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二章 『強く』なるために

十八話 不思議な1日

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 この後も戦いは続き、私たちはみんなが倒し損ねた魔物を処理していった。
 ちなみに、私の魔法ではゴブリンたちを1、2発撃たないと倒せなかったが……ユウは全て1発だったり、軽く蹴り飛ばしたりして倒していた。その中にはゴブリンウォーリアーなどもいたが……どうやらユウには関係ないようだった。

(…本当、何者なんだろう。)


 ……魔物の数もだいぶ減ったし、強そうな敵は見たところいない。

「……もう終わりかな?」
「……そうだな、あとは彼らで……?」

 不意に、ユウは周りを見渡し始める。何か来たの…………



「おい……やばい奴がいるぞっ!!!」
(………!?)

 そんな叫び声と共に、私の中の『何か』が震える。
 その叫び声の方向を見てみると……そこには、見たこともない巨大な魔物が立っていた。



「あ、あれは……ゴブリンキング!!?」
「な、なんだって!?何でそんな奴がここに!」
「流石に俺たちじゃ無理だ、誰かもっと強い奴を呼んでこい!!!」


 ……ゴブリンキング。ゴブリンの中でも最強クラスの強さを持っており、ステータスもかなり高いと聞く。


(……本物を見たのは初めてだ。思ったよりは小さいけど……)

 そんなどうでもいいことを考えながら、私はステータスを覗いてみた。





名前・ゴブリ?キン?
種族・魔物
 
能力ランク
体力・?29
筋力…腕・196 体・20? 足・?1?
魔力・5?

魔法・7
付属…なし
称号…【ゴ?リ?のお?】(ゴブリンの王になった者。体力・筋力に補正がかかる)





(……み、見れない……?)



 ステータスを正確に見るためには、相手とのステータスが同じくらい……もしくは、上回っていないといけない。
 そして相手が格上の場合、ステータスを見ることは困難になり……最終的には、このように文字化けを起こしてしまう。

(腕が200程度ということは、体力や他の筋力もそれくらい……)

 ……無理だ。今ここにいる人たちでもあの化け物には勝てない……!


「ユ、ユウ…逃げよう! 流石にあれはユウでも……!!」


 周りの冒険者や魔道士も不味いと思ったのか、次々と逃げ出していく。
 しかし、その中で1人の男が半ばやけくそで飛び出していく。その男とは、さっき私たちに話しかけてきた斧使いの人だった。


「こ…このぉぉっ!!!」
「……ヒッヒィッ!」

 斧使いの人の突撃にゴブリンキングは卑しく笑いながら、軽々と手に持っていた大きなナタを振り上げた。

「グラッ…ラァウァァッ!!!」
「なっ……うぁぁぁ!!?」

 ゴブリンキングはわざと当てなかったのか、斧戦士の目の前でナタを振り下ろした。
 その振り下ろしは直撃はしなかったものの、その際に発生した風圧により、周りにいた人たちも含めて吹き飛ばされていった。

「う、やば……い…?」
(……あれ、吹き飛ばされない……?)

 私はすかさず身を固め、衝撃波を受ける準備をしていたが……何故か吹き飛ばされるようなことはなかった。


『今からお前に魔法を付けるんだ。』
『魔法…?』


「……あっ、これが…!」

 ユウの言葉を思い出し、私は自分の周りをよく見てみる。すると、そこには薄く透明な魔力防壁みたいなものが私を守るように張られていた。

 ……おそらく、これが私に掛けられた魔法。全く知らない魔法だけど、多分めちゃくちゃ強い物なんだろう……


「……これは、俺がやるしかないか。」
「えっ、ユ、ユウ!? 危ないよ!?」

 みんなが慌てふためいている中、1人だけ全く風圧の影響をもろともしていなかったユウが、ゆっくりとゴブリンキングへと向かっていった。

「大丈夫だ、俺なら倒せる……ローナは離れておくんだ。」
「で、でも……いくら強いっていっても、あれのステータスは200も……!」
「いいから、俺の心配なんていらない。」
「ちょ、ユウ……っ!?」


 私は向かっていくユウの肩を慌てて掴もうとするが……途端に、足が動かなくなってしまっていた。

(恐怖…!? でも、止めないと…!!)

 そう思っても体は言うことは聞かず、まるで地面に縛り付けられているかのように動かなかった。

「ユウ……!」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「グラァァァッ!!」

 ゴブリンキングが悠々と近づいてくる俺を見て、猛々しく雄叫びをあげる。
 俺はそれを見て溜め息を吐く。

「……目立ってしまうが……仕方ない。街に被害が出るのは避けないといけないからな……」

 ……この街は初めて訪れたが、何やらとんでもない強さを持っている奴が1人。それを除いてもそこそこな強さを持つ奴らがかなり多い……それらの反応は全部同じ場所に固まっているので、何かしらのそういう施設があるのだろうか。


(……まあ、待ってる暇もない。俺が片付けるか……)

 俺は貰った剣を抜く。

 この剣は確か『ホワイトソード』とか言う名前で、白い色の鉄で金属でできた武器だ。説明を聞いたところだと鉄より硬いぐらいなので、大抵の敵なら大丈夫だが……

「グオオォ!!!」
「………っ…………」


 ゴブリンキングは間合いへと入ってきた俺に対して、躊躇なくナタを振り回してきた。
 俺はそれをホワイトソードで受け止めようとしたが……、それは壊れてしまった。


「グガァ……?」
「……そんな顔もできるんだな。」

 想定よりも簡単に壊れてしまった剣を見て、ゴブリンキングは意外にも驚き顔を見せてきた。

 そんな 人間 臭い表情をした一瞬の隙に、俺は魔法を放つ準備する。

(少しオーバーな魔法だが……コイツなら、いい。)

