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三章 入学試験 (学院編)

三十四話 教師

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「ここが宿かぁ……」
「……ほら、ミル。」

 ミルが宿屋をあちこち眺めているうちに、俺は手続きを済ませていた。
 そしてミルに鍵を渡すと……何故か彼女は鍵をじっと見つめ始めた。


「……なんだ?」
「もちろん、一緒の部屋だよ……」
「別に決まってるだろ……じゃあ、おやすみ。」
「えぇ~せっかくのお泊まりなのに……」
(……当たり前だろ。)

 くだらないことをブツブツ言っているミルを無視して、俺は部屋へと入る。そして中にある椅子に座って今日のことを思い出す。

「…………ローナ、か。」

 正直、ローナが試験を受けているとは思わなかった……というかローナのことも忘れかけていた。それぐらいにこの試験で再開したのは驚きだったな。

(それに……あれほど成長していたとは…………)

 おそらく、まだ戦い慣れていないところを見ると、彼女はオリジナル魔法を含めてほぼ独学でやってきたのだろう。それなのにしっかりと戦い、魔法を使うタイミングなども素人の割には悪くなかった。

 フレイムアーマー……あのような発想は俺もしたことはあるが、如何せん効率的ではないと思ってやることはなかったが…その内試すのも悪くないだろう。




(……こうやって、誰かの成長を見るのは楽しいな。)



















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

















「ふぁぁ……おはよう二人とも。」
「おはよう、ローナさん。」
「おはよう………眠そうだな。」
「いや~今日のこと考えたら緊張して眠れなくて……昨日はウルスに負けちゃったし、気合入れないとねっ!」

 翌日、俺たちは再び試験を受けに行った。
 会場には既にローナが欠伸をしながら待っていたので、開始時間まで少し談笑していた。

「今日は3人とも場所が違うんだよね……えっと、試験内容は確か……」
「『試験官との手合わせ』……つまり、この学院の教師たちとの勝負だな。」
「そうそう……それで、ここの先生たちは強いのかな……?」
「そりゃ強いよっ! 人族一番の魔導施設なんだから……あぁどうしよう、心配になってきた!」

 ローナは頭を抱えながら言う。
 ……確かに、ローナのような対人戦の経験が浅い人たちからすれば、教師のような経験値を持っている人と戦うのは不安だろう。

 落ち着きがないローナを、ミルがなだめる。

「大丈夫だよローナさん、今回は武器も使えるし昨日よりも選択肢は多いよ!」
「そうだな……それに、教師は俺たち受験者の力を見極めたいんだ。そんなすぐに潰すような真似はしないだろうし、思う存分自分の実力を見せればいいんだ。何もそこまで心配することはないぞ。」
「そ、そうかな……うん、そうだね!」

 ローナは自分に言い聞かせるように自身を鼓舞していると、次第に開始の時間が迫ってきた。

「……じゃあウルス、ミル、また後で!」
「うん、みんな頑張ろうね!」
「ああ。」


 学院の教師か……いい機会だ、この試験でソルセルリー学院がどれくらいのレベルなのか確かめよう。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 会場に着くと既に誰かが試験を開始していた。どうやら今日は先着順で受験を行なっているらしい。
 俺は自分が受ける順番の紙を受け取り、遠くから試合を眺めようとしていた。


「おお……あの人凄いな!他の奴らとは違う!」
「ああ、しかも金髪で美人……是非お近づきになりたいな……!」

 その時、周りからそんな声が聞こえてきた。

(……どんな奴だ?)

 周りの反応を聞き、俺もその美人とやらを見てみる。

 すると……そこには長く、綺麗な金髪をした女が教師と戦っていた。

 そして周りの話の通り、彼女の動きは昨日見た受験者とは明らかにレベルが違い、その彼女が普通の人たちとは一線を画していることを感じさせた。

(…………只者ただものじゃないだろうな。)

 そんなことを考えながらぼんやりしていると……さっきまで背後で見えていなかった彼女の顔が視界に入る。









 その彼女の顔は………














 ……とても、だった。


「………っ!!?」



 彼女はとても大きく潤った金色の瞳をしており、とても整った口や鼻は会場にいる全員を惹きつけていた。

 だが、その表情に真剣や怒り、不安などの色は無く………







 ……ただ、『哀しみ』があるだけだった。




(……まさか………!?)








 そして、俺にとってそれは………だった。








「な…何故………ここに…………?」





















 その刹那、どこからともなくクナイが飛んできた。






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