……一体、どんな力が………)
流石に、ただ剣の素振りの風圧で吹き飛ばす……なんて真似はしないはず。おそらくその両手剣の魔法でどうにかするのだろうが…………
「……? 剣が、伸びて…………?」
(なに………?)
その時、ニイダがそんなことをぽつりと呟いたので俺も学院長の剣を観察してみる。すると、その両手剣は微少ではあるものの剣身を少しずつ伸ばし始めており、また剣そのものの大きさも徐々に膨らませていた。
そして、それと同時に両手剣には今まで感じたことのない、極めて異質な魔力の反応が現れ始め……どんどんその反応を強めていった。
(……なんて魔力、これは………!)
「そろそろ……かっ!!」
チャージが完了したのか、学院長は巨大になった両手剣を腰深く構え……こう言った。
「はぁっ……丸まれ、アヴニールっ!!!!」
「……光ってる……?」
ニイダが不思議そうに零したように、アヴニールと呼ばれた両手剣は学院長の言葉と同時に緑色に輝き始め……彼は上空には向かってそのアヴニールを大きく斬り上げた。
すると、その瞬間アヴニールに溜まっていた光が斬撃の軌道を辿ったと思ったら、すぐさまその形のままにクナイの雨へと目掛け高速で飛んでいった。
そして、緑の光は飛んでいく中で球体へと形を変化させていき……クナイの雨を掻い潜っていった。
「弾けろっ!!」
「弾け……っ!?」
やがて雨の中心に到達した光の球体は、学院長の叫び声によって一気に破裂し……周りにとてつもない衝撃を起こした。
その衝撃はクナイの雨を一瞬で崩し、破壊していくどころか……あまりの威力で爆ぜたため、中には余波を食らって転げている人たちもいた。
「なっ……うぁっ!?」
当然、俺たちよりも近くにいたニイダもその衝撃にやられ……舞台の端からそのまま落ちてしまっていた。
「これまで……だなっ!」
学院長は舞台の上で満足そうに言いながら、落ちたニイダへと手を差し伸べる。その手にニイダはなんとも言えない表情をしながらも、手を取って立ち上がる。
「……流石っすね、噂通りの人だ。」
「それはどうも……だが、お前は十分強かった。俺にわざわざクナイの位置を教えなければダメージを与えることはできたけどな。」
「そうっすね…………でも。」
ニイダはそこで何故かニヤッと笑い、学院長はその表情に首を傾げ…………
「………っ!?」
(……クナイ……?)
不意に、1本だけクナイが空から落下し………学院長の魔力防壁に傷をつけた。
……まさか、これを狙って…………?
「………油断大敵っすよ?」
「…がっはっは! 肝に命じておくよ!」
ニイダの『それ』に、学院長は笑って流した。
(………誤魔化すか。)
「……よし。次の受験者は…………ウルス、舞台に上がってこい!」
名前を呼ばれ、俺は舞台へと向かう。
そして、降りてくるニイダと入れ替わるように上がろうとした時……肩を軽く叩かれた。
「俺の全力でもあれだったすけど…………どうっすか、勝てる見込みは?」
「……どんな質問だ。あんなに強い人に勝てるわけがないだろ。」
「えぇー、ウルスさんなら勝てたりしちゃったりと思って……まあ、頑張ってくださいっすよ。」
ニイダはそんな妄言を吐きながら戻って行った。
(……本心で言ってるのか冗談なのか…………腹の知れない奴だ。)
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