 俺は手を捻りながら地面に当てる。せっかく自分で初めて作った龍神流魔法だ、それなりのコイツにぶつけさせてもらおう。


「燃えて、吹き飛べ……」



『プロメテウスの風焔ふうえん


「グッ……ガァッ!?」

 その魔法を発動した瞬間、ゴブリンキングの足元から強烈な風が吹き荒れ、どんどんその巨体を打ち上げていった。

「グガアッ、ラガァァァッ…!!?」

 ゴブリンキングは暴れ出すが、宙に浮いてしまっているのでどうすることも出来ずにいた。
 そして、ある程度までに打ち上がった瞬間……吹き荒れる風は灼熱の炎へと変化していった。


「……消えろ。」
「グラァッ、ガァッ、ゴガゥッ……ボグゥゥ……!」

 炎は龍のように形取りながら、ゴブリンキングの体を燃やしていく。
 ゴブリンキングは必死に炎を払おうと争っていたが……その抵抗も虚しく、ただ灰となって消えていく。


(……やはり、強いな……龍神流は。)


 この魔法……プロメテウスの風焔は、元々あったガイヤの烈風とアグニの噴煙を混ぜ合わせた合体魔法である。
 ただでさえ強力だった2つの魔法だが……掛け合わせた結果、最強と呼ばれるクラスの『神威級魔法』に引けを取らないほどに強くなってしまった。


(魔力石は……いいか。)

 俺はそのまま魔力石ごと燃やし、全てちりへと還した。金には困っていないしな。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「……………」




 私は…絶句していた。



「え………あんな、子供が……?」
「何だ、あの魔法……見たこともないぞ………」


 それは周りの冒険者たちも同じようで、ユウの魔法の威力の高さに騒めいていた。

 ゴブリンキングといえば……普通、何人ものの精鋭でかかってやっと倒せるほどの魔物。
 なのに彼は……たった1人で………

「っ、熱っ……あっ。」

 空で未だ燃えている炎の熱風がここまで届き、肌を照らす。
 また、その影響で……ユウの頭を覆っていたフードが剥がされていた。

(……あれが……ユウ……)

 私はやっと見えたユウを観察する。

 見てみると、どうやらユウは黒い黒髪をしており、雰囲気からしてもっと厳つい顔をしているのかと思ったが……全然そんなことはなく、年相応の童顔だった。


「……あっ…動ける……」


 恐怖が消えたおかげか、今回は足はちゃんと動いたので私はユウの元へと近づいていく。
 それに対してユウは空を見上げながら、手を振って空に浮かんでいる炎の魔法を終わらせた。

「……本当に強いんだね、ユウって。」
「……まあな。」

 私が話しかけると、ユウはこちらを見た。

(……『紫』……?)

 さっきは遠くてはっきりと分からなかったが……ユウの眼は紫色に光っていた。
 そして、その眼にはゴブリンキングを倒した喜びも対峙してしまった恐怖の色も見えず……ただ、空虚だった。

「……っ、フードが外れてたか。」

 私がじっくりと顔を見ていると、その視線に気づいたのか……ユウは外れていたフードを被ってしまった。
 しかし、今度は深く被っていなかったせいか、顔はしっかりと見えていた。

 ユウは息を深く吐きながら言う。

「……顔も見られたし、これ以上ここにいる理由もない……話の途中だったかもしれないが、そろそろ行かせてもらう。」
「……えっ、行っちゃうの!?まだ話したいことが一杯あったのに…!!」
「すまないが、俺は目立ちすぎた。人が寄ってくる前に消えたいんだ。」
「そ、そっか……残念……」

 私が残念がっていると、ユウの足元に魔法陣が現れる……『消える』ということは、転移魔法でも使うのだろう。


「…………もっと……」


 
 ……ユウの強さ、あれは普通ではなかった。きっと、まだまだ私に見せていない魔法なんかもいっぱいあるのだろう。



(……もっと……もっと、知りたい…!!)









「……ねぇ、ユウ。最後にお願いしていいかな?」
「…………お願い?」


 ……もしかしたら、もう二度と会わないかもしれない。


 でも、もし再開できたら……!




「……もし、今度会うことがあったら……その時は、もっと色んな話をして!!」
「色んな話……」
「うん、ユウがどんな旅をして、どんな経験をしたのか……どんな魔法が世界にはあるのか……そんな話を聞かせて!!」
「……………



















 ………ふっ。」




 その時、初めてユウは……笑った。
 そして……ユウはその頭を小さく縦に振った。



「……ああ、またいつか……会えたらな。」
「……うん!約束だよっ!!」
「…………それじゃあな。」




 その言葉を最後に……ユウは目の前から消えてしまった。




「………なんだかなぁ~……」



 ……振り返ってみると、不思議な1日だった。


 街を歩いているといきなり変な男に脅され……かと思ったら、通りすがりの旅人に助けられて………しかも、その旅人は私と同じ年くらいの少年で……………挙げ句の果てに、その少年はあろうことかゴブリンキングを1人で………………


「……ははっ。」

 あまりの非日常に、つい笑ってしまう。こんな話をして信じてくれる人はいるのだろうか…………



(また……会えるかな。)



 結局、少年のことはほとんど分からなかった。

 ステータスが見えなかった原因や、顔を隠している理由。旅をしている理由に、そのとてつもない『強さ』………聞きたいことは山ほどある。



「………強さ、か。」


 ……私は、ゴブリンキングを恐れてしまい動けなくなってしまった。

 しかし、ユウは臆することなく動けていた。それはもちろんユウ自身が強かったのもあるのかもしれないが………









(………いや、まずは………)








 ……多分、『』は強くなってみないと分からない。







 なら……強くなるまでだっ!!



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