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一章 花
九話 頼む
しおりを挟む日が昇る頃に師匠は家に帰ってきた。そして、彼女……ミルの村について話をし始めた。
ミルが住んでいたのは、俺の村と同じ規模の小さな村だったらしく、彼女は小さな頃に親を亡くしてからその村の中にある孤児院で、同じ境遇の孤児たちと細やかに日々を過ごしていたそうだ。
師匠が調べたところによるとその孤児院は3日ほど前にに盗賊たちに襲われ……孤児院の人たち含め殺され、その孤児院自体も全焼していたらしい。そして何故か盗賊は孤児院だけを襲い、村自体には何もしなかったという。
ただ………代わりに村には人が1人もおらず、無人の村へとなれ果てていた。ミル曰く人はちゃんと住んでいたそうで、師匠は『全員その盗賊の仲間に連れ去られた』………と考えていた。
「………そう……です、か。」
話終わると、ミルは暗い顔でそう呟いた。
……無理もないだろう、誰だってこんなことが起こってすぐに切り替えれる人間なんていないのだから。
「私は…これから……どう、すれば…………」
「………………」
ミルの問いに俺は答えれず……代わりに師匠が返した。
「………とりあえず、ミル。この家なら不便もないし……どうだ、一緒に住まないか? どこか身寄りは……無いだろうし、ここならば居れば少なくとも危険はない。もちろんミルが嫌ならば何処か場所を探してくるが……」
「…………だ、だった…ら……ここ、にしばらく……居させてくだ、さい。」
「ああ、歓迎する……ついでにミル、お前のステータスを見せてくれないか?」
「…………はい。」
ミルは頷き、俺たちに自身のステータスを開示した。
名前・ミル
種族・人族
年齢・12歳
能力ランク
体力・10
筋力…腕・9 体・10 足・11
魔力・15
魔法・2
付属…なし
称号…【魔法の才】
…………能力は平均的だが、称号に魔法の才がある。鍛えれば強くなれるだろうが……そんな称号、今の彼女には何の価値もない。
「ありがとう……とりあえずミルは先にさっきの部屋に戻っておいてくれ、また昼くらいに話をしよう。」
「…はい……ありがとう、ごさいます………」
ミルは師匠に言われ部屋に戻った…………俺の部屋だが。
「…………ウルス。」
「はい。」
ミルが俺の部屋へ戻っていくところを見届けてから、師匠は俺に体を向けて聞いてきた。
「ミルの事……お前はどうしてやればいいと思う?」
「……深い傷になってます、しばらくはそっとしておいたほうがいいと俺は思いますが……いつまでもこのままっていうわけにもいかないです。時間をかけて立ち直らせないと……」
「そうか………そうだよな………」
師匠はそう納得しながらも、やるせなさを漂わせて沈黙した。
(……ミルは俺とは違って、前世の記憶なんて無い。俺の場合はその記憶があって何とか精神は持ち堪えられたが……彼女にはそんな物、あるわけがない。)
たった12歳の子供が自分の住んでいた所を襲われ、大切な人たちも全員失う…………想像もしたく無い出来事だ。
『いや………だ………』
『………嘘、だ……』
『……お父さんが……お母さん、が………死ぬ、なんて……嘘……うそ…………ウソ………!!』
(………………)
「……なぁ、ウルス。1つお願いをしていいか。」
想像したくも無い、彼の日のことを巡らせていると……師匠が何やら情けなさそうな表情をしながらそう言ってきた。
「……お願いとは?」
「…………お前に、ミルのことを任せてもいいか?」
「……俺に、ですか。」
師匠は椅子から立ち、窓の外を眺めてながらポツポツと告げ始める。
「……俺は、ミルや…………お前のような過去がない。だから……どんなに考えて、同情しようとしても………ミルには他人の言葉にしか聞こえないはずなんだ。」
「…………そんなことないです。現に俺は……師匠に救われてます。」
『倒れてたお前が強く握りしめていたものだ……どうだ、俺の弟子にならないか? そして、誰よりも強くなって……守りたい者を守るんだ。』
「あの時、師匠がああ言ってくれなかったら……俺は、駄目になっていたと思います。」
「…………………」
「他人の言葉じゃないです。ちゃんと、優しい言葉です。」
「………そう、か。」
俺がそう言うと、師匠は窓から体を逸らし……再びこちらへと向かって話を再開した。
「……それでも、今のミルに俺がどんな言葉をかけても響かないだろう。でも、お前なら……同じ歳で、同じ経験をしたお前なら……ミルを励ますことができると思うんだ。」
「同じ…………」
「こんな頼み方はお前に失礼だって分かってる……それでも、今の彼女に1番手を伸ばせるのはウルス…お前なんだ。だから…………頼む。」
師匠は、俺に何故か深く頭を下げた。
(…………同じ、歳か。)
俺には前世の記憶がある。だから、精神的な話ではミルとは10歳以上離れてしまってるが…………そういうことでは無いだろう。
『………そうか、また、失ったのか……』
………それに、俺に『断る』なんて選択肢は…………端から存在しない。
「……分かりました、ミルのことは俺が見ます。」
「………………すまんな。」
師匠の顔は、悲しげだった。
